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再発防止策の“やりました感”が品質事故を招く真因

目次
はじめに―「再発防止策やりました感」の現場実態とは
日本の製造業界は、長らく世界に冠たる品質管理体制を誇ってきました。
しかし近年、重大な品質事故やリコール、不正が続発し、「何が根本原因だったのか」という問いがしばしば浮上します。
私が現場で20年以上働く中で痛感してきたのは、再発防止策を策定・実施した“つもり”になって終わる「やりました感」こそが、次なる品質事故の温床である―という事実です。
本記事では、なぜ従来的な再発防止策が形骸化しやすいのか、その真因を現場目線で徹底的に洗い出します。
その上で、バイヤー・サプライヤー双方が「本当に事故をなくす」ために必要な視点と、ラテラルシンキングも取り入れた次世代型のアプローチを解説します。
再発防止策が“やりました感”で終わる背景
1. 「報告書文化」に潜む構造的な問題
品質不良や事故が発生すると、まず社内で「再発防止策報告書」の作成が求められます。
この報告書は、事後対応の記録や社内外への説明責任を果たす重要な資料ですが、ともすると“上から求められるお決まりの形式”を埋めることがゴールになりがちです。
形式的な「5W1Hの記入」や、「是正処置・予防処置」の欄を埋めるだけで、内容の本質が問われない状況。
現場は「とりあえず書類さえ整えばいい」という意識に陥ることが少なくありません。
2. 歴史的なヒエラルキーと暗黙の了解
特に昭和から続くアナログ体制の強い企業ほど、現場と管理職の間にヒエラルキーが存在します。
現場から正直な改善提案が出にくい雰囲気があり、「本音では根本原因は分かっていないが、上への報告用に無難な案を書こう」となりがちです。
また、やりきれなかった悔しさや恥ずかしさから「もっと深掘りしよう」との気持ちが芽生えにくい土壌もあります。
3. “チェックリスト主義”が問題を覆い隠す
生産現場には無数のチェックリストやマニュアルが存在します。
計画→実行→点検→改善(いわゆるPDCAサイクル)で管理し、「指摘事項を潰すこと」が現場の大きな仕事となっています。
当然ながら、一つひとつのチェックが事故防止に寄与する反面、抜け・漏れを“書類上潰した体”で済ませてしまう、膨大な紙の山。
これが、「やりました感」の根源となっています。
なぜ、この“やりました感”が品質事故につながるのか
1. 根深い問題の“本質”を見逃すメカニズム
「やりました感」に囚われた現場では、表面的な現象(作業ミス・設備トラブル等)にだけ着目しがちです。
しかし、実際の品質事故はヒューマンエラーや設備不良“だけ”で説明しきれるものではありません。
設備や人の配置、業務フローの形骸化、経営陣の意識・工数配分など、もっと複層的な要因が絡み合っています。
本来突き止めるべき「なぜ、この現象が繰り返されたのか」を追究できない限り、根本解決には至りません。
2. 形だけの対策は「現場力」を奪う
形骸化した再発防止策は、現場メンバーの「考える力」「提案する力」を目減りさせ、責任回避や報連相の形だけ運用に繋がります。
本来、現場にこそ斬新な改善アイデアやイノベーションが眠っているのに、「やりました」で終わることで現場の自信と挑戦心を削いでしまうのです。
3. サプライヤー・バイヤー関係にも悪影響
日本型サプライチェーンにおいては、サプライヤーからの報告を元にバイヤーが対応策を評価する構図が主流です。
「やりました感」満載の報告は、受け取る側(バイヤー)も“ある程度は仕方ない”と目をつぶる場面が多く、互いの問題意識共有が阻害されます。
結果、本当に防止すべき再発事故を未然に防げず、リスクが“潜在化”するのです。
ラテラルシンキングで探る、再発防止の突破口
1. 「なぜなぜ分析」の限界と新発想の必要性
よく「なぜなぜ分析(5Why)」を徹底せよと言われます。
確かに「なぜ?」を繰り返すことで本質原因に至りやすいのですが、現場の文化や社内力学、すなわち“人”と“組織”のクセがバイアスを生みがちです。
たとえば「なぜ作業者がミスしたか?」⇒「教育が不十分だった」…で止まることが多いのです。
ここで必要なのは、ラテラルシンキング(水平思考)=多角的・越境的な問いかけです。
「デジタルツールで自動化できないか」「そもそもその工程自体必要か」「全く異業界の手法を応用できないか」など、“当たり前”を疑い、視座を横展開する発想力が不可欠となります。
2. サプライチェーン全体での「共創型」問題解決
これからの品質管理は、バイヤーVSサプライヤーの関係でなく、「一緒に不良を0にしていこう」というパートナーシップ型に進化すべきです。
そのためには、下記のような実践がカギを握ります。
– 合同の工程分析会を定期実施し、「本音」で語り合う場を設ける
– 問題点共有を“責任の押し付け”でなく“根本改善”として扱う
– AI・IoT等のテクノロジー活用で客観データを現場と共有し、思い込みや経験頼みを打破する
– 教育や人員配置、現場の裁量に根ざした「真の働きやすさ作り」も再発防止との両輪で施策化する
3. 現場主導×管理職参画の「ダブルチェック&メンター制」
“やりました感”を防ぐには、現場任せにも上から目線にも傾けない、中間管理職やベテランの“メンター”が重要です。
他部署や外部の視点も巻き込んだチェックバック体制と、「職人技」だけでなくデジタル人材が横断的に参画する体制を敷くことで、解決の深みが増します。
実践事例に学ぶ、やりました感脱却のポイント
ケース(1):QCサークル活動の進化系
従来のQCサークル活動では、発表用の資料を作成すること自体がゴールになりがちでした。
ある自動車部品メーカーでは、「3ヵ月ごとに現場改善案を全員が1つ出す」「失敗事例こそ賞賛する」制度に刷新。
“やって終わり”を許さず、「未解決の課題も他部署で共有し、失敗ナレッジとして蓄積する体制」を確立し、新しいアイデア創出につながっています。
ケース(2):IoTデータ管理と人の現場観察の融合
電子機器組立メーカーでは、工程ごとの作業状況・設備稼働率・異常発生頻度などをIoTセンサーで見える化。
しかし「データだけを信じて現場の肌感覚を捨てない」ことを徹底。
現場観察・ヒアリングで意外な本質原因が浮かび上がり、その結果、形式的な再発防止案では対応できなかった真の論点にたどり着きました。
まとめ― 昭和の“やったつもり”から脱却し、次世代品質へ
現場の「やりました感」は、あらゆる工場・業界で蔓延する“見えない”リスクです。
再発事故ゼロを目指すには、書類やチェックリスト主義の殻を打ち破り、「本質思考」「多視点思考」「現場主導の共創」の三位一体で取り組むことが不可欠です。
サプライヤーの皆さんは、バイヤー視点を想像し、形式だけでなく「なぜ自分たちの工程・仕組みで再発が起きたのか」を本音で突き詰めてください。
また、バイヤーを目指す方は、「再発防止の指示書を出すだけ」「報告を受けて満足する」ではなく、現場と一体になり“共創”の姿勢で仕組み構築を考えることをおすすめします。
時代はカイゼン(改善)から、カクシン(革新)へ。
「再発防止のやりました感」を乗り越えた先に、“次世代品質”という新たな地平線が広がるはずです。
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