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クレーム時の費用負担ルールを先に決めて予備費を削る契約設計

目次
はじめに:製造業におけるクレームと費用負担の現実
製造業の現場では、どんなに優秀な調達購買担当や工場長、品質管理者が揃っていたとしても、クレームがゼロになることは決してありません。
これは生産現場に従事したことがある方なら誰しも納得されるでしょう。
むしろ、クレーム(品質不良・納期遅延・数量違いなど)は、日常的に発生する“不可避”な事象と認識すべきです。
その都度、責任の所在や費用負担ルールを取り決めていては、現場は疲弊し、サプライチェーン全体の競争⼒も低下します。
特に昭和時代の慣習が根強く残る多くの日本の製造業界では、「ケースバイケース」「仁義と空気読みによるすりあわせ」で対応しがちです。
その結果として、契約上あらかじめ予備費を多めに確保したり、不明瞭な請求処理が常態化してしまい、企業体質の硬直化や価格競争力低下を招いているケースも多いのではないでしょうか。
そこで今回は「クレーム時の費用負担ルールを先に決めて予備費を削る契約設計」という切り口から、製造業の現場に即した実践的な考え⽅や最新のトレンド、グローバルスタンダードも踏まえつつ、深く掘り下げてみたいと思います。
なぜ今、クレーム費用の契約設計が重要なのか
日本型慣習の限界に気づく
多くの日本のメーカーは、長年の取引関係や慣習の中で「曖昧な責任分担」「クレームの都度、話し合い」「お互い様精神で当座をしのぐ」体制を維持してきました。
昭和から平成初期まではそれでも良かったかもしれません。
しかし、サプライチェーンがグローバル化し、原材料価格や物流費が高騰、またはサステナビリティ要件の強化といった時代の変化の中で、“予備費でガード”という悠長な対応が経営リソースを圧迫し始めています。
特にバイヤーの方やサプライヤーの現場管理者の間では
「本当にこのままでいいのか」
「国際競争力を維持できる契約フローに変えなければ」
という悩みや危機感が高まっています。
予備費の弊害 ~見えないコストと競争力低下~
従来型の「とりあえず予備費を多めに盛っておく」やり方は、企業会計上は問題なく見えても実は下記のような大きな弊害をもたらしています。
・製品価格が“実質的な保険料”として高止まり
・現場がクレーム未然防止ではなく、「どうせ予備費があるから…」と緊張感が緩む
・サプライヤーからもバイヤーからも「得体の知れないコスト」として敬遠され、信頼関係が損なわれる
・対外競争力を持つ見積もり、標準単価設定が難しい
こうした負の連鎖を断ち切るためにも、クレーム発生時の「費用負担ルールの事前明確化」が欠かせません。
そのためには“契約設計”が大きな鍵となります。
グローバル標準の発想と最新動向
契約における明文化の必然性
欧米や中国をはじめとするグローバルサプライヤーの多くは、取引開始前に
・不良発生時の費用分担
・再発防止活動の工数負担
・リコール・返品・補償の明細
などを、見積書や品質保証契約、マスターサプライアグリーメント(MSA)で明文化しています。
「発生時に交渉」ではなく「どういう場合に誰がいくら補償するのか」を“数値付きで明記”しているため、余計な予備費積算や曖昧なコストを発生させません。
実効性あるトラブル予防の構造
・公開されたルールがあることで、現場は「リスク金額を実感」し、未然防止が文化になる
・バイヤーもサプライヤーも、適正価格の根拠説明がしやすい
・信頼関係を土台とした長期的な取引体制へ移行しやすい
高コスト体質から脱却するには、この視点で契約内容そのものをアップデートする必要があります。
クレーム時費用負担ルールの「設計ポイント」
1. ケースの切り分け基準の明確化
多くの現場で見逃されがちな要点に、「クレームの性質ごとの責任所在」があります。
例えば次のように大別できます。
・当社設計起因(客先支給図面・仕様ミス等)
・サプライヤー製造起因(工程不良、材料ミス等)
・物流・搬送中起因(第三者運送会社の過失等)
・外部環境要因(天災や予期せぬ出荷規制等)
各ケース毎に、どこまで費用負担するか、明確な分担ルールを契約書に記載します。
ルール化が無いままでは、サプライヤーは最悪時のリスクを見込んで高額見積もりするため、確実に価格競争力を損ないます。
2. “再発防止活動”の費用も棚卸しする
クレーム費用というと、不良品の返品・再納入など“直接コスト”だけをイメージしがちです。
しかし現場で特に重いコスト負担になっているのは
・追加の品質調査工数
・報告書作成、是正活動
・再検査のための現場対応
など、間接的な“後始末”作業です。
こうした間接費も、「発生した場合、○割までサプライヤーが負担」など具体的に明記し、必要以上の業務負荷や余計な予備費を予め排除しましょう。
3. “ペナルティ型”ルールには要注意
時折、品質クレーム時に一律で「製品単価の○倍まで遡って損害賠償」などペナルティ条項のみを盛り込む例も見受けられます。
しかし、これではサプライヤーは過度に萎縮し、新たな共同改善提案が出てこなくなる危険があります。
クレームは「悪意ある不正」より「システム不備やヒューマンエラー」が主因であるため、バイヤー・サプライヤーで“合理的な負担分担”に基づくルール設計がカギです。
契約設計実践ステップ:現場での具体例
ステップ1:過去のクレームデータの棚卸し
まずは自社・取引先双方で、過去数年分のクレーム履歴と、実負担額(直接費・間接費含む)を数値化して可視化します。
統計的に分析すれば
・どんなタイプのクレームが多いのか
・平均的な費用負担はどの程度か
・バイヤー・サプライヤーどちらの起因が多いか
など、次回契約時の指針データになります。
ステップ2:業界標準・グローバルステンダードの調査
次に、所属する業界団体、同業他社、グローバル拠点の契約様式などを調査します。
・ISO/TS16949やIATF16949などの国際標準
・自動車・電子部品など、各業界団体の契約ガイドライン
などを確認しましょう。
これにより「他社より不利な契約」や「法的に危ない合意」を避けることができます。
ステップ3:責任分界点と負担割合の合意形成
扱う製品やサービスごとに「どの業務フローで責任が切り替わるか」「1件あたり上限いくらまでか」など、具体的な金額・割合を細かく設定します。
また「再発時は段階的に負担率を増やす」などのルールも推奨されます。
この際、感情論や“慣習”に頼らず、データをもとに淡々と協議する姿勢が求められます。
ステップ4:契約書・別紙規定への明記
交渉の結果得られたルールは、本契約書または仕様書・別紙規定に「具体的数値や範囲、手順」を入れて文書化します。
また、サプライヤー側の現場担当者・購買担当者が正しく運用できるよう、
・教育ツール作成
・年次見直し
・現場フィードバックの仕組み
などもセットで設計することが重要です。
現場目線で感じるメリット・デメリットと今後の展望
主なメリット
・バイヤーは余計な予備費を盛らずに済むため経営効率化に直結
・サプライヤーも、大きな金額リスクが明確なため適正な見積もりや価格改定がしやすい
・クレーム発生時の処理がスピーディーかつ透明化される
・「未然防止」→「再発防止」文化が醸成され、生産性向上につながる
・双方の現場担当者が、感情論に振り回されず“業務改善”に集中できる
主なデメリット・留意点
・最初の協議~文書化に手間がかかる(導入コスト)
・双方の信頼関係があまりに希薄な場合、過度に細かいルールが逆効果になるリスク
・全てのケースを網羅できるわけではないため、定期的なルール見直しが必須
以上の点に留意しながらも、「予備費を削って筋肉質な現場経営にシフトしたい」「製造業現場のあるべき契約設計を目指したい」という方であれば、一度検討して損はありません。
まとめ:製造業の未来を切り拓く“契約設計力”
昭和型の「情と慣習」は日本のモノづくりの底力でもあります。
しかしこれからの製造業は、
・データに基づくリスクマネジメント
・負担と信頼の合理的なバランス
・グローバル競争を勝ち抜く契約設計
を武器として磨く時代です。
「クレーム時費用の予備費を“積んでおく”のではなく
“想定しコントロールする”ことで最小化する」
この発想を、バイヤー、サプライヤー、現場の全担当者が共有できれば、日本のものづくりはさらに進化できます。
予備費頼みから脱却し、真の現場力と競争力を発揮するためにも、
ぜひ今回の内容を社内・業界の改革のヒントにしてみてください。
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