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見積のラインアイテム別にKPIを設定し工程ごとの改善を価格に直結

目次
はじめに:製造業の「見積」の本質を見直す時代
昭和時代からずっと続く日本の製造業の現場。
「見積」は伝統の慣例やアナログなやり方が色濃く残っている分野です。
しかし近年、原材料費や人件費の高騰、サプライチェーンの混乱、グローバル競争の激化など、見積に直結する外部要因は激しく変化しています。
そんな中、従来の総額見積や経験則だけによる価格算出では対応しきれなくなったと感じている方も多いはずです。
現代の製造業の現場では、見積書の「ラインアイテム」(項目)ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、プロセスごとに改善活動を行い、その成果が価格に反映される――そんな攻めの調達力と現場力が求められています。
本記事では、現場実務の視点から「見積のラインアイテム別にKPIを設定し、工程ごとの改善が価格にどう直結するのか」について、実例を交えながら詳しく解説します。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの本音を知りたい方、全ての製造業関係者の皆様に役立つ内容をお届けします。
見積の「ラインアイテム」とは何か?現場目線で整理
見積のラインアイテム(項目)とは
見積書は、材料費・加工費・組立費・管理費・物流費・外注費・間接費・利益など、様々なコスト要素を積み上げて構成されています。
この一つ一つが「ラインアイテム」です。
バイヤーや調達担当はこれらラインアイテムを明確に分解し、現場プロセスとひもづけて分析することで、原価低減のターゲットを具体的に特定できます。
なぜライン単位で見る必要があるのか
総額見積(トータルコスト型)では、どのプロセスにどれだけコストがかかっているかが不透明なままです。
一方、ラインアイテムごとにブレークダウンすると、どこにムダや未改善要素があるかが“見える化”され、プロセスごとの生産性や改善インパクトを具体的に評価できます。
また、バイヤー側も「この工程の価格を下げたい」という交渉の根拠が明確化でき、サプライヤーも工程改善で付加価値を出しやすくなります。
KPI(重要業績評価指標)をライン別に設定する意義
KPIとは何か?
KPIとは、目標を達成するための中間指標です。
たとえば「組立1ユニットあたりの工数」「歩留まり率」「ロジコスト/1台」「外注委託の原単位」などが工程別KPIの代表例です。
ラインアイテムそれぞれに最適なKPIを設定することで、担当現場ごとに“何をどう改善すればコスト低減につながるか”が明確になります。
バイヤーの視点:仕様とコストのバランスを定量化
見積依頼をするバイヤー側からすると、ライン別KPIが定義されていないサプライヤーとのやりとりは「金額の根拠が見えない」「改善状況が伝わりにくい」というコミュニケーションロスが生まれます。
たとえば同じ価格でも、ある会社は「自動化ライン導入で人件費低減」、別の会社は「材料歩留まり改善で原価低減」など、改善アプローチは異なります。
だからこそ、ラインごとにKPIを設け“どこをどう努力した結果この価格か”を数値で対話することが、サプライヤー側・バイヤー側双方の納得感と競争力につながります。
実践例:工程ごとKPI設定と、その価格への直結
事例1:材料費のKPI設定
ある板金加工メーカーでは、材料費(鋼板)のKPIとして「歩留まり率 [%]」を設定しました。
従来、各製品ごとの材料原単位にバラツキがあったものの、KPI化により歩留まりロスの大きい製品の設計や工程を重点的に改善。
非効率なレイアウトや、設計の一部見直し、材料切断プログラムの自動最適化ツールの導入により、歩留まり率は従来の82%から88%へ上昇(月間300万円相当の原価低減に成功)。
この成果は、材料費ラインに明確に反映され、見積依頼時の競争力や、受注後の利益確保にも貢献しました。
事例2:加工・組立コストのKPI設定
金属部品の切削工場では、「1個あたりの加工時間(秒)」をKPIとして設定し、現場の定点観測と改善活動を実施。
作業の「段取り替えロス」を見える化→段取りレス化のための治具開発、社内技能者の標準作業化に取り組みました。
その結果、1個あたりの加工時間は平均7.2秒から5.1秒へ短縮。
労務費ラインが月60万円削減され、加工コストの見積価格にダイレクト反映されました。
事例3:物流費のKPI化とサプライヤー連携
物流費も従来「全体の数パーセント」として見積に含めがちですが、「配送一回あたりの積載効率(%)」「リードタイム(日)」といったKPIを導入することで、サプライヤーと買い手が共通指標でディスカッションできます。
たとえば、週3回あった納品を週2回に集約し、満車率を76%から95%に向上。
このトランスポートKPIの改善により、物流原価も月40万円削減できました。
このようにして物流費ラインの値下げが可能になります。
成功させるためのKPI設定と改善プロジェクトのコツ
KPIは「加工現場の手応え」を尊重して定義
KPI設定は、現場の実情と合致し、現場メンバーが「これなら現実的に自分たちでコントロールできる」と思える指標にすることが重要です。
たとえば「1人1時間当たりの良品数」や「不良発生率」など、現場で日々実感できる尺度を用いることで、改善活動が自律的に回りやすくなります。
バイヤー×サプライヤーの密な対話
社外のサプライヤーと“数字”をもとに本音で議論することは、ときに難しく感じるかもしれません。
しかしKPIで分解することで、各工程ごとの改善提案や投資判断が“見える化”され、単なる値引き交渉ではなく「共創」としての交渉に変わります。
このスタンスの転換こそが、長期的な信頼関係と、産業全体の付加価値向上につながると実感しています。
数字で成果を「価格」に映すカルチャー構築
昭和的な「なんとなくの値引き」や、「年一回の一律コストダウン要請」では、本質的な改善は進みにくいものです。
工程別KPIによる改善を、毎月・毎四半期ごとに進捗管理し、その成果をタイムリーに見積ラインに反映するカルチャーを組織として根づかせることが大切です。
たとえば、KPIごとに「見積発注時の予実比較グラフ」などを現場・バイヤーと共有することで、次のPDCAサイクルにもつなげやすくなります。
アナログ業界を変えるラテラルシンキングのすすめ
見積業務は「昔ながらのやり方」で固まりがちな分野です。
しかし、いま業界が直面している「生産構造の根本的進化」「ESG・サステナビリティ対応」「グローバル競争」などの課題は、ラテラルシンキング(水平思考=新しい発想)による現場変革なくして乗り越えられません。
例えば、AI・IoTによる全工程の自動データ収集→自動KPI計測、受発注・契約とも連動した「リアルタイムKPIシェアリング」など、次世代の見積りは新技術との親和性次第で大きく進化します。
また、従来は別アンロックだった設計部門・品質管理部門・現場生産・サプライヤーが、横断的にKPI共有し合うことで、従来にない「全体最適」の視点からのコストイノベーションが可能になります。
この視点でラインアイテム・KPIを再定義し直すことが、自社独自の強みを生み出す「新たな地平線」になります。
まとめ:「KPI×ラインアイテムで現場改善」が製造業の未来を創る
見積のラインアイテム別にKPIを設定し、工程ごとの改善を現場主導で進め、その成果をダイレクトに価格へ反映していく――これは単なるコストダウンテクニックではなく、“持続可能な現場力”と“攻めのバイヤー力”を同時に育てる経営戦略です。
バイヤーにとっては、プロフェッショナルとしての交渉力を磨く道具となり、サプライヤーにとっては現場改善のモチベーションと競争力アップにつながります。
そして、アナログな業界にこそ、このKPI×ラインアイテムのアプローチがイノベーションの起爆剤となります。
製造業に携わる全ての皆さまが、実践的にこの“道具”を活用し、新しい付加価値を生み出し続けていくことを、筆者も現場の一員として強く願っています。
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