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倉庫費用を減らす在庫日数の上限設定と安全在庫の再計算

目次
はじめに:製造業の現場で問われる在庫管理の本質
現代の製造業は、生産性向上やDX推進が叫ばれる一方で、現場ではいまだ「倉庫はモノであふれている」「在庫は”保険”だ」という昭和的な価値観が根強く残っています。
在庫は多すぎればコストとして経営を圧迫し、少なすぎれば欠品リスクにより信用低下を招きます。
つまり在庫量は、経営の効率と安定供給の両面を両立させるバランスの追求そのものです。
この記事では、私が現場で実践してきた在庫日数の上限設定、そして安全在庫の再計算により「倉庫費用を減らす」具体的なノウハウ・考え方についてご紹介します。
バイヤーや現場管理者はもちろん、調達や生産・サプライヤーの立場でも活用できる現場発のリアリティある知恵として、貴社の発展に役立てていただければ幸いです。
在庫を減らすための最初の一歩:現状可視化と倉庫費用の明確な把握
在庫削減は、単なる「在庫量の圧縮」や「コストカット」として行うと失敗します。
根本的には「今なぜその在庫量が必要なのか?」という問いに立ち返ることが重要です。
まず取り組むべきは、現状の在庫がどのくらい貴社の売上・生産に対して滞留しているのか「在庫日数」で把握することです。
また、在庫の持ちすぎが生む”見えない倉庫コスト”(賃料・光熱費・人件費・滞留による陳腐化・盗損など)も正しく数字に落とし込み、「在庫削減=すぐに利益改善へ直結」と腹落ちしやすい地ならしをしましょう。
在庫日数とは何か?
在庫日数とは、
「現在庫 ÷ 1日あたりの出庫数」
で算出されます。
たとえば、ある資材パーツが300個在庫、1日平均30個出庫されているとすると
「300 ÷ 30=10日分」
これが在庫日数です。
この数値は、「いま仕入れを一切止めても、あと何日持つか」という現場感そのものであり、管理指標として極めて有効です。
倉庫費用を具体的に計算するポイント
倉庫費用は「倉庫賃料」や「保管スペースの面積単価」だけでは見えません。
下記のようなコストも含めて現状見積もると、経営層にもインパクトが伝わりやすいです。
– 保管料(賃料)
– 間接工数(入出庫仕分け・ピッキングの人件費)
– 棚卸資産課税
– 商品・部品の劣化、陳腐化、盗損・ロス
– 台車・ラックなど備品稼働コスト
– 倉庫光熱費、保険
「1個あたり、日あたり、どれくらいのコストが発生しているか?」まで分かれば、部門間の危機感も格段に高まります。
在庫日数の上限設定でコスト最適化を実現する
実態把握ができたら、次に重要なのは「在庫日数の上限」をルールとして決めて運用することです。
この在庫日数の“縛り”が無いままだと、担当者ごとの感覚で多め仕入れや慣例踏襲が横行し、在庫が膨張する原因になります。
商品の特性ごとに設定する方法
在庫日数の上限は、扱う商品・部品の特性によって変える必要があります。
下記のような視点で設定しましょう。
– 回転が早い(定番品・消耗品):7日~14日分
– 回転が遅い(繁閑波有り):14日~30日分
– 高額品・専用部材:受注生産または最小単位
– 仕入れリードタイムが長い品種:リードタイム+α
– 欠品リスクが許されない品種:最低必要量+輸送遅延分
会社全体や部門ごとに1つの在庫日数上限で統一するのではなく、「ABC分析」や「パレート分析(2:8の法則)」で重点管理対象を絞り込むことも大切です。
現場のアナログ文化を変えるための「見える化」と仕組み化
特に昭和的な現場・アナログ思考が強い場合、「なぜ在庫日数上限を設けるのか」をしっかり説明して腹落ちさせる工夫も欠かせません。
おすすめは、大型ホワイトボードやデジタルサイネージに【全品目の在庫日数】を見える化することです。
担当者が「この部品は倉庫で20日残ってるが、現場の流れ的に本当に要るのか」「上限を超えたらどんな問題が…」と自ら問い直す仕掛けが効きます。
システム導入が難しい場合でも『Excel管理表』に手動で日数計算を組み込み、定期的に関係者で確認し合うだけでも、現場の感覚は大きく変化します。
安全在庫の再計算:激動の調達環境と向き合うラテラルシンキング
コロナ禍や地政学リスクによるサプライチェーン混乱など、現代は「安全在庫」の考え方にも地殻変動が起きています。
従来の発注単位ベースではなく、需給変動リスクや輸送混乱、不良率データ、サプライヤー多重化など最新の事情も冷静に加味した「再計算」が必須となっています。
安全在庫の求め方と落とし穴
安全在庫=リードタイム中の最大需要変動×サービスレベル係数
という数式が一般的ですが、現実には“過去の平均需要”や“ばらつき”だけでなく、下記のような要素を加味して見直しましょう。
– 海外からの調達リードタイム(通関・船便遅延・天候リスクなど)
– 仕入先品質事故の過去履歴(不良率や出荷停止の経験値)
– 法規制や輸送環境変化での異常リードタイム(直近事例含む)
– 需要側の繁閑ピーク・販促要因
– サプライヤーの「替え」が効かない独占リスク
– “いつも通り”という思い込みによる非効率
実際、私が工場長時代に大きく効果を上げたのは「調達/生産だけでなく営業・品質部門とも情報連携し、全社的に安全在庫パラメーターを可視化して見直すプロジェクト型ワーク」でした。
過去だけでなく近未来の不確実性まで“数字”にしてチームで合意形成すると、現場のムダな“保険在庫”を削減できるのです。
最新ツールやITの賢い取り入れ方
DXブームのなかで多額のシステム投資をするのは大手だけ、という誤解は禁物です。
今やExcel/Accessレベルでも在庫日数・安全在庫自動計算ロジックを簡単に組み込めます。
また、在庫ロケーション管理や自動発注アラーム機能付きのクラウド在庫管理サービスも増えており、これらを部分導入することで「現場の感覚」+「ITの客観値」のハイブリッドな判断が実現します。
ただし、IT導入そのものが目的化しないよう、あくまで「今の倉庫費用や在庫量の見直し」「現場・経営層のコミュニケーション活性化」に使うことが重要です。
サプライヤー・バイヤー双方の共創型アプローチとは
在庫削減や上限設定・安全在庫見直しは、調達側の一存では効果も継続性も限定的です。
ポイントはサプライヤー・バイヤーのそれぞれの立場で深い対話を実現する“共創”の姿勢です。
サプライヤーから見た「バイヤーの本音」と連携術
– 「予備在庫を削りたいが、納期リスクが心配」
– 「急な需要増減に柔軟対応できるかが不安」
– 「下げた在庫量で不良発生や遅延があった場合、誰が責任を取るのか」
こうしたバイヤーの葛藤を事前に理解し、工程別の在庫リードタイム短縮や緊急時納入ルート相談、品質トラブル時の協力体制などもセットで提案すると、単なるコストダウン要求から“戦略的パートナー”へと関係性がランクアップします。
逆にバイヤーの立場では、サプライヤーに現場課題やコスト構造の実態を開示し、在庫最適化に一緒に取り組むことが中長期的な信頼の礎となります。
まとめ:業界を変える現場発ラテラルシンキングのすすめ
爪に火を灯すようなコスト削減が求められつつも、「在庫が無くなれば現場が困る」「イレギュラー時に大騒ぎ」というアナログ発想もいまだ根強い製造業の現場。
そんななか、在庫日数の上限設定、安全在庫の再計算という“現場本位”かつ根本的なアプローチは、単なる「合理化」「コストカット」ではなく、全社の業務品質や競争力アップにつながります。
繰り返しになりますが、
– いまの在庫日数を可視化して現状地図を描くこと
– 倉庫費用の全貌を部門横断で共有すること
– 品種ごとの在庫日数ルールと見える化運用
– 安全在庫は近未来リスクまで勘案し再計算
– ITツールの賢い活用で現場と経営をつなぐ
– サプライヤーとバイヤーが現場課題を本音で共有
これらを自社なりの進め方で着実に取り入れれば、「もったいない在庫」に悩まされる昭和型工場から、低コストかつ高安定の“令和型工場経営”へ、大きなジャンプが可能です。
現場の一人ひとりが、自分の業務の意味や価値を問い直し、ラテラル(横断的・創造的)思考で「どうすればもっと良くなるか」を本気で考えること。
これこそが、製造業のイノベーションの第一歩です。
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