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FB制御とFF制御を併合した二自由度制御による外乱抑制を考慮した整定時間短縮への応用

目次
はじめに〜いまだ根強く残る”昭和の制御”からの脱却
製造業の現場は、いまだに昭和から続くアナログな思考や、「これまでのやり方こそが最適」といった保守的な雰囲気が強く残っています。
実際、私自身が長年務めてきた現場でも、ライン制御や装置制御の分野では昔ながらのPID制御やON/OFF制御が主流で、新しい制御理論を積極的に取り入れる文化は根付いていませんでした。
しかし、近年は生産性や品質のさらなる向上、歩留まり改善、さらには省エネ・省人化といった観点から、より高性能な制御手法を現場目線で選択することが重要になってきています。
本記事では、「FB制御(フィードバック制御)」と「FF制御(フィードフォワード制御)」を併合した「二自由度制御」について、現場目線での実践的な応用方法や、外乱抑制および整定時間短縮にどう結びつくのかを、私の経験をベースにわかりやすく解説します。
バイヤーを目指す方、現場のエンジニア、サプライヤーの立場でお客様のニーズを先読みしたい方——どんな立場の皆さんにも応用できる、時代を一歩先ゆく技術的ポイントをお伝えします。
FB制御とFF制御の本質的な違い
まず大前提として、FB制御とFF制御は何が違うのでしょうか。
製造現場では、「とりあえずFB制御(PID)」が多用されますが、これは実は”結果”を見てから”調整”する、いわば後追い的な制御方法です。
一方、FF制御は「外部から加わる変化」を先読みし、事前に調整信号を加えるという、より攻めのアプローチになります。
両者の違いをまとめると以下の通りです。
FB制御(フィードバック制御)とは
– 目標値(設定値)と実際の値(制御量)のズレを検知して調整する
– 例:温度制御で目標温度に対し、現在の温度が高すぎれば冷やし、低すぎれば加熱
– 外乱(外部からの予期せぬ変化)が起きても、最終的には目標値に戻る力を持つ
– ただし、応答が遅れる(整定時間が長くなる)、過渡的に大きなズレが生じやすい
FF制御(フィードフォワード制御)とは
– 外部から加わる変数(外乱や負荷変動)を直接検知し、あらかじめ補正信号を加える
– 例:材料の投入量が増える前に加熱力を一時的に強めておく等
– 外乱への即応性が高く、目標値からのズレが小さくなる
– ただし、外部変数の全てを常に正しく測定・予測するのは困難(知識とセンサーが必要)
このように、FBが「ミスを修正する」のに対し、FFは「ミスが起こる前に動く」といえます。
FB制御とFF制御を組み合わせた「二自由度制御」
昭和の現場では、FB制御(PID) ばかりが主流でしたが、高精度・高スループットな現代の生産現場では、FBとFFを組み合わせた「二自由度制御」を効果的に使うことが、整定時間の短縮や外乱抑制に直結しています。
この「二自由度」とは何か。簡潔に言えば、「目標値への追従性」と「外乱への強さ」、二つの性質を個別に調整できるという意味です。
なぜ“二自由度”が重要か
たとえばFBだけだと、外乱(たとえば急な負荷変動)が加わるとどうしても応答が遅れ、“整定時間”つまり目標値にちゃんと落ち着くまでの時間が長くなります。
逆にFFだけだと、モデル精度やセンサーの限界で予期しない外乱には弱い、という弱点を持ちます。
二自由度制御では、まずFFで予測対応し、残ったズレをFBで素早く微調整することで、短い整定時間でしっかり外乱にも強い制御ができます。
この発想は、モノ作り大国ニッポンの現場でも徐々に広がっています。ですが、その効果と現場への定着にはまだまだ余地がある、と私は考えます。
現場で起きがちな課題と“二自由度制御”の導入実践例
ここで、私が実際に経験してきた、典型的な現場課題と、その解決のための“現場流・二自由度制御導入”例を紹介します。
課題1: 材料投入時の温度ドロップによる品質ばらつき
多くの工場で見られる現象に、「材料がラインに投入されるたびに、反応槽やオーブン温度がドロップし、その都度温度復帰までの時間がかかる」というものがあります。
これまで多くの現場では、PID(FB制御)で都度調整するだけでした。しかし、原材料や環境温度の変化が激しいラインでは、これでは品質ばらつきが抑えられません。
こうした場合、「投入信号」や「材料重量センサー」をトリガーとしてFF制御入力を加え、一時的に加熱出力を事前に上げておくことで、温度ドロップを事前に防止できました。
その上で、残る細かな温度ずれはFBでカバーする。
この仕組みにより、安定した品温を確保し「加熱不足による不良」や「オーバーシュートによる焦げ」を激減させることができました。
課題2: ラインスピード変更時の張力制御不安定化
もう一つ多いのが、フィルムや紙などの連続ラインでの張力制御です。
ライン速が変化するたびに、巻取りトルクのPID制御だけでは応答が追いつかず、「一時的な蛇行やシワ」が発生しやすいです。
この場合、ライン速度変更指令に応じて即座にFFでトルク目標値を補正しつつ、実際の張力モニタ値からFBで微調整する「二自由度制御」を導入。
これにより、ラインスピード可変運転時の一過性の張力異常が大幅に減り、ダウンタイム減少と品質安定化を同時に達成できました。
外乱抑制と整定時間短縮による“現場での価値創出”
二自由度制御によって得られる現場での具体的なメリットとは何でしょう。
1. 歩留まり・再現性の大幅向上
材料投入、負荷変動、設備の老朽化——あらゆる“現場のリアルな外乱”に強くなれば、不良品の発生や手直し工数が激減します。
特に化学・食品・フィルムなどの連続プロセス現場では、ちょっとした温度や圧力の変動が品質に直結するので、歩留まり向上の効果は絶大です。
2. 設備の無駄な停止やチョコ停の抑制
外乱に起因する制御不安定は、「チョコ停」や「設備停止→再起動」の主要原因です。
二自由度制御により、ライン速度可変や材料切換時の応答が安定すれば、こうしたトラブルの発生頻度も激減します。
3. 操作・保守の容易性
二自由度制御では「目標値追従性」と「外乱抑制性」を“別々に”調整できるため、オペレータや保守担当が現場ごとにきめ細かな最適化を行いやすくなります。
AIや自動データ収集が進む現場でも、きめ細やかな調整が効く点で従来の高度な知見がしっかり活かせます。
なぜ今、“二自由度制御”がアナログ業界でも求められるのか
デジタル化が加速する昨今、「自社でもDXを進めたいが、どこから手を付けるか分からない」という声が多いのも事実です。
そんな現場にとって、“二自由度制御”の導入は「アナログからデジタルへの第一歩」として最適です。
新規の高価な設備投資なしでも、既存のPLC+センサー+制御ソフト改造等で進められる場合が多いのも魅力です。
このため、装置メーカーのバイヤー視点では「二自由度制御対応か否か」が、新規設備選定や既存設備のアップグレード検討時の重要な判断基準となりつつあります。
また、サプライヤーの立ち位置で考えれば、顧客が「何を追求しているか」「現場でどんな課題を感じているか」を見抜き、単なる製品仕様書ではなく、「提案型」で二自由度制御の有用性を論証できる力が差別化ポイントとなるでしょう。
まとめ〜“一歩先”を行く製造現場を目指して
FB制御とFF制御の併合による二自由度制御は、「昭和」から「令和」へとモノづくり現場が進化する過程で、最も現実的かつ即効性の高い手法の一つです。
現場で課題となる整定時間、品質ばらつき、設備のチョコ停——。
これまで「しかたない」と思われていたこれらの課題に対して、“外乱抑制力”と“追従性”を両立する二自由度制御の導入は、歩留まりや安全性の向上だけでなく、現場担当者の精神的な負担軽減にも貢献します。
目の前の「操作のしやすさ」や「従来通りの良さ」を大切にしながらも、仕組みそのものを一段上に進化させる——。
バイヤーを目指す皆さんや、現場エンジニア・サプライヤーの方々も、ぜひ今こそ「制御」の最前線で、新しい知恵と提案力を活かし、製造業の価値最大化に取り組んでいただければと願っています。
最先端の二自由度制御こそ、現場で真に役立つ“新たな地平線”なのです。
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