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パーカーの袖口が波打たないための縫製順序と素材テンション

目次
はじめに
パーカーの袖口が波打ってしまう——これはアパレルの現場はもちろん、製造現場に携わる方にとっても見過ごせない問題です。
品質管理の観点からも「美しい仕上がり」は重要ですし、消費者やクライアントからの信頼を得るためには、小さなディテールの積み重ねこそがブランド価値へと繋がります。
昭和時代から続くアナログな縫製現場では、経験則や個人の勘に頼るケースも少なくありません。
しかし、グローバルな市場や多品種少量生産が求められる現代、私たち製造業に求められるのは「再現性」と「効率」です。
ここでは、20年以上の現場経験で培ったノウハウをもとに、パーカーの袖口が波打たないための正しい縫製順序と、素材テンション管理の極意を解説します。
なぜ袖口が波打つのか?現場で見極めるべき根本要因
袖口の波打ちは見た目の美しさだけでなく、機能性や耐久性にも影響します。
なぜこのような現象が起こるのか、大きく3つの要因が考えられます。
1. 縫製順序の問題
縫製工程の中でパーツの組み立て順番が適切でない場合、袖口のリブや本体生地に余計な力が加わり、波打ちやヨレが発生します。
特にアパレル工場でありがちなのは、袖リブと本体袖の縫い合わせ前に、それぞれを過剰にテンションをかけて裁断・縫製してしまうケースです。
2. 素材のテンション設定ミス
ニット地やスウェット生地など、伸縮性のある素材は「引っ張りすぎ」「縮めすぎ」で形状が不安定になります。
工場の縫製ラインで素材テンションの管理が徹底されていなければ、波打ちは避けられません。
新品時は目立たなくても、洗濯後に現れる事も多々あります。
3. 糸の種類・針の選定ミス
縫い目が硬すぎたり、逆に糸が柔らかすぎて引き締まらないと、素材本来のテンションとちぐはぐな仕上がりになります。
現場では「万能糸」の安易な使用や、不適切な針番手の選択が起因することも多いのです。
昭和型現場の“勘と根性”から抜け出す:最新の縫製工程とは
なぜ縫製順序が結果を左右するのか
アパレル縫製の現場は、今なお職人の技術や勘に頼る部分が多くあります。
昭和時代の現場では、熟練者が現場リーダーとして“出来栄え”だけを見てOKを出していたものです。
しかし、現代の多品種・短納期の中で「再現性」を担保しなければ、海外のOEM先や最新設備を持つ競合メーカーとの差はますます開きます。
パーカーの袖口で波打ちを防ぐためには、
1. 袖本体の縫合 →2. リブの下準備 →3. 本体とリブのテンション合わせ →4. 本縫い・仕上げ
という順序が現実的かつ高い品質を安定して生み出せる工程です。
工程ごとの注意点
– 袖本体の縫合
ここでは無理なテンションをかけず、本体の繊維方向(地の目)を確認。
アイロンで形を整えてから袖リブ接合に進みます。
– リブ下準備
リブパーツは、元の設計図通りの寸法で裁断するのはもちろん、「縮め縫い」を避けるために、生地の伸縮方向をしっかり意識したアイロン・下準備がカギ。
リブが短すぎるまま無理に合わせると、仕上がりで波打つ原因になります。
– 本体とリブのテンション合わせ
最も重要なのは、本体袖口とリブの縫い目を合わせる時のテンション調整です。
この時、どちらか一方だけを引っ張ったりせず、「6:4」や「7:3」など最適なテンション比率を決めて、それに従い両者をバランス良く合わせていきます。
製品設計図や過去の成功事例を技術文書化し、現場の標準作業手順書(SOP)として共有することで、熟練度に左右されない再現性が生まれるのです。
素材テンション管理の実践:数値管理と現場感覚の融合
現代では素材テンションの管理は「数値で見える化」することが求められます。
たとえば、自動テンションコントローラーや、テンションゲージを使い、縫製機へ投入する前に生地の伸縮率や偏りを測定します。
大手メーカーでは、1%単位でのテンション範囲を設定し、それ以外は「やり直し」と徹底しています。
しかし、中小や下請けの現場には高価な設備投資は難しい場合も多いでしょう。
その場合でも、生地のロットごとに「サンプル縫製・洗濯→寸法変化検証」を1セット実施するだけで、かなりの品質改善が実現できます。
つまり「測って伝える」ことと「現場で五感を活かす」——アナログとデジタルの双方を使いこなせるかがポイントです。
現場視点のノウハウ例
– 新規ロットの生地が入るたび、10点サンプリングし、「縫製→洗濯→寸法計測」をルーティン化
– テンション管理は、テンションゲージで伸び率を記録し、その場で「本日限り」のパラメータを決定
– 熟練工が「手の感触」で異常を察知できるよう、作業開始前に全員で1着ずつサンプル品を確認
見逃せない!縫製設備・消耗品の選び方による波打ちリスク
素材やミシンの状態によっても、仕上がりは大きく違います。
– 縫い糸
「ストレッチ性」の糸を本体・リブで使い分けることで、縫い目の張りすぎ・緩みすぎを防止。
ポリエステル100%とコットン100%の混用は、できるかぎり避けるべきです。
– ミシンの針番手/糸調子
標準から外れる生地厚・伸縮率の場合は、針番手を細かく変える。
糸調子(上糸・下糸)はその都度、現場リーダーが変化を記録し、標準値を「見える化」しておくと再現性が高まります。
– アタッチメント(押さえ金)
ニット系やリブ生地には「差動送り」や「特殊押さえ金」が威力を発揮。
昭和世代の職人技ではなく、“仕組みでミスを防ぐ”という最新設備の活用も、品質向上への近道です。
バイヤー・サプライヤーに求められる品質意識とコミュニケーション
この領域の知見は、バイヤーの皆さんやサプライヤーにとっても重要です。
なぜなら、「なぜ袖口の波打ちが起きるのか?」「なぜこの順序・素材にこだわるのか?」を理解して望まれる品質やコストダウン交渉を行うことで、相互の信頼関係と長期的な取引へ繋がるからです。
バイヤーは、
– 「ただ安い工場で作ればいい」ではなく、「どのような工程・設備で品質担保しているか」を細かくヒアリングすべきです。
サプライヤーは、
– 「現場がこうだから」ではなく、「なぜ波打ち対策ができるか」裏付けデータとともに説明材料を揃えましょう。
取引先から「袖口の仕上がりが良くなった」「再現性が高い」と高評価を得る工場は、バイヤーとの価格交渉でも優位に立てます。
まとめ:製造現場×現代的アプローチで“波打ちゼロ”を目指す
パーカーの袖口が波打たないためには、旧来の職人芸だけに頼らず、縫製順序の標準化・素材テンションの数値管理が不可欠です。
また、現場のノウハウを、現場外のバイヤーや企画担当とも積極的に共有することで、サプライヤーとしての価値も高まります。
経験とデータに裏付けされた製造サイクルこそ、これからの日本のものづくりを強くし、多様化する顧客の期待にも応える基盤となります。
製造業に携わる皆さん一人ひとりが、一歩先の「標準化」と「見える化」に取り組むこと。
それが、バイヤー・サプライヤー双方の共通言語となり、未来の工場、そして日本の“ものづくり”を進化させていくと信じています。
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