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パーカーのジップラインが波打たない縫製順序とテンション制御

目次
はじめに:パーカーのジップラインが波打つ理由とは
パーカーのジップアップ(フルジップ)製品を手に取ったとき、「ジップの線が波打っている」「ファスナーの周辺だけ生地がつれている」そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
各種SNSや通販サイトのレビューでも、「ジップラインが真っすぐでない」「着用時にジッパー部分が浮いて気になる」といった指摘をよく目にします。
アパレル工場やOEMメーカーの現場でも、この現象は「ジップ波打ち」「ジップつれ」と呼ばれ、その発生原因や防止策は繰り返し議論されてきました。
この記事では、アナログな工程が根強く残るアパレル縫製の現場から、パーカーのジップラインを美しく保つための具体的な縫製順序とテンション制御について解説します。
さらに、時代の変化と共に進化する業界の動向も交え、実践的なノウハウを共有します。
ジップラインの波打ちを引き起こす主な要因
生地と副資材の物性ミスマッチ
ジップラインの波打ちが発生する原因は、さまざまですが、最も基本的なものは「生地とファスナー(ジッパーテープ)の物性差」にあります。
たとえば、スウェット素材のような高い伸縮性(ストレッチ性)をもつ生地に、伸びないファスナーをそのまま縫いつけてしまうと、縫い合わせ時の引っ張り具合(テンション)のわずかな差が大きな歪みとなるのです。
また、一般的に生地とファスナーの下準備(縮率処理)が異なる場合も問題となりやすく、洗濯後にジップだけが縮まなかったり、逆にファスナーだけが縮むことで、さらに波打ちが顕在化します。
縫製時のテンション管理不足
パーカーの左右身頃にファスナーを付ける工程では、ミシンで直線的に縫い合わせます。
この際、オペレーターが手元で生地やジッパーテープを「軽く引っ張ったまま」縫い進めてしまうと、ファスナーが生地を引っ張りすぎたり、逆に生地が余りすぎたりして綺麗な直線を保てなくなります。
この「テンション管理」の技術は熟練工ならではの感覚的職人技に依存しがちですが、だからこそバラつきが生まれやすいとも言えます。
縫製順序の最適化不足
昭和の時代から依然として多いのは「サイドと裾を完全に縫い合わせてからファスナーを後付けする」という縫製順序です。
この場合、パーカーの胴回りが「袋状」になったままファスナーを取り付けることになり、平面で作業しづらいうえにジップ位置のコントロールが利きにくいという欠点があります。
正しい手順を踏まないと、ファスナーが思わぬ方向に曲がってしまい、波打ち現象を増長します。
理想的な縫製順序と工程設計
推奨される縫製工程フロー
パーカーのジップラインを波打たせないためには、以下の縫製順序が推奨されます。
- 前身頃と後身頃を肩で縫い合わせる(肩縫い)
- 袖を肩に接続する(セットイン/ラグランで違うが順番は近い)
- ジップテープを前身頃端に仮止めする(しつけ縫いまたは熱圧着テープ)
- ファスナーと前身頃を密着させて本縫い(1回目)
- フードと身頃などその他パーツの組み立て
- 脇・袖下・裾の全てを一気に縫い上げる(袋状完成)
- 仕上げプレス、検品、仕上げ
この工程をとることで「生地がまだ開いている」平面状態でファスナーを真っすぐ配置できるため、ズレが起こりにくくなります。
また、縫い代方向や端部のたわみも把握しやすいので、微調整も容易です。
プレ縫製(仮止め)の有効活用
ファスナーをいきなり本縫いするのではなく、まずは仮止めを行い、ズレや歪みを極力排除しましょう。
しつけ糸や熱圧着テープを使って両側のファスナーテープを固定し、仮縫い段階で左右の身頃のズレがないことをチェックします。
この段階でマーク合わせや身頃の位置チェックを怠ると、最終縫製で必ずズレが顕在化します。
テンション制御―波打ち防止の最重要ポイント
現場で採用される各種テンション合わせの工夫
製造現場では、次のような工夫が実践されています。
- ファスナー側のテンションどりを行い、生地側はテンションを「かけない」
- 生地を縦方向に伸ばさず、むしろ気持ち「なじませて」ゆとり方向に扱う
- 工業用アイロンで前もって生地のドレープを均一化し、応力を抜く
- 一定距離(2~3cm)ごとにファスナーと生地を手で「マッチング」させて進める
- 左右身頃で「身返し」「ポケット口」など目印のマーク合わせを念入りに行う
これらの工夫を徹底することで、機械任せだけでは得られない「手作業ならではの平滑なジップ取り付け」が実現します。
動力ミシンの進化と最新テンション制御技術
近年では、写真画像解析やAI補正を活用した最新縫製設備も登場しています。
ピン送り装置やデジタルテンション制御機能をもつミシンによって、縫製中の生地・ファスナーテープそれぞれのテンションをリアルタイムで自動調整することが可能です。
海外の量産現場では、コンベア送りの自動機が縫製パラメータ(圧力、引き加減、縫い目ピッチなど)を記憶し、その合成値で「最適な並進状態」を保つものも設計され始めています。
とはいえ、多品種小ロットやサンプルワークでは、やはり熟練オペレーターの経験が不可欠な現場も多いのが現状です。
製造業の現場力―組織としての品質向上
教育・標準化の取り組み
どれほどミシンや設備が高性能化しても、やはり「人」のノウハウがなければ高品質なジップラインは実現できません。
現場では「標準書」の整備、「操作動画コンテンツ」作成、「OJT研修」といった教育体制の強化が進んでいます。
属人化しやすいテンションのコツや仮止めの方法を言語化・数値化し、誰でも一定の作業品質が出せる環境を作ることが重要です。
管理・検品体制の再設計
最終工程での「ジップライン目視チェック」も、チェックリストや品質基準を明確にし、曖昧さを排除する取り組みが有効です。
数値基準(例えば「波打ち幅〇mm以下」など)を明示すると同時に、社外評価・社内評価のやり直しを定期的に行うことで、よりバラツキを収束できます。
アナログ業界ならではの課題とデジタル化の波
なぜ改革は進みにくいか
昭和の職人気質や現場感覚が根強いアパレル縫製業界では、「昔ながらのやり方」で変わらぬ工程を繰り返してしまう傾向があります。
しかし、今やECを中心に消費者が製品レビューに敏感になり、「ジップ波打ち」一つでブランド価値が毀損される時代です。
メーカーやサプライヤーは、工程改革と共に現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)も同時に迫られています。
設備投資とノウハウ継承の両輪を回す
自動ミシンや画像認識技術、AIシミュレーションによる縫製アシストの導入は、今後ますます不可避となります。
一方で、ベテランの職人技を「見える化」し、組織にノウハウを残す取り組みも必要です。
技能伝承の場を意識的に設け、知見を共有することで、産業全体の底上げにつながります。
まとめ:プロ目線でのジップライン品質向上策
パーカーのジップラインを波打たせないためには、生地と副資材の物性適合、縫製順序の最適化、そして緻密なテンション管理が不可欠です。
最新設備やAIも力強い味方ですが、本当に大事なのは現場力、つまり標準化と教育、管理体制の整備です。
今後は、アナログな職人技とデジタルイノベーションの融合によって、波打たない高品質なジップアップパーカーが、より多くの消費者へと届けられることでしょう。
OEM・ODMのバイヤー、サプライヤー、製造担当者を目指す皆さんは、ぜひこの現場目線のノウハウを活用し、課題解決・付加価値提案の礎としていただければ幸いです。
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