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受入側の検査機器仕様を共有して相互認証を成立させる実務

受入側の検査機器仕様を共有して相互認証を成立させる実務
はじめに:なぜ相互認証が重要なのか
製造業の現場では、品質保証の観点から「相互認証」というワードが近年ますます重要視されています。
相互認証とは、バイヤー(購買者)側とサプライヤー(供給者)側で、測定機器や検査方法が一致または互換していることを確認し合うプロセスです。
このプロセスがしっかりと機能していないと、「自社で合格品」と判断して納入した物が「顧客先では不合格」という事態が発生し、トラブルやクレームの原因となります。
昭和から続く紙ベース・アナログ・閉鎖的文化が残る製造業ですが、いまこそ課題解決のために相互認証の本質的な運用が求められています。
相互認証が従来あいまいにされていた理由
これまで日本の製造業では「うちは昔からこうやっている」「大手自動車メーカー様に納めているから問題ない」と、検査方法や測定器仕様の相互確認がおろそかにされがちでした。
要因は主に三つあります。
1. 検査設備の非公開文化
2. ローカルルールの多発
3. 測定・検査の知識不足
サプライヤー側は「検査能力の問い合わせ=スペック査定」と感じ、機密保持を理由に積極的に情報公開を避けます。
一方でバイヤー側も「どうせ大丈夫だろう」や「型通りのPPAP書類があれば良い」と形式主義が横行していました。
このあいまいさが、納入不良や責任押し付けの温床となってきたのです。
相互認証の流れと現場で起こりがちな課題
通常、検査機器や治具の相互認証は以下の流れで進みます。
1. バイヤー側が要求仕様・図面・検査項目を提示
2. サプライヤーが自社の検査設備・機器・手順を記載した資料を作成
3. 仕様や能力値、トレーサビリティの観点で両者が比較検討
4. 必要に応じて現場立会いや相互訪問により、測定精度や運用実体を確認
5. 双方の合意にもとづき「相互認証合意書」を発行
しかし実際の現場では、「バイヤーの指示内容が曖昧」「サプライヤーの情報開示が消極的」「双方とも測定技術に疎い」といった問題が頻発します。
また、測定条件の違い(例:温湿度・測定圧・測定点数・人為的エラー)の考慮不足から、「同じ製品なのに測定値が合わない」事例も珍しくありません。
相互認証を成功させるために不可欠な3つの視点
相互認証の実務を上手く回すには、単なる資料のやりとりを超え、現場目線の実践力が必須です。
プロの工場管理者として自信をもって提案したい、現場が押さえるべき3つの要諦を解説します。
1. なぜその検査なのか?本質を問う「目的意識」
どの検査工程も、目的とゴールをはっきりさせることが重要です。
「なぜこの項目を測るのか」「要求された精度はなぜその値なのか」「その機器で本当に要求が満たせるのか」。
こうしたWHYを追求することで、無駄な争いや形式的な書類作り、現場の混乱を激減させることができます。
2. 意志疎通こそ最強の品質保証「コミュニケーション」
紙やデータのやり取りでは限界があります。
サプライヤー側の現場を実際に訪問し、測定方法やクセ、設備レイアウトを自分の目で確かめること。
逆にバイヤー側も、求める品質の理由を製品図や工程図を一緒に見ながら説明すること。
こうしたフェイス・トゥ・フェイスの対話が測定値不一致や誤解を根本から解消します。
3. 現場の納得感を生む「エビデンスとトレーサビリティ」
検査機器の校正証明書、トレーサビリティ体系図、検査成績書を現場レベルで準備しましょう。
ISO9001やIATF16949(自動車業界向け品質マネジメントシステム)でもこれが重視されています。
「どの標準器とつながる機器なのか」「どの単位で誰が校正したのか」。
数値や履歴を第三者が追える状態へ明確化すれば、曖昧な言い訳や責任転嫁から脱却できます。
もっと現場目線で実践する!ラテラルシンキングのすすめ
旧態依然のアナログ慣習に縛られたままでは、相互認証は単なる儀式に終わりがちです。
そこで「ラテラルシンキング(水平思考)」のアプローチが必要となります。
具体的には下記を推奨します。
・サプライヤー現場にも使える「共通ノウハウ化」
社内独自の測定治具やノウハウを、サプライヤーと一緒に標準化。
たとえば、「図面の指示寸法と測定点の関係」を写真付きで資料化し、双方が誤解しないようにするなど。
・デジタル技術の活用による「遠隔相互認証」
遠方や海外拠点では、WEB会議や動画を使ってバーチャル現場立会いを積極的に展開。
映像やデータをリアルタイム共有し、確認者と操作者が同じ画面を見ながら合意形成を図ることで、移動コストや時間ロスも削減できます。
・サプライヤー自身に「自己監査」してもらう
サプライヤー主導で、自社の検査工程や機器仕様を自分たちで動画説明してもらい、疑似立会いとする。
購買側はそれをレビューし、明確な質問や修正指示を出すことで、リモートでも安心できる相互認証になります。
【実録】昭和的文化との闘い
20年以上製造業の現場に身を置いた筆者自身、過去には「こんなアナログが今どき…」と驚くケースも多く経験してきました。
たとえば、「マイクロメーターの校正証明がコピーしかない」「なぜか午前と午後で測定値にバラツキが出る」「定盤がガタついている」等、目を疑う現場もありました。
その際は「机上論」ではなく、現物を実際に計測し、温度や湿度・人員入替・工具の締め付けトルクまで一つひとつ潰していきました。
地味でも愚直にミスを分析し、「測れる」現場をつくれば、どんなサプライヤーでも品質不良を激減させられます。
相手を責めず、「一緒にできること」を探していく現場主義が結局は最強です。
バイヤー・サプライヤー 両者の立場で押さえるべきポイント
バイヤー側のポイント
・図面や仕様書は「なぜ必要か」まで詳しく説明する
・単なる書類確認で終わらせず、できる限り現場目線で現物を見に行く
・サプライヤーにコミュニケーション機会を多く設け、疑問には丁寧に応える
サプライヤー側のポイント
・「秘密主義」にこだわらず正直に情報を開示する努力をする
・自社設備のクセやノウハウも積極的に伝える
・自己監査で弱点を洗い出し、改善のPDCAを自分たちで回せる力を養う
この双方向の歩み寄りが、相互認証の最大化につながるのです。
まとめ:相互認証は「現場が自慢できる武器」になる
受入側の検査機器仕様を公開し、現場同士で相互認証を成立させることは、単なる不良流出防止のためだけではありません。
それは、「うちの現場はここまでやっています」「御社の仕組みも素晴らしいですね」と、製造現場の底力を互いに認め合える最高のプロセスです。
相手を疑うのではなく、事実・数字・エビデンスで納得し合い、問題が起きたときも「じゃあ一緒に解決しよう」という科学的な文化が根づけば、製造業の現場力は一段も二段もアップします。
昭和スタイルの慣習に甘んじる時代は終わりました。
現場で汗と知恵を絞った結果を積み上げ、共に新たな地平線へ向かいましょう。
この実践ができれば、どんな業界動向や時代の変化にも十分に対応できるはずです。
「測れない原因」を一つずつ取り除き、「測れる現場」をつくる皆様を、同じ製造業の仲間として心から応援しています。
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