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“輸送トラブル=物流の責任扱い”にされがちな理不尽

目次
はじめに:なぜ“輸送トラブル=物流の責任”になるのか
「トラックが遅れた」「商品が破損していた」「納品先から“届かない”とクレームが来た」
こうした輸送トラブルが起きたとき、現場では多くの場合、その責任が“物流部門”や“運送会社”に転嫁されがちです。
私自身、20年以上にわたり調達購買や生産管理、品質管理、さらには現場・工場長としても様々な立場を経験してきました。
そのなかで、「とりあえず“物流の責任”に」といった理不尽な態度が、昭和から令和の今もなお、製造業の現場では根強く残っていることを強く感じます。
ではなぜ、輸送のトラブル=物流の責任、と思いこまれてしまうのでしょうか。
この記事では、製造業の現場で働く方、バイヤーやサプライヤー、そして物流現場の方々の立場に立ち、リアルな現状や、その背後にある“思考停止”の業界慣習を掘り下げます。
さらに、これからの時代、本当に見直すべきポイント・新たな解決策をラテラルシンキングで提案し、製造業全体の進化にむけたヒントを提供します。
現場目線で語る輸送トラブルの“あるある”事例
トラブル1:納期遅延の犯人探し
ある日、“A社向けの部品が到着しない”という連絡が届きます。
工場間でのやり取りを経て、配送会社に確認を依頼。
数時間後、物流担当が“ドライバーが渋滞に巻き込まれている”旨を報告すると、
現場や営業からは「物流、しっかりしてよ!」「また運送のミス?」という非難が集まります。
しかし、原因をよく調べてみると、工場Aが“出荷伝票にミスがあった”、B社の受付時に“受け取りサインが遅れた”など、真の要因は複数の部門に存在していることが少なくありません。
トラブル2:破損品の責任押しつけ
品質管理部門から「輸送途中で部品が傷ついていた」と連絡が入ると、多くの場合「運送会社の積載ミスだろう」と片付けられがちです。
しかし、梱包設計に不備があったり、工場の積み込み時に無理な詰め込みをしていた事例も実際には多発しています。
物流以外の部門も原因を作っているケースが多いため、一方的な“物流悪者論”は実態と乖離しているのです。
トラブル3:対応が遅いor伝言ゲームによる混乱
運送状況の進捗確認や、イレギュラー対応の際、“物流担当→生産管理→営業→顧客”と何度も情報が伝言ゲーム式に伝わることで、情報の劣化・混乱を招くことがあります。
こうした場合も、往々にして物流部門の“情報共有不足”と位置づけられがちですが、
そもそも情報伝達の仕組みや、社内のコミュニケーション設計に改善点があるケースも多々あります。
なぜ“物流の責任”となるのか:根強い業界構造と心理的バイアス
責任回避の心理と“見えない存在”問題
工場や現場、営業担当やバイヤーからしてみれば、“自分たちはやるべきことをやっている”という意識が強く働きます。
一方で物流は「工場外の活動」であり、自分たちの直接的な管理範囲外=“よくわからない存在”。
この「見えない存在」に責任を押しつけやすいのが、現場心理の根底にあると言えます。
そして、発生したトラブルに対して“自部署を守りたい”心理が先行することで、
本質的な原因分析をせず、とりあえず「物流」とラベリングし、“目に見える敵”を作って安心してしまう傾向がまだまだ根強いのです。
昭和から残る縦割り構造と“サイロ化”
多くの日本の製造業は、部門ごとに業務範囲やKPIが明確に区切られている“縦割り文化”が色濃く残っています。
例えば、「出荷は生産管理または品質管理まで」「その先は物流の責任!」といった業界の暗黙の掟です。
実際の業務フローはいくつもの部門や外部企業をまたいで成立しているのに
「自分の仕事はここまで」「納入先からクレーム来たらとりあえず物流」
といった発想から抜け出せないのは、産業構造として“サイロ化”が温存されている証拠でもあります。
数値管理(KPI)が誘発する“部分最適”のワナ
工場は生産数、生産管理は納期遵守率、品質管理は不良率――
各部門がそれぞれの目標達成に必死になるあまり、全体最適ではなく“自部門の数字優先”へと走りがちです。
このため、「自分たちのKPIは達成できている。遅れやミスがあっても物流(や配送会社)の責任で、うちではない」と思考停止に陥りやすいのです。
“もう物流だけのせいにできない”時代背景
物流危機と「2024年問題」への対応
現在、日本の物流現場は大きな変革の時代を迎えています。
昨今話題の「2024年問題」――
ドライバーの労働時間規制強化や人手不足、コスト上昇などにより、
“誰かがやってくれるだろう”という合理化や責任転嫁の発想自体が行き詰まりを見せています。
物流業界の現場では「もう以前のような対応はできない」という声が強く、
製造業の現場も“他人事”ではいられなくなっています。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の進化
これまでは“モノの流れを誰かに丸投げ”が許される場面もありました。
しかし現在、サプライチェーン全体の最適化が最重要課題となっています。
トラブルは「物流だけの問題」ではなく、「供給網(SCM)」のあらゆる接点が複雑に絡み合う問題です。
工場でも購買でも、サプライヤーでも、物流現場でも“自分ごと”として捉える時代へと移行しています。
本当の原因分析と“あるべき姿”を考える
まず全体フローを“見える化”せよ
トラブル発生の際は、とにかく犯人捜しをしたくなりますが、
大事なのは以下のプロセス全体を見える化することです。
– 生産、検品、梱包、出荷指示から現場積込
– 配送手配(輸送業者への連携・伝票処理・ラベル運用)
– 輸送中の進捗管理・リスク共有
– 納入先での受け取りオペレーション
– フィードバック(不具合・トラブル発生時の連絡ルートまで)
どこで手戻り・伝達ミス・責任の切れ目が生まれるのか、このフローを部門横断で共有しましょう。
根本原因(ルートコーズ)を特定する
単に「誰の責任か」を問うのではなく、
“なぜ”トラブルが起きたのか、分解して洗い出します。
1. 工場出荷時:ピッキング・検品の精度は十分だったか
2. 梱包設計:品目に適した梱包仕様だったか
3. ロードプラン:トラックへの積載は無理がなかったか
4. 運送会社:教育や運営体制に問題はなかったか
5. 社内の情報共有:、連絡や進捗管理のプロセスは適切だったか
6. 顧客側の受領体制:納品時間・受取体制に無理はなかったか
こうして「全員が当事者意識をもつこと」が、根本的な課題解決につながります。
これからの現場がとるべきアクションプラン
定期的な“クロスファンクショナル”会議の実施
調達・生産・品質・物流・営業、それぞれの担当者が垣根を越えて集まる場を持つことが重要です。
月1回の情報交換でも構いません。
“発生したトラブルの真因”や“業務改善アイデア”などを本音で議論することで、
お互いの立場や現実を理解し合い、“とりあえず物流のせい”思考から脱却できます。
物流現場見学・乗車体験の推進
工場や本社の担当者が、実際にトラックに同乗したり、センターの積込現場を体験することで、
「なかなか言葉や資料では伝わらない現実」や「物流現場ならではの苦労ポイント」に気づけます。
“物流のせい”にする前に、現場の実際を知ることが大切です。
システム化と“データ共有”の仕組み強化
手書きの伝票、FAX、口頭連絡に頼ったアナログな現場は未だに多いものです。
進捗を随時“見える化”できるITツールや、社内共有のダッシュボードを活用することで、
伝達ミスや“誰が何をやったかわからない”状態を減らします。
また、輸送進捗・到着予測・異常発生などのデータを複数部門でリアルタイム共有することで、
前工程・後工程の両方が早めに手を打てるようになります。
“物流部門の声”に耳を傾ける文化を作る
現場の困りごとや「こうしてほしい」という物流現場の声は、しばしば吸い上げられず放置されてしまいます。
物流担当や、現場のドライバーにも“提案の場”を設け、改善提案を積極的に評価する体制に変えていきましょう。
最後に:アナログ業界から新時代の“強いサプライチェーン”へ
製造現場は、今まさに変革の大きなうねりにさらされています。
「輸送トラブル=物流だけの責任」ではなく、
“自分たちの工程も本当は関わっているかもしれない”という発想の転換が必要です。
これからは、バイヤーもサプライヤーも、現場も上層部も、
“サプライチェーン全体での最適化”を目指し、“誰もが当事者になる”という風土が不可欠です。
アナログな業界だからこそ、“ヒューマンエラーゼロ”はありえません。
だからこそ、現場同士・部門同士が手を取り合い、
“問題を前向きにシェアする仕組み”を作ることが製造業の競争力を引き上げる最大の武器になります。
「トラブルが起きた原因はなにか」「“物流のせい”で済ませていないか」
この問いかけから、現場改善の一歩が始まります。
本記事が、物流部門に限らず現場全体、ひいては日本の製造業全体の未来志向の変革に
つながる小さなきっかけとなれば幸いです。
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