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緊急発注をゼロに近づける承認フロー短縮の実務

目次
はじめに:なぜ承認フローが緊急発注を生み出すのか
多くの製造業現場では、「また緊急発注か…」という声が当たり前のように聞こえます。
急なトラブルや想定外の需要変動が発生すると、調達部門や生産管理部門には“至急”の文字が踊る発注依頼が舞い込んできます。
なぜ、私たちの現場では緊急発注が頻発してしまうのでしょうか。
それは、発注に至るまでの「承認フロー」がボトルネックとなり、タイムリーな対応を阻害しているからです。
昭和的な紙文化やハンコ文化が根付く多くの企業では、承認印をいくつも回覧した上でようやく発注が可能になるケースが今なお主流です。
昨今の多様化したサプライチェーン、短納期化、ものづくりの高度化などにより、従来通りのアナログな承認フローでは現場のスピード感についていけないのが実情です。
この記事では、私の20年以上にわたる製造業現場・調達業務での経験を踏まえ、緊急発注をゼロに近づけるための承認フロー短縮の実務について、ラテラルシンキングの視点も交えながら掘り下げていきます。
現場でありがちな承認フローの問題点
なぜアナログ承認が現場を苦しめるのか
製造業の発注業務の多くは依然として対面や紙を媒体としたアナログなプロセスに依存しています。
このため、出張や不在の上司の承認待ち、物理的な書類の移動、ハンコ捺印のための時間的ロスなど、数日のタイムラグが当然のように発生します。
現場作業者は一刻も早く部材がほしいのに、調達担当者は「承認印が揃わないとシステム入力できません」と答えるしかなく、この“溝”が緊急発注を常態化させます。
このような状況が続けば、部品サプライヤーも「この会社はいつも急ぎで困る」と不信感を抱くようになります。
承認ステップが多すぎる理由
「なぜそんなに何重にもハンコをもらう必要があるのか?」という問いには、さまざまな理由が挙げられます。
たとえば、過去の不正発注やミスを防ぐためといった“教訓型”の慣習、部門間・階層間の縄張り意識、老舗企業でありがちな“前例踏襲”の文化です。
また、情報システム自体が承認ステップの短縮やカスタマイズに柔軟に対応できていない場合も多いのです。
これらの事情が複雑に絡み合って、承認フローの“聖域化”を引き起こしています。
承認フロー短縮のメリットとは?
現場の即応性が劇的に向上する
発注にかかる承認フローを短縮することは、単に時間を短縮する以上の意味があります。
例えば、生産計画変更や不良発生などのイレギュラー時に、迅速な代替品手配や大量追加発注が可能になります。
その結果、ラインの停止リスクや、慌ただしい社内調整によるミスの抑制にもつながります。
サプライヤーとの信頼が強まる
緊急発注の頻度が減れば、サプライヤーも計画的・安定的に生産準備ができ、自社に対する信頼が高まります。
これは価格交渉やリードタイム短縮の際にも有利に働く重要なポイントです。
内部コスト削減とリスクヘッジ
発注業務に費やす事務工数や、緊急手配による割増コスト・特別便費用、社内調整の電話・メール回数などを削減できます。
また、承認の属人的ボトルネックが解消されることで、担当者不在時のリスクヘッジにもなります。
緊急発注ゼロに向けた承認フロー短縮策
1)承認フロー可視化から始める
まず自社の発注承認フローをフローチャート化しましょう。
どの段階で誰の承認が必要なのか、なぜその承認が必須とされているのかを洗い出します。
その過程で「このステップは本当に必要か?」「誰も引き受けたくないリスクを分散させているだけでは?」というボトルネック発見につながります。
2)権限委譲とルールの明確化
決裁金額による権限委譲(例えば50万円以下は課長承認のみで可、100万円以下は部長承認まで等)や、リスクの低い定型発注は調達担当が単独決裁できるガイドラインを策定しましょう。
喫緊でない定期発注は所定のプロセス通りに進め、突発的イレギュラー(機械故障、災害対策等)は条件付きで即日承認を認めます。
これによって、現場判断の幅が格段に広がります。
3)デジタル化とワークフローシステムの活用
申請・承認プロセスを紙ベースからワークフローシステムへ移行することは、時間短縮とトレーサビリティ強化の両方に寄与します。
・スマホやタブレットから即承認可能
・承認者不在時に自動で代理承認ルート設定
・申請・承認履歴の自動記録によるガバナンス向上
システム導入が難しい場合、まずはPDFやExcelによるメール申請に置き換えるだけでも効果があります。
4)事前発注の強化と“想定外”の洗い出し
緊急発注が生じる“真因”を追求し、そのパターン・頻度・要因をデータ化しましょう。
過去の緊急発注事例から、
・在庫基準の見直し
・予備品リストの整備
・季節波動や繁忙期対応の予測発注
など、事前発注(=アップフロント発注)の割合を高めます。
「どうせまた緊急発注しそうな案件」を先回りして計画発注できれば、承認フロー短縮よりもさらなる根本対策になります。
昭和型文化から抜け出すための“根回し”の実際
アナログ現場へのアプローチ手法
老舗企業や現場主義が強い工場では「これまで通りで問題なかったじゃないか」という抵抗が根強く残っています。
だからこそ、改革を急ぐよりも「1人ずつ」「1部門ずつ」信用できる実績を積み上げることが肝要です。
具体的には、
・現場責任者やベテラン作業者を“巻き込む”説明会
・既存のフローによるトラブルや緊急発注のコスト化
・現場リーダーが意見を出しやすいワークショップ
・「実証実験」と称したパイロット運用
決して「旧来型はすべて悪」という論調ではなく、新旧ハイブリッド型の期間を経て“成果”を現場に体感してもらう流れが効果的です。
サプライヤーやバイヤー志望者に知ってほしい“発注現場のリアル”
サプライヤーの立場では、発注元企業でこうした緊急発注・承認フローの問題が根強いことを理解しておくことが大切です。
「なぜこの会社はいきなり明日納入してくれ、などと無茶な要求をするのか?」の背景には、現場のひずみ、そして内在する承認文化のボトルネックがあると知ることで、より建設的なコミュニケーションや提案(例:計画発注枠・定番品の一括契約化等)が可能となります。
また、バイヤー(購買担当者)を目指す方には、自分が発注側で変革の起点になることで、サプライヤーとの信頼醸成や適正リードタイム確保という“攻めのバイイング”を体現してほしいと思います。
まとめ:小さな一歩から始めよう
緊急発注をゼロに近づける実務のカギは、現場を巻き込んだ“継続的なムダの可視化”と“小さなチャレンジの積み重ね”にあります。
承認フローの短縮は、それ自体が業務改革のゴールではありません。
「現場目線で本当に必要な承認やチェックは何か?」を一つひとつ問い直すプロセスこそが、未来の製造業を強くし、バイヤー・サプライヤー双方の成長に直結します。
今日からできる小さな見直しでも、5年後には大きな違いを生み出しているはずです。
アナログの限界に挑み、製造業の新たな地平をともに開拓していきましょう。
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