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輸送距離短縮の努力が“生産側の都合”で無効化される

目次
輸送距離短縮の努力が“生産側の都合”で無効化される現実
製造業のサプライチェーン最適化において、「輸送距離の短縮」は常に重要なテーマとなっています。
環境負荷の低減、物流コストの削減、納期の短縮といった効果が期待できるため、多くの現場やバイヤーが積極的に取り組んでいます。
しかし、その一方で、せっかく積み上げてきた輸送距離短縮の取り組みが、現場=生産側の思惑や都合によって、あっさりと“無効化”されてしまうケースが少なくありません。
この記事では、筆者が20年以上の製造現場で培ったリアルな知見をもとに、輸送距離短縮の現実と課題、そしてバイヤーやサプライヤーが真に目指すべきサプライチェーン改革のヒントを共有します。
なぜ今「輸送距離短縮」が重要なのか
カーボンニュートラル時代の経営課題
現代社会において、「カーボンニュートラル」「SDGs」といったキーワードが国内外を問わず当たり前となりました。
とくに製造業界は、サプライチェーン全体での「スコープ3」排出量(自社外を含めた温室効果ガスの排出)が問われる時代です。
「輸送距離」が短い=トラック・船舶・航空便が利用するエネルギーが減った分、直接的にCO2排出量が下がります。
コスト・納期の競争優位性確保
長距離輸送は、単純に物流コストがかかるだけでなく、渋滞や自然災害、港湾トラブル、予期せぬリードタイム延長など多くのリスクを孕みます。
逆に、近場調達・地産地消型調達をうまく設計すれば、「高い納期遵守率」と「変動費削減」に繋げることができます。
在庫リスクと柔軟なサプライチェーン
輸送に時間がかかれば、そのぶん在庫としてのもち時間(在庫回転期間)が長くなります。
一方で隣県、同一県内、あるいは工場敷地内で部品や原材料が調達できれば、JIT(ジャスト・イン・タイム)生産が現実となり、在庫圧縮・キャッシュフロー改善が進みます。
製造業現場に根付く「生産側都合」のリアル
(1)生産性・スループット最優先の現実
製造現場では、「材料が切れれば生産ライン停止=多大な損失」という緊張感が常につきまといます。
そのため、いくらバイヤーや経営層が「輸送距離短縮」を推進しても、現場では「とにかく何でも早く・たくさん納入してくれるサプライヤー」が重宝されがちです。
たとえば、「今まで調達していたA社(1000km離れた遠方サプライヤー)」を「B社(同じ県内の新規サプライヤー)」に切り替えたとします。
ところが、B社はまだ調達ルートや追加生産体制が未確立のため一時的に納期レスポンスが不安定。
現場としては「それならA社を続けて使ってほしい」となり、大局的な距離短縮の施策が“現場判断”で無効化されてしまいます。
(2)伝統的な「付き合い」「慣習」の壁
昭和の時代から続く調達・生産現場では、取引先との「義理と人情」「長年の付き合い」に根差した判断がまだまだ根強く残っています。
新しいサプライヤーに切り替える、あるいは新たな拠点に調達を切り替えるとき、現場からは「本当に大丈夫か」「品質保証は?」といった不安が出ます。
そのため、いくら合理的な説明をしても、「これまでのやり方」のほうが“なにかと楽”と受け取られがちです。
(3)現場ニーズと全体最適化のギャップ
生産現場は現場で確実に動くサプライチェーンを求め、それを守るための保守的な判断をします。
一方で調達・購買や経営は「全体最適」を重視します。
しかし、それぞれの目的やKPIがずれていることが多く、目線の違いが距離短縮の取り組みを遅らせています。
輸送距離短縮が生産現場で形骸化する構造
部品標準化・調達集中の副作用
近年、設計・調達部隊が「部品の標準化」「調達先のグローバル集中化」にシフトしています。
これ自体は全社的合理化ですが、“一部のグローバル大手ベンダーに極端に依存”となると、たとえ国内に有力メーカーが存在しても「本国(中国・ASEANなど)から一括購入・輸入」となり、輸送距離が大幅に増加。
結果的に、現場では「近くで調達したほうが良かったのでは…」と疑念が生まれる場面もあります。
在庫拠点・物流拠点の統廃合リスク
コスト削減の一環で物流センターや地区倉庫を統廃合すると、納入リードタイムの長文化や「中継・積み替え」が増えて実質的な輸送距離が伸びる例も。
生産現場からすると「昔はとなり町まで取りに行けたのに、今は県をまたいでトラック待ち」ということも起こります。
受発注ルールや現場運用の乖離
デジタル化・調達管理システム(SCM/ERPツール)では「発注単位数」「納品頻度」「納品日指定」等のルール設定が現場の実情とかみ合わないまま運用されてしまうことがあります。
本来は輸送効率化・距離短縮につなげるべき制度設計が、現場感覚とズレ続けることで、かえってトータルでの効率が低下するのです。
本気で“現場も納得”するサプライチェーン改革とは
ムリ・ムダ・ムラにひそむ“距離ロス”の見える化
現場の「不安」や「慣習」には必ず“合理的な理由”や“経験則”がひそんでいます。
まずは全員で「現状の調達〜生産〜納品プロセスを丸ごと見える化」して、「どのプロセスのどこで距離ロスが発生しているか」を洗い出すことが重要です。
現場の声を丁寧に拾い上げ、「なぜ古いルートにこだわるのか?」を分析していくことで、本当に解決すべき課題が見えてきます。
組織の“壁”を超えた情報共有・意識合わせ
調達購買部門・生産管理部門・品質管理部門・物流部門が、それぞれバラバラの目的やKPIを追求すると、全体最適化は難しくなります。
部門横断での「目的の共有」と「現場課題の持ち寄り」を定例化し、全員で同じビジョンに向かうことで初めて、距離短縮も本質的な効果が出ます。
部分的な“迅速納品プレミアム”の共用
距離短縮・近場調達が理想であっても、どうしても“イレギュラー対応”は避けられません。
「通常は近場サプライヤー利用、しかし緊急時は遠方からコスト増を承知で迅速納品」など、ルールと例外対応の仕組みを柔軟に設計し、現場の不安に寄り添った運用がポイントになります。
まとめ:ラテラルに考える新・距離短縮ソリューションのヒント
製造業における「輸送距離の短縮」は、単なるロジスティクスや購買部門頼みの解決策ではありません。
生産現場が納得し、全体最適を考え、現場と経営が同じビジョンを持つこと——これが昭和型組織でも距離短縮を定着させる大前提です。
ラテラルシンキング=「従来の考えに縛られず、多角的に本質の課題を発見する思考が求められる」のは、まさにこの分野です。
例えば以下のようなアプローチが有効です。
– 類似業界のベストプラクティスの輸入
– サプライチェーンにAI・IoTを取り入れて“状況依存型”のルート選択
– 地元ベンチャーや農業・生産協同組合とのパートナーシップ開発
– 輸送はアウトソースし、サプライヤー自身がローカル倉庫を設置
こうした「越境人材」や「異業種視点」を柔軟に取り込むことで、日本発・独自の「生産現場が主役の距離短縮サプライチェーン」が誕生するでしょう。
変化の激しい時代、バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場の方、そして製造業の全現場に従事されている皆様には、ぜひ“現場都合に負けない変革力”を身につけていただきたいと強く願っています。
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