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顧客の“とりあえず見せて”が設計の作り込みを阻害する現実的な悩み

目次
はじめに:現場で起きている「とりあえず見せて」の実態
製造業の現場において、「とりあえず見せてください」という顧客のリクエストは日常茶飯事です。
特に設計段階でこの言葉を耳にすることは珍しくありません。
一見、顧客とのコミュニケーションをスムーズにするための要望に思えるこの一言が、実は設計現場に大きな影響を与えている実情があります。
本記事では、長年の現場経験から見えてきた課題と、より良いものづくりに必要なマインドセット、さらには業界全体が抱える昭和的な価値観から脱却するためにはどうすればよいかといった点まで掘り下げて解説します。
バイヤー志望の方や、サプライヤーの皆様にとっても、現場目線・本音でわかる内容です。
よくある「とりあえず見せて」の背景とは
顧客側の心理:不安と確認欲求
「とりあえず見せてください」という言葉は、顧客が製品の完成形や出来栄えに不安を感じている場合によく発せられます。
完全な図面資料や設計内容が揃っていないと、手触り感がなく、不安に感じてしまうのです。
これは購買、開発、品質、場合によっては経営層までもが、最終成果物のイメージを持てていないことに起因しています。
このため、中途半端な段階でもとりあえずモノや図面を確認したいという要求が生じやすいのです。
アナログ文化の影響
製造業には長らく根付く「現物・現場・現実」の“3現主義”という昭和的な文化があります。
昔ながらの現物主義が強い現場ほど、「データで見てもピンとこない、やっぱり実物がないとね」といった声が強くなりがちです。
これによって、デジタル設計プロセスや上流工程での精緻な作り込みが未だに定着しない原因にもなっています。
設計の作り込みが阻害される現実的な悩み
「とりあえず」の提出が生み出すリスク
設計現場では、本来十分な検討の時間を確保した上で設計図や試作品を完成させるのが理想です。
しかし、「とりあえず何か見せてほしい」という要望がくると、どうしても暫定的なアウトプットを生み出さざるを得ません。
こうした状況では、以下のリスクが発生します。
・十分に検討されていない設計内容が外部に流出し、誤認やトラブルの火種となる
・途中経過を基にした“現物合わせ”や“応急処置的”設計変更が繰り返され、手戻りが増大
・設計者のモチベーションや責任感が低下し「とりあえず仕様」になりやすい
現場の負担と形骸化したプロセス
暫定設計を繰り返し提出するたびに、その都度関係部門や現場とのすり合わせ、会議対応、課題整理が必要になります。
バイヤーや品質管理などの他部門を巻き込んだ仕様確認も増え、「本来は不要な手間」に追われることが少なくありません。
これにより、重要な作り込みにかけるべき時間とエネルギーが削がれていきます。
最悪の場合、「とりあえず作って出して、後で現場で直す」といった形骸化した工程が常態化し、生産効率の低下や品質トラブルに繋がります。
「とりあえず」と向き合う設計現場の処方箋
1. 顧客の「不安」を正しく把握する
顧客がなぜ「とりあえず見せて」と言うのか、背景にある本音や状況を丁寧にヒアリングしましょう。
「どのレベルの情報がどこまで開示されていれば安心できるのか」
「何について不安があり、何をチェックしたいのか」
ここを正確に押さえれば、無駄な作業を減らし、成果物の完成度も上がります。
また、「途中段階なので確定情報ではない」ことを明確に伝え、仮設計物と最終成果物の違いをしっかり分けて説明するのも効果的です。
2. 見せるものと見せないものを適切にコントロールする
設計情報を全てオープンにするのではなく、お客様が本当に知りたいポイントを示した「抜粋版」「要約版」で応対することが有効です。
無理に100%の完成度の設計を出そうとせず、「ここは確定、ここは検討中」と明確に示しましょう。
チェックリストや仕様確認用のテンプレートを用意しておくと、コミュニケーションが円滑になるだけでなく、設計・生産管理・品質管理部門の負担も格段に軽くなります。
3. デジタルツール活用による協業の最適化
CADやPLM、製造シミュレーションツールなど最新のITツールを活用することで、「見せる・見せない」を一元管理しやすくなります。
特に3Dデータやバーチャルプロトタイプの画面共有は、イメージのズレや誤解を減らしながら、安全に「仮段階情報」を共有できます。
こうしたデジタル化の推進が、従来の「現物待ち」から脱却し、無駄な「とりあえず」を減らす有効な一手になります。
バイヤー/サプライヤー両者に求められる意識改革
バイヤー:設計思想へのリスペクトと要望の精緻化
バイヤーサイドには、サプライヤーがどのような姿勢で設計・開発に臨んでいるのか、現場の苦労や技術的背景に耳を傾ける姿勢が重要です。
「ちょっと見せて」ではなく、具体的に「この基準で安全確認をしたい」「ここがスペック通りか知りたい」など細かく意図を共有することで、建設的なやり取りが可能になります。
また、 “設計・開発部門と直接話す”ことを恐れず、現場感覚を持って意思疎通を心掛けましょう。
サプライヤー:顧客志向をベースにした提案力
サプライヤーは、とかく「言われた通りに出す」受け身型の対応に陥りがちですが、顧客の真意、本当に求めている情報や安心材料を積極的に読み取ることが必要です。
設計者や生産技術者は、「仮仕様で起こりうるリスク」「見せる段階にある制約」など、わかりやすく噛み砕いて説明し、必要に応じチェックリストや技術資料も工夫しましょう。
「とりあえず」が常態化している現場であればこそ、提案型のコミュニケーションで負担軽減と品質向上を両立させることが現代型サプライヤーには求められます。
昭和的アナログ文化からの脱却:業界を進化させるために
製造業には過去の成功体験、特に現場主義や“とりあえず現物”の精神が強く残っています。
しかし今ではITやDXの時代、設計段階から精緻なデジタルデータを活用し、顧客と双方向で作りこむ時代です。
「とりあえず」が求められる時ほどこそ、無理に現物や設計図を用意せず、デジタルツールを使って“上流での完成度”を高めましょう。
また、業務プロセスそのものを見直し、現場での議論の時間や内容も進化させていくことが、製造業の競争力維持のカギとなります。
まとめ:新時代の「見せる・作り込む」を考えよう
「とりあえず見せてほしい」という顧客からの要望は、現場主義・日本的ものづくりの伝統に根付く一方、設計・開発部門に大きな負担やリスクも生み出しています。
これに正面から向き合い、顧客の本音・現場の事情・デジタル技術の活用を賢く組み合わせることで、新しい“作り込み”の流儀を実現できます。
バイヤーもサプライヤーも、いま一度「なぜ、とりあえずが必要なのか」「本当に必要な情報や見せ方とは何か」を考え直し、互いに知識と経験を持ち寄り、業界全体を進化させていきましょう。
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