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残業を美徳とする昭和の文化が若手の離職を招く問題

目次
はじめに:昭和の「残業美徳文化」がいま製造業で問題になる理由
日本の製造業の現場には、長きにわたり「残業は当たり前」「遅くまで働くことが勤勉の証」とする文化が根付いています。
これは昭和の高度経済成長期、限られた時間で最大限の成果を求める「滅私奉公」や「会社中心」の価値観が、強く企業全体を支配していたからに他なりません。
確かに、困難な時代を乗り越え、日本のものづくりを世界レベルまで押し上げた立役者には違いありません。
しかし、令和の新しい時代、特に若い世代にとっては、こうした昭和型の働き方が大きなストレス要因となり、離職の一因になっているのです。
本記事では、現場での実体験や業界の現状を踏まえつつ、昭和的な残業美徳文化が製造業の人材定着にどのような影響を与えているのか、また今後どのような方向性が必要なのかについて深堀りしていきます。
昭和型「残業美徳文化」とは何か
残業に対する価値観の変遷
昭和の製造業現場では、「一日も早く技術を身につける」「仕事を通じて人間的に成長する」ことが評価軸でした。
上司や先輩より早く出社し、誰よりも遅くまで残ることで、組織への忠誠心・責任感が評価される、いわゆる「見せる残業」です。
この残業観は、終身雇用や年功序列の中で、“会社に尽くせば報われる”という構図を背景に、強く根付いていました。
なぜ今も根強く残っているのか
現場がアナログ体質であり、紙の帳票・ハンコ文化が温存されていることも背景の一つです。
「残業=努力の証」とみなす評価基準が、デジタル化が進まない現場だと特に温存されやすく、特に40代以上の管理職層にとっては、自分自身のキャリアそのものと結びついているため、変革が進みにくい傾向が顕著です。
若手世代の価値観とすれ違うモノづくり現場
ワークライフバランス志向の高まり
平成〜令和生まれの若手社員は、会社外での生活や自己実現への時間投資を重視する傾向が強まっています。
「家族そろって夕食」「趣味や副業」「自己投資」のために、仕事はあくまで生活の一部という考え方が主流です。
このため、残業前提の職場文化には強烈な違和感を抱きます。
「見せる残業」に意味を見出せない理由
仕事の成果や生産性を重視する若手世代にとって、「誰が何時間残業したか」ではなく、「時間内にどれほどの価値ある成果を出すか」が重要な評価軸です。
つまり、“頑張っているように見せる”“上司の目を気にしてダラダラ残る”ことに、働く意味を見い出せません。
よって、こうした昭和型文化と現在の評価基準のギャップは、若手のモチベーション低下へ直結します。
残業美徳文化が引き起こす現場の問題
若手の早期離職と人材流出
「時間外労働が常態化しており、プライベートの時間が取れない」
「職場に気兼ねして、家族のイベントにも出席しにくい」
こうした状況は、特に20〜30代の従業員にとって大きな離職要因となります。
高校・大学卒の新入社員が、ものの数年で転職を決断するのは、ワークライフバランスを重視する社会全体の価値観変化と、現場の意識ギャップが決定的になっている証拠とも言えます。
生産性の低下・改善意識の希薄化
本来、デジタル技術や新しい仕組みを導入することで生産性を上げ、残業削減につなげることが可能です。
しかし、「なんとなく毎日残業していれば良い」という認識のままだと、現場の改善意識が薄れます。
紙やExcelでのやりとり、口頭での伝達、重複作業も温存されたままとなり、結果としてコスト増・品質事故・納期遅延にも直結します。
業界特有の風土と課題
アナログ体質:なぜ改善が進まないのか
製造業の現場は多くの場合、熟練技能・ノウハウや「現場の勘」が重視され、マニュアル・手順化やシステム化への抵抗も強い領域です。
加えて、「みんなが苦労してきた道だから」「昔からこの方法できている」という心理が、昭和の価値観を現代まで引きずっている根本原因となります。
この強固な壁を崩すには、単なる業務効率化やコスト削減の論理だけでは不十分であり、価値観そのものに踏み込んだ意識改革が欠かせません。
「失われた30年」と人手不足:負のスパイラル
バブル崩壊後、「失われた30年」を経ても、現場の人手不足はますます深刻化しています。
近年は技能伝承の問題だけでなく、40〜50代以上のベテランに依存した組織が、若手の定着しない構造的問題に直面しています。
生産量拡大・多品種少量生産への転換にリソースを割けない、改善提案や新規投資が進まない。
これらは、離職・採用難→残された人の負荷増→さらなる離職、という「負のスパイラル」に拍車をかけています。
バイヤー・サプライヤー双方が知るべき視点
バイヤーが見る現場の「当たり前」
バイヤー=購買担当は、納期や品質、コスト以外にも、現場の労働環境や働き方改革の進捗状況を見ています。
人材の定着率や残業状況は、間接的に品質事故や納期問題、サービスレベルに強く影響するため、「昭和的体質」からの脱却は、中長期的な安定取引にも不可欠です。
サプライヤー側が考えるべきポイント
取引先からの高い要求水準をクリアし続けるには、現場従業員のモチベーションや働きやすさを維持することが不可欠です。
管理職や現場リーダーには、“自分が苦労したから次の世代も頑張れ”というだけではなく、「やりがい」と「働きやすさ」の両立を目指す姿勢が求められています。
また、就職希望者にとって「ワークライフバランスを重視した会社か」は重要な選択基準です。
この点を怠ると、いつまでも人材難から脱却できず、サプライヤーの持続的発展も望めません。
昭和文化から脱却する具体的アクション
1. 人事評価制度の見直し・成果主義への転換
「長く働くこと」が評価される仕組みを、「時間内に成果を出す」ことが認められる制度へと変えていきます。
勤怠システムや工数管理ツールの導入、目標設定・進捗レビューの可視化など、ITツールの活用が有効です。
2. デジタル化・現場改善の推進
紙・ハンコ・Excel文化から脱却し、デジタル本部主導の業務棚卸しや、現場主導の小さな改善(カイゼン)運動を推進します。
例えば、工程管理のデジタル化・IoT導入や、コミュニケーション活性化のためのチャットツール活用などが現実的です。
3. 管理職の意識改革・現場の巻き込み
まずは、部長・工場長などの管理職こそが行動と姿勢で“残業しない働き方”を率先して見せましょう。
ベテランと若手が本音を共有する「職場対話」の場を設けることで、現場の声=組織改善の出発点となります。
まとめ:新たな地平線へ、持続可能な製造現場づくり
昭和の栄光を築いた「残業美徳文化」は、もはや時代遅れの呪縛となりつつあります。
離職や採用難、人手不足など、製造業界全体の持続可能性を脅かすリスクが高まっています。
今こそ、現場が「時間の長さ」ではなく「仕事の質」で評価される組織へと進化する時です。
新しい働き方や制度は、決して社員のワガママに応えるものではなく「持続的なものづくり」を守るための変革です。
バイヤー、サプライヤー双方が互いの立場を理解し、未来志向で現場をアップデートすることが、次世代の製造現場のキーワードとなります。
若手世代が誇りとやり甲斐をもって「現場」にとどまれる、多様性と生産性が共存する新たな地平線に向けて、現場主義の現実に即した改革を今こそ始めましょう。
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