投稿日:2025年9月30日

昭和の管理職がExcelを使えず属人化が進む課題

昭和の管理職がExcelを使えず属人化が進む課題

はじめに:製造業の根強いアナログ文化がもたらす現状

日本の製造業は、戦後の高度成長期から今日に至るまで、多くの技術革新と共に発展してきました。
その一方で、現場には昭和の時代から続く「ベテラン頼み」の文化や、紙ベースの管理、口伝えのノウハウ伝承など、アナログな習慣が色濃く残っています。

特に管理職層、特に昭和生まれの方々の中には、Excelやデジタルツールの活用に苦手意識があり、結果として業務が属人化しやすい傾向が見られます。
この課題は、現場の効率性や働き方改革、若手人材の育成にまで影響を及ぼしています。

ここでは、製造業現場で20年以上経験してきた立場から、アナログが根強く残る背景、その課題、そして打開策について掘り下げます。

昭和世代の管理職に根付く「属人化」とは何か

属人化とは、特定の担当者の知識や経験、ノウハウに業務の遂行が大きく依存してしまい、その人でなければ仕事が回らなくなる状態を指します。
製造業にありがちな例としては、次のようなケースが挙げられます。

– 発注管理や生産計画の調整が、ベテラン管理職の「勘と経験」に頼っている。
– 紙ベースの日報や工程表、メモなどが情報共有の中心。
– Excelは使うものの、関数や自動化機能はほとんど利用されず、手作業で管理されている。

この状態が続くと、担当者が休職や退職した途端、現場全体の業務が滞ったり、品質トラブルが頻発したりするリスクが高くなります。

なぜExcelの活用が進まないのか?

Excelは、製造業の現場でも一応普及はしています。
それでも高度な活用が進まない理由は、大きく分けて二つです。

一つ目は、既存の業務プロセスが紙や口頭に依存して完成してしまっているため、「変える必要がない」と考えがちであること。
ベテラン管理者は「これまで通り」で十分という実感を持ってしまっています。

二つ目は、そもそもExcelやデジタルツールに対する苦手意識。
データの入力や簡単な表計算までは対応できても、「関数って何?」「ピボットテーブルは使ったことがない」という方が非常に多いのが実態です。

これにより、データ集計や業務分析をスピーディにできるはずが、非効率な手作業が今も残っている現場を多く見てきました。

属人化のリスク:現場に現れる5つの問題

属人化の進行によって、製造業現場にはどんな課題が発生するのでしょうか。
長年現場にいた立場から、以下の5つを特に指摘したいと思います。

1. 突発時の対応力低下
特定の人しか分からない業務フローや調整手順があると、急な欠勤やトラブル時に、他のメンバーが一切対応できず、現場の混乱や納期遅延を引き起こします。

2. 若手育成の停滞
業務が形式知化(文書化、データ化)されないと、若手社員にノウハウが伝承できません。
OJTや「見て覚えろ」方式だけでは、人材育成が極めて非効率になります。

3. 品質・安全リスクの増大
熟練者の「暗黙知」に頼る運用は、情報共有がされないままとなり、ヒューマンエラーや品質トラブルの温床になります。

4. 改善活動が進まない
業務内容の可視化・標準化が不十分なため、現状把握や改善のためのデータ収集が困難。
「何をどう改善したらよいのか」が見えづらくなります。

5. DX・自動化への足かせ
デジタルトランスフォーメーション(DX)や工場自動化を進めたい経営層にとって、現場のアナログ体質は最大の障害です。
紙と暗黙知ではデジタル化の土台がありません。

現状打破の最初の一歩:Excel活用による業務の「見える化」

このような属人化を脱却するためには、まず現場の「見える化」に取り組むことが必要です。
その第一歩となるのが、Excelの有効活用です。

Excelは、習得のハードルが比較的低く、少し学べばデータ管理の強力なツールになります。
次のような使い方から始めることをおすすめします。

– 業務フローや日報をExcelフォーマットで統一し、誰でも入力・閲覧できるようにする。
– 大量のデータもピボットテーブルや簡単なグラフで可視化して、日々の管理や異常の検知に役立てる。
– ルーチンワークはマクロや関数で自動化し、作業ミスや手戻りを防ぐ。

こうした取り組みは、「今まで通りが正しい」と思い込んでいるベテラン管理者にとって、最初は抵抗感があるかもしれません。
しかし現場リーダーや若手が主導し、成功例を小さく積み重ねていけば、必ず変化の波は広がります。

ベテラン管理職が変わるべき3つのマインドセット

昭和世代の管理職も、今こそマインドセットのチェンジが求められています。
3つのポイントを掲げたいと思います。

1. 「教える」から「共有する」へ
全てを自分だけで抱え込まず、より広いチームで知識や経験を共有する発想が大切です。

2. 「紙と勘」から「データと仕組み」へ
昔のやり方への執着を手放し、客観的なデータ管理や、標準化した業務フローの構築を目指しましょう。

3. 「自分が正しい」から「現場が動く・会社が伸びる」へ
目の前の業務だけでなく、全体利益や組織発展の視点を持つことで、現場改善や人材育成にも乗り出せます。

属人化を解消する現実的な進め方

では、属人化を脱却し、デジタル化・効率化を進めるための現実的なアクションプランはどうなるのでしょうか。
以下のステップで整理してみます。

1. 小さな成功体験を作る
まずはExcelを使った日報管理や生産計画管理など、業務のごく一部を見える化し、運用効果を見せます。

2. 標準化・マニュアル作成
業務ごとの作業手順や判断ポイントをExcelで文書化・可視化します。
「属人業務」の洗い出しが最優先課題です。

3. 情報共有のインフラ整備
サーバーやクラウドを使い、複数人で同時に情報閲覧・更新ができる体制にします。
手書き・個人管理から一歩踏み出しましょう。

4. 業務分析・改善活動の推進
収集したデータをもとに現状を把握し、業務改善や効率化、品質向上につなげます。

5. 若手・新人の巻き込み
現場の変革には、若手社員や次世代リーダーの能動的な関与が不可欠です。
属人化の打破は、技能継承と若手教育の両立でもあります。

バイヤーやサプライヤーが知るべき現場の本質とは

この記事の読者にはバイヤーやサプライヤーの方も多いと思います。
彼らが知っておくべき製造業現場の「リアル」は、次の通りです。

– どれだけシステムが導入されていようと、現場の小さな改善や現実的な運用の工夫がなければ、属人化は温存されています。
– 「あの人しか知らない情報」「担当者によってばらつきがある品質管理」等は、取引トラブルや納期リスクに直結します。
– 本当に信頼できる工場やパートナーとは、属人化を排除し、誰でも同じレベルでオペレーションができる体制を作っている所です。
– バイヤー視点でも、発注先・委託先の業務プロセスを積極的に確認し、属人化脱却のパートナーシップを築くことが今後の競争力に直結します。

まとめ:現場は変われる。管理職が今こそ生まれ変わるべき理由

昭和の管理職がExcel活用をためらい、属人化から抜け出せずにいる。
これが長年変わらなかった製造業現場のリアルです。

しかし、時代は確実に変わりつつあります。
業務データの見える化は、品質・生産性・人材育成すべてを底上げし、製造業全体の発展に寄与します。

これからの管理職に求められるのは、「今まで通り」ではなく、「より良い現場を創る」リーダーシップです。
ベテランだからこそ持っている現場知識を開放し、Excelをはじめとするデジタルツールで知見を形式知化しましょう。

そして、その文化が根付けば、製造業はさらに強く、しなやかに発展するはずです。

現場で働く皆さん一人ひとりのチャレンジが、時代の変革を生み出します。
共に、新しい製造業の未来を切り開いていきましょう。

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