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人海戦術に頼る昭和型現場が省人化に適応できない問題

目次
はじめに:昭和型現場の「人海戦術」に根付く課題と背景
日本の製造業が世界に誇った黄金期を下支えしたのは、現場の職人技と徹底した人海戦術でした。
多くの製品が「現場の知恵」と「手作業」で磨かれ、その積み重ねによって品質神話が築かれました。
しかし時代は変わり、少子高齢化・労働力不足・グローバル競争…と課題は山積みです。
今や多くの現場で「省人化」「自動化」といったキーワードが叫ばれますが、どうしても踏み切れない、あるいは効果が出ない工場が多数存在します。
それはなぜなのか。
長年バイヤーと現場、それぞれの立場を経験した私から、昭和型現場からの脱却が一筋縄でいかない本質的な理由と、今後求められるラテラルな発想について解説していきます。
昭和型「人海戦術主義」が根強い理由
1. 熟練技能による細かな対応力
多品種少量生産、突発案件、急な仕様変更……日本の現場では、こうした“イレギュラー”への即応力が競争力でした。
その多くは、職人的な「暗黙知」とチームワークによって支えられていました。
「この材料はクセが強い」「このロットは気をつけろ」など、属人的な知見が各所で共有・活用されていたのです。
そのため、ロボットやIT化、省人化で一気に自動化しようとしても、「現場感」がどうしても抜け、現場の抵抗が根強いのです。
2. 数で解決するマネジメント文化
かつての現場マネジャーには「困ったら応援を呼ぶ」「人数を増やして乗り切る」という“数頼み”の判断が当たり前でした。
コスト圧縮は「残業を減らせ」「派遣をたくさん取れ」など、数値で管理するスタイルが主流です。
その延長で新卒一括採用、定年まで雇用といった年功序列型組織が根付き、「人を減らす」こと=危機感・抵抗感をもたらす土壌になっています。
3. レガシー(古い仕組み)設備の継続的活用
工場の資産は数十年単位で築かれたものが多く、最新の自動化装置に全面投資できる企業は限られています。
既存の機械・治具と“人の手”を組み合わせた運用が現実的で、リプレイスには莫大なコストと業務見直しが伴います。
結果として、「人ありき」の現場設計がアップデートされないまま温存されがちです。
省人化(自動化推進)が進まない本質的な問題
「置き換え」発想の落とし穴
新しい自動機やITツールを導入する際、多くの現場は「これで人を減らせる」という“単純置き換え”を発想しがちです。
しかし、現場で本当に価値を生み出しているのは、単なる動作ではなく「判断」「改善」「気付き」といった人間特有の能力です。
これをすべて「自動化する」前提で計画を立てると、却って現場は混乱し、事故や品質トラブル、思わぬコスト増を招くことも現実に多いです。
現場主導の“暗黙知”とナレッジの分断
「必ず現場に聞け」とよく言いますが、それは設計・調達・経営と「現場」の意見が分断されているゆえの悲しい風物詩です。
現場担当者の属人的な知識・勘・段取り力がブラックボックス化しやすく、業務フローやノウハウが文書化・仕組化されていません。
そのため、ボトムアップの改善案が会社全体に反映されにくく、本当の意味での「省人化」「知見共有」につながりません。
人材と組織文化のスキルギャップ
自動化の対象となる工程やノウハウを見極めたり、AIやセンシングを現場で活用したりするためには、IT/データリテラシー+現場経験のバランスが求められます。
しかし昭和型現場では、「手を動かせる人」と「システムに強い人」が分断しがちです。
その結果、システム部門が現場を知らずに機能だけを導入し、現場は“やらされ感”で一時的にパフォーマンスが落ちるパターンも頻発します。
アナログ文化が根強い製造現場を変革するには
「省人化=排除」ではなく「人の再定義」へ
省人化の本質は「単純作業の削減」や「不要な残業の排除」だけに
とどまりません。
ヒューマンエラーやムダを減らすことで、人間が本来果たすべき「付加価値の高い判断」「品質確保」「改善」などの仕事にシフトできるのです。
そのためには、「人」対「システム・ロボット」の対立構造を乗り越え、共存共栄する新たな現場像を描くことが重要です。
現場の“行動観察”とデータ化によるボトルネック特定
アナログ文化からの脱却には、いきなりハイテクを持ち込むのではなく、既存の業務フローや作業手順を丁寧に分解・可視化することがスタートです。
たとえば、IE(インダストリアル・エンジニアリング)手法による動画記録やストップウォッチ計測、現場のムリ・ムダ・ムラ(3M)の洗い出しなどが有効です。
これを定量データとして蓄積・分析することで、真に自動化すべき箇所、人手による価値創出が必要な箇所を論理的に判断できます。
ナレッジマネジメントとITの溶け込ませ方
昭和型現場の強みである「暗黙知」は、いきなりマニュアル化やシステム登録するのは難しいです。
現場でのOJTやベテラン職人の動作記録、現場内Wikiの活用など、形骸化しない仕組みが重要です。
ITツールとアナログな「人の対話」を組み合わせた“ハイブリッド型ナレッジ共有”こそ、省人化成功へのカギです。
購買・調達の現場が抱える「省人化の壁」と未来像
バイヤー目線のアプローチ:人とシステムを“つなぐ”役割
調達購買の現場では、サプライヤーや製造現場との日常的な調整業務が多数発生します。
その多くは電話・FAX・メール…といったアナログなやり方が中心で、「自動発注」「WebEDI」などのIT化も限定的です。
ここで重要なのは、バイヤーがAIや自動化ツールを“ブラックボックス化”せず、現場の作業負荷や情報の流れを理解し、リアルな最適化案を現場とともに作ることです。
ITを導入しただけでなく、サプライヤーとの「情報の見える化」や「異常時の即応体制」づくりまで一貫して設計することが、ひいては全体最適と人材活用の両立につながります。
サプライヤーから見た「バイヤーの本音」
サプライヤーの立場から見ると、「省人化」と「コストダウン」は常にバイヤーから押し付けられる要求事項です。
しかし、実際に求められているのは単なる価格競争力だけではありません。
バイヤーは「突発トラブル時の機動力」や「リードタイム短縮」「品質改善提案」といった、現場に即した“機動的な対応力”と“価値共創のできるパートナー”を重視しています。
そのためには、サプライヤー自らも自動化やIoTの導入、現場力向上のための人材育成等、省人化=高付加価値化への転換が求められる時代です。
まとめ:これからの省人化と製造現場の地平線
昭和型製造業が長年培った“人海戦術”は、単なる古き良き時代の遺産ではなく、日本独自の競争優位の根底でした。
しかし、現代の課題に向き合うには、単純な「人減らし」や「機械化」の二項対立を越えた、新たな現場像を描く必要があります。
ベテランと若手、現場とIT、バイヤーとサプライヤー、それぞれの知と知を「つなぐ」ハブ役となれる人材・組織こそ、これからのラテラル(横断的)な製造現場を切り開くでしょう。
本記事が、製造業に携わるすべての方にとって、“人”と“技術”の最良の関係を再定義するきっかけになれば幸いです。
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