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昭和流の「どんぶり勘定」が原価管理を狂わせる問題

目次
はじめに:昭和流「どんぶり勘定」が今も製造業を支配する理由
昭和時代から現在に至るまで、多くの日本の製造現場には「どんぶり勘定」という価値観が根強く残っています。
知恵や経験で現場を切り盛りしてきた時代、その場その場で数字をざっくりと扱い、原価も大づかみに計算されてきました。
しかし、グローバル競争が本格化し、生産拠点が国内外に分散し、コスト競争が一層厳しくなるなかで、この「どんぶり勘定」は企業存続を脅かす大きなリスクとなりつつあります。
この記事では、昭和流の「どんぶり勘定」がなぜ起きるのか、その問題点と現代の製造業で原価管理を正確に行うための実践的なアプローチ、そして現実に直面している変革の壁について、工場現場で培った経験を交えて深掘りします。
どんぶり勘定とは何か:現場ではなぜ必要悪とされてきたのか
「どんぶり勘定」とは、細かな数字にこだわらず、ざっくりと大づかみに費用や損益をとらえて管理する手法です。
ノウハウの蓄積と経験主義がもたらした「楽観的な管理」
熟練工や現場リーダーの「このくらいで大丈夫だろう」という感覚が頼りにされてきました。
高度成長期は生産量も右肩上がり、生産コストよりも納期遵守・生産力アップが何よりも重視される環境でした。
原価管理も「だいたいこのくらいかかっているはず」という属人的で楽観的な管理が常態化していました。
なぜ「どんぶり勘定」が許容されたのか
実は、過去の日本の製造業環境下では、それでも大きな問題が表面化しませんでした。
理由は次の3つです。
1. 市場自体が成長していたため、多少のコスト増でも吸収できた
2. 原材料の単価変動や工程の複雑化が今ほどではなかった
3. 社員の定着率が高く、長年の勘や現場力がバランス調整役を担っていた
しかし、外部環境が激変した今、この方法は通じなくなっています。
どんぶり勘定がもたらす現代の問題点
どんぶり勘定が今なぜリスクとなっているのでしょうか。
原価のブラックボックス化
「この作業はだいたい月○万円」「原材料はいつもこれくらい」という曖昧な数字が、膨大なコストのズレを生みます。
見積もりの根拠が明確でないため、取引先との価格交渉も説得力を欠きます。
帳簿上は利益が出ているのに、キャッシュが残らない…という事態も珍しくありません。
サプライチェーンの複雑化がもたらす裏目
部品や素材が多国籍・多拠点調達となり、仕入れ価格も為替リスクも日々変動しています。
どんぶり勘定が染みついたままだと、どの工程でコストが膨らんでいるのか気付きにくいのです。
「不要な手戻り」と「過剰品質」の隠れコスト
現場が顧客要求を正確に把握せず、念のための過剰投入や二重チェックが横行します。
見た目はしっかり品質管理していても、「ムダ」だらけで生産効率が低下します。
デジタル化の遅れと、管理職の意識ギャップ
デジタルツールを導入しても、現場では「いつものやり方」のほうが安心…。
このギャップが、数値管理のブラックボックスを温存させています。
なぜ「抜本改革」が進まないのか:昭和の流儀からの脱却の難しさ
原価管理のデジタル化や見える化が叫ばれて久しいですが、現実の工場現場では昭和の流儀がいまだに息づいています。
なぜ改革が進まないのでしょうか。
1. 現場力信仰と「数字離れ」
営業やバイヤーは「根拠ある数字」での交渉を求める一方、現場リーダーは「数字が現場を動かすものではない」「現場を知らない奴が作る数字は信用できない」といった意識が強くあります。
2. 属人的なノウハウの壁
ベテランが持つ暗黙知や独自ルールがブラックボックス化。
業務改善のボトルネックとなり、「属人的ノウハウの再現性のなさ」が改革を妨げます。
3. 改革コストの過小評価
新しい原価管理ツールや体制の導入には労力もコストも必要ですが、「従来のやり方でも何とかやれてきた」「失敗しにくい」という安心感があります。
原価管理を進化させるための実践的アプローチ
1. 現場ヒアリングによるボトルネックの可視化
「なぜ今のやり方にこだわるのか?」現場の声を丁寧に拾い上げます。
ヒアリングを通じて、どの工程で「どんぶり勘定」が発生しているのか原因と背景を明確にします。
2. 小さな改善から「可視化習慣」を浸透させる
いきなり全工程をデジタル管理するのではなく、まずは日々の材料投入量や作業時間を「見える化」する小さな仕組みを定着させます。
数字の共有が日常になると、現場の意識が変わっていきます。
3. 属人技術のマニュアル化とナレッジの共有
属人的なノウハウをできるだけ定量的に捉え、工程ごとに「誰でもできる仕事」へ変換します。
これにより、原価の根拠を明確化できます。
4. コスト意識を高める教育の徹底
現場従業員に数字の苦手意識をなくしてもらうため、分かりやすい原価計算研修や「なぜ今この数字が必要なのか」を理解してもらう教育が不可欠です。
5. デジタルツール導入の工夫
高機能でなくてもスマートフォンやタブレットで簡単に入力できる仕組みから段階的に導入し、現場の負担を減らします。
「現場のためのツール」であると認識してもらうことがポイントです。
バイヤー・サプライヤー間での「どんぶり勘定」の溝
購買担当者(バイヤー)は、仕入先がどの程度コストを見積っているかを見抜こうとします。
一方、サプライヤーは「経験上この価格が妥当」というロジックに頼りがちです。
交渉の失敗事例:なぜバイヤーとサプライヤーはすれ違うのか
バイヤーは論理的なデータに基づく値下げ根拠を求めます。
一方サプライヤーは「ギリギリまでコスト削減努力している」と主張しつつ、その根拠が感覚的で、詳細な内訳を開示できない場合があります。
この「すれ違い」が価格交渉を難航させ、信頼関係を損なう結果にもつながります。
バイヤーから見た「どんぶり勘定」のリスク
本当に妥当な原価か不明なまま値付けされているため、不測のコスト変動時にトラブルの元になります。
将来的な長期的取引やコストダウン提案が難しくなり、サプライヤー交替につながる可能性もあります。
未来に向けて:アナログ型製造業の逆襲は可能か
日本の製造業には、現場の泥臭い経験や職人気質が生み出す強みが確かにあります。
しかし、「どんぶり勘定」を放置したままでは、グローバル競争の荒波を勝ち抜くことは難しいでしょう。
現場のノウハウや経験を活かしつつ、デジタルと融合し、原価管理の「新しい地平線」を切り拓くことが、今まさに求められています。
変化を恐れず、まず小さな現場改善から始めてみること。
これが、古き良き日本のものづくりを、「世界で戦えるものづくり」へとアップグレードさせる第一歩です。
まとめ
昭和流の「どんぶり勘定」は、日本の製造業のコスト競争力を確実に蝕みつつあります。
現場目線の理解と、段階的な可視化・仕組み化によって、誰もが納得しやすい原価管理の流儀を確立すること。
この意識革新こそが、企業の持続的成長につながります。
未来を生き抜く製造現場の皆様とともに、「どんぶり勘定」を卒業し、より強い製造業をともに作り上げていきましょう。
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