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社内稟議に時間をかける昭和流が機会損失を招く問題

目次
はじめに―社内稟議の現状を見つめ直す
日本の製造業、とくに大手企業においては、いまだに根強く残る「社内稟議」の習慣があります。
商品やサービスの調達、新規サプライヤーの選定、設備投資やシステム導入など、多くの決裁が稟議書という形で社内を回り、順々に承認を得ていく――昭和の高度成長期から続くこのプロセスは、現場の安心感やリスク回避の土壌となる一方、大きな時間的ロスやスピードの鈍化を招いているのも事実です。
私は現場の責任者・工場長として、何度もこの稟議に悩まされ、実際に機会損失や競争力低下を目の当たりにしてきました。
この問題を論理的に掘り下げ、最新の業界動向や実践的な改善策を考察していきます。
稟議文化が生まれた背景と功罪
昭和的「安心」の仕組みとしての稟議
日本企業が稟議を重視する背景には、「いざというときに責任を分散したい」「和をもって意思決定したい」といった文化的な要因があります。
個人の判断にリスクを負わせず、やりとりの経緯を紙で残すことで、情報の共有や責任の所在をはっきりさせる――まさに日本型経営の典型的な特徴です。
実際に生じるデメリット
しかし近年、以下のような弊害が顕在化しています。
– わずかな出費や変更にも稟議が必要となり、数日~数週間という時間を浪費する
– 緊急時のサプライチェーン断絶対応や不具合是正も、決断が遅れることで損失が拡大する
– 協力会社や新規サプライヤーへの発注判断が遅れ、競合に先を越される
– 担当者のモチベーション低下や、業務停滞による組織全体の活力低下
昔は「品質最優先」や「ミス防止」の観点から良しとされた稟議でも、グローバル市場でスピード重視の競争が求められる今、明らかな足かせとなりかねません。
現場で本当に起きている“機会損失”の実態
生産管理・調達購買でよくあるケース
例えば生産現場では、Aという部品が急遽不足し、従来はA社に数千個を一括発注していたものの、今回は短納期・小ロットでB社から仮調達する必要が生じることがあります。
この際、「新規取引先追加の稟議→取引条件の承認→上長決済」という3段階の approval を経なければならず、数日以上が経過。
結果として、B社が「もう他社に枠を取られた」となり、生産ラインがストップ。
顧客納期を守れず、本来は回避できた遅延ペナルティや信用低下につながってしまうのです。
工場自動化・省人化案件も稟議で減速
最新のAIやIoTソリューション、自動搬送装置・ロボット導入に関しても同様です。
情報収集フェーズから導入可否まで、多くの稟議工程をなかなか越えられず、結局、競合メーカーが先行導入。
「来年こそは!」と掛け声はあるものの、導入タイミングを逃すことで、結果的にさらなる人手不足や生産効率低下を呼び込んでしまうことが繰り返されます。
なぜ“昭和流”のプロセスから脱却できないのか
業界構造自体が変化しにくい理由
そもそも製造業界は、規模の大きな設備や組織、取引先との長期関係で成り立っており、突然大きなリスクを取って新しいやり方に挑戦するのが苦手です。
特にバイヤー(調達担当者)は、万一不良品をつかまされたりトラブルが起こった際の “責任の所在” を気にします。
上長や他部門から「何で勝手な判断をしたんだ」と言われたくない…その心理が、プロセスの長文化・稟議頼みとなりやすいのです。
サプライヤーにとってもハードル高し
サプライヤー側から見れば、「貴社と新規で取引がしたいのですが」と持ち込んでも、「社内稟議が通っていない」と門を閉ざされる。
どんなに魅力的な提案も、社内決裁をクリアできないと一歩も進まない――これが日本的“調達関所”です。
デジタル化の遅れと悪循環
電子稟議システムやワークフローシステムの導入が進まない背景には、「紙とハンコ」の文化、古いITインフラ、そして“本社決裁”というトップダウンの風土が根強く残ることも大きな要素となっています。
近年の業界動向と先進的な動き
グローバル競争下の決断スピード重視
海外ではコロナ禍を経て、サプライチェーンリスクが急拡大しました。
欧州やアジアの大手製造業では、「現場の判断で5万円未満は即断OK」「サプライヤー評価もオンライン+担当者裁量で迅速化」など、意思決定を一段とスピードアップする仕組み作りが本格化しています。
日本でも一部の先進メーカーでは、稟議フローの圧縮や電子承認の導入、場合によっては「現場リーダー単独判断→事後報告化」する事例が出てきています。
バイヤーの役割シフト
これまでの「リスク回避」志向から、いまやバイヤーには「積極的提案」「サプライヤーと協業」「新技術へのトライ」の姿勢が強く求められています。
取引先も、「社内事情で遅れるのではなく、業界全体としてスピーディーに動いていく」意識に変わりつつあるのです。
現場目線で考える、稟議プロセスの改革ポイント
1. 権限委譲と“スモールスタート”の推進
たとえば「20万円以下は現場責任者の判断で実行」「緊急時は事後承認を認める」といった例外ルールを厚く設定することで、現場のフットワークが劇的に向上します。
また、調査段階から社内調整を目的化せず、「トライアル発注OK」「社内デモを本格稟議より前に進める」などのスモールスタート方式を徹底すると、リスクも小さく納期ロスも最小となります。
2. 電子稟議システムと通知機能の徹底活用
Excel・紙稟議は時間を多く奪う元凶です。
シンプルなワークフローシステムへの切り替え、スマートフォンで承認OK、既読管理やリマインダー設定を標準化することで、承認ボトルネックを一気に可視化・解消できます。
3. サプライヤーとの情報連携強化
「稟議の進捗状況をリアルタイムでサプライヤーにも共有」
「トライアル採用のハードルを下げ、意見交換を密に」
このように、外部パートナーと一緒にスピード感を持って商談・採択プロセスを回すことが、中長期的な競争力にもつながります。
4. “失敗OK”の企業文化づくり
「決裁ミスをしたら責められる」「小さな挑戦にも報告・承認が必要」という雰囲気が根強ければ、現場の裁量も判断スピードも上がりません。
“失敗から学ぶ” “挑戦を歓迎する”という企業文化醸成が、本当の意味での稟議プロセスの合理化と好循環を生み出します。
まとめ―「安心の昭和」から「挑戦の令和」へ
いまなお残る昭和的稟議プロセスは、モノづくり日本の強みであった慎重さや品質志向の裏返しです。
しかし時代が変わった今、速やかな判断、情報のオープン化、挑戦を許容するマインドシフトが企業として不可欠となってきました。
機会損失を防ぎ、強い現場・創造的なバイヤー・良質なサプライヤー関係を築くためには、稟議プロセスの見直しと業界全体での意識変革が不可欠です。
現場で「何のための稟議か」を問い直し、一歩先を行く意思決定の仕組みを共に築いていきましょう。
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