投稿日:2025年11月26日

OEMパーカーで気をつけたい「洗濯後の縮み」とその防止設計

はじめに:OEMパーカーにおける「洗濯後の縮み」問題

製造業の現場に長く携わっていると、OEM(Original Equipment Manufacturer)として生産を受託するパーカーは、「洗濯後の縮み」が大きな課題であることを痛感します。

エンドユーザーの満足度、またバイヤー・サプライヤーとしての信頼確保の観点からも、縮みは避けて通れないテーマです。

なぜなら、たった数センチの縮みが消費者の不満につながり、結果としてブランドイメージや取引先との信頼関係に大きな影響を及ぼしかねないからです。

本記事では、OEMパーカーに関わる全ての方に役立つ「洗濯後の縮み」問題の本質と、製造現場ならではの防止設計方法、昭和から続く縫製現場の実情、新たな業界トレンドまで、現場目線で深く掘り下げていきます。

OEMパーカー製造のリアル:なぜ「洗濯後の縮み」が起こるのか

パーカーの主素材とその性質

パーカーのほとんどは綿(コットン)やポリエステル、また混紡素材で構成されており、特に綿100%パーカーは吸水性や着心地の良さ故に人気が高い半面、縮みやすいという欠点を持ちます。

繊維自体が吸水して膨らみ、乾燥時に組織が締まるため、洗濯や乾燥の過程で元のサイズに比べて小さくなってしまいます。

混紡(コットン×ポリエステル等)の場合でも、混用率や織り方の違いで縮み率は一定ではありません。

「防縮加工」だけに頼れない理由

近年は「防縮加工(サンフォライズ加工、毛焼き加工など)」を施した生地も一般的ですが、完全に縮みを防げるわけではありません。

加工コストの都合や、OEM仕様で「価格重視」の要望が優先される場合には、安価な生地=縮みが発生しやすい生地を使わざるを得ない現場も未だ多いのが現実です。

昭和時代から続くアナログ的現場慣習として、生地検反や試験洗濯を省略し、実際の量産工程で初めて縮み問題が露見する、といったケースもしばしば見られます。

OEMパーカーの縮みリスクと現場トラブル

OEM契約特有の「リスクリターン構造」

OEMは委託元(バイヤー)と受託側(サプライヤー)との間で緊密な連携が不可欠ですが、「洗濯後の縮み」は双方にリスクをもたらします。

バイヤーは最終製品を市場に流通させる責任があり、サプライヤーはバイヤー基準を満たす製品を納入しなければならないため、縮みトラブルが発生した際の責任所在や再製作コスト、納期遅延のリスクは決して小さくありません。

実際に起こりうる現場トラブル

1. 納入後、先方品質検査で「基準超過の縮み」を指摘され、全品再納入を求められる
2. ブランド側(バイヤー)が市場流通後の「消費者クレーム」に追われ、OEM委託先を変更される
3. 省略された現場検査により、気づかぬままブランド毀損に発展する

これらのトラブルは、サプライヤー側の現場品質保証体制や、バイヤーとの情報共有が十分であれば未然防止できるものです。

昭和型の「作ったら終わり」的な生産体制から、令和時代の「サプライチェーン全体で品質保証し合う」発想への転換が求められています。

現場で今日からできる「縮み防止設計」7つのポイント

1. ロットごとの生地試験洗濯を実施する

使用するロットごと、生産前にサンプル生地を規定回数洗濯・乾燥し、縮み率を必ず測定します。

測定値をベースに、型紙寸法に「縮み分のマージン」を設けましょう。

この工程を省略せず「仮説-検証サイクル」として定着させることが現場変革の第一歩です。

2. 素材の縮み率を勘に頼らず、数値で管理する

「コットンならだいたい〇〇%縮むだろう」「いつも使ってる生地だから安心」など経験値のみで判断しがちですが、今や「サプライヤーの品質意識=数値管理力」とまで言われています。

毎ロット検査、生地チェックシートの整備を標準化しましょう。

3. 防縮加工有無の明示とスペック開示

どこでどんな加工を施した生地か、バイヤーへしっかり情報開示し、取引透明化を推進します。

安価品志向のOEM案件ほど、スペックの裏付けが信頼維持に繋がります。

4. 裁断・縫製も「縮みを考慮した設計」を徹底

ミリ単位の型紙設計変更や、特殊な縫製技法(縮み止めの捻じれ縫い等)、縫製後の「スチームセット」処理など、現場だからできる工夫を積極活用しましょう。

400g/㎡を超える肉厚生地では、袖・裾リブと身頃の縮み比率差にも要注意です。

5. 洗濯方法・ケアラベルの提案と仕様書明記

いくら防縮設計をしても、「エンドユーザーの洗濯実態」に沿わないスペックでは意味がありません。

バイヤーやブランド方針とすり合わせて、洗濯方法や規定回数をラベリングし、仕様書に反映する協働が大切です。

6. 最終製品による長期洗濯試験を「納入前検品」に

大量生産前に、完成品サンプルで規定回数洗濯(できれば5~10回)テストを実施し、縮み以外の風合いや色落ち、プリント耐久性も合わせて点検しましょう。

こうした「先取り品質保証」が、OEMサプライヤーの付加価値となります。

7. エビデンスを共有し、信頼ベースの取引を

測定データや洗濯画像、元・洗濯後の採寸値など、数値化できる根拠を資料化し、バイヤーとのコミュニケーションを密にしてください。

「口先」や「慣例」ではなく、ファクトベースで話すことで信頼は積み上がります。

昭和からのアナログ現場と、最新のトレンド

旧来型・昭和的現場の特徴

・現場の勘やベテラン職人の経験値でサイズ設計が決まる
・工程短縮への強いプレッシャーから、検査や洗濯テストが「抜け落ちる」
・取引先との「長年の付き合い」が品質保証を担保する(書面・数値化ほぼ無し)

このようなアナログ的慣行が今なお根強く残るのが、繊維・アパレルOEM業界の実情です。

しかし近年、「SDGs」「ESG投資」といった新しい価値観や、サプライチェーン全体の透明化要求が高まる中、こうした現場体質にもついにメスが入り始めています。

デジタル化・自動化対応の新潮流

・サンプル自動測定AI、画像解析による寸法検査システムの導入
・IoTと連携したロット追跡、クラウドでバイヤーと情報共有
・ウォッシュラボとの連携強化で、洗濯テストをアウトソーシング

「安く、早く、大量に」から、「小ロット多品種、高付加価値、徹底した品質保証」への流れが加速しています。

先駆的なOEMサプライヤーはすでにデジタル活用による全工程の可視化を進め、取引拡大とブランドロイヤリティ向上の両面で成果を挙げています。

バイヤーとサプライヤー、両者に「縮み設計」をどう根付かせるか

バイヤー視点

1. 「とにかく安く」に偏りすぎず、“生活者の満足”をゴールに置く
2. OEM先との打ち合わせ時に、洗濯後スペックや縮み許容値を明確化する
3. 製品規格書や取引仕様書にも「縮率・洗濯試験項目」を必ず盛り込む
4. 検品・受入時は、データ付きレポートをルーティン化

バイヤーがこのような姿勢で取引に臨むことで、信頼とブランド価値が同時に高まります。

サプライヤー視点

1. 原材料調達時点で、固定取引先=安心ではなく、サンプル洗濯を厳守する
2. 設計変更や仕様交渉の際、「コスト」と「縮み防止策」のバランスを提案する
3. 加工現場や外注先(裁断・縫製工場)とも情報共有を徹底する
4. クレーム・再発案件を全社でフィードバックし、ノウハウ化する

このようなPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを現場文化として根付かせることが、サプライヤーの生存戦略となります。

まとめ:OEMパーカー「洗濯後の縮み」対策は“現場力×データ力”で

OEMパーカーにおける「洗濯後の縮み」問題は、安易な「知ってるつもり」や「慣例」では決して乗り越えられません。

大切なのは、現場で地に足の着いた検証と、誰もが納得できる数値管理、そして取引先と腹を割って話せる信頼関係です。

昭和型アナログ現場の良さ—現場の知恵と目利き力—を大切にしつつ、デジタル化・設計力を磨いていく。

時代を超えて愛されるOEMパーカーづくりの最大の秘訣は、「表に見えない現場のこだわり」に宿っています。

この記事が、製造業現場で働く仲間や、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤー視点を深く知りたい方の参考となれば幸いです。

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