投稿日:2025年6月25日

SI PI解析で実践する回路基板設計のEMCノイズ抑制対策と信号品質改善

はじめに:EMCノイズと信号品質、製造現場での現実的課題

ものづくりの現場で電気回路基板の設計に携わる技術者や、日々調達・品質管理に頭を悩ませる方々にとって、「ノイズ」「信号劣化」といったワードは無縁ではありません。

市場からのクレームや製品リコール、納期遅れにつながりかねない大きなリスクです。

そのためEMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)ノイズを抑え、信号品質を高めることは常に重要なテーマです。

近年、プリント基板(PCB)設計の現場では、SI(Signal Integrity)/PI(Power Integrity)解析を活用した実践的なノイズ対策が注目されています。

本記事では、現場目線で「なぜSI/PI解析が不可欠なのか」「具体的にどんな効果があるのか」「アナログ×デジタル混在時代の最前線ノウハウ」について、深掘りしていきます。

調達・バイヤー、サプライヤー双方が納得しやすいポイントも解説します。

SI/PI解析とは? 〜EMCノイズ抑制の基礎から実務応用まで〜

SI/PI解析の概要と、従来設計との違い

Signal Integrity(信号品質)解析とは、基板上に流れる高速信号が「本来の形で受信先に届くか」を確認する技術です。

Power Integrity(電源品質)解析は、ICへきれいな電源が供給できているかを検証します。

従来、回路基板は「結線できれば動く」「パターン設計が完了したら製造にGO」といった方式が主流でした。

しかし、IoT化・高速通信・小型化が進んだ今、パターンや配線本数、部品密度が飛躍的に増えています。

これに伴い「不要なノイズやゆがみ(ジッタ、クロストーク)」が生じやすくなり、設計段階でのトラブル予防が死活的役割を持ち始めました。

なぜEMCノイズが問題なのか

EMCノイズ問題は、一つ間違えば…

  • 無線通信の混信
  • 他機器への悪影響・法規制違反(CISPR、VCCI等)
  • 製品自体の誤動作・再現しにくい突発不具合
  • トラブル発生時の設計変更コスト、納期圧迫

などの“深刻な火種”になりかねません。

このため、試作・量産前の段階でSI/PI解析を活用し、ノイズ起因トラブルを先取りして潰しておく必要性が高まっています。

SI/PI解析のメカニズム:現場で役立つ要点解説

高速化で顕在化する問題点

昭和のアナログ全盛期なら「配線距離の違い」程度で大きな信号劣化は起こりませんでした。

しかし、現在主流のギガビット通信や多チャネルI/Oの時代では、配線1mm・1Ωのばらつきが“命取り”になり、致命的不具合を呼びます。

基板上で以下のような事象が起こりやすくなります。

  • リフレクション(反射)
  • クロストーク(隣接信号干渉)
  • グランドバウンス(グラウンド電位のうねり)
  • 電圧ドロップ(各ICで必要電圧を確保できない)

これらは経験や勘だけでは防ぎきれません。現代の設計現場でSI/PI解析によるシミュレーションが必須になる背景です。

現場のSI/PI解析フロー(具体例)

1. 回路図・レイアウト設計
2. SI/PI解析ツールでシミュレーション(事前)

  • 波形解析
  • ノイズ・ジッタの有無
  • EMC準拠性予測

3. 問題点の抽出・修正(ループ対応)
4. PCB製造・実装
5. シグナルアナライザー等計測器での検証(実測)
6. 本番導入へ移行

現場では、「試作でNG → 設計手戻り」の大幅コスト高を回避するため、なるべく探索的なSI/PI解析を初期段階に実施します。

特に調達バイヤーやサプライヤー立場では「何度も設計やり直しを指示される」「納期と予算がコントロールできない」という事態になりがちですが、SI/PI解析導入によりリスクの“見える化”が進みます。

SI/PI解析によるEMCノイズ低減ノウハウ(実践編)

1. ビア・配線・グラウンドの最適化

ノイズ発生のメカニズムでよく問題になるのが、配線パターンやビア(スルーホール)の設計です。

たとえば高速信号線の長さを揃えたり、不要なビア数を減らしたりすることで、反射やクロストークが大幅に低減されます。

また、グラウンド面(GNDプレーン)は基板の品質やEMC耐性を大きく左右します。

SI/PI解析では「どの配線がどれほどノイズに弱いか」「どこで電圧ドロップが起きるか」が可視化されるため、現場視点でも納得感のある意思決定が可能です。

2. デカップリングコンデンサの最適配置と選定

PI解析の大きな目的は「ICに理想的な電源環境を供給し続ける」ことです。

デカップリングコンデンサの「容量選定」や「配置パターン」を見直すことで、電源ノイズやグランドバウンスを減らすことができます。

従来の経験則(「大は小を兼ねる」方式)では不十分になりつつあり、新たに周波数特性や最適個数まで細かくシミュレーションする必要が出てきています。

3. レイアウト設計時のEMC視点の導入

どれほど回路がシンプルでも、配置がまずい場合はノイズ対策も台無しです。

特にアナログ・デジタル混在基板では、アナログ部とデジタル部をしっかり分離する、信号線の交差部にはガードトレースを設ける等、配慮が欠かせません。

ラテラルシンキングで設計手法を深堀りすると、「グラウンドのセグメント化」「不要クロック配線の除外」「基準電圧引き回しの最短化」等、2020年代の新しいアイデアも積極的に取り入れることが有効です。

バイヤー・サプライヤー視点:SI/PI解析導入のメリット

コスト/納期リスクの最小化

SI/PI解析は「設計期間が延びる」「解析コストが高い」と敬遠されがちですが、中長期的には部品調達・追加試作・クレーム対応等の“無駄コスト”や納期遅延リスクを劇的に減らす効果があります。

バイヤー側にとっては「納入前に設計品質が明らかになる」安心感、サプライヤー側には「後戻り修正・リコールのリスクヘッジ」というメリットがあります。

品質保証体制のアピール

市場やユーザーからの視線が厳しい中、SI/PI解析によるノウハウは信頼性や差別化ポイントとしても機能します。

複数社で同じ仕様の案件を争う際、「当社はSI/PI解析によって確実な電磁波対策を取っています」と根拠をもってアピールできれば、調達・商談活動でも優位に立てる可能性が高まります。

昭和アナログからデジタル/自動化への橋渡し

アナログ設計文化の良さ・不自由さ

製造現場、とくに昭和から連綿と続く「勘・経験・根性」的な設計・製造文化には、良い面と不自由さの両方があります。

信号にやさしい部品配置やパターン引きといった“現場感覚”は、今でも大きなノウハウ資産です。

しかし、複雑化と高速化が進む中では、“経験の再現性”が難しくなってきたという現実も否めません。

自動解析AIツールとの融合

近年は解析ツールの自動化・AIアシスト機能も進化しています。

設計者が簡単なドラッグ&ドロップだけで最適化案を評価できたり、過去の設計不良事例を自動的にフィードバックしたりすることも可能です。

従来の「匠の勘」+「SI/PI解析+デジタルアシスト」というハイブリッドこそ、製造業の次世代標準になっていくでしょう。

まとめ:次世代ものづくりを支えるSI/PI解析の実践

EMCノイズ、信号品質は回路基板を支える根幹の課題です。

SI/PI解析はこれまで現場の勘と経験でカバーしてきた領域に、科学的根拠と効率をもたらします。

特に品質保証や調達、協力会社との協業を強化したいなら、ゼロトラブル設計につながるSI/PI解析導入は避けて通れない道です。

昭和の叡智と現代の解析ツールを融合させることで、皆さまのものづくりが更に強靱で価値あるものへ進化することを願っています。

今後も最新事例や現場で使えるノウハウを幅広く発信していきますので、引き続きご期待ください。

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