投稿日:2025年11月30日

OEMアウターでブランドらしさを出すためのシルエット設計法

はじめに:OEMアウターにおける「ブランドらしさ」とは何か

OEM(Original Equipment Manufacturer)は、今やファッション業界では一般的なビジネススキームとなっています。
数多くの人気ブランドが、自社の企画・デザインは維持しながら、専門性の高い外部工場に生産を委託することで、高品質かつコストパフォーマンスの高いアイテムを市場に供給しています。

一方で、OEM製造は“共通化された製造ライン”のイメージが先行しやすく、ブランド独自の世界観や「らしさ」をアウターで表現するための高い壁となりがちです。
とくに、シルエット設計はブランドの個性を問われる重要な要素。
この記事では、OEMアウター製作における“ブランドらしさ”を生み出すための実践的なシルエット設計ノウハウを、現場目線で深堀りします。

OEMにおけるシルエット設計の重要性

なぜ“シルエット”がブランドアイデンティティを決めるのか

アウターを手に取った瞬間、多くの人はまずシルエットを意識します。
立体的な空間構築や絶妙な余白、身体との一体感は、ブランド独自のムードを最も視覚的かつ直感的に伝えます。

たとえば、ミニマルな北欧テイストのジャケットであれば、直線的でクリーンなラインがブランド価値を象徴します。
ストリート系ブランドならば、肩幅を広めに設定しつつ、ボディは短めに切り替えたボックスシルエット、といったように。
アウターは着る人の人格まで演出する「主役アイテム」です。
その根幹をなすのが“シルエット設計力”なのです。

OEMだからこそ陥りがちな「共通化の罠」

しかし、多くのOEM現場は効率性の追求から、型紙や製造フローの共有・標準化に走りがちです。
その結果、“どこかで見た”シルエットの商品が溢れ、ブランドらしさを損なう一因になっています。
オリジナリティを出すには、OEM先との「意思疎通」と「現物主義」にこだわる必要があります。

昭和的・アナログ現場の壁と、その突破口

なぜ日本のOEMはパターンが似たり寄ったりになるのか

日本の縫製業を支えたのは、戦後から続く熟練パタンナーの存在や、標準化された裁断・縫製現場です。
いわゆる「テーラードスーツ」「ワークブルゾン」などの伝統的な型紙は、長らく改良を重ねながらも本質は変わっていません。

また、1型ごとに数十~数百型を生産する現場では、可変性を持たせにくく、「うちの工場はこれが得意」「これ以上は無理」と判断されることも少なくありません。
これが、OEMで作ると何となく“昭和感が抜けない”形につながる大きな要因です。

工場とブランドの間の“すり合わせ力”こそ競争力

ブランドらしい美しいシルエットを実現したいのなら、「パターン作成は工場任せ」「ブランド側は的確な指示書で終わり」というスタンスを乗り越える必要があります。
現場で型紙師やサンプル担当者と何度もディスカッション。
微差を言語化し、物理的な現物サンプルで「これこれ!」と腹落ちするまで突き詰めること。
この“昭和アナログ現場ならではの職人とのすり合わせ”が、結果的にブランドらしさを生み出します。

OEMでブランドらしさを出すシルエット設計の実践手順

1. ブランドの世界観・ターゲット像の徹底的な言語化

はじめに、どんな人にどんなスタイルで着てほしいのか——ターゲットの体型や着こなし傾向、ライフスタイルまで細かく言語化します。
「都会的なミニマル志向の30代男性向け」「アスレジャー×上品顔」など抽象的な表現で止まらず、過去の商品画像や街中のスナップなども集めて“ムードボード”を作るのが有効です。
OEMメーカーにもそのイメージビジュアルを共有することで、初期段階から具体的な方向性を一致させることができます。

2. ベンチマークとなる既存品の立体構造を解剖する

「この形が理想!」というアウターがあれば、メーカーと一緒に実物を“分解採寸”します。
前身頃・後ろ身頃・袖・衿・裾リブなど、各パーツの寸法や曲線、取り付け角度を徹底的に洗い出しましょう。
さらに、一度基準となるパターンでサンプル制作し、MD(マーチャンダイザー)やデザイナーも交えて試着・フィッティングします。

ポイントは、袖の「捨て寸」や肩の傾斜など、現場が見逃しやすいディテールも0.5cm単位で追い込むことです。
手間はかかりますが、ここを省くと「あと一歩ブランドらしくならない…」という事態を招きます。

3. “らしさ”を生み出すための微差・逸脱をあえて設計

OEM現場で強く意識すべきなのは、「あえて標準から逸脱する」勇気です。
たとえば、身幅をほんの1cmだけ広げて“抜け感”を出す、袖口のカフス幅を5mm太くして野暮ったさを和らげる、ステッチ間隔を通常より細かくして上質感を演出する、など。
こうした“攻めの微調整”を設計書に明記し、「なぜこの寸法なのか」までOEM側に説明します。

昭和的な現場では「なじみのルール」に引っ張られがちですが、新しい命題を突きつけ続けることで、現場もクリエイティブな仕事に熱を入れる傾向があります。
「意図を説明せずにスペックが変わる」と不信感を招くため、必ず背景や狙いを共有しましょう。

4. 立体感・素材・可動性の整合性を徹底検証

“シルエット”は単なる線の美しさだけでなく、実際の着用時の「立体感」や「動いたときのフィット感」まで考慮する必要があります。
例として、コットンやウールなど膨らみや落ち感が違う生地ごとに、袖付けのカーブやアームホールの大きさも再調整が必要です。
また、昨今のアクティブ志向やワークテイスト人気から「肩まわりや背中の可動性」も重視されます。

パタンナーや現場リーダーと、「腕を上げたときの突っ張り感」「首周りのもたつき」などリアルな動作で微調整を繰り返しましょう。

5. 昭和的職人技×デジタル設計のハイブリッド活用

現場では3D CADによるバーチャルフィッティングやサンプルデータの共有も広がっています。
これにより、現物サンプルが仕上がる前に“仕上がり線”の立ち姿・動いたときの影響をイメージしやすくなります。
昭和型の「1発勝負サンプル」に頼るだけでなく、CADシミュレーションで納得できるまで調整→最終的に職人の手で微補正、というハイブリッド型の進行管理が有効です。

OEM現場との関係構築が成功の鍵

コミュニケーションこそ最大の投資

どれほど緻密な設計をしても、OEM工場との信頼関係やきめ細かな対話なしには、ブランドらしいシルエットは実現しません。
昭和型の“叱咤激励スタイル”ではなく、「なぜここを大切にしたいのか」「どうすれば現場が作りやすいか」をお互い開示し合うチームづくりが欠かせません。

また、現場には「これならおもしろい」「うちでやる意義がある」と思わせる熱意と根拠を持ち込むこと。
そうすることで、工場スタッフが“自分ごと”としてクリエイションに参加し、唯一無二のアウトプットに仕上がっていきます。

失敗を恐れず、試作のPDCAを徹底する

時として「想定より身幅が野暮ったい」「袖の立体感が出ない」などの失敗も起きます。
しかし、それも貴重な学びです。
サンプル段階で妥協せず、「ここから0.7cm詰めてみよう」「この1枚を現場リーダーにも着させて意見を聞く」といった、小さなPDCAサイクルを愚直に回すことが、真のブランドらしさにつながるのです。

まとめ:OEMの壁を超えた「唯一無二のブランドシルエット」を目指して

OEM生産は、大量生産・効率重視の枠組みの中でも、現場とブランドが本気で向き合うことで、ブランドらしさを芯から伝える唯一無二のアウターを生み出すことができます。

決して指示書やCADデータだけで完結せず、「この0.5cmが世界を変える」と信じて職人と意思疎通を続ける——─
そのアナログ的な“すり合わせ”こそ、これからの時代にも勝ち残るブランドの証明です。

これからOEMアウターづくりに携わるバイヤー・サプライヤー・デザイナーの皆さまが、自社ならではの「らしさ」を社会に届けるための一助となれば幸いです。

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