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リモコンボタンの押し心地を生むシリコン成形とショア硬度管理

目次
はじめに:ボタンの「押し心地」を決めるもの
リモコンを使うとき、多くの方が無意識のうちにボタンの「押し心地」を感じています。
柔らかすぎると頼りなく、硬すぎると指が疲れます。
この押し心地の良し悪しは、単なる「感覚」の問題ではなく、リモコン製造に関わる設計、材料選定、成形技術、そして厳格な品質管理の結晶です。
実は、家電業界において「シリコンラバーキー(シリコンゴムを成形したリモコンのボタン)」の押し心地は、商品評価を大きく左右する重要要素となっています。
本記事では、現場で実際にシリコンゴム製品を管理してきた経験を活かし、「リモコンボタンの押し心地」を決定するシリコン成形技術と、ショア硬度管理のノウハウを詳しく解説します。
リモコンボタンにシリコンゴムが使われる理由
柔軟性と復元性に優れたマテリアル
シリコンゴムは柔軟でしなやかですが、圧力が解除されれば速やかに元の形状へ復元します。
この特性が「ほど良い押し心地」と「長寿命」を両立させています。
意匠性と耐環境性を両立
シリコンゴムは様々な着色ができ、文字や記号をインクジェット印刷やレーザー刻印で表現できます。
さらに、耐熱性・耐久性・耐薬品性にも優れ、室内の過酷な環境でも劣化しにくいという特徴があります。
押し心地の正体:ショア硬度とは?
ショア硬度で「硬さ」を定量化する
ボタンの「硬さ」や「柔らかさ」を感覚的に表現するだけでは、製造現場で再現性のある品質保証ができません。
そこで活用されるのが「ショア硬度」という指標です。
シリコンゴムの場合、「ショアA」スケールが一般的に用いられます。
この数値が低いほど柔らかく、高いほど硬くなります。
例えばショアAで40〜80の範囲が、一般的なリモコンボタンでよく設定される値です。
押しやすさと反発性のバランス設計
押し心地を設計する際には、単にショア硬度を低くすれば柔らかくなる――というものではありません。
硬すぎると指先に負担がかかり、柔らかすぎると、押しても反応したか分かりにくくなります。
ボタンの押下ストローク(沈み込み量)も効いてきます。
また、シリコンゴムそのものの反発性や切欠き(リブやスリット形状)によっても「感触」が変化します。
現場ではこれを繰り返し作り込み、最終的な「押し心地」を実現するため、設計・製造部門、さらにサプライヤーとバイヤーが何度も調整を重ねるのです。
設計段階でのショア硬度管理の勘所
設計値の根拠と現場の意見
押し心地を決めるショア硬度は「設計値」として設定されます。
しかし、その値の根拠は「ベンチマーク製品」「使用環境」そして「ユーザーテスト」です。
現場でありがちなミスとして「設計値通りに作っているのにプロト品を触ると違和感がある。なぜ?」という事象があります。
ここに、昭和のアナログ文化が根強く残る日本の製造現場の独特の“勘”や“経験”が活きてきます。
たとえば、現場経験者は、気温や湿度、金型の磨耗、成形時の圧力変動などがほんのわずかでも「押し心地」に影響することを知っています。
こうしたノウハウを設計段階からしっかり拾い上げないと、良品率が下がり、調達も難航します。
サンプル段階での「指標」と「感覚」のすり合わせ
大手メーカーでは、サプライヤーとの間でプロトタイプ(サンプル品)を複数使い、設計スペックと実際のフィーリングの両方をもとに微調整を繰り返します。
具体的には、
・ショア硬度の管理値は±5まで許容
・押下ストロークは1.0mmを中心とするが±0.2mm程度の個体差を認める
・それぞれのサンプルに対して現場での感触評価(官能検査)も実施
こうした「数値」と「感覚」の絶妙なバランスが、リモコンの心地よさを生み出しています。
量産プロセスにおける品質管理
シリコン成形の工程と管理ポイント
量産では、シリコンゴムの混練、型流し、加硫・成形、トリミングなどの工程があります。
ここで安定したショア硬度を維持するには、厳密な温調・圧力管理、材料のロットトレース、成形後の加工条件(冷却時間・後加工)が重要です。
成形直後と24時間後では硬さに差が生まれるため、硬度測定の「タイミング」も要管理項目です。
この工程管理を怠ると「合格品でも、出荷後に硬度がズレる」ことがあります。
調達・バイヤーの立場からは、管理手法・検査証明書(COA)の提出も重要な要求条件になります。
統計的品質管理と現場の「勘」
歩留まりを上げるために、統計的品質管理(SQC)でライン工程のバラツキを継続監視します。
しかし、実際には統計だけでは捉えきれない微妙な差異――「なんか今日の硬さが全体的に違う」「明らかに不良は出ていないが、いつもの違和感がある」といった現場の声も、見逃せません。
工場によっては昭和からの職人技が現場に根付いており、若手バイヤーが現地監査・監査に入ると「なぜ数値基準を満たしているのに検査員が難色を示すのか」と驚かれる場面も多々あります。
サプライヤーが知っておきたいバイヤーの視点
押し心地は「安全性」「信頼性」に直結する
バイヤーは単に「安く、たくさん納入してほしい」わけではありません。
ユーザーが毎日触れる部品である以上、不良やバラツキ、早期の物性劣化は致命的です。
例えば、大手家電メーカーであれば、ショア硬度・押しストローク以外にも
・耐久試験(5万回~10万回の押下)
・高温・低温下での物性変化
・加硫ゴム特有の化学物質規制(REACH・RoHS等)対応
などの追加検査を要求します。
したがって、サプライヤーに求められるのは「現場と設計の距離感」「定量管理と匠の勘」「安定した工程管理」といった幅広い総合力です。
調達・購買担当が重視する「安定性」と「再現性」
安価な海外工場で急に材料を変えたり、一時的にスペック外れが出たりした場合、全数返品やラインストップといった大きなトラブルに発展します。
バイヤーとしては「同じモノを期限内にコンスタントに納品できること」が何よりの信頼材料。
過去に何度も現場とのすれ違いで大きな損失が出た事例があるため、特に日本の大手メーカーでは“見える化”された硬度管理、工程安定化が重視されます。
昭和のアナログ文化とDX(デジタル化)の間で
現場主義の良さと時代の変化
「触って分かる違い」が製品品質を支えてきたのは事実です。
しかし、グローバル調達や短納期生産が求められる現代では、より定量的なモノづくり(デジタル管理)が必要不可欠です。
多くの現場で、ショア硬度測定や官能評価のDX化、AI・IoTによる設備監視が導入され始めています。
一方、完全自動化ではまだ“最後の仕上げ”――つまり、「人が触って最終的に確認する」工程が廃れていないことも事実です。
今後の製造バイヤー・サプライヤーに求められるもの
ものづくり現場では「過去の良きアナログ技術」「最新のデジタル管理」の両立が求められます。
現場感覚を持ったバイヤーと、品質管理ノウハウを持つサプライヤーが密に連携することで、グローバル競争のなかでも高付加価値なリモコンを生み出すことができます。
まとめ:リモコンボタンの未来と製造業の底力
リモコンボタンの「押し心地」は、単なる製品スペックに留まらず、設計・調達・製造・品質管理といったあらゆる工程の掛け合わせから生まれます。
昭和の職人技術と現代のデジタル管理を融合し、全員が現場目線を持って品質向上に努める。
それこそが、グローバル化しつつも「日本品質」を支える真の製造業力なのです。
これから製造業やバイヤーを目指す方は、ぜひ現場と数字の両方を大切にして、一段上のモノづくりに挑戦してみてください。
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