投稿日:2025年10月16日

リップグロスの艶を長持ちさせるシリコンオイル粘度と乳化プロセス制御

はじめに:リップグロスの艶と課題感

リップグロスは美しい艶(つや)とみずみずしい質感が魅力の商品です。

しかし、多くのユーザーが「艶がすぐ落ちる」「べたつきが強い」といった悩みを抱えています。

化粧品メーカーや原料サプライヤーにとって、“長持ちする艶”は大きな技術課題であり、製造現場でも日々改良が続けられています。

本記事では、リップグロスの艶を“長持ち”させるためのシリコンオイルの粘度選定から、安定した乳化プロセス制御技術まで、製造業の現場で培った視点を交えて、具体的かつ深掘りして解説します。

これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの隠れたニーズを知りたい方にも、現場目線で役立つ知識をお届けします。

リップグロスの艶を左右するシリコンオイルの役割

リップグロスの艶は、主に配合されている油分によって決まります。

なかでもシリコンオイルは“透明感のある艶”と“滑らかな塗りごこち”を両立できる特性を持ち、化粧品メーカーの間で重宝されています。

シリコンオイルの分子構造は有機溶剤や炭化水素油と異なり、分子鎖が柔軟で屈折率も高いため、光沢を強く放つ効果があります。

なぜシリコンオイルの粘度が重要なのか?

シリコンオイルには、数百cSt(セントストークス)レベルの低粘度品から、万単位の高粘度品まで多様な種類があります。

粘度が低いと伸びやすさや軽い付け心地は上がりますが、グロスとしての艶が消えてしまう、耐久性が落ちる等の欠点が出ます。

逆に粘度が高いと、艶は増しますが重くなり、膜厚が不均一になりがちです。

例えば、揮発性を利用した“口紅系”の商品では粘度は200~1000cSt程度、艶持続性を重視するリップグロスには1000cSt以上の高粘度品がよく採用されます。

ここで重要なのは「艶・耐久性・快適な使用感」の最適なバランスを見つけることです。

メーカーによっては複数粘度のシリコンオイルを“ブレンド”して黄金比を求める、あるいは茂み効果を持つレジンやワックスを少量添加し、膜厚を補強するなどのテクニックが現場では定着しています。

乳化プロセスの制御が艶と安定性に与える影響

シリコンオイルの高粘度化には、製剤の安定性という大きな壁が存在します。

シリコンオイルは水やグリセリンのような極性溶媒とは相性が悪く、自発的に均一な乳化状態を保つのが難しいためです。

ここで乳化技術の巧拙が、リップグロスの最終品位に直結します。

安定乳化のための界面活性剤選定

シリコンオイル系リップグロスでは、非イオン系またはシリコン特殊型界面活性剤がよく使われます。

シリコン用乳化剤は、ただ単に撹拌するだけでは不十分です。

粘度に応じて粒径分布をコントロールする必要があり、とくに高粘度オイルの場合は粗大化・クレーシングのリスクが上がります。

これを防ぐためには、界面活性剤の選定だけでなく、添加タイミングや撹拌スピード、温度管理が極めて重要です。

現場ではマルチステージ乳化法(粗乳化→高せん断仕上げなど)を用い、時間軸ごとに最適な条件へと調整していきます。

製造現場の課題:昭和式アナログ管理の弊害

実際の生産現場では、今も計量・撹拌・充填などのアナログ工程が多く残っています。

“目分量”“感触”“勘と経験”に頼る現場が主流なのです。

しかし、シリコンオイルのように扱いの難しい原料を使う場合、こうした暗黙知の積み重ねでは再現性や歩留まりが安定しません。

乳化温度・撹拌速度・順序などを数値とロジックで管理し、デジタル制御へ移行していくことが今後の品質安定化、コスト削減、歩留まり改善のカギとなります。

最新トレンド:工場の自動化とデジタル化が切り開く“新しい艶”づくり

先進的なメーカーでは、原材料や乳化プロセスの「見える化」と「自動化」が急速に進められています。

KPIとなるパラメータ(撹拌トルク、乳化粒径、粘度、温度履歴)をリアルタイムで監視し、AI制御による自律型プロセス制御へとシフトしています。

リアルタイム品質管理による歩留まり向上

たとえばオンライン粘度モニタリング装置や、AI画像解析技術を使った乳化粒径のフィードバック制御など、まさに“昭和からの脱却”が始まっています。

これにより、どんなオペレーターが実施してもブレの少ない高品質なリップグロス艶づくりが可能となります。

同時に、従来の手作業に頼る人材構成も変化し、「プロセスエンジンニア」「データサイエンティスト」が現場で活躍できる環境が整いつつあります。

顧客ニーズを読み解くバイヤーの役割

このような技術進化と市場の変化に対応するため、バイヤーの役割も“単なる価格交渉”から“技術的スペックの深い理解”や“製造プロセス提案力”重視へと変わりつつあります。

ユーザーが求める“艶の持続性”や“心地よさ”の本質を理解し、シリコンオイル原料の粘度指定や、適切な乳化技術の安定供給まで踏み込んで提案できることが、今後のバイヤー・サプライヤー双方の競争力を高めていきます。

まとめ:現場視点で“本当に長持ちする艶”を生み出すには

リップグロスの艶を長持ちさせるためには、

・シリコンオイルの粘度最適化による“光沢・耐久・快適性”のバランス設計
・シリコンオイルがもつ難乳化性を克服するための“製造管理技術”の強化
・人に依存しない数値管理・自動化による“安定生産”への転換

これらが不可欠であるといえます。

加えて、現場で培われた知見と、最新デジタル技術、マーケットイン発想を組み合わせて初めて、時代が求める“本当に長持ちする艶”を実現できるのです。

昭和のやり方だけではもう通用しない時代です。

今後、製造業に携わるバイヤー・サプライヤー・技術者一人ひとりが現場課題に向き合い、真の付加価値を生み出し続けていく必要があります。

この記事が現場で汗を流す皆さま、そして製造業の新しい未来を担う方々のヒントや後押しとなれば幸いです。

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