投稿日:2025年9月28日

AIを使って工場のエネルギー効率を高めるシンプルな方法

はじめに:なぜ今エネルギー効率なのか?

製造業の現場では、従来から「コストダウン」、「生産性向上」、「品質確保」が三本柱として語られてきました。

しかし、近年その中に「エネルギー効率の向上」が加わり、喫緊の課題となっています。

その背景には、電気やガスなどのエネルギー価格高騰、カーボンニュートラル・脱炭素社会への要請、省エネ法やSDGsへの対応など、外部環境の急激な変化があります。

実際、多くの製造現場では今も昭和時代と変わらない管理手法、勘や経験、手書きの紙でエネルギー使用量を管理している工場も珍しくありません。

これではエネルギーコストの抜本的な削減も、経営の透明化も実現できません。

そこで本記事では、現場目線で実践でき、しかもAI(人工知能)の力を活用したシンプルなエネルギー効率化の方法について、深く掘り下げて解説します。

工場エネルギー管理の現状と課題

アナログ管理の限界

多くの製造現場では、毎月の電力量やガス使用量を紙の帳票やExcelで記録し、前年対比や目標進捗を管理しています。

この手法の課題は、リアルタイム性が低く、異常値や無駄の「発見」が遅れる点です。

また、集計や分析には担当者の経験や勘が求められるなど、属人化しやすい傾向もあります。

実際、現場でこんな悩みをよく耳にします。

「ある部門のエネルギー使用量が急増したのに、月末の集計まで気づかなかった」

「設備ごとにどれだけ無駄な待機電力が発生しているのかわからない」

このような状態では、経営判断も後手に回りがちです。

手間・コスト・人手の問題

エネルギー監査のたびに現地を歩き回ってメーターを目検し、データを持ち帰って手入力する――。

これを工場内の全拠点、全設備で実行するためには膨大な工数がかかります。

また、そもそも人手不足で「誰に任せるか」が決まらず、形骸化する事例も少なくありません。

バイヤー/サプライヤーの立場から見える課題

製品の購買選定基準においても、サプライヤーがどれだけ省エネ・低炭素意識を持っているか、またエネルギーテータの可視化・提出性が問われるようになりました。

買う側(バイヤー)も、売る側(サプライヤー)も、取引基準の中にエネルギー効率の「証明」が求められつつあります。

なぜAIがエネルギー効率化に有効なのか

膨大なデータの自動分析と可視化

最も大きな魅力は「自動化」と「先読み」です。

AIは現場のセンサーからリアルタイムに膨大なエネルギーデータを収集できます。

そして人間では気づけない微細な変化やパターン、異常点を「瞬時に」抽出し、グラフやアラートで現場に知らせることができます。

ムダや異常の「兆候検知」

例えば、あるラインのいつもと違う消費パターン―
・夜間に突然増える待機電力
・休憩時間中に止まっていない設備
・気温と連動しない空調制御
これらはAIによる異常検知アルゴリズムが得意とするところです。

早期発見することで、現場スタッフが即座に対応し、エネルギーロスをその場で食い止めることができます。

現場の「変化」に柔軟に対応

製造現場は、製品種や生産ボリュームの変動が激しいという特徴があります。

固定的な省エネ手法ではなく、「今この瞬間」に合った最適稼働をAIが判断して教えてくれる――これによって、日々の現場変化にもスマートに対応できます。

AIによるエネルギー効率向上のシンプルな導入ステップ

ここからは、実際の工場でAIを活用したエネルギー効率化を進める際の「できるだけシンプル」な導入手順を、現場経験をもとに解説します。

Step1:「見える化」から着手する

工場全体や設備ごとのエネルギー使用量を自動取得できるIoTセンサーを取り付けます。

まずは、生産ライン、空調、コンプレッサー、照明といった「大口」のエネルギーポイントから、小規模でも構いません。

大切なのは、従来の紙や目検の作業を「センサー任せ」に切り替え、現場スタッフがスマホやPCで「数字」を素早く見られる環境を作ることです。

初期投資の回収が気になる場合は、レンタル型やクラウド型のサービスも多く出てきており、スモールスタートも可能です。

Step2:AIによるパターン抽出・異常通知

収集したデータをAIに「学習」させ、通常時の消費パターン(ベースライン)を作成します。

これにより余剰消費や異常値発生時、AIがいち早くアラートを出します。

たとえば、
・日中の生産終了後にも工場全体の電力消費が下がらない(=どこかでムダな稼働をしている)
・外気温に関係なく空調がフル稼働している
こうした現象をAIが捕捉し、現場リーダーやメンテ担当者へ自動通知します。

Step3:小さな改善アクションを即実行する

AIのアラートやレポート結果を受けたら、まずは「現場ウォーク」や「五感」での現状確認を行いましょう。

現場目線で言えば、全てを自動化・自律化するだけでは根付きません。

現場作業者、管理者、メンテ担当がワンチームとなって、小さな改善(たとえば、放置されていた機械の待機電源OFF、余剰空調ONから自動OFFへのシフトなど)を積み重ねていくことが最大効果につながります。

Step4:生産計画・自動制御と連動する

IoT+AIで得られたデータは、生産スケジュール管理やMES(生産管理システム)と連携できます。

例えば、注文状況や稼働計画ごとに「必要な電力量」を自動で割り出せば、当初からムダのない最適運転が可能です。

また、AIが「こういう条件の日には空調を30分早く切っても一定温度を維持できる」など、ルールを最適化し続けることも可能です。

元・工場長が提案する:エネルギーAI化の現場設計ポイント

「現場にやさしい」システム導入を目指す

私は長年、工場長という立場で「現場にいかに負荷をかけず、効率化を根付かせるか」を考えてきました。

AI・DXの掛け声ばかりで「現場が不便になる」のであれば本末転倒です。

シンプル化のためには、
・現場に余計な作業(センサー掃除や余計な入力)を増やさない
・通知やレポートを「現場リーダーのスマホ」に直送する
・アナログ手法と併用可能な段階導入
など、業務フローに「自然に溶け込む」設計が有効だと感じます。

「昭和流」アナログ現場との共存も大切に

古い工場や混在設備を抱える現場では、どうしても一部アナログ機器や紙台帳が残ります。

すべてを一気に新方式に変えるのではなく、
・部分的な自動化ポイントから徐々に拡大
・紙+デジタルの二刀流運用
・現場ベテランの知恵も加味した「アラートルール」の設計
といったハイブリッド型から始めるのが失敗しにくいポイントです。

現場コミュニケーションの徹底

AIを使ったからといって、現場スタッフの「働きがい」や「創意工夫」が不要になるわけではありません。

むしろ、AIが気づいた点を現場スタッフ間や、バイヤー・サプライヤーとも「見えるデータ」として共有することで、継続的な改善サイクルが回りやすくなります。

多拠点企業であれば、横展開・ベンチマークも容易です。

コスト削減とサステナビリティ:AI省エネのダブルメリット

AIでエネルギー効率化を進めることで、
・月間の光熱費が見える形で減る
・カーボンニュートラルやCSR報告への根拠資料となる
・製品や工場の「省エネアピール」がしやすくなる
という、単なるコスト削減を超えたメリットが手に入ります。

また、川下(バイヤー)、川上(サプライヤー)、社内外の多くのステークホルダーに「データで説明できる」ことは、今後の取引継続やブランド訴求でも大きな強みとなります。

まとめ:誰でも始められて、着実に効果が出る方法

現在、AIやIoTは大企業だけのものではなく、中小工場にも手の届く選択肢が広がっています。

完璧なシステムを最初から目指すのではなく、
・まずは一番電気代が高いポイントで
・現場スタッフも「納得できる」改善アクションから始める
・「数字の見える化」と「気づきやすさ」を武器に
一歩ずつ進めることが、エネルギー効率化の最大の近道です。

未来の製造業は、アナログ現場の知恵とAIの先進技術が融合してこそ、真の競争力を持つ時代がやってきます。

ぜひ、今日からAIでできる「現場発」のエネルギー効率化にチャレンジしてみてください。

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