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一社集中が事業承継を難しくする理由

目次
はじめに
日本の製造業では、サプライチェーンの中心に位置する中小企業が多く存在します。
これらの企業の多くは、いわゆる「一社集中型」のビジネスモデル、すなわち特定の主要得意先(バイヤー)に売上の多くを依存しています。
この「一社集中」は長く日本のものづくりを支えてきましたが、近年大きな課題を抱えています。
特に、事業承継の場面ではこの一社集中体制が大きな壁となりつつあります。
本記事では、なぜ一社集中が事業承継を難しくするのか、その理由と実際の現場で直面する課題、バイヤーやサプライヤー双方の視点から考える今後のあり方について詳しく解説します。
製造業の第一線で培った知見とラテラルシンキングを駆使し、現場目線で掘り下げていきます。
一社集中とは何か
「一社集中」の定義と現状
一社集中とは、サプライヤー企業が特定のバイヤー、つまり主要取引先1社に売上の50%〜9割以上を依存している状態を指します。
これは歴史的に、系列取引や専属取引といった日本独特の商習慣に由来する部分も多いです。
特に自動車業界や家電業界、部品メーカーの間では今も根強く残っており、平成、令和と元号が変わっても根本は昭和時代から大きく変わっていません。
一社集中のメリット
一社集中には一定のメリットもありました。
・取引の安定:一定量の発注があり、経営計画が立てやすい
・情報連携が密:開発段階から一体化し、品質改善やコストダウンに繋がる
・投資判断がしやすい:設備投資も長期スパンで計算可能
昭和型モノづくりの黄金時代では、こうした関係性が「安心」「信頼」「成長」のベースとして強みとなっていました。
一社集中の潜在的リスク
一方、一社集中には数々のリスクが潜在しています。
・交渉力低下:バイヤー側の力が強くなり、値下げや厳しい納期要求が通りやすい
・経営変化の影響が直撃:得意先の経営悪化・方針転換で大きな打撃
・イノベーションの遅れ:外部ニーズや多様な顧客との接点が減り、変化に弱い体質に
この「閉じたサプライチェーン」が事業承継の局面で深刻な問題となります。
事業承継が難しくなるメカニズム
承継時に浮かび上がる「取引の属人化」
多くの一社集中型企業では、長年の取引関係を社長や先代経営者個人の信頼関係で築き上げてきました。
ゆえに、バイヤー側も「〇〇社の××社長だから取引している」というケースが多いのが実情です。
事業承継で世代交代や他社への譲渡となると、得意先の信用がリセットされるリスクが発生します。
バイヤーの心理:なぜ不安になるのか
バイヤー側の購買担当、調達部門の本音としては以下のような不安が芽生えます。
・新経営陣の技術力や品質維持の力量が見えない
・これまでの「阿吽の呼吸」が失われ、連携コストが高まる
・経営スタンスや情報管理体制が変わることで機密漏洩などのリスクも
とりわけ、部品や材料が「他に代替がない」場合や、品質トラブルが下流全体に波及するリスクを考えると、バイヤーは簡単には承継先を信用できません。
新規取引先開拓の難しさ
一社集中型の場合、承継時にも「他の顧客がほとんどいない(新規開拓力が低い)」という弱みを露呈します。
事業承継を機に「新規顧客を広げてリスク分散したい」と考えても、取引履歴や実績が一社しかないため、他社からは「融通が利かない」「受注バランスが悪い」と見なされ敬遠されやすいのです。
昭和型アナログ体制の残る背景と破綻リスク
未だ根強い「属人主義」の影響
現場では、図面管理も帳簿も紙ベース、FAXが主流、という企業が少なくありません。
こうした「昭和体制」は、「顔が見える」「現場を知っている」関係が前提となっていました。
ゆえに、引き継ぎ時に「人が替われば終わり」というリスクを顕在化させやすいです。
IT化・DX化の遅れが加速する帰結
製造現場でのIT化やDX推進が叫ばれて久しいですが、一社集中体制が強いほど「大きな変化」は嫌われがちです。
結果、情報が社内や一部の担当者だけに閉じ込められ、事業承継時のドキュメント整備やノウハウ伝承も進みません。
こうした「昭和のぬるま湯」構造は、事業承継時にいきなり経営危機を引き起こす引き金となります。
バイヤー・サプライヤーに求められる新しいアプローチ
サプライヤー側:リスク分散と開かれた経営
これからのサプライヤー企業は「万が一」に備え、得意先の分散(売上構成比の見直し)を積極的に進める必要があります。
新規顧客の獲得を営業部門だけに任せるのではなく、経営層を巻き込んだ全社プロジェクトとして取り組むことが重要です。
また、技術力・品質体制の「見える化」や、経営ガバナンスの高度化、ドキュメント管理のIT化・クラウド化も推進しましょう。
IoTによる生産・品質データの共有、改善活動の標準化など、外部から「この会社は経営体質もしっかりしている」と思われる体制づくりが不可欠です。
バイヤー側:実践的サプライチェーンマネジメント
バイヤーも「一社の属人経営」「取引先依存体質」に安住してはいけません。
・複数サプライヤーの確保
・日頃からB/CP(事業継続計画)観点での監査・ヒアリング強化
・技術交流や現場の人材ネットワーク構築
こういった「つながり」を普段から持つことで、万一の事業承継時にも慌てずリスクヘッジが可能です。
また、長く取引をしてきた「顔が効くサプライヤー」ほど、難しい時期(承継や経営危機)のバックアップサポートを業界横断で制度化していくことも有効でしょう。
事業承継時に生き残る企業の特徴
ドキュメント主義とナレッジ共有
突き詰めて言えば、属人的な「経験則」のみで会社経営していた企業は、事業承継の衝撃に耐えられません。
・生産・品質ノウハウのマニュアル化
・技術伝承のプロセスと教育
・取引履歴や交渉記録のシステム管理
これらを日常から積み重ねている会社は、承継時にも「短期間で信用回復」でき、顧客離れが起きにくくなります。
多様な顧客基盤と社外ネットワーク
経営者が代わっても揺るがない「顧客基盤の広さ」と「社外ネットワーク」は、取引の信用に直結します。
異業種交流会や業界団体への積極参加、展示会や技術連携を通じた知名度アップなど、営業面でも幅広い接点を意識しましょう。
まとめ:昭和型から令和型サプライチェーンへの進化
日本の製造業が一社集中の呪縛を越えて持続的発展を遂げるには、サプライヤーもバイヤーも「閉じた安心感」から一歩踏み出す覚悟が求められます。
これは単なる売上の分散や取引数の増加だけでなく、経営情報・技術ノウハウの見える化、社員全体のレベルアップ、IT化による組織知の蓄積という地道な努力の積み重ねです。
特に今後バイヤーを目指す方には、サプライヤーのリスク管理・事業承継ポリシーへの理解と、それを支援するパートナー意識を持ってほしいと思います。
また、サプライヤーの立場からは「バイヤーが何を危惧し、どんな情報やエビデンスを求めているか」を先読みし、信頼される関係性を築くことが重要です。
事業承継は「ゴール」ではなく「変化のスタート」です。
一社集中構造のリスクを正しく理解し、時代を超えて愛されるものづくり企業をどう繋いでいくか。
現場目線で考え抜くことが、令和時代の日本製造業の新しい地平線を切り拓く糸口だと確信しています。
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