投稿日:2025年7月29日

スキー用ヘルメットOEMが衝撃吸収と軽量を両立するEPSハイブリッド成形術

はじめに:スキー用ヘルメット市場に求められるイノベーション

近年、スキーやスノーボード愛好者の増加とともに、安全性への意識も高まっています。

特にスキー用ヘルメットは「命を守る最後の砦」として、その需要と技術革新が加速しています。

業界を牽引するのは、各ブランドの独自開発品だけではありません。

裏方で多くの国内外メーカーやブランドのOEM(受託生産)を担う、技術力の高いサプライヤー企業の存在です。

OEMで差別化するうえで最大の壁となるのが、「衝撃吸収」と「軽量化」の両立。

ここでは、昭和から続くアナログなものづくりの現場がどのように革新し、EPS(発泡ポリスチレン)を用いたハイブリッド成形でこの課題を突破しているのか。

購買バイヤーともなれば必ず注目すべき視点も交えて、現場目線で解説します。

スキー用ヘルメットOEMにおける「衝撃吸収」と「軽量化」への要求

なぜ衝撃吸収と軽量化が求められるのか

スキーヘルメットの役割は、転倒や障害物との衝突から頭部を守ることです。

しかし、重いヘルメットでは長時間の使用で疲労感が増し、動きに制限も生まれます。

貴重な命を守りつつ、快適に着用できる軽量さを両立することが、世界的なトレンドです。

また、若年層や女性のスキーヤー・スノーボーダーの間では、オールシーズン利用、多様なデザインやカラー展開も重要。

それらをOEMで量産対応するには新たな視点と技術革新が不可欠です。

EPS(発泡ポリスチレン)の基礎と限界

EPSは、主にヘルメットの緩衝材として使われてきた素材です。

たくさんの空気を含むセル構造で衝撃を吸収し、断熱性にも優れます。

製造コストも安価で、成形の自由度が高い点が特徴です。

ですが、伝統的な成形方法では「強度を高めると重くなる」「軽くしようとすると衝撃吸収性が落ちる」というトレードオフ問題にぶつかってしまいます。

EPSハイブリッド成形術とは何か

ハイブリッド成形のコンセプト

従来の単一素材成形から一歩進み、異なる性質の素材やフォームを組み合わせて成形するのが「ハイブリッド成形」です。

例えば、EPSフォームにEVA(エチレン酢酸ビニル)、PC(ポリカーボネート)、ABS樹脂などを複合して一体化する手法です。

部分的に発泡密度や硬度の異なる素材を組み合わせたり、わずか数ミリ単位で構造を設計し分けたりします。

これにより、衝撃が集中しやすい部分には高密度の素材で強度強化、その他の部分は極限まで軽量化という設計が可能となるのです。

EPSハイブリッド成形の製造プロセス

ハイブリッド成形には二つのテクニックがあります。

一つは「インモールド成形」。

あらかじめ着色や強化処理を施したアウターシェルに、EPSを直接発泡成形して一体化します。

もう一つが「サンドイッチ構造」。

複数の素材層で挟み込み、それぞれ機能を分担。

両者の利点を最大限活かすことで、理想的なバランスの製品を生み出せます。

製造現場では、温度・圧力制御、成形金型設計、各素材との化学的・物理的な接着強度管理など、高度な工程管理技術が求められます。

現場が語る、改善失敗とブレークスルーの裏話

“昭和の職人技”が抱えていた課題

かつての工場現場では、熟練の型職人が微妙な成形条件を“肌感覚”で調整することが日常でした。

例えば「この温度だとEPSがうまく膨らまない」「発泡ムラが起きやすい」といった悩みがありました。

素材を替えても現場のノウハウ継承に壁があり、技術変革に踏み切れない場面も多かったのです。

また、工程ごとのデータ記録や分析も手書き中心で、現代的な統計管理手法(SPC)やIT導入はきわめて遅れていました。

デジタル活用とラテラルシンキングの飛躍

21世紀に入り、各工程でセンサーやAI、シミュレーションを導入。

工程すべての温度・圧力・発泡体膨張度などを「見える化」し、品質の「勘」から「数値」へとシフトしました。

また、設計段階から多様な素材組み合わせをCAE解析(有限要素解析)で検証。

生産現場の現物サンプル検証を繰り返すプロトタイピングで、「実験した分だけアイデアが生まれる」文化が芽生えています。

ハイブリッド成形への最大のブレークスルーは、「異素材=異分野の素材」から「異アイデア=現場の声」までも取り入れて、柔軟な発想で試行錯誤を可能にした組織風土にあります。

サプライヤー・バイヤー双方が知っておきたいOEM戦略の新常識

最新の調達・購買視点:重視すべき要素

バイヤー視点では、ヘルメットOEM選定の際、以下の点が重視されます。

1. 品質基準:CE、ASTM、SGマークなど各国の認証取得と、その履歴管理体制。
2. QCDバランス:コストのみならず、リードタイム短縮と安定供給力。
3. 技術応答力:ブランドの“新しい企画”に即座に提案対応できるフットワークの軽さ。
4. テスト検証力:「データでみせる」評価体制(落下テスト、温度・湿度耐久、劣化試験)。
5. コミュニケーション力:「図面通り作る」だけでない、クレーム未然防止に向けた現場提案。

現場の声を反映したヒヤリハット事例や、小規模ロット実験のフィードバック共有も大きなプラス評価ポイントです。

サプライヤーに求められる付加価値:現場目線で解説

サプライヤー側がそろえるべき付加価値は、「小ロットカスタム対応」「工程短縮のためのプレプレス加工」「自社内評価体制の公開」「廃材リサイクルなどの環境対応力」です。

とくに生産現場で実践されている「失敗事例の共有」は、バイヤーから高く評価されるようになりました。

不良やトラブルを「隠す」のではなく、「改善につなげ、ブランド価値の底上げを図る」透明な姿勢が、昭和的な暗黙知から脱却した製造業変革の証しとも言えます。

今後の展望と新たな地平線

カーボンニュートラル時代への進化

今後は生産工程だけでなく、素材の選定や物流でもカーボンニュートラルが求められます。

再生EPSやバイオマス系樹脂を使ったハイブリッド、新リサイクル材とハイブリッド化した成形も登場します。

また、デジタルツインやIoT連携で、製造過程そのものの環境負荷を「見える化」し、CO2排出量のトレーサビリティを求める傾向もますます強まるでしょう。

データドリブンな設計・品質管理の進展

AI・ビッグデータ時代の到来で、現場でも「機械学習による不良予兆」「AI提案型成形レシピ」の導入が始まっています。

今後は「サプライチェーン全体の最適化」がテーマ。

OEMメーカーが設計・生産・検査まで一体でサポートすることで、ブランド側も自社開発の負担を軽減しつつ高品質を実現できます。

ここにラテラルシンキング――すなわち“業界の常識を疑う視点”が重要です。

一見無関係な他業界技術(自動車用軽量成形、エアバッグ発想、宇宙産業規格の信頼性設計など)を取り入れれば、既存の壁を越えたブレークスルーが起こるはずです。

まとめ:現場から次世代製造業へのメッセージ

スキー用ヘルメットOEM分野で求められるのは、「衝撃吸収」と「軽量化」というトレードオフの課題をいかに設計・生産・品質管理で突破するか、という本質的なイノベーション力です。

そのカギをにぎるEPSハイブリッド成形術は、昭和の職人技を現代のデジタルや異分野知識でアップデートした現場発の知恵の結晶と言えるでしょう。

バイヤー、サプライヤー、製造業従事者すべてのみなさんが、固定観念に縛られず、“現場の声”と“新しい挑戦”を掛け算していくことが、次世代の製造業を切り拓く最短の道です。

そして、その積み重ねこそが世界の安全・安心を支え、日本のものづくりをより輝かせていく原動力になると確信しています。

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