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睡眠改善施策がシフト勤務と噛み合わない問題

目次
はじめに:シフト勤務と睡眠のジレンマ
現代の製造業は、24時間体制の生産ラインや多品種少量生産に対応するためにシフト勤務制度の導入が不可欠となっています。
このような働き方は、生産性や納期遵守、設備稼働率の最大化に大きく寄与してきました。
一方で、従業員の健康や働きやすさを考慮し、睡眠改善施策への関心も高まっています。
ところが「睡眠時間をしっかり確保しよう」「質の高い睡眠を取りましょう」といった施策やアドバイスが、現場目線に立つと意外と機能しない、という問題と直面するのです。
本記事では、製造業のシフト勤務現場における睡眠改善施策がうまく機能しない理由、そしてその根深い構造課題と今後あるべき対応について、現場経験者の視点から深く掘り下げます。
なぜシフト勤務は睡眠改善と相性が悪いのか
(1)人体リズムと社会リズムのミスマッチ
人間の体内時計(サーカディアンリズム)は1日約24時間の周期を刻み、昼夜の光環境や定期的な睡眠・食事により整います。
ところが、交替勤務や夜勤シフトでは「夜に寝て、朝に起きる」という生活サイクルが崩れます。
たとえば日勤と夜勤、準夜勤などが2交替・3交替で巡ると、1週間ごとに約12時間ずつ生活リズムがズレます。
この急激な変化は、睡眠の質と量の双方に悪影響を与え、慢性的な睡眠不足や体調不良をもたらします。
睡眠衛生指導で勧められる「毎日同じ時間に寝起きしましょう」というセオリーが、根本的に成立しません。
(2)従来型の対策が現場にフィットしない
企業が行う睡眠改善策には、ヘルスリテラシー教育やe-learning、健康グッズの配布などがあります。
しかし、これらの多くは「規則正しい生活ありき」「昼夜逆転を前提としない」ものであり、実際のシフト従事者に寄り添っていない場合が多いです。
例えば「夜はブルーライトを避けましょう」と言われても、夜勤現場はまさに青白い蛍光灯の下で働いているのです。
更衣や移動含めてシフトの合間に十分な休息が取れないので、推奨睡眠時間(7~8時間)がそもそも不可能な場合も珍しくありません。
(3)アナログ業界特有の「根性文化」
昭和から根付く製造業文化では、「眠いなら気合で乗り切れ」「慣れれば大丈夫」といった根性論がいまだに残っています。
休憩が必要だとしても「自分だけ休むわけにいかない」「リーダーが率先して頑張っているから…」と、現場全体の雰囲気で本当の休息が遠のいてしまうこともあります。
このような空気は、最新のテクノロジーや人事政策ではなかなか打破しきれません。
現場で起こる具体的な障壁とは
(1)シフトローテーションの物理的限界
多くの現場では繁忙期やトラブル、欠員があるとシフト調整が困難になり「連続夜勤」や「明けの休み返上」も珍しくありません。
また、工程間連携や技能伝承のために、同じ作業者ができる限り長時間ラインに入る必要が出てくるケースもあります。
その結果「睡眠負債」がどんどんたまり、深夜帯の安全事故や判断ミスにつながるのです。
(2)家庭や社会生活への影響
現場で働く人の多くが家庭を持っており、育児や家事、地域の活動など「家庭内の時計」にも縛られています。
夜勤明けは本来であれば仮眠や静養が必要ですが、学童の送迎や家族サービスが入れば、まともに休息できません。
可処分な睡眠時間そのものが相当に限定されます。
(3)睡眠改善グッズやサービスへの抵抗感・効果の不確かさ
「良いと言われるから枕やアイマスクを買ってみたが、全く眠れない」「サプリやドリンクも効いている気がしない」という声が現場では多いです。
また、高価なマットレスや睡眠計測デバイスも、作業着で寝転がらざるを得ない仮眠室や、短時間しか横になれない休憩室ではあまり意味をなしません。
意識改革や製品・サービスだけでは、根本課題(生活リズムの破綻)を解消できないのです。
昭和から現在まで続くアナログ業界の根深い「非デジタル」な特性
多くの日本の製造現場は、いまだに「現物主義」「現認主義」「現場第一」を標榜します。
シフト表の回覧や当番連絡も紙や口頭で伝えられ、急なローテ対応はホワイトボードに手書きで書き換えられます。
このようなアナログなコミュニケーションや調整文化は機動力では優れているものの、長期的な健康マネジメント、個別最適のスケジューリング、ITによる自動最適化といった睡眠改善のデジタルアプローチを大きく阻害します。
一方、管理職や工場長が長年の経験則で「みんな乗り越えてきた」と語る現場知見を無視して、簡単に新しい施策へ転換するのも現実的でない場面が多いです。
現場目線で考える、これからの睡眠改善とシフト勤務の両立
(1)シフト設計を「健康起点」で再考する
生産性やコスト優先でなく、月間・年間で見て従業員の回復力を最大化するシフト体制が求められます。
無理な連続シフトや1日の変則的な労働を避け、各人の休憩・回復時間を十分確保できるシステム設計がポイントです。
工場自動化や生産DXを取り入れて「人がいる工程」を最適配置することで、従業員数が減った現場でも負荷分散できる可能性があります。
(2)家庭や個人事情への配慮をプロセスに組み込む
誰もが年齢・家庭環境・健康状態に応じてベストな働き方を選べるよう、個人別希望も加味したシフト調整の「協働設計」も今後不可欠です。
育児や介護、既往症のある場合に「柔らかい勤務時間」を設定するなど、企業全体で柔軟な運用が浸透することで、従業員の睡眠問題がぐっと軽くなります。
(3)アナログ業界とデジタル技術のハイブリッド化
現場の柔軟な機動力と最新のデジタルツールの両立がこれからの鍵となります。
例として、シフトパターンの自動最適化、ウェアラブル端末による短時間でも深く眠れるタイミングの可視化、ライン起点の作業管理と個人の健康データを連動できるシステム導入などが挙げられます。
現場リーダーの経験則や勘を否定せず、そのノウハウをDXに組み込んでいくことが肝心です。
(4)「個人責任型」から「組織全体の健康文化」へ
「睡眠は自己責任」「寝られないのは自分のせい」といった風潮を、組織として変革していく必要があります。
現場で困っている人に寄り添う「語りかけ」や「気兼ねなく休憩できる雰囲気づくり」こそが、昭和的現場文化に一石を投じる起点になるはずです。
人事労務部、現場リーダー、従業員の「三位一体」で、安全・健康・生産性向上を実現していきましょう。
まとめ:睡眠改善とシフト勤務は「二律背反」ではない
睡眠改善施策がシフト勤務と噛み合わない、という課題には、現場特有のシステム設計や文化、個人事情、アナログな仕事のやり方など「見えない壁」が何層にも重なっています。
しかし、製造業の現場力と最新テクノロジー、健康起点の経営思想を組み合わせれば、「現場の誰もが元気で働ける」新しいシフト勤務像がきっと実現できるはずです。
今一度、現場に根付いた文化の良い面も生かしつつ、時代の要請に応じた変革に取り組んでいきましょう。
それが、製造業の未来を支えるための、現場目線の新しい価値創造なのです。