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製品切り替えに時間がかかる工程の本音

製品切り替えに時間がかかる工程の本音
はじめに:製品切り替えとは何か
製造業の現場において、「製品切り替え」とはラインや設備で生産している品種を別の製品に切り替える作業のことを指します。
この切り替え作業は専門用語で「段取り替え」とも呼ばれ、特に多品種少量生産が進む現代では、工場運営の根幹を揺るがす項目です。
しかし多くの現場では、この工程がボトルネックとなり、納期遅延や稼働率低下、ひいては利益圧迫の主要因として現場担当者、マネジメント両者の頭を悩ませています。
本記事では、20年以上現場に携わってきた筆者が、現場目線の本音と、現実に即した課題、そしてその解決策について解説します。
なぜ製品切り替えに時間がかかるのか?
製品の切り替え作業は単なる工程の入れ替えだけではありません。
段取り替えには以下のような多くの工程が含まれます。
・治具、金型、工具の交換
・ラインの清掃およびリセッティング
・材料の入れ替えと調整
・最初の製品に対する初品検査
・検査基準や生産条件、マニュアルの書類確認
・場合によっては部品や半製品の在庫の確保、調整
これら一連の「段取り」は、製品ごとに全く異なる内容になることも多く、同じ工場内でもラインごと、設備ごとに得意不得意が存在します。
さらに、工程間の連携や部品供給タイミングのズレ、人員の手配や教育のバラツキが起きやすく、思い通りに進まないこともしばしばです。
現場のリアルな悩みと本音
長年、現場で製造部門や工場マネジメントを経験してきた者として言わせていただくと、段取り替えの時間は現場の“見えないコスト”です。
生産性指標には現れにくい「隠れたロス」が膨大に発生しています。
例えば、以下のような悩みや問題点があります。
・「1分でも早く切り替えてくれ」と上から言われるが、品質基準や安全確認を守りたい
・段取り作業が慢性的な人手不足、ベテランにばかり頼ってしまう
・新しい製品にアップデートされるたびにノウハウがブラックボックス化し属人化する
・工程設計段階で“段取りのしやすさ”が軽視され、後工程や現場がしわ寄せを食う
・自動化、省力化投資が遅れ、依然として紙ベースの指示や管理が多い
かつての”昭和”の働き方やマネージメントスタイルが抜け切らず、「人の根性と努力で乗り切る」文化が、根本的な改革を阻んでいるケースもまだ多いと肌で感じます。
サプライヤー側とバイヤー側のギャップ~失注のリスクも~
バイヤーの立場から見れば、「少しでも速く、多品種を、欠かさず供給できる会社」を選びたくなるのが当然です。
つまり切り替えのスピードや柔軟さは、納期遵守率と密接に結びついており、サプライヤー選定の明暗を分けます。
しかし、サプライヤー現場では設備稼働率と切り替え時間のバランスを取りながら、変種変量生産体制に四苦八苦しています。
このギャップをバイヤーが十分に理解せず、「なぜこんなに時間がかかるのか?」と尋ねても、現場担当者は本音を言えない場合が多くあります。
この状態が歩留まり悪化や失注リスクを引き寄せます。
デジタル化・自動化と現場改善の現実
近年、「スマートファクトリー」「IoT」「自動化」など華々しいキーワードが広がっています。
しかし、現場目線では以下のような現実的な壁に直面しています。
・全部を自動化できるほどの初期投資を捻出できない
・現有設備を活かしつつ、部分的な改善を積み重ねる必要がある
・自動化しても結局、段取り替えは“人”に頼らざるを得ない部分が多い
・紙やエクセル、口頭指示がしぶとく残り、デジタル化が進まない
したがって、「古い体制を一掃する」ことは現実的ではなく、既存のやり方と最先端技術の“良いとこ取り”が求められるのです。
現場主導の改善アプローチ~昭和の知恵と令和的視点の融合~
昭和時代から続く現場の知恵として、SMED(Single Minute Exchange of Die:段取り時間の一桁化)などの考え方が根付いています。
例えば、事前準備と段取り手順の標準化、専用治具やクイックチェンジ工具の開発など、現場主体で小さな改善を積み重ねる姿勢は今も有効です。
一方、令和の現場においては、IoTによるデータ取得や可視化、動画マニュアル、スマートグラスを活用した遠隔指示など、新たな仕組みが徐々に取り入れられています。
重要なのは、どちらか一方への偏重ではなく、現場で培われた体感値や経験を活かしつつ、合理的にデジタル技術も組み合わせていく“ラテラルな発想”です。
具体的な改善事例(成功体験の共有)
私が関わったケースですが、ベテラン作業者と若手が協力し、切り替え手順を1分単位で洗い出して改善点を抽出。
ストップウォッチと動画を駆使して、設備周辺の移動経路、工具配置、前準備品の置き場などを見直しました。
その結果、約30分かかっていた段取り替えを12分まで短縮でき、納期対応力が一気に高まりました。
また、自動メール連絡による資材供給のタイミング調整、初品検査工程をIoT端末でスピードアップするなど、現場起点のDXも進めました。
現場担当者の「やらされ仕事」から「自分たちの成果」として定着したことが最大の成功点でした。
バイヤー/サプライヤーが理解・共創すべきこと
ここまで見てきたように、製品切り替えは単なる生産スケジュールの問題ではありません。
サプライヤー(作る側)とバイヤー(買う側)が歩み寄り、
・なぜこの切り替え時間がかかるのか
・現場にはどんな現実的な制約があるのか
・どの部分なら改善余地があるのか
を情報共有し、共に問題解決に挑む姿勢が重要です。
価格だけを重視する調達ではなく、価値共創型のパートナーシップを目指すべきです。
今後の地平線をひらくために~ファクトリーワークで考える
製品切り替えの壁を打ち破るためには、単なる短期的な効率化でなく、
・工程設計段階における「段取りのしやすさ」の検証
・マニュアルやノウハウの継承・見える化(動画、ARなど)
・人の多能工化、スキルアップを支える教育投資
・現場横断型、異分野混成のプロジェクトによる改善
・データドリブンな意思決定とラテラルシンキングの導入
といった本質的な改革が不可欠です。
また、経営層・マネジメント・現場担当者が「自分ごと」としてリーダーシップを発揮することが求められます。
まとめ:現場の本音を知れば、製品切り替えはもっと早くなる
現場には現場なりの事情や苦労があり、そこには経験知や改善のヒントが詰まっています。
「なぜまだこんなに時間が…」と嘆く前に、まずは本音を知り、バイヤーとサプライヤーが歩み寄ることが成長の第一歩です。
昭和の知恵と令和の技術――両者の強みを結集し、日本のものづくりに“新たな地平線”を切り拓いていきましょう。
現場から発信し続けることが、きっと未来の製造現場を変える礎になると、私は信じています。