投稿日:2025年7月7日

スラリー分散制御と安定化技術でトラブルを解決するポイント

はじめに:スラリー分散制御の重要性と現場課題

スラリーとは、粉体と液体が混ざり合った流動性のある混合物を指します。

化学、電子材料、バッテリー、セラミックス、塗料など、多くの製造業現場で用いられており、その品質は製品性能や生産性に直結する重要な要素です。

しかし、現場ではスラリーの分散が不十分だったり、時間経過とともに沈殿・凝集・ゲル化などのトラブルが発生したり、アナログな運用で勘と経験に頼っているケースが多いのが現状です。

特に「昭和から抜け出せない」製造現場では、分散技術や制御手法のアップデートが遅れがちであり、その結果、不良・歩留まり低下・設備トラブルやクレームの要因にもなっています。

本記事では、現場目線で「なぜスラリー分散制御が難しいのか」「どうやって安定化に持ち込むのか」について深堀りし、実践的な安定化技術やトラブルシューティングのポイントを解説します。

サプライヤー、バイヤー、現場管理者いずれの立場の方にも、役立つ内容です。

スラリー分散の基礎:なぜ分散が難しいのか

分散とは何か?分散の三要素を押さえる

スラリーの分散は、粉体(固体粒子)を液体中に均一に分散させ、それが安定した状態を維持するプロセスです。

簡単なようで、これには以下の三要素が絡み合います。

1. 粒子の物理的分散
2. 粒子間の安定化(再凝集を防ぐ)
3. 任意の粘度・流動性の確保

分散が甘い場合、製品性能や塗膜性能が落ちることはもちろん、ポンプ詰まりやノズル詰まり、後工程の不良へと波及します。

なぜスラリー分散が安定しないのか?

分散が難しい理由は、現場ごと・原材料ごとに粒径、粒子表面性状、添加物、温度などの因子が異なり、制御ポイントが多すぎるためです。

また、下記のような傾向があります。

– 粉体のロットごと品質ムラ(比表面積の違い、表面電荷の違い)
– 液体の水質や不純物の個体差
– 分散剤や界面活性剤の選択が勘と経験に偏りがち
– 撹拌や分散工程の「標準化」が不十分
– オンラインでのモニタリングがされていない(人の目に頼っている)

これが、アナログ現場の分散制御が「再現性がない」「毎回違う」「設備トラブルが多い」理由の一つです。

分散の失敗が招く現場トラブルとコストロス

スラリー分散が不十分、または過剰に分散(過剰な剪断による微細化)されると、どんなトラブルが起きるのでしょうか。

現場長、工場長として累計100例以上のスラリートラブルを経験した私の知見を交えて、典型トラブルをあげます。

典型的なトラブルの事例

1. 塗布・塗装工程
– ノズル詰まり、均一性の欠如、高頻度の設備停止
2. プレス・成形工程
– 射出不良、ワレやクラックの原因
3. 輸送・タンク保管中
– 沈降・ゲル化による品質変動(ロット間差異)
4. 品質検査工程
– 規格外品発生、不適合・コストロス
5. 市場トラブル
– エンドユーザーによるクレーム、リコールリスク

コスト試算からみる分散異常のインパクト

例えば1ライン1日1時間の設備停止、再分散・廃棄対応にかかる直接コスト、不良品発生による手直し・リワーク、人時ロス、サプライヤー発注増加などを含むと、月数百万円単位の損失も決して珍しくありません。

加えてバイヤー(調達購買)の立場では、納入先での品質トラブルや歩留まり悪化が信頼喪失に直結します。

サプライヤー側も、納品先の厳格な分散仕様を満足できなければ、取引停止や値引き交渉といった経営インパクトを被ります。

昭和的アナログ管理から抜け出す!現場でできる安定化技術

多くの製造現場では、「人の勘と経験」や目視チェックで分散状態を判断しているのが実態です。

しかしAI・IoT時代の現在、以下のような「昭和的アナログ管理」の限界が浮き彫りになっています。

– 分散の「良し悪し」が担当者ごとにバラつく
– 異動や退職で「ノウハウが消失」
– 急な設備変更やスケールアップでトラブル多発

ここから脱却し、「誰でも均質な分散状態に仕上げられる」現場に変えるには、どのような具体施策があるのでしょうか。

具体的な安定化技術および対策

1. 分散条件の標準化(SOPの詳細化)
– 撹拌速度、時間、温度、投入順番を細かく明文化
– 撹拌機のスペック・定期メンテ管理
2. 標準サンプル(リファレンス分散液)の持ち回り比較
– 濁度・粒度分布測定による定量評価
– 簡易チェックシート導入
3. 分散剤・添加剤の適切な選定と投与順
– 分散剤のメーカーや銘柄での逆選定
– 投与順(粉体先?分散剤先?)までSOP化
4. タンク底部・配管のデッドスペース洗浄ルール
– 長期運転時の沈降・死角へのメンテナンス
5. オンライン粒子径モニター+AI解析
– リアルタイムで粒径や凝集度を監視し異常傾向を即座にフィードバック
6. バッチごと品質データベース化
– 粒径・粘度・分散剤量などをデータベース蓄積

これらを組み合わせ、「誰もが同じ手順・同じ品質で分散できる」仕組みを土台から作り上げることが、安定化技術といえます。

現場力を高める!分散トラブル時のラテラルシンキング対応

現場で想定外の分散トラブルが生じた場合、迅速かつ適確な原因分析と、再発防止対策が求められます。

よくありがちな発想は「分散機の設定をいじる」「分散剤をもっと多めに入れる」などの直線的(ロジカル)なものです。

しかし、実は周辺工程や保管、原材料ロット管理など「隠れた要因」が潜んでいることが多々あります。

ここで重要なのが、ラテラルシンキング(水平思考)です。

ラテラルシンキングを活用した原因分析ポイント

– 分散機の故障や撹拌方法以外の要素は?
– 原材料のロット変更や倉庫保管状態の変化は?
– 洗浄不足や異物混入による不具合は?
– 検査方法そのものの再現性・信頼性は?
– そもそも「そのスラリー」がベストな設計なのか?

現場の常識や「いつも通り」にとらわれずに本質を見極め、現象を因数分解していく力が、分散安定化には不可欠です。

サプライヤー・バイヤー視点で考える分散管理のベストプラクティス

サプライヤーは「いかに安定して、規格通りのスラリーを納入できるか」が最重要課題です。

一方、バイヤーや調達購買担当者は「なぜサプライヤー分散不良が起きたのか」「どの点を要求すべきか」と品質・コスト・納期で頭を悩ませています。

両者がWIN-WINとなるベストプラクティスは何でしょう。

サプライヤーからみた分散品質向上策

– 事前に原材料ロット毎の試験・データ集積
– 分散工程SOPのさらなる標準化
– 分散テスト結果の定量データ化(粒度・粘度数値管理)

バイヤーからみた分散リスク管理

– サプライヤー評価時に分散安定性(ばらつきチェック工程)を盛り込む
– 品質変更連絡書・イレギュラー対応の明文化
– トラブル時にデータベースを公開させ「見える化」をルール化

お互いに「情報」をオープンにし、現場レベルでデータドリブンなコミュニケーションを進めていくことが、分散制御の高度化に不可欠です。

まとめ:スラリー分散制御の新たな地平線へ

スラリー分散は、製造業現場の「当たり前」のようで実は奥が深く、現場の良し悪し・コスト・信頼性を左右する基盤技術です。

AI・DX時代には、ヒトの経験・勘に偏りすぎない「データに基づく分散安定化技術」が鍵となります。

サプライヤーもバイヤーも、昭和的管理からの脱却を図り、ラテラルシンキングで隠れた要因を洗い出すことが大切です。

これこそ、製造業がさらに強く、未来に向かってアップデートしていくための地平線です。

「現場力」と「データ力」を武器に、製造業の発展に、皆さんとともに挑戦していきましょう。

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