投稿日:2025年12月5日

製造側の小ロット多頻度化が物流コストを爆上げする構造

はじめに:製造現場に広がる「小ロット多頻度化」現象

製造業を取り巻く環境は、ここ10年で大きく変化しました。
特に注目されているのが「小ロット多頻度化」という生産・納品の仕組みです。
これは、従来の大量生産・大量納品から脱却し、顧客の需要や仕様に合わせて一回当たりの生産量・納品量を抑えつつも、その頻度を上げるという形態を指します。

一見、「過剰在庫の削減」や「キャッシュフローの改善」などメリットが多いように見えます。
しかし、実際に運用してみると新たな課題――特に物流コストの高騰という大きな壁に直面している企業が後を絶ちません。
本記事では、現場視点からこの小ロット多頻度化と物流コスト爆上げの構造を紐解き、昭和スタイルからの脱却を迫られる「今」と「これから」を考察します。

なぜ小ロット多頻度化が進んだのか?業界の背景と必然性

需要予測の難しさとロス削減志向

市場の多様化により、消費者の「欲しいものを、欲しいタイミングで」という要求が劇的に高まっています。
大手メーカーから中小の町工場まで、在庫リスクを徹底的に減らすことが生き残りのカギとなりました。
「物が売れるかわからない」時代では、まとめて生産・納品するよりも、「必要なものを必要な分だけ」小分け対応する流れが加速しました。

サプライチェーン全体の効率化志向

自動車・電機業界をはじめとする大手機械メーカーは、サプライヤーに「ジャスト・イン・タイム(JIT)」を徹底要求するようになりました。
以前は月1回ペースだった納品が、週1回、ひどい場合は毎日…という例も増えてきました。

アナログ文化の根強さと、現場の知恵

昭和時代の「どさっと作って、がっつり納品」から、平成・令和へと時代は進みましたが、現場の作業やコミュニケーションの多くは未だアナログです。
ExcelとFAXが介在し、電話一本でデイリーの緊急納品が決まる。
この「人が現場で動かしている」構造が、本質的な効率化やコスト低減の障害ともなっています。

小ロット多頻度化が引き起こす物流コスト増のメカニズム

輸送単位の効率低下 ― トラック1台当たりの積載量ダウン

過去はトラック一台を目一杯積み込んで納品していました。
小ロット化により、一度の納品量が減少し、トラックの積載率が著しく低くなります。
10トン車を使っていたのに業務量が降りてきて4トン車→2トン車、と変わる例も多発しています。
無駄な空間を運ぶことは、イコール「運送料のムダ」を生みます。

配送頻度の増加による運転コストの上昇

納品回数が増えることで、ドライバーの人件費、燃料費、車両メンテ費用など、あらゆる費用が「回数分」跳ね上がります。
特にここ数年の運送業界は、2024年問題もあり、ドライバー不足かつ人件費高騰です。
メーカーは思いもよらぬ大幅な物流コスト増に直面しています。

荷役・梱包・検品コストの上昇

個数が減った分、梱包作業や検品に割く手間「単位あたり」のコストはむしろ上昇します。
現場作業者の負荷も増え、生産効率全体が下がる傾向にあります。

緊急対応の連鎖 ― 材料調達から逆流するコスト構造

製品出荷だけでなく、部品や原材料の受け入れにも「小ロット多頻度化」の要求は波及しています。
これにより、調達部門や購買部門は発注、発送管理、連絡などの業務が煩雑化し、多重にコストが乗っていく構造になっています。

現場で実際に起きている物流コスト爆上げのリアル

ケーススタディ:A社(部品メーカー)の事例

自動車部品の中堅メーカーA社では、主要取引先OEMから「週2回納品」から「毎日納品」への切り替えを打診されました。
納品毎にトラックチャーター費用はほぼ変わらず、負担は単純に2.5倍。
「小分けにして運ぶだけなのに、なぜこんなにコスト負担が増えるのか?」という現場の困惑が噴出しました。
現場担当者の証言によれば、「こっちは工数が増えても、値段は据え置き交渉ばかり」とのこと。
結局、A社では物流費の上昇による利益悪化を防ぐため、取引条件の見直しや共同輸送の仕組み構築に着手することになりました。

バイヤー視点で見る「納品細分化」の重圧

誰しも「在庫リスクを下げよう」としますが、サプライヤーに無理難題を押し付けた結果、自社の購買単価や物流コストに跳ね返ることもあります。
「発注は細かくするが、送料込み価格で統一」などの交渉が多発し、双方が消耗する「泥沼状態」になることも珍しくありません。

サプライヤーの工夫と限界

一部の工場では、「まとめ納品」と「分割納品」を使い分けたり、自社便と委託便のミックス運用でコスト圧縮に取り組んでいます。
しかし、取引先の要求レベルが高すぎる場合や、連絡手段がアナログ(電話・FAX中心)では、調整コストがむしろ増大し、現場担当者が疲弊しています。

製造業バイヤー・サプライヤーはどう向き合うべきか

コスト全体最適の意識を持つ

現場レベルでは、「物流コストは低く、在庫も持ちたくない」が本音です。
しかし、どんなに発注や納品を細分化しても、物流全体の効率が落ちて利益を食い潰しては本末転倒です。
サプライヤーとバイヤーが本当の「Win-Win」を目指すなら、調達単価だけでなく、物流・生産・在庫諸コストのバランスを対話ベースで設計する発想が極めて重要です。

共同輸送・共同倉庫の活用など、横断的な解決策

競合サプライヤー同士や周辺メーカーで共同配送網を組んだり、サードパーティ物流(3PL)を活用して納品頻度あたりのコストを圧縮する動きが進んでいます。
輸送単位の最適化やパレット単位の共同化は、もはやサステナブルな製造業経営の必修科目といえます。

アナログ脱却による業務効率化への投資

発注・納品指示が「電話・FAX・手書き紙伝票」から脱却できない限り、調整のコストは減りません。
デジタル発注(EDI、MESなど)や、在庫情報のリアルタイム共有など、小さな一歩でも始めることで現場負荷・ミスも大幅に軽減可能です。

今後の製造業に求められる視点 ― ラテラルシンキングの重要性

「常識」を疑い、新たな地平線を拓く発想

製造現場に20年以上携わった私からみても、「とにかく分割・頻度UP」の考え方はそろそろ転換点を迎えています。
「なぜ毎日納品が正しいのか?」
「本当に細分化した方が全体最適なのか?」
現場のオペレーションや物流体制、商流そのものを一度ゼロベースで見直し、異業種の事例も取り入れたラテラルな視点が不可欠です。

部門横断のチームづくりと現場主導の改善活動

調達購買、生産、品質、物流…部門ごとの最適化だけでなく、経営層も巻き込んだ横断チームが、現場の声を元に改善サイクルを回すことが成功の鍵です。
「現場主導」が形骸化しないよう、トップダウンとボトムアップ両方のアプローチを柔軟に組み合わせましょう。

まとめ:製造の未来は「地に足の着いた全体最適化」から

小ロット多頻度化は、サプライチェーンを強くする新たな仕組みである一方、物流コストの爆上げという深刻な問題を内包しています。
根本的な解決には「部分最適」から一歩抜け出し、ラテラルシンキングによる構造的な見直し・部門横断の本音の対話が不可欠です。

製造業バイヤーもサプライヤーも、今日から「物流コストは誰の課題か?」を自分ごととして考え、「全体最適」への最初の一歩を踏み出してみてください。
現場の知恵とデジタルの力、オープンな対話が、製造業の明るい未来を切り拓きます。

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