投稿日:2025年11月27日

センシング×データ分析で進化する“スマートメンテナンス”

はじめに──スマートメンテナンスとは何か

製造業に身を置く者であれば、一度は「スマートメンテナンス」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
私自身、長年の工場経験を通じて、保全やメンテナンスが生産現場の心臓部であることを身に染みて感じてきました。
しかし、日本の多くの製造現場——特に昭和時代から続く中小や成熟大手の現場では、依然として「人の勘・経験」が頼りのルーチンメンテナンスや、故障後の“つぎはぎ”修理が主流となっています。

本稿では、センシング技術とデータ分析が切り開くスマートメンテナンスの最前線と、現場で「変革の一歩」を踏み出すための実践知をお届けします。
バイヤー・サプライヤー双方がスマートメンテナンスの本質を理解し、調達の未来像を描けるよう、現場目線かつラテラルに掘り下げていきます。

日本の製造現場が抱える“アナログメンテ”の課題

勘や経験頼りの限界——故障対応型の文化

日本の現場は精密さと丁寧さで世界的な評価を得てきました。
しかし、その裏側には設備保全の遅れが隠れています。
多くの工場では「音の変化」「匂い」「発熱」など、ベテラン作業員の五感が最初の異常発見手段です。

確かに匠の勘は高精度ですが、ベテランの高齢化や暗黙知の継承難を背景に、メンテナンスの“ブラックボックス化”が進行しています。
加えて、「壊れてから直す」事後保全が当たり前の文化は、ダウンタイム(停止時間)増加や余分な在庫・手配コストを生み、現場の疲弊を加速させています。

点検表や日報もアナログ文化の象徴

多くの現場では今も点検表への手書き記録、日報のハンコリレーが日常的に行われています。
最大の問題は、この膨大な点検記録が“いつでも引き出し活用できるデータ”になっていないことです。
せっかくの定期点検記録も、「紙の山」で活用されないまま眠り続け、現場の知見が会社の資産になっていません。

サプライヤーとバイヤー間でも情報断絶が起きている

さらに、部品や設備のサプライヤーと、調達側のバイヤーの間でも、保全データの共有や寿命予測情報といった“攻め”の連携はごくわずかです。
価格や納期が優先され、設備のライフサイクル全体を支えるパートナーシップは“絵に描いた餅”のまま停滞しています。

センシング×データ分析——変革のカギを握る2つの技術

IoTセンサーによる「異常の見える化」

このアナログ文化を根底から変えつつあるのがIoTセンサーの波です。
温度・振動・電流など各種センサーを設備に取り付け、設備の状態をリアルタイムで数値化。
従来はベテラン作業者だけが検知できた“兆候”を、誰もが把握できる状態にします。

たとえば、ベアリングの振動や回転部モーターの消費電力の微細な変化も、IoTなら24時間体制で全数監視が可能です。
現場の異音もサウンドセンサーで数値データ化し、人の聴覚疲労や認識差と無縁になれます。

AIや統計学的アルゴリズムによる「故障予兆の早期検出」

さらに蓄積したデータをAIや統計ツールで分析することで、“どんな時に、どんな傾向で”故障が始まるかをアルゴリズムで予測できるようになりました。
これまで一部のプロフェッショナルしか持てなかった「予知保全」のノウハウが、属人性を排し、全員に開かれたものへ転換できるのです。

データの閾値(しきいち)管理や経年変化のパターン検出は、人間の目視や経験則では困難だった部分です。
AIや機械学習は、膨大な設備ログから未知の検知パターンを浮かび上がらせます。

スマートメンテナンスが切り拓く“新しい現場マネジメント”

点検・修理作業の最適化によるコスト削減・効率化

スマートメンテナンスを現場で導入できると、以下のような実践的なメリットが生まれます。

・「壊れる前に修理」から「本当に必要なタイミングで修理」への転換
・無駄な部品交換や作業ロス、停止ロスの大幅低減
・保全人員のリソース最適化、教育スピードアップ
・“属人化”から“標準化・共有”へのシフト

これにより、突発故障によるラインストップや重複在庫リスクを抑えられ、収益へのインパクトも明確になります。

調達の現場で生きる「ライフサイクルコスト志向」

サプライヤーや調達担当者にとってもスマートメンテナンスは大きな武器です。
設備や部品を「購入する瞬間」ではなく「使い切るまでの全体費用(TCO)」で評価できるようになります。
納入後の保守・寿命・故障傾向といったリアルデータをもとにした取引は、価格だけでは見えなかった“真の価値”を浮き彫りにします。

バイヤー自身が“スマートメンテナンス目線”を持てば、将来のコスト削減と顧客価値創出の両立が初めて実現します。

導入現場から学ぶ!現場主導のスマートメンテナンス実践例

「スモールスタートで現実解」老舗メーカーA社の挑戦

私が支援したある食品加工メーカーA社では、ベテラン作業員の退職を機に、主要ラインの巻取り装置に「振動・温度・電力」の3点IoTセンサーを装着。
まずは月次点検→“異常値発生時のみピンポイント保全”へ移行しました。

5Sや清掃作業の一環として日常的にセンサー数値を確認、異常傾向をデータ蓄積することで、1年目で部品交換件数を3割削減し、緊急対応時間も半減しました。

「サプライヤーが“先読みサービス”で勝負」機械部品メーカーB社

またある機械部品メーカーB社では、自社製ベアリングの遠隔監視サービスを構築。
納入工程のデータをクラウドで解析し、異常パターンをサプライヤー側から工場現場へ自動通知する体制を実現しました。

既存のフィールドサービス(メンテナンス要員出張)ではなく、データ根拠に基づく“未然対策・在庫連動”にも踏み込み、取引先工場との共存共栄関係を築きました。

変わりたい現場のためのスマートメンテナンス導入ステップ

1. “小さな改善”から始める

スマートメンテナンス導入は、いきなり全設備への投資や人材大刷新でなく、「今動かない機械」「メンテで困っている装置」など、“身近で困っていること”から小さく始めることが最善策です。

2. センサー設置とデータの“見える化”

まずは現場が認識しやすい振動・温度・電力など基本センサーから選定し、既存点検表と並行運用してみましょう。
この段階で肝心なのは「どの時点で“異常”と見なすか」という判断ラインです。
現場スタッフと“数値基準”をすりあわせ、アナログでも比較できる「見える化ボード」などから始めるのが堅実です。

3. アクション→改善策のサイクルを日常へ

得られたデータに基づき、実際に「いつ修理」「どの部品交換」を意思決定したかを記録することが重要です。
AIや外部データ活用による予兆保全へのステップアップは、その“サイクル”が回せる現場土壌をつくってからが成功の近道です。

昭和から令和へ——攻めのメンテナンスでバリューチェーンを変革する

昭和的な「故障ありきのメンテナンス」から、「予防・予知型メンテナンス」への進化は、単なる業務効率化ではありません。
数値根拠に基づく本質的な業務改善を通じて、働く人の安心・やりがい創出、製品供給の安定化、調達コストの大幅な最適化といった深いインパクトをもたらします。

バイヤーの皆さんが設備保全のデータに精通すれば、“価格競争”だけではないサプライヤー選定力・社内営業力を磨けます。
サプライヤー各社も、製番納入だけでなく“その後の使われ方”にこそ自社価値が眠る時代です。

私たちが蓄積してきた現場の知見・痛み・創意工夫をデジタルの力で進化させ、“スマートメンテナンス”という次の常識をともにつくりあげていきましょう。

まとめ──現場が主役のメンテナンス革命を、今こそ

“現場の悩み・ニーズ”を出発点に、センシングとデータ分析を武器にしたスマートメンテナンスの実践は、最初の一歩こそ小さくても、確かな変革をもたらします。

今後の調達戦略や工場運営、サプライヤーとの関係構築のすべてが「リアルデータ力」で進化し、より強い製造現場、働く人にやさしい職場、そして日本発のものづくりの未来が開けます。

今この瞬間から、皆さんの現場で“スマートメンテナンスの一歩”を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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