建設現場を変えるスマートセンシングによる構造モニタリング

建設現場を変えるスマートセンシング――進化する構造モニタリングの最前線

建設業界は、製造業以上に昭和的なアナログ運用が根強く残っている業界のひとつです。
図面に赤ペンを入れる、現場では紙と鉛筆で日報を書く、熟練者の“勘”に頼る。
しかし、「第4次産業革命」の波は、徐々にこの分厚い業界にも到達しつつあります。
その潮流の中心が、スマートセンシング技術を活用した構造モニタリングです。

ここでは、スマートセンシングによる構造モニタリングが建設現場をどう変えていくのか、現場目線に立ち、最新トレンドとリアルな課題、そして将来像までを深掘りしていきます。

スマートセンシング技術とは――現場に何が起きているのか「見える化」する力

1. スマートセンシングの基本概念

スマートセンシングとは、現場に設置した各種センサで温度、振動、歪み、ひずみ、応力、湿度などのデータを自動で取得し、リアルタイムにデジタルで可視化する技術を指します。
このセンサ群とクラウドやエッジコンピューティングの連携が「見えない現場」を「見える現場」に変えてくれます。

従来は職人の肌感覚や“現場に通った回数”がモノを言っていました。
今ではデータに裏付けされた判断ができるようになったことで、安全性や生産性の向上に大きく寄与しています。

2. 主な用途は「構造モニタリング」

建設の現場で最も注目を集めているのが、構造物の健全性モニタリングです。
特に大型ビルや橋梁、プラント、工場などでは、建設中の構造体のみならず、竣工後の状態監視が求められるケースが急増しています。
例えば、センサーによる鉄骨やコンクリートのひずみやクラック（ひび割れ）のリアルタイム検出は、人力による目視点検では補いきれない精度と頻度を実現しています。

3. アナログ業界を打破するカギ

このスマートセンシング技術がアナログ文化を抜け出す“本命”と見られる理由は、データの自動取得・分析により「人間の現場勘」の属人性を大幅に低減できるからです。
老朽化と労働力不足が深刻化する建設業界にとって、自動化と見える化は未来への希望といえます。

現場変革のリアル――スマートセンシングで変わる仕事の現場

1. 品質管理が「科学」になる時代

従来は「手で触り、目で見て確かめる」ことが当たり前の品質管理でした。
ところがひずみゲージや加速度センサーを取り付けた構造体は、24時間365日、微細な変化を検知し続けます。
複数のセンシングポイントがあれば構造全体の“呼吸”まで丸裸にできます。
この情報をクラウド上で一元集約することで、検査工程の俯瞰的な管理や異常兆候の早期発見につながっています。

2. 設備保全やメンテナンスに革命

完成した後も、橋梁や高層ビル、あるいはプラントの配管やタンクは絶えず“劣化”しています。
今までは定期点検のみ、異常があれば緊急対応という「事後保全型」でした。
スマートセンシングによって「予知保全型」のメンテナンスが現実化しています。
たとえば、コンクリートの微細な割れや鉄骨の応力集中点を事前に検知できれば、最小のコストで大きな事故を防ぐことができます。

3. サプライヤー・バイヤー間の信頼可視化

調達購買の立場では、サプライヤーの納入部材や建設中の構造物の品質保証は、これまで書類や“言い訳合戦”になることが多々ありました。
センシングデータに基づく定量的な品質証明は、お互いに納得できるエビデンスの構築とトレーサビリティ向上につながります。
これにより、サプライヤーにとっては差別化材料に、バイヤーにとっては調達リスク低減となります。

業界動向――建設×IT融合でどこまでいけるか

1. 大手ゼネコンが進めるDX（デジタルトランスフォーメーション）

大林組、清水建設、鹿島建設といったトップゼネコンでは、スマートセンシングを軸にした現場のDXが着々と進んでいます。
例えば、AIによる異常傾向の自動アラートやBIM（ビルディング・インフォメーション・モデリング）との連携が、設計→施工→維持管理という全ライフサイクルを貫く形になってきています。

まだまだ実証実験段階のケースも多く、人の手による補完も必要ですが、「デジタル施工現場」という新たな業界標準が確実に芽吹きつつあります。

2. 中堅・中小企業は“どこから始めるべき”か

とはいえ、業界全体が一気にデジタル化するわけではありません。
むしろ、費用対効果や導入労力から「遠巻きに見ている」中堅・中小も多いのが実情です。
まずは以下の領域から小さく始め、徐々に拡張するアプローチが推奨されます。

– 仮設足場や資材の紛失防止（位置センサ等による管理）
– コンクリート養生や温度管理（温度センサによる履歴管理）
– 作業員の安全管理（バイタルセンサやAIカメラの活用）

こうしたミニマム導入でも、現場の生産性は確実に向上し始めています。

3. 法制度や社会インフラも「変革」を加速

国土交通省は「i-Construction」や「CIM（コンストラクション・インフォメーション・モデリング）」を強く推進しており、国策レベルで現場データの活用が奨励されています。
また、SDGsやESGへの意識高揚もあり、“デジタル化されたデータ”に基づく説明責任（アカウンタビリティ）は今後ますます重要度が増していくでしょう。