投稿日:2025年11月1日

スニーカーのミッドソールが衝撃を吸収する構造と素材技術

はじめに – 製造業の現場から見るスニーカーの進化

スニーカーと聞くと、一見カジュアルでファッション性に重点を置いたプロダクトのように感じる方も多いかもしれません。

しかし、その裏側には製造業ならではの技術革新、現場の苦労、そして最新の素材・構造技術がぎっしり詰まっています。

とくに近年、世界中のメーカーで熾烈な開発競争が繰り広げられているのが、「ミッドソール」の分野です。

今回は「ミッドソールの衝撃吸収構造と素材技術」について、工場や調達、生産管理、品質管理目線でも深堀りします。

現場で働く方や、バイヤー志望の方、サプライヤーの方にとっても、実践的な知見を共有できる内容となっています。

ミッドソールの役割 – 衝撃吸収の要となるパーツ

ミッドソールは、スニーカーの「中間ソール」とも呼ばれ、アウトソール(靴底)とインソール(中敷き)の間に挟まれている層です。

このミッドソールの最大の使命は、歩行やランニング時にかかる足への衝撃を吸収・分散し、足腰への負担を最小限に抑えることです。

単なるクッションパーツではなく、“運動パフォーマンス向上”や“故障リスク低減”にも大きく寄与します。

進化するユーザーニーズ:昭和から令和への変遷

かつてのミッドソールは、単純にウレタン材をフォーム状にしただけという構造が主流でした。

しかし、健康志向、スポーツ人口の増加、高齢化社会など社会背景が変わり、より多様な機能性が求められるようになりました。

製造現場としては「同じ素材・同じ厚みでは差別化ができない」「コスト・耐久性・環境対応といった複雑な要素を両立しなければいけない」といった新たな課題が山積しています。

ミッドソールの主な構造と“衝撃吸収”のメカニズム

現代のスニーカーに採用されているミッドソールは、一見同じに見えても、メーカーごとに衝撃吸収の考え方や構造は全く異なります。

ここでは、代表的な構造とその特徴、現場で着目するべきチェックポイントを紹介します。

クッション素材の種類と特徴

・【EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)】
もっとも一般的で、軽量性・コストバランスに優れた素材です。

ただし、圧縮歪みや耐久性で劣るケースがあるため、自社用途や価格帯によって配合や硬度を調整するノウハウが求められます。

・【PU(ポリウレタンフォーム)】
優れた耐久性と弾力性を持つ素材ですが、加水分解による経年劣化には注意が必要です。

成形や後加工でも熟練した設備・技術者の存在が品質を大きく左右します。

・【TPU(熱可塑性ポリウレタン)ビーズやフォーム系】
近年ナイキやアディダスを中心に、高反発・高減衰特性を両立する新素材が盛んに研究開発されています。

この分野は特に国際調達・グローバルサプライチェーン目線での品質安定化や、リードタイム短縮を現場として強く意識する必要があります。

多層構造とインサートパーツ – 技術開発の最前線

ミッドソールの進化は、素材選定だけにとどまりません。

衝撃吸収の“ターゲットゾーン”や“歩行時に圧力のかかる部位”を解析し、部分的にエアバッグ(エアユニット)やゲル、ファイバーインサートを用いるなど、構造研究も盛んです。

これにより“柔らかさ”だけでなく、高反発性やスタビリティ(安定性)、さらには減衰性など多様なパラメーターを実現しています。

現場目線では、新構造を導入するたびに
・生産工程の多工程化
・検査項目の複雑化
・歩留まり悪化リスク
などの課題と向き合うことになります。

調達・品質・生産管理が一体となった“現場力”が問われる部分と言えるでしょう。

衝撃吸収の科学 – どうやって「柔らかさ」と「反発力」を両立するか

単に「柔らかければ足に優しい」というわけではなく、強過ぎるとクッションが潰れ切って衝撃がダイレクトに足へ返ってきてしまうリスクもあります。

一方で「反発力」と「減衰性」を両立させることで、エネルギーロスを減らしながらも足への優しさを確保できる構造設計が重要です。

ここでも「材料の配合」「気泡の大きさ」「加熱発泡工程の管理」など、計画数値と現物が一致するよう現場目線でのセットアップ、統計的管理が求められます。

「品質」×「量産」×「コスト」のバランス~調達・サプライヤーとの連携

実際の現場で素材や構造を決める際には、設計上の理想=そのまま量産できるわけではありません。

グローバルなEV競争などと同じく、「現場」「サプライヤー」「調達バイヤー」「設計」の4者が密接に連携する必要があります。

昭和的“コストダウン合戦”からの脱却

以前は「安い原料を仕入れてどう加工するか」に意識が偏りがちでした。

しかし現在では、「求める機能に本質的に合った素材」「ESGや脱炭素など時代課題に即した選定」「複数サプライヤーの提案を柔軟に取り入れる」といったラテラルな視点がますます重要です。

バイヤーやサプライヤー間でも、知見や経験のシェアが“現場力強化”のカギとなります。

バイヤー・サプライヤー視点で見る素材調達・品質保証

バイヤーには
・十分なサンプル検証
・入念なテスト情報の交換
・納入後の不具合対応フローの構築
など、単なる発注役で終わらない「現場目線」がこれまで以上に求められています。

サプライヤー側でも、単一商材に頼るだけではなく
・環境負荷低減型EVA
・再生材料を使用した新型TPU
・現場フィードバックを即時に反映できる技術サポート部隊
など、柔軟な提案能力や情報発信力が差別化のポイントになるでしょう。

先進メーカーによるイノベーション事例

ここ数年、ミッドソール分野でのイノベーションはとくに顕著です。

ナイキ – ZoomX、エアユニット技術の革新

「ナイキ ズームX」は高反発PEBA系フォーム、そして部分的に仕込まれる「エアバッグ」の圧力設定と配置が特徴です。

最適なゾーンごとの弾性設計は、設計者だけでなく現場の蓄積ノウハウや複数サプライヤーによる試作がカギとなっています。

アディダス – BOOST、LIGHTSTRIKE

数千個のTPUビーズを発泡・融着させる“BOOST”の生産は、原材料のスペック安定、母材の溶融工程管理など生産現場の高度な管理技術が支えています。

世界各地の工場と連携したグローバルサプライチェーンマネージメントが不可欠です。

国産メーカーによる独自設計事例

アシックスやミズノなどでも、ゲルや波形フォームの独自開発が続いています。

日本企業らしい「きめ細かいクッション感」「耐久性・リサイクル適性」など、品質管理の徹底ぶりが世界のバイヤー評価にも直結しています。

今後の展望 – ミッドソール技術の新たな地平線

業界ではSDGsやESG経営へのシフトも相まって、「バイオ素材によるクッション」「分離再利用しやすい多層構造」などが研究されています。

将来的には
・パーソナライズ対応(3Dプリンタによる現地生産)
・機能と環境配慮の両立
・リアルタイム衝撃吸収性能のセンシングと自動最適化
など、“スマートファクトリー的”発想が求められる分野となるでしょう。

まとめ – 製造業出身者が伝えたいこと

スニーカーのミッドソールは、単なる消耗パーツではなく、現場の知見、設計技術、調達力、サプライヤーとの協業――あらゆる工程の総合力で生み出される技術の結晶です。

昭和の成功モデルでは終わらせない“ラテラルな視点”で、バイヤーもサプライヤーも、現場から新たな付加価値を生み出す一翼を担うことが大切になってきます。

製造業の未来は、こうした日々の技術革新と、現場目線での地道な改善・知見共有の積み重ねにかかっています。

これからのミッドソール技術、そして日本のものづくりの発展に、ぜひ皆さんも現場からチャレンジしてみてください。

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