投稿日:2025年7月1日

不具合ゼロを目指すソフトウェア開発プロセスと品質保証戦略

はじめに: なぜ今、「不具合ゼロ」を目指すか

多くの業種の中でも、製造業の現場では「一つのミスが数十万、数百万の損失につながる」ということが日常茶飯事です。

私は20年以上、調達から生産管理、品質保証、現場改善や自動化推進まで携わってきました。

そこで強く感じるのは、「ソフトウェア不具合による損失」は、ハード業界でも年々増加し、今や工場の生命線そのものだということです。

昭和のアナログ時代からデジタル化・自動化・IoT導入が進み、もはやライン制御・ロボット・在庫管理・安全監視まで工場中にソフトウェアが張り巡らされています。

だからこそ、「なぜ、今”不具合ゼロ”が重要なのか」「どうすれば実現できるのか」を、最前線の現場で得た実践知をもとに深堀りし、具体策として皆さんにお届けします。

製造業におけるソフトウェアと品質保証の現状

「ハード主体」から「ハード+ソフト」へ

工場現場は長らく「ハード」重視の世界でした。

ところが、ここ10年で急速に「PLC(シーケンサ)」「ロボット用ファーム」「MES(生産管理システム)」「SCADA」など、工場内至る所でソフトウェアが標準化しています。

しかし、アナログ業界の体質は根強く残っています。

・設計変更がFAXや電話、エクセルでやり取りされる
・「試運転してみないと分からない」「現場で直せばいいや」という文化
・外部パッケージには詳しいが、現場独自のカスタマイズで不整合多数
これが、せっかくの自動化投資を不良や事故で”帳消し”にしてしまう最大要因なのです。

「ソフトウェア品質」が見過ごされがちな理由

最大の理由は「人間のミスは仕方ない」「手戻りも現場力で何とかなる」と思い込んでいるためです。

また、導入当初は運用を理想化しすぎて設計~運用のすり合わせが甘く、結局立ち上げ後に現場・保全部門が”ヒューマンバリア”で運用し続ける形になるケースが目立ちます。

この”現場合わせ体質”にどう風穴を開けるかが、品質保証や調達プロセスに深く関わるバイヤー・サプライヤー双方の課題です。

不具合ゼロを目指すためのソフトウェア開発プロセス

要求定義から運用まで、一気通貫の重要性

「完璧なシステム仕様書」と「現場の本音」の乖離が、数々の不具合の温床です。

まずは”机上”から”現場”へ。

要求定義の時点で以下のポイントを必ず押さえてください。

・現場責任者&運用担当者を巻き込んでディスカッション
・作業手順と連動した画面遷移やアラートの整理
・「誰が/何のために/どこで」を明確にする
・三現主義(現場・現物・現実)での検証
この段階で「運用イメージのズレ」を徹底的に排除することが第一歩です。

設計・コーディング段階の品質保証

仕様がクリアになった後は設計・コーディングですが、多くの製造業系プロジェクトでありがちな”落とし穴”があります。

・パッケージ導入だから大丈夫だと思い込む
・カスタマイズが現場仕様にマッチしていない
・外注やSIerに「丸投げ」してしまう
これらを防ぐため、開発ベンダーの選定段階から「バイヤーが品質要求をリード」するべきです。

具体的には
・納品物ベースで詳細レビューを実施
・ソースコード管理とドキュメンテーションの徹底
・段階的受け入れテストの設定
・設計書と実装の突き合わせ
など、調達(バイヤー)、品質保証(QA)、現場オペレーションチームと協働でチェック項目を設けましょう。

テスト工程とリリース判定

テスト工程では、社内QA部門や第三者検証を活用できるかが「不具合ゼロ」への分かれ道です。

・単体テスト、結合テストはもちろん、実運用を想定したシナリオテスト
・「ありえない操作」「エラー系入力」「運用外状況」にも備える
・ユーザーレビュー会で忖度なしのフィードバック
さらに、リリース判定時には「現場教育」「手順書整備」「緊急トラブル時の動線確保」まで織り込むことが重要です。

品質保証戦略の策定・運用の肝

品質保証の主導権をバイヤーが握る理由

従来は「ソフトはベンダー任せ」「トラブルは現場の頑張りで…」というムードが根強いですが、それは大きな損失リスクです。

調達・バイヤーが品質戦略の主導権を握り、「自社ブランドの品質基準で開発させる」姿勢が、サプライヤーとの関係性まで好転させます。

これを実行するコツは、
・品質要求(運用面まで含む)を具体的に契約内条項化
・見積もり時に「テスト工数」や「メンテナンス方針」の有無を条件提示
・プロジェクトのマイルストーンごとにチェックシート(VA/VEやFMEA手法を応用)
・成果物レビュー会などの定例会開催
「現場のせい・外部のせい」に逃げず、自社自体の品質責任で握りましょう。

昭和体質からの脱却と”現場知”の活用

アナログ文化の強い組織ほど、「今までこうだったから」、「みんなやってきたから」という言い訳で失敗リスクが隠れています。

ここから抜け出すには「暗黙知」の可視化・標準化、そして”現場エネルギー”の知恵をシステム開発へきちんと反映することが不可欠です。

現場教育の中で
・早期段階からユーザー参加型検証を実施
・現場エースの「ヒヤリ・ハット」を設計へ即フィードバック
・IT人材や若手に頼りすぎず、ベテランの知見も反映
こうした取り組みが、”使えるシステム””動く現場改善”につながります。

サプライヤーから見た「バイヤーの考えていること」と信頼構築

バイヤーの最大関心は「安心できる運用保証」

サプライヤーの方々が意外と見落としがちなのは、「コストよりも責任回避・リスクヘッジ」の優先度です。

つまり、
・不具合発生時の原因把握力
・トラブル対応時のスピード/現場力
・運用保守のサポート体制
・きちんとしたドキュメントと引き継ぎ
これらで信頼度が全く変わります。

一度でも「納品した後、あとは知りません」的な対応を取ると、大きな案件ほど次から声がかかりません。

「共創」志向で攻めると次の仕事に繋がる

先進バイヤーは、単なる”製品提供者”ではなく「現場共創パートナー」として動く会社をより評価します。

・開発時に現場改善会議、定期レビューに進んで参加
・製品の不具合情報・他社事例共有によるリスク提案
・運用段階での新たな運用提案・改善アイデア
こうしたアプローチが「頼れるサプライヤー」、「次も依頼したい」となり、競争優位につながるのです。

ラテラルシンキングで切り拓く「不具合ゼロ」への未来

単なる「エラーのないシステム」を超えて、「現場力を底上げし続けるエコシステム」を目指す視点を持ちましょう。

たとえば、
・ヒューマンエラーも含めて自動ロギングし、品質保証部門がリアルタイムで分析
・作業現場と設計現場のコミュニケーションをAR/VRやAIチャットで効率化
・現場改善事例をデータベース化し、設計・開発にフィードバック
・自社/他社も巻き込んだ品質共創コミュニティの形成
こうした「枠を超えた知恵と仕掛け」が、日本のモノづくり現場を本質からアップデートしていきます。

まとめ: 不具合ゼロを現場主導で実現するために

製造業のソフトウェア開発・品質保証は大きな転換点にあります。

・アナログ製造業でも、現場知と最新テックを融合させること
・マネジメントとユーザー、バイヤーとサプライヤーが一体となって品質基準を握ること
・ラテラルシンキングで新たな協働モデル・改善循環を築くこと
こうした積み重ねが、真の”不具合ゼロ”への道です。

バイヤーを目指す方、現場改善に挑戦する方、あるいはサプライヤーとしてこれから一段上を目指す方。

ぜひ自社なりの「開発プロセス」×「品質保証戦略」×「現場知と共創」のサイクルを育てて、製造業の底力を次世代に繋げていきましょう。

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