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医薬品機器法対応ソフトウェア開発プロセスと妥当性確認ガイド

目次
はじめに:医薬品機器法とソフトウェア開発の接点
日本の製造業、とりわけ医薬品業界や医療機器業界では、近年ますますデジタル化が進んでいます。
紙ベースで運用されていた設計記録、品質管理記録、トレーサビリティの文書化も、ソフトウェアによる管理へシフトしています。
しかし、この流れの中で大きな壁となるのが、「医薬品医療機器等法(薬機法)」、特にソフトウェアバリデーション(妥当性確認)の要求です。
本記事では、製造業出身の視点から、現場で直面しがちな課題や業界特有の慣習も踏まえつつ、医薬品機器法対応のソフトウェア開発プロセス、及びその妥当性確認の進め方について解説します。
昭和のアナログ文化が根強く残る現場でも理解しやすく、かつ確実に一歩進める実践的な内容を目指します。
医薬品機器法(薬機法)とは何か
薬機法の基本と、ソフトウェアバリデーションの重要性
薬機法は、医薬品・医療機器・再生医療等製品の品質、有効性及び安全性を確保するための法律です。
この法律は、製造・承認・流通はもちろん、日々の運用を支えるソフトウェア(いわゆる医療機器プログラムやGxP対応ソフトウェア)にも、品質と安全を担保することを求めています。
ソフトウェアが原因で不具合が発生した場合、患者の命に関わるリスクにつながるため、設計から運用、変更管理、監査証跡の管理まで一貫した「妥当性確認(バリデーション)」が不可欠とされます。
現場では「面倒だ」「紙でやりたい」という声が依然残っていますが、時代の潮流は確実に電子化・システム化の方向へ進んでいます。
対象となるソフトウェア
医薬品・医療機器部門では、以下のようなソフトウェアが薬機法の対象となります。
– 医療機器本体に組み込まれるソフトウェア(組み込みソフト)
– 単体医療機器プログラム、SaaS型アプリ
– 生産管理・品質管理システム(MES、LIMS等)
– 電子記録・電子署名(ER/ES)システム
いわゆる「GMP省令」「GQP省令」「GLP省令」など、関連する基準も複雑に絡みますが、要は「ソフトウェアの信頼性と安全性をどう担保するか」が本質的なテーマです。
現場で陥りがちな薬機法対応の課題
昭和以来のアナログ文化から抜け出せない理由
多くの工場・品質管理現場では、「今まで紙でやってきた」「システム化すると余計に手間だ」という業界特有の文化が根強く残っています。
特に年長の管理職世代は、紙ベースの記録や手書きサインに安心感を持っています。
しかし、記録の紛失リスクの高さ、転記ミス、改ざん防止の難しさ、マルチな拠点展開時の非効率性など、現場には問題点が山積しています。
システム導入時には、「どこまで現場の手間を減らしつつ、法令対応に耐える設計ができるか」が成功の分かれ道となるでしょう。
現場感覚と法規制要件のギャップ
現場担当者にとって、「バリデーション」と聞くと難解な印象を持つことが多いです。
– どこまで細かくテストすべきか分からない
– 記録を残せと言われても、何をどう管理すればよいか不透明
– 運用開始後に不具合が発生した際のトラブル対応が曖昧
– サプライヤーとバイヤー間での責任分界点が見えにくい
こうした悩みには、「現場業務の流れをしっかり可視化し、その上で最小限だが確実な妥当性確認を設計する」ことが解決策になります。
そのためには業務部門だけでなく、IT、QA、法規制担当が部門横断で動く必要が出てきます。
医薬品機器法対応に必要なソフトウェア開発プロセス
1. URS(ユーザー要求仕様)の明確化
最初に重要なのは、現場部門が「何を、なぜシステム化するのか」を明文化することです。
URS(User Requirement Specification:ユーザー要求仕様書)を作成する際には、現場の作業者が本当に必要とする機能だけでなく、法令要件(電子記録・電子署名の要否、監査証跡など)も必ず盛り込みましょう。
外部サプライヤーが開発を請け負う場合も、このURSが曖昧だとバイヤーとサプライヤー間のトラブルの元になります。
2. システム設計・開発(FS/DS)
URSが固まったら、次にFS(機能仕様書)、DS(設計仕様書)に具体的な要件を落とし込みます。
このプロセスでのポイントは、現場のささいな運用上の注意点、例外パターン、紙運用時の癖などを拾い上げ、システム要件として明記することです。
とりわけ医薬品・医療系では、「逸脱管理」「変更管理」など厳格な管理体制が求められるため、最初から設計に織り込む必要があります。
3. 検証・バリデーション(IQ/OQ/PQ)
薬機法では「バリデーション」のプロセスが極めて重要です。
– IQ(Installation Qualification):導入時の適正検証
– OQ(Operational Qualification):操作時の機能検証
– PQ(Performance Qualification):実運用下での業務検証
それぞれの段階でテスト計画・記録をきちんと作成し、「誰が、どこで、何を確認したか」を明確にします。
昭和的な慣習から抜け出せない現場ほど、「面倒だが自分ごと化」して記録を残す文化が必要です。
4. 本稼働と運用中の変更管理
本稼働後も、「バリデーションは終わり」ではありません。
システム改修や機能追加のたびに、リスクアセスメントを実施し、必要に応じて再バリデーションを計画しましょう。
また、操作マニュアルや教育訓練記録のメンテナンスも、薬機法では求められる要素です。
5. 監査・記録の維持管理
法規制上は、不正アクセス、データ改ざんなど防止のための監査証跡(Audit Trail)の管理が必須です。
クラウド型システムの場合も、データの真正性・保存先の物理的所在(データガバナンス)を明確にしましょう。
現場で「どこに記録があって、誰でもすぐにアクセスできる」ことは業務効率だけでなく、法令順守の観点からも決定的に重要です。
バイヤー・サプライヤー双方が理解したい視点
バイヤー(調達・購買側)が意識すべき要素
– ソフトウェアの品質要件(URS)が明確か
– 薬機法やGMP基準への完全準拠の確認
– サプライヤーの過去のバリデーション実績、ノウハウの有無
– 保守・運用フェーズでの追加コストやSLA
バイヤーは「安ければ良い」で選定すると、現場運用で耐えられなくなり、結果的にコスト・リスクが膨らむことを知っておくべきです。
サプライヤー(ベンダー側)が意識すべき要素
– 現場運用や紙文化の細かな癖、例外運用の吸い上げ
– 導入教育、現場啓発のためのドキュメント化と定期更新
– バリデーション要求に柔軟に対応できる体勢づくり
特に「現場の個別事情に寄り添うカスタマイズ」「ITリテラシーが高くない現場への配慮」は、今後ますます選ばれる理由になります。
まとめ:今こそ、現場目線で薬機法対応を最適化しよう
日本の製造業は、長年のアナログ手法と伝統を大切にしつつも、デジタル技術・システム化への移行が避けて通れない時代にあります。
薬機法対応のソフトウェア開発では、「法令順守のために仕方なく導入するもの」から、「現場力・業務効率を高める競争力の源泉」へと捉え直すことが、持続的な成長につながります。
バリデーションは単なるお役所対策ではなく、現場の業務品質・安全を守るための「元帳」とも位置付けられます。
読者の皆様がこの記事をヒントに、「自分たちの現場ならどう最適に落とし込めるか」を考え、現場発のイノベーションを起こすきっかけとなれば幸いです。
時代が「紙から電子へ」「現場感覚とデジタルの融合」へとシフトする今こそ、今まで積み重ねてきた現場知と業法知識を強みに変えて、医薬品・医療機器分野の未来を切り拓いていきましょう。
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