投稿日:2025年7月15日

はんだ接合部クラックマイグレーション腐食発生メカニズム対策効果的試験法信頼性向上

はじめに:はんだ接合部の信頼性に迫る

はんだ接合部は、電子機器や工業製品の品質・信頼性を左右する極めて重要な部分です。
特に、クラック(亀裂)やマイグレーション(電気化学的移動)、腐食といった経時的なトラブルは、製品寿命や安全性に大きな影響を及ぼします。
昭和時代から続くアナログな製造現場においても、最新の技術革新と従来の経験知の融合が求められる今、その発生メカニズムの理解と、実践的な対策、そして有効な評価試験法の確立は避けて通れません。
本記事では、現場視点を重視し、理論と実践を織り交ぜながら、はんだ接合部の信頼性向上について徹底解説します。

はんだ接合部が直面する三大課題

クラック:負荷の蓄積による破壊

はんだ接合部は、機械的衝撃、熱膨張、冷熱サイクルなど、様々な応力にさらされています。
繰り返し応力や、大きな温度変化が加わることで、徐々にはんだ内部に微小な亀裂が発生します。
これが進行したものが「クラック」です。
特に、鉛フリーはんだの普及や実装密度の上昇により、従来よりもクラック発生リスクは高まっています。

マイグレーション:目に見えない電気化学現象

マイグレーションとは、金属イオンが電界や湿度の影響で移動し、絶縁破壊やショートを引き起こす現象です。
はんだ接合部で多く見られるのは、天候変化や湿度ストレス、高電圧下での動作時です。
見えない微小な移動であっても、長期的には致命的な故障につながります。

腐食:湿気と雰囲気の悪影響

腐食は大気中の酸素、水分、化学物質によって、はんだや接合面が侵される現象です。
特に、塩分やフラックス残渣が存在する場合、腐食速度が加速し、接触抵抗の増大や金属の断線を生じます。
工場や倉庫環境、さらには使用現場の環境制御が重要になります。

発生メカニズムを知る:現場で何が起きているのか

クラックの原因とプロセス

クラックは通常、以下のサイクルで進行します。

1. はんだ接合部に繰り返し応力(振動、落下衝撃、温度変化)などが加わる。
2. 結晶粒界や接合界面から微小な亀裂が発生。
3. 応力集中部で亀裂が成長し、接合信頼性が低下。
4. 最終的にオープン(断線)に至る。

もともとの設計不良、合金組成のミスマッチ、冷却条件やフラックス残りなども誘因となります。
昭和の時代は不良分析のツール自体が限られていましたが、現代は電子顕微鏡やX線CTといった機器で初期段階の状態も可視化できるようになっています。

マイグレーションのメカニズム

マイグレーションは「湿度」「イオン性物質」「微電流」の三つが揃ったときに加速します。
基板表面やはんだ部に付着したフラックス残渣やハンダボールが、水分を介して移動イオンの道を作ります。
その結果、陰極から陽極へ金属イオン(特に銀、銅、スズなど)が移動し、絶縁劣化を引き起こす現象です。

腐食進行のパターン

腐食の主な促進因子は「水分」「塩分」「化学ガス(SO2、NO2等)」です。
端子部分やラップ面から腐食が始まり、接合部で腐食ピットが発生します。
環境制御の不備、洗浄工程の不十分さが原因となる例も多くあります。

現場で実践できる有効な対策

はんだ材選定と適切な温度管理

現場でよくある失敗は、コスト重視で安価なはんだ材を導入することと、設備の加熱制御が不十分なことです。
信頼性重視なら、粒径分布が良く、溶融点の安定した材料を選びます。
また、リフロー炉の管理を徹底し、推奨温度プロファイル準拠を確認してください。
温度プロファイルの記録・追跡のデジタル化は、昭和的な”勘”や”経験”頼みからの脱却の第一歩です。

設計段階からストレス低減を考える

基板設計や部品配置を見直し、熱膨張差・機械的ストレスを最小化します。
ストレス集中を減らすパッド形状の工夫、ランド径やランド間調整、樹脂封止材の併用も有効です。
「後工程で調整すればOK」ではなく設計段階から反映させる──これが現場目線の真髄です。

湿度管理と実装ラインの清浄度向上

実装現場や倉庫の温湿度管理(温度20〜25℃、湿度35〜55%)は大前提です。
加えて、搬送装置やライン全体の防塵・防湿対策、帯電防止措置も必要不可欠です。
フラックス残渣や異物混入はマイグレーション・腐食リスクを高めるため、洗浄性やライン内清掃・定期点検の強化も重要です。

封止材やコーティング材の積極活用

部品表面にはコーティング(コンフォーマルコート)や防湿樹脂の塗布を検討します。
とりわけ屋外や車載用途では必須です。
近年はロボットによる自動塗布技術が進化してコストダウンも進んでいます。

効果的な試験法と評価項目

加速劣化試験の活用

はんだクラックやマイグレーション、腐食の兆候を短時間で評価するため、加速劣化試験は必須です。
主な試験例:

– サーマルサイクル試験(-40℃↔125℃繰り返しでクラック進行評価)
– 高温高湿試験(85℃/85%RH、1008時間等で腐食・マイグレーション評価)
– 振動試験、落下衝撃試験(物理的クラックの発生判定)
– ハローイオンチェック(表面イオン残留物の定量評価)

実装工程を模擬した試験設計

現場改善の観点では、自社ラインで実際に発生しうるシナリオ(多湿下パワーON、高頻度衝撃など)を模擬した評価が効果的です。
不具合の「芽」を見極め、リアルな評価サイクルを確立すると、現場での誤検出や見逃しも激減します。

検査項目と合否基準の明確化

現場では「何を、どこまで検証するか」が曖昧になりがちです。
顧客要求仕様、国際規格(JEITA、IPC等)に適合した基準設定はもちろんのこと、現場独自の「実績値」や「傾向管理」も並行活用しましょう。
ロット管理や溶接履歴トレースもデジタル化することで、飛躍的な信頼性向上が期待できます。

現場発想×デジタル化での信頼性向上

アナログ文化からの脱却:データに基づく追跡

昭和から続く現場体質では、「経験や勘」に頼る部分がどうしても根強く残っています。
しかし、はんだ接合部の不良は量産移行時やワーキングレベルで「見落とされやすい」のです。
そこで、工程ごとの温度・湿度・動的負荷・洗浄履歴など、デジタル化されたデータ管理に切り替えると、再現性・トレーサビリティが劇的に向上します。

最新設備の活用で省人化・判定精度アップ

目視検査に頼る文化は根強いですが、X線や画像処理AIによる自動判定も益々現場に適用されています。
定量的・客観的な判断を定着させることで、安定した品質維持につながります。

バイヤー・サプライヤーが押さえるべきポイント

バイヤー視点:信頼性パラメータの明示要求

調達・購買担当者は「コスト・納期」だけでなく、「信頼性パラメータや品質保証項目」の事前明示をサプライヤーに求める必要があります。
試験成績書・データシートに必ず目を通し、現場に合った評価内容を擦り合わせましょう。

サプライヤー視点:バイヤーの求める評価・対策提案力

サプライヤーは単なる「納入業者」ではなく、信頼性パートナーです。
失敗事例や不具合傾向をきちんと開示し、現場目線での改善提案や代替案も併せて提示できる体制が、長期的な信頼確保の鍵となります。

まとめ:はんだ接合部の信頼性向上への道標

はんだ接合部のクラック、マイグレーション、腐食は、「原因の多様性」「顕在化の遅さ」により従来から難易度の高い課題です。
しかし、素材選定・設計・実装・評価・現場管理まで、全工程を一貫して見直すことで、確実に信頼性は向上します。
昭和の「現場力」と令和の「デジタル活用」の融合が、これからのものづくりに不可欠です。
実践的な一歩を踏み出し、継続的な改善活動で世界と戦える生産現場を築いていきましょう。

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