投稿日:2025年6月18日

はんだ接合部の強度評価破面観察と強度信頼性向上策

はじめに ― はんだ接合部の強度評価と破面観察の重要性

はんだ接合部は、電子部品の信頼性を左右する重要な構成要素です。
スマートフォンや自動車、産業機械といった多様な製品において、その微細な接点は「ものづくりの神経」にも例えられるほど重大な役割を果たしています。
しかし現場では「はんだの不良で基板全体が廃棄」「リワーク費がかさんで利益を圧迫」など、はんだ接合部にまつわるトラブルは今も後を絶ちません。

特にはんだ接合部の強度評価、破面観察、そして信頼性向上策は、バイヤー・サプライヤー双方にとって避けて通れない課題です。
本記事では、実際の製造現場で得た知見と業界のリアルな動向を踏まえて、「なぜ壊れるのか」「どう評価・管理し、どのような対策が今求められているのか」を多角的に深掘りします。
昭和型のアナログ思考からDX推進世代まで、幅広い現場の皆様にとって新たな発見がある内容を目指します。

はんだ接合部の基礎知識 ― その役割とダメージメカニズム

はんだ接合部の役割とは

はんだ接合部は、PCB(プリント基板)上の電子部品と導体パターンを物理的、かつ電気的に接続するための「ブリッジ」的存在です。
情報伝達や制御、電源供給など、あらゆる信号や電力がこの小さな橋を渡ることで装置全体の機能が成立しています。

ただの金属同士の接着というイメージも根強いですが、実際は基板や部品の材質、フラックスやはんだ材、加熱プロセス、冷却の速度…といった多くのパラメータに影響され、その複雑さを増しています。

はんだ接合部に発生する代表的なトラブル

– クラック(割れ/亀裂)
– クリープ(繰返し荷重による変形・剥離)
– ブローホール、ボイド(気泡による欠陥)
– ウィスカー(錫髭の成長による短絡)
– 過剰な応力集中による剥離
– 湿度や腐食ガスの侵入による腐食

これらは電子機器の信頼性に直結し、工場単位での不良流出やリコールリスクにも繋がります。

はんだ接合部「強度評価」 ― 現場で使われる実践的手法

1. 引張・せん断試験 ― 一番基本の力学試験

引張やせん断試験は、はんだ接合の強度を数値的に評価するための最もオーソドックスな方法です。
専用の治具で部品や試験片を機械的に引張り、あるいは並進方向に滑らせ、破壊点に達するまでの最大荷重を測定します。
最近は自動化機による「全数抜き取り・即時測定」など、工程内での品質管理も普及してきました。

ただ、試験結果は部品サイズ、材料、接合面積、はんだの種類や厚みなど多くの要因に左右されます。
また”工程模擬”と”実環境”では応力状態が異なるため、設計現場と製造現場で評価観点にずれが生まれやすいことも現場のあるあるです。

2. 再現ストレス負荷 ― サーマルサイクル&パワーサイクル

実際の現場では、基板や部品を「熱衝撃装置」に入れて繰り返し加熱・冷却(サーマルサイクル)を行い、はんだ部の割れや剥がれを加速的に発生させて評価する手法が一般的です。
これは信頼性試験として規格化されており、たとえば車載電子部品のような信頼性要件の高い分野では必須となっています。

最近は半導体サプライヤーやEMS(電子機器製造受託業者)が独自に工夫した高応力サイクル法も増え、“実装現場のリアル”により近い評価方法の開発が進んでいます。

3. 破面観察 ― 破壊の根本原因をあぶり出す

荷重試験や信頼性試験の後に必ず実施したいのが「破面観察」です。
例えば引張り破壊後の断面を拡大観察すれば、“どの層がどんな破壊を起こしたのか”を詳細に把握できます。

観察には、安価な実体顕微鏡から、SEM(走査型電子顕微鏡)、EDS(エネルギー分散型X線分光装置)まで幅広いツールが使われます。
破面の金属組織や腐食状態、ボイドの有無、界面反応層の厚みなど、観察所見から現象の本質へ遡ることができます。

破面観察で見抜く!現場でよくある“失敗の型”

工程トラブルを防ぐためには「現場に巣食う失敗パターン」を知るのが近道です。
以下、破面観察で見つかる典型的なパターンをいくつか紹介します。

1. ボイド集中型破壊

破面の中心部に大きな丸い穴(ボイド)が広がり、その周囲に金属間化合物(IMC:Intermetallic Compound)が薄く存在。
この場合、はんだのフラックス流動や加熱プロファイルの設定ミス、基板側の銅パターン処理不良が要因になりやすいです。

2. 層間剥離型破壊

破壊面が部品リード(または基板パターン)と“層状”に剥がれる場合、はんだのぬれ性不足か、部品リード側の酸化、異物混入などが疑われます。
昭和的に“目視と経験”で済まされがちですが、現代のDX現場では「データ・画像解析」による根拠付けが求められています。

3. 金属間化合物層厚み異常

破面の端や底辺に通常より厚い(あるいは不均一な)金属間化合物層が見つかる場合、高温のリフロー工程や滞留時間の長さが問題。
金属間化合物が極端に厚くなると、はんだ本来の柔軟性や導電性が損なわれ、脆い断面破壊を引き起こします。

これらパターンは明言しにくい“ラインごとの品質ムラ”の発見にも役立つため、サプライヤーやバイヤー間の品質協議で積極的に活用したい分析視点です。

はんだ強度・信頼性を向上させる「5つの現場改革策」

「こんな不良、何度も潰してる」と嘆く前に、現場で即効性のある改善策を整理します。
下記5つの観点は、昭和型から令和世代まで押さえておくべき普遍的なポイントです。

1. はんだ材・部材の選定再考 ― 多様化する現場ニーズに応える

近年、鉛フリー対応によるはんだ材の変化や高密度実装化への対応が問われています。
現場では“価格優先”が優先しがちですが、温度サイクルや力学強度の観点から「最適材」を見極めることが重要です。

特に車載分野や医療分野では、高融点合金や特殊なフラックス設計を採用することで、急激な環境バリエーションにも耐える力を持たせる手法が増えています。

2. 実装条件(リフロー/手はんだ)の見直し

はんだ付け工程で最も影響が大きいのは「温度プロファイル」と「湿度・大気環境」です。
基板や部品の熱容量・熱履歴を考慮し、加熱・冷却速度、滞留時間などを工程シミュレーションと実測値で検証する習慣が不可欠です。

“何となく毎回同じ”から一歩踏み出して、「不良発生時の全工程ログ自動記録」や「見える化ダッシュボード」の活用が強く推奨されます。

3. 実工程内でのロットトレーサビリティ強化

一昔前の“熟練作業者”頼みから、DX化による一元管理・異常検知へ転換が進んでいます。
バーコードやRFIDによる部品ロット管理、はんだ材ロットの自動入力、ライン毎の異常傾向検出の仕組み化が、現場クレームや事後対応の大きな武器になります。

具体例:
・はんだロットNo./基板No./工程No.でAI解析(NG率と相関分析、異常検知)

4. 破面観察・データ蓄積による「予防」品質管理

一度でもトラブルが出た箇所、クレームが発生した工程の「破面画像・組織データ」を社内サーバーに蓄積し、AIによる解析や傾向管理を行うスタイルが注目されています。
特に工程設定・作業標準のローカルルール化や、属人化の打破に有効です。

部品メーカー、サプライヤーとの連携でも「この破面画像がこうだったから、このロットのはんだ厚みをこう変えた」という事例共有は、品質コストの削減直結なのです。

5. バイヤー・サプライヤー連携による「品質の共創」

現場の小改善以上に、バイヤー側とサプライヤー現場が“同じ目線”で工程課題を可視化し、互いの立ち位置と改善案を擦り合わせることの価値が増しています。

昭和的な「検査任せ」や「コスト押し付け」の時代から、バイヤー現場が「工程の深掘り・現場コミュニケーション」を武器に“品質共創”を実現する時代へと変わっています。
オンラインでの工程監査や、リアルタイムの異常フィードバックも今後は標準となるでしょう。

まとめ ― 小さなブリッジを守ることが、現場力・競争力へ直結する

はんだ接合部は、製造業の要ともいえる微小部分です。
その強度評価や破面観察を徹底し、工程改善やデータ活用での信頼性向上を粘り強く積み重ねることが、本当の「ものづくり力」につながります。

現場に根付く昭和型のアナログ習慣も、今はデータ可視化やDXツールとの連動によって“強力な現場智”へと生まれ変わりつつあります。
バイヤーもサプライヤーも、対等なパートナーとして強度評価・工程管理の本質を追求していきましょう。

この記事が日々現場で奮闘する皆様、品質の信頼性をさらに高めたい方々への実践的なヒントとなれば幸いです。

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