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靴のソール剥がれを防ぐ接着剤加熱と圧着時間の管理

目次
はじめに 〜靴のソール剥がれ問題と製造現場のリアル〜
靴のソール剥がれは、長年にわたり靴製造現場が抱えてきた宿命とも言える課題です。
特に日本の製造業界、特に中小靴メーカーには、いまだに昭和時代から続く手作業中心の現場が多く存在します。
接着剤の扱いも担当者の勘や経験則が頼りになりがちで、その作業条件管理は属人化しやすい傾向があります。
しかし、消費者の品質要求は年々高まり続け、ソール剥がれは許されない“致命的なクレーム原因”となっています。
本記事では、現場で20年以上靴製造や品質管理に携わった著者の経験と、昨今の技術進展、そして今も根強く残る“アナログ現場の実態”も交えながら、ソール剥がれを防ぐための「接着剤加熱」と「圧着時間の管理」について、具体的なノウハウと実践方法を解説します。
靴製造現場におけるソール剥がれの本質的原因を知る
1. 作業の属人化と「なんとなく」の危うさ
靴のソール接着作業では、塗布する接着剤の種類や量、塗り方に始まり、加熱温度・圧着圧力・圧着時間など、細かな要素が製品品質を左右します。
ところが、製造現場では「このぐらいでいいだろう」「前任者からこう教わったから」という属人的な感覚で作業されることが少なくありません。
現場のベテランほど、自分の“手の感覚”を信じたがり、マニュアルや標準化が進まない一因になっています。
しかし、配合された接着剤そのものが進化している昨今、感覚に頼る作業では安定した品質が保てません。
2. 接着不良の主要因〜加熱不足・加熱しすぎ・圧着不足
ソール剥がれの主な原因は、主に以下3つに集約されます。
- 接着剤の乾燥不足や過加熱による可塑剤の劣化
- 最適圧着時間の逸脱(短すぎる or 長すぎる)
- 接着面の前処理・コンタミ(汚れ残り 等)
このうち、加熱と圧着時間の管理が不適切な場合、いくら高品質な接着剤を用いても、ソール剥がれは発生します。
最新トレンドも踏まえた接着剤加熱管理のポイント
1. 接着剤の種類ごとの最適加熱条件を知ろう
靴製造に使われる主な接着剤には「ポリウレタン系」「ゴム系」「EVA系」などがあります。
これらはそれぞれ温度と時間に対する反応性が異なります。
例えばポリウレタン系の場合、65〜75℃で3分加熱した後に圧着するのが理想ですが、EVAはこれより高温・短時間でも接着強度を得やすい傾向があります。
各メーカーの接着剤カタログには“推奨加熱温度・時間”が明記されていますが、実際の現場では湿度や気温、作業場の環境要因により最適値が微妙にズレることも多いです。
2. スポットヒーターとトンネル炉の使い分け
工場の自動化が進んだ大手ではトンネル炉によるライン加熱が一般的ですが、少量多品種の現場ではスポットヒーター(ハンドヒーター)による手作業も根強く残っています。
ここで重要なのは「加熱ムラ」を絶対に作らないことです。
スポットヒーターを使う場合は、部品や作業者の持ち方によってヒーターとの距離が変化しやすいため、全体が均一に扱えるよう、定規やストッパーを使ってヒーターと接着面の距離を一定に保つ基準作りが有効です。
3. デジタル温度管理と昭和的現場のギャップ克服
最近はサーモグラフィカメラや非接触温度計も安価になり、加熱面の温度を写真で“見える化”できるようになりました。
まだまだ現場の多くには「温度は手で触って熱ければOK」という昭和的な考え方が残りますが、意識を変えるだけで不良率が顕著に下がります。
例えば、ヒーター下に温度チェックシール(一定温度で色が変わるテープ)を貼っておくだけでも、作業者の“温度目安”が可視化され、管理がしやすくなります。
圧着時間・圧力管理の最善実践法
1. 圧着プレス機がもたらす“時間管理の標準化”
ソール接着には「設定した圧力で何分間圧着できるか」が決め手となります。
昔ながらのハンドプレス作業では、“1から10まで数えて離す”といった曖昧な管理も散見されますが、現代ではタイマー付きのプレス機が標準です。
ここで意識すべきは
・圧力の逃げ(プレスパッドの摩耗による隙間)
・実際にかかっている「面圧」の均一性
です。
紙を挟んでプレス時の荷重痕を“見える化”したり、定期的に荷重計テストを行うことで、圧着ムラや荷重不足を未然に防ぐことができます。
2. SOP(標準作業手順書)と“例外管理”の重要性
効率・生産性重視の流れが続く現場では、作業効率を優先するあまり「まだ若干接着剤が乾ききってないが、次の工程が詰まるから…」と規定時間を短縮してしまう場面があります。
こうした“現場の判断ミス”を減らすには、SOP(標準作業手順書)に「例外管理項目」を明記し、イレギュラーな場合の再加熱・再圧着ルールを徹底することが欠かせません。
3. IoTとDXで進化するリアルタイム管理
一部の先進現場では、接着ラインにIoTセンサーを設置し、圧着時間や加熱温度を自動判定・記録できるデジタル管理も進んでいます。
ですが、現場の9割はアナログ運用が中心です。
その中でデジタルを活用するには、管理表に加熱時間や温度、圧着タイムなどを手書きで記録するだけでも「見える化」が促進され、不良発生時に根本原因の追跡が容易になります。
現場目線で語る失敗事例と学び
失敗例1:ベテラン作業者の独自ルールによる接着不良
20年以上経験のあるベテラン作業者が「これまでは自分流でやってきた」と、加熱温度や圧着時間を自己流に変更。結果、炎天下の夏場に接着剤硬化が速まり、規定圧着時間よりも早期に圧着開始をしてしまい、1年後に大量のソール剥がれクレームが発生した。
<対策>
現場全体で教育やSOP見直しを実施。「なぜその時間・温度が重要なのか」を現場に周知し、管理を“人任せ”から“仕組み”への転換を実現。
失敗例2:急な工程短縮により圧着時間不足
繁忙期の納期短縮要請に現場サイドが押され、通常5分圧着すべき作業を3分で省略。その靴が店頭に並ぶと、半年程度でソール剥がれが連発。工程短縮の危険性を改めて痛感した。
<対策>
工程変更時は必ず試験サンプルを作成し、耐久テストを実施。現場と営業担当者、管理部門が連携し、「なんとなく」の短縮を排すべきルールを策定。
サプライヤー・バイヤー双方に求められる視点
サプライヤーならではの品質提案の重要性
サプライヤーの方は「うちはこれだけの接着剤性能を保証している」と製品スペックのみでアピールしがちですが、実際の現場では「実験室通りの条件を再現できているか」が問題です。
不良情報が出たときは、必ず現場の作業条件・前後工程までヒアリングし、机上の理論だけでなく、現場事情を理解した上での提案が信頼を生みます。
バイヤーなら現場の“見える化”を最重要視せよ
バイヤーが工場の監査を行う際は、設備・機械の有無だけでなく、各工程でどれだけ「温度」「時間」「圧力」が“見える化”されているかを徹底的に確認しましょう。
現場スタッフが機械式タイマーや温度管理表を実際に記録しているかは、品質が維持されている現場の証拠となります。
まとめ 〜現場と理論が融合してこそ“剥がれ”は防げる〜
靴のソール剥がれを防ぐには、接着剤の加熱温度・時間、圧着時間と圧力を正確に、かつ安定して管理する仕組み作りが欠かせません。
昭和から続く手作業文化と、最新テクノロジーをどう橋渡しするかが、現代の現場管理者やサプライヤー、バイヤーの腕の見せ所です。
少し面倒に思えても、温度・時間の「見える化」や、SOPの見直し、小さなIoT導入など、“今できること”からひとつずつ始めてみてください。
それこそが、足元から現場とお客様の信頼を守る、製造業の真の底力となります。
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