投稿日:2025年12月23日

コンプレッサーで使う電磁弁部材の加工と作動不良問題

はじめに:コンプレッサーと電磁弁部材の重要性

製造業の現場において、コンプレッサーはなくてはならない機器の一つです。
エアコンプレッサーや工場ラインの動力源として、日常的に膨大な圧縮空気を安定供給しています。
その根幹を支えているのが「電磁弁部材」です。
電磁弁は、コンプレッサーから供給されるエアや流体の流れを”電気の力”で制御し、ライン全体の自動化や安全な稼働を成立させています。

部材の一つひとつの精度と信頼性が、工場の稼働率や品質、そして安全に直結します。
しかし、昭和時代から長きにわたり改善されてこなかったアナログな製造体質や、深刻な人手不足、グローバル化によるコスト圧力が各部材の品質や調達購買面にさまざまな課題を持ち込みました。
特に電磁弁は、わずかな不良やチョコ停(突発的な装置停止)が工場の損失を生み出すため、現場では「最も信用できる部材」の一つである必要があります。

電磁弁部材とは何か?基本構造と動作原理

電磁弁とは、電気信号によって流体(主に圧縮空気や油、水)の流れをON/OFFで切り替えるバルブです。
基本構造は、バルブ本体、コイル(電磁石)、プランジャ(可動子)、スプリング、シール材、Oリング、その他微細な金属部品や樹脂部品から成ります。
電磁コイルに通電されると、磁力が発生してプランジャ等が動き、バルブを開閉します。
極めて単純な構造ながら、コンプレッサーのような24時間稼働の環境においては、高い耐久性と誤作動のない信頼性が求められます。

電磁弁は直接的な「弁体」となる金属部品や、シールやパッキンといった樹脂系部材、そして制御の肝となるコイルやハウジングなど、細部に至るまで加工の質が問われます。
一つでも不良があれば、流体の漏れや作動不良、コンプレッサー本体のダウンタイムを引き起こしてしまいます。

電磁弁部材の加工技術:アナログ作業とデジタル管理の狭間

部材加工の基本とこだわり

電磁弁に使われる主な部材は、
・バルブ本体(真鍮、アルミ、ステンレスなどの金属切削・鋳造)
・プランジャ(鉄系部材の精密研磨、焼入れ処理)
・スプリング(特殊鋼線の巻線加工、熱処理)
・シール/Oリング(ゴムやフッ素樹脂の射出成型・トリミング)
が挙げられます。

熟練工による「寸法公差わずか数ミクロン」の切削や研磨、射出成型品のバリ取り、表面仕上げなど、20年前と変わらない“手作業”の積み重ねで性能を担保してきました。
一方で近年は、工作機械の自動化やロボット投入、IoTを活用した品質記録・不良分析も進行しています。
しかし、後述する作動不良の大半は「アナログな現場ノウハウ」と「工場ごとの地味なこだわり」で支えられており、完全なデジタル化が難しい現状もあります。

現場目線での最近の変化

昭和・平成時代は、製品ごとの生産量に合わせて手作業主体の内製が多く、各工場・町工場ごとに“職人気質”の加工ポイントが異なっていました。
現在は外注委託やグローバルサプライチェーン化が進み、東南アジアなどコストの安い海外サプライヤーに部品加工を任せるケースも急増。
その結果、表面処理や公差・組立精度にばらつきが生じる例も少なくありません。

加えて、多くの企業ではQC工程表や工程FMEAなど品質管理手法が定着しつつある半面、現場担当者の高齢化や技術伝承の遅れ、人手不足による時短生産が、微細な不良を見逃しやすくしているのです。

作動不良問題とその根本原因

よくある作動不良の症状

電磁弁の主な作動不良症状には、
・バルブが開かない/閉じない(詰まり・摺動不良)
・エア漏れ(バルブシートの傷・Oリング異常)
・反応が遅い(コイルの劣化、内部摩耗)
・動作音が大きい(不適合部品・共振)
・通電しても無反応(コイル断線、挿し間違い)
などが代表的です。

コンプレッサー設備のなかでこれらが発生すると、ライン停止や品質クレームといった深刻な二次被害が広がる可能性があります。

現場で見逃されがちな根本原因

現場経験から見て、作動不良の根本原因で多いのは、
・加工品の微細なバリや異物混入(洗浄不足、現場での管理ミス)
・研磨不良や公差超過(外注業者・仕入れ品で多発)
・樹脂パーツの成形ムラ(原料や金型管理が原因)
・組立時のトルク管理・注油不足
・低価格品の品質設計力不足(サプライヤーチェンジ時の見極め不良)
といった、”加工・組立・仕入れ”全ての段階に分布しています。

特に強調したいのは、昨今のグローバル購買化で「忖度なしにスペック優位なサプライヤーを選ぶ」一方、実際には図面だけでは表現しきれない“現場の使い勝手”が置き去りにされがちな点です。
たとえば日本製の微妙な表面仕上げや粘り強い材質、組立現場特有のチェックポイントなどは、バイヤーや開発担当がサプライヤーの加工現場に足を運び、五感で確認しないとわからない部分です。

現場力強化のための有効な対策

加工精度の安定化と見える化

まず、部品加工の全工程で「見える化」と「データ化」を推進することが発生源対策の基本です。
最新の工作機械や検査装置の導入と並行し、昔ながらのQC七つ道具やパレート図、現品票チェックなどのアナログ管理も徹底します。
重要なのは「現場作業員が、大事な勘所に気付きやすくする仕組み作り」です。
例えば、工程毎にバリ取りや洗浄の写真記録を残す、マイクロメーターによる寸法チェック実績を日報化する、現場でサンプル組立をして早期不良をピックアップするなどの『現場密着型』手法が功を奏します。

現物・現場・現実主義でのサプライヤー管理

バイヤーや調達担当は、スペックや価格だけでなく、「現場で問題が起きた時に迅速に対応できるサプライヤー」を最優先で選定することが肝要です。
海外サプライヤーとのやりとりでは、実際の加工工程や管理体制を写真・ビデオで確認したり、必要に応じて現地下見出張を行うと品質トラブルを未然防止しやすくなります。
また、受け入れ時の立ち合い検査や、サンプル取り寄せを標準化することも重要です。

さらに、部品レベルから「標準化(コモディティ化)」を推進しつつ、どうしても品質リスクの高い部品だけは信頼できるサプライヤーの国内購買にこだわる、というバランス感覚も必要です。

現場の知見をDX(デジタルトランスフォーメーション)で活かす

作業標準書や不良履歴、現場ノウハウといった情報は、従来の紙や経験則だけでなく、デジタルツールにも落とし込みましょう。
現場のデジタル化(4M変化点管理やIoT異常検知など)が進めば、不良の兆候を数値で把握でき、問題発生時も「なぜ起きたか」をすぐに分析できます。
また、現場の熟練工から若手への技術伝承がスムーズになり、属人化による“見逃し”も減少します。

サプライヤー・バイヤー・現場の関係性を強くする

バイヤーが意識すべきこと

価格競争や納期短縮が叫ばれる昨今ですが、現場の生産リスクやトラブルコストを最小にすることが真の調達競争力につながります。
バイヤー自身が現場で組立トラブルや不良品発生時の真因調査に立ち会い、「なぜ発生したか」「設計者や現場作業員が本当に欲しがっているのは何か」を肌で感じる姿勢を持つべきです。
そこからサプライヤー選定基準や品質チェックポイントが生まれ、多面的なバリューチェーン強化につながります。

サプライヤーが取り組むべき点

加工精度や検査技術の向上だけでなく、「現場で使ってもらった上でのフィードバック」を受け止め、自社工程のどこを改善すべきか現実的な視点で考えることが大切です。
納入した後の不具合解析、現場でのQ&A対応体制、場合によっては作業員への加工現場見学会開催など、一歩踏み込んだコミュニケーションが”頼られるサプライヤー”の条件となります。

まとめ:アナログとデジタルの融合で、新たな地平線を切り拓く

コンプレッサーに不可欠な電磁弁部材は、加工精度・組立品質・調達購買・現場オペレーションまで、すべてが密接につながっています。
昭和から続くアナログ文化の良さと、最新のデジタル技術やグローバルスタンダードを組み合わせることで、より実用的で強靭なモノづくり体制が育つはずです。

今こそ、現場感覚と理論・データに裏打ちされたラテラルシンキングで「まだ誰も見ぬ高品質」そして「トラブルから解放される強い調達現場」を一緒に実現していきましょう。

You cannot copy content of this page