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固体潤滑の摩擦摩耗のメカニズムと超低摩擦化の実現技術

目次
はじめに
製造業では、機械部品や装置の長寿命化、省エネルギー化、高性能化へのニーズが年々高まっています。
なかでも、摩擦・摩耗低減は、設備保守コストや省エネルギー活動の観点から、現場課題として重視されています。
その中核にある技術の一つが「固体潤滑」です。
本記事では、固体潤滑に着目し、摩擦摩耗のメカニズムと、最新の超低摩擦化技術について、管理職・購買担当・技術者目線で現場に根差した視点から解説します。
固体潤滑とは何か
固体潤滑の定義と分類
固体潤滑とは、油やグリースなどの液体潤滑剤を使用できない過酷な条件下(例:高温、真空、極低温環境など)で、摩擦・摩耗を低減するために利用される無機質・有機質の固体材料です。
摩擦面に被覆したり、部品そのものを固体潤滑性材料でつくることで、直接接触によるダメージを抑制します。
代表的な固体潤滑剤には、以下のようなものがあります。
– 二硫化モリブデン(MoS₂)
– 石墨(グラファイト)
– ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、いわゆるテフロン)
– ホウ化物・窒化物系のセラミックス
– 炭素系コーティング(DLCなど)
それぞれ適用環境やコスト、メンテナンス性に違いがあり、現場では用途・目的に応じて選択されています。
液体潤滑との違い
一方、液体潤滑では、油膜で表面を覆い、金属同士の直接接触を避けることで摩耗を防ぎます。
固体潤滑は、液体潤滑のメリットである「自動的な潤滑効果・熱移動」の面では劣りますが、「油切れ」「高温での劣化」「真空下や極低温での使いにくさ」といった液体潤滑の課題を補完します。
現実の工場現場では、「給油が難しい微小部品」「潤滑油の飛散が許されないクリーンルーム」など、液体潤滑だけでは解決できない多様なニーズが存在し、固体潤滑技術が重要となっています。
摩擦・摩耗のメカニズムを現場目線で読み解く
摩擦現象の基礎知識
摩擦は、二つの物体が接触して相対運動する際に発生する抵抗力のことです。
この時、表面のミクロな粗さ同士が「山と谷」で接点を持ち、力が加わると微細なくい込みや変形が生じます。
滑り始めに強い「静止摩擦」と動き出してからの「動摩擦」が存在し、固体潤滑では主に動摩擦の低減を目指します。
また、潤滑状態は「境界潤滑」「混合潤滑」「流体潤滑」と区別され、多くの場合、固体潤滑は「境界潤滑」領域で効果を発揮します。
摩耗の種類と現場で起こるトラブル
摩耗現象には、以下のような種類が存在します。
– アブレージョン摩耗:固い粒子や相手面による擦り減り
– アドヒージョン摩耗:接触・凝着と、その剥離による損耗
– ファティーグ摩耗:繰返し荷重による表面疲労
– コロージョン摩耗:摩耗と腐食の相乗作用
製造現場では「ギヤのカジリ」「ベアリングの焼き付き」「スライド部品の摩耗による精度低下」「粉塵による早期摩耗」など、さまざまな摩耗トラブルが発生しています。
これらに対し、どの摩耗メカニズムが支配的か見極め、適切な潤滑材料を採用することが、トラブル未然防止・長寿命化の第一歩です。
固体潤滑による摩擦摩耗低減のメカニズム
転移膜(トランスファーフィルム)の形成
固体潤滑の特徴は、摩擦接触により摩擦面に非常に薄い潤滑膜(転移膜)が形成されることです。
例えば、PTFEやMoS₂コーティングされた部品では、運転中に潤滑材が摩擦によって相手表面に移動し、一種の自己修復・保護膜として機能します。
この膜が摩擦の滑りを促し、金属同士の凝着(静着)や摩耗による「かじり」現象を防ぎます。
層状構造材料による低摩擦性
二硫化モリブデンや石墨などの層状結晶構造の物質は、分子間の結合が弱く、層が滑りやすいため、摩擦が非常に小さくなります。
このため、高荷重や過酷環境下でも、非常に安定した低摩擦性能を発揮できます。
また、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングのようなカーボン系材料も、表面エネルギーが低く、かつ摺動中に転移層が形成され、抜群の低摩耗性を示します。
業界動向と最新の超低摩擦・低摩耗化技術
環境規制と固体潤滑のニーズ高まり
近年、グローバルでの環境規制強化やSDGsを背景に、潤滑油の使用量削減、CO2排出抑制、(自動車や精密機械分野での)微細化・小型化ニーズが強まっています。
これに合わせ、固体潤滑剤やコーティングの採用が加速しています。
自動車のピストンリング、医療機器の関節、人と接触する部材など、「無潤滑もしくは微量潤滑」で長寿命性能を発揮する材料開発が現場で活発に推進されています。
次世代固体潤滑材料の開発動向
以下のような先進的な技術が実用化・商業化に向かって進展しています。
- ナノDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングによる極低摩擦材(摩擦係数0.01台も)
- 層状窒化ホウ素(BN)やMoS₂のナノシートを活用したマルチレイヤーコーティング
- 固体潤滑剤とポリマー複合による高機能樹脂軸受・ギヤ材料
- 自己修復性固体潤滑材料(損傷時に自動的に膜再形成)
- 水分散性や生分解性、食品機械向けの「グリーン」な固体潤滑材料
各種技術の現場適用にあたり「摩擦係数」「摩耗率」「耐食性」「施工性(メンテ性)」「コスト」「調達安定性」など複数要素を重視し、最適な材質選定が求められています。
調達・購買、バイヤー目線の固体潤滑へのアプローチ
購買部門が知るべき固体潤滑の評価ポイント
バイヤーやサプライヤーは、単なる「安い」「在庫がある」ではなく、以下を意識して評価・調達を進めるのが求められます。
– 潤滑膜の耐久寿命(メンテ周期とコスト試算)
– 適用環境(温度、荷重、雰囲気の特殊性)
– 他部品への影響、再潤滑の容易さ
– 事故・トラブル時のリスク(剥がれ、粉塵化など)
また、最近では「調達先のカーボンニュートラル・SU(サステナブル)調達」「グリーン調達」が問われ、材料開発・製造工程も含めエビデンス確認が重要です。
昭和的アナログ調達からの脱却
今なお現場には、「昔からの実績」で材料やサプライヤーが決まりがちです。
しかし、生産現場が自動化・スマートファクトリー化する一方で、実際の装置・部品寿命や効率改善の余地は大きく残っています。
購買部門やサプライヤーこそ、「なぜこの材料でなければならないのか」「最新の低摩耗化技術でトータルコストを再設計できないか」と、現場ラインと連携しながら新しい調達基準、評価基準を築いていく時代です。
現場実践例:固体潤滑の導入プロセスと効果測定
現場でのコーティング適用事例
大手製造業では、これまでグリースや油でしのいでいた部品箇所へ、固体潤滑膜コーティングや高機能樹脂部品への置き換え事例が増えています。
たとえば、
- 半導体製造装置の搬送部品(真空中、高頻度スライド)
- 自動車の燃料ポンプギヤ(低摩擦・低燃費化)
- 食品製造ラインの搬送ロール(無給油・異物混入対策)
こうした導入時は、摺動試験や摩耗粉の分析、実機評価(加速寿命試験、月次点検記録の分析)などによる現場密着型の効果判定が不可欠です。
データ活用による「摩耗予兆管理」の可能性
設備IoT・センシング技術の進展により、摩擦部材の摩耗量や変位、温度上昇などのデータをリアルタイムで計測し、予知保全・予兆監視へ活用する動きも加速しています。
固体潤滑による長寿命化効果を、「導入すれば終わり」にせず、データで数値化・見える化し、現場改善・材料最適化サイクルにつなげる取り組みが、これからの調達・生産部門に求められます。
まとめ:固体潤滑技術で未来を開拓する
劇的なデジタル化や省エネ革新の時代にあっても、設備や機械の性能の根底には「摩擦・摩耗をどう制御するか」という永遠の課題があります。
長年現場を支えてきた皆さんにこそ、固体潤滑という幅広い技術領域を再検証し、アナログと最新技術のハイブリッドで新たな価値創出を目指して頂きたいと思います。
「現場で使いやすい」「購買目線で持続可能」「サプライヤーも自社技術を活かせる」固体潤滑の超低摩擦化技術は、今後の製造業競争力を大きく左右するカギです。
今こそ、自社の課題に向き合い、現場での体験・課題を生かして、未来のものづくりの地平をともに切り拓きましょう。
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