投稿日:2025年6月24日

固相接合技術と実用化のポイント

固相接合技術とは―製造業における新たな選択肢

固相接合技術は、近年の製造業界でその重要性を増しています。
この技術は、金属材料を溶かさず、固体状態のまま接合する方法を指します。
従来の溶接やろう付けが高温で金属を溶融させるのに対し、固相接合では主に圧力や摩擦、拡散などの物理的・化学的作用を活用します。

自動車産業や航空機、精密機械メーカーでは異種材料の接合や、熱による品質変化を抑えたい場面で重宝されています。
たとえば、軽量化を狙うためにアルミと鋼を一体化したいが、従来工法では接合部の脆弱さや熱影響による変質、コスト増が大きな障害でした。
固相接合はこうした課題への強力なソリューションとなります。

昭和期から続く“熱、溶かして加工する”という発想を超えて、固体のままダイナミックに接合する技術への注目度は年々高まっています。

固相接合の代表的な工法と仕組み

摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)

摩擦攪拌接合は、1990年代に英国で開発された新しい固相接合技術です。
特殊なツール(回転子)を母材に押し付け、回転させながら混ぜ合わせることで、摩擦熱を発生させます。
しかし熱は母材の融点以下に抑えられるため、金属が溶けることはありません。
この熱と同時に加わる圧力によって、材料の原子レベルでの拡散が進み、安定した一体化を実現します。

アルミ合金同士はもちろん、溶融接合では難しい異種材料同士の接合(たとえばアルミと銅のハイブリッドバスバーなど)も可能です。
自動車向けバッテリーケースや鉄道車両外板、航空機部材に多く利用されています。

拡散接合(Diffusion Bonding)

拡散接合は、接合したい材料同士を高温・高圧下に長時間曝すことで、接合面での原子拡散を促進させ一体化させる方法です。
材料加熱温度は融点より低く、金属組織の変質を最小限に抑えられる点が大きな特徴です。
主に超精密部品(半導体装置向け部品等)や、多層構造部品の製造で導入事例があります。

超音波接合(Ultrasonic Welding)

超音波接合は、数十kHzの高周波振動を接合部に与え、摩擦熱や変形により材料を接合する技術です。
主に薄肉部品や精密電子部品、樹脂材料、あるいは異種金属部分にも有効です。
短時間で安定した接合ができることが特長で、省エネルギー目的としても注目されています。

固相接合のメリットと業界動向

従来工法にはない固相接合技術特有のメリットは多岐にわたります。

・金属母材の溶融を伴わないため、接合部の熱影響が最小限
・強度、気密性に優れる
・微細組織のまま接合できるため、高信頼性部品に向く
・異種材料の接合が容易
・消費電力が低く、省エネルギー化に貢献
・溶接ヒュームやスパッタ発生がなく職場環境も良く安全

このような特徴から、省資源や地球温暖化対策が求められる現代のものづくりにおいてますますその重要性が認識されています。

しかし一方で、固相接合の普及は“昭和的体質”から抜け出せていない現場では、思った以上に進んでいないのも現実です。
「溶接と言えばアーク」「職人技こそが品質」という土壌では、新技術への抵抗やコスト意識の壁も根強いです。

それでも、サプライチェーン全体で“つながる工場”、つまりトータル最適な物づくりを考える場合、新しい接合技術への理解と導入は避けて通れません。
バイヤー(調達側)は、これらの技術を押さえておくことで、サプライヤー選定やコストダウン交渉において一歩先を行く存在となれるでしょう。

現場に学ぶ、実用化へのカギ

ここで、私自身が製造現場で体感した“成功と失敗”も交え、固相接合技術の実用化ポイントをいくつか挙げます。

1. 品質確認手順の再設計が不可欠

固相接合では接合部の外観変化が少なく、「見た目でOK」と判定しにくい側面があります。
このため、超音波探傷やX線透過、顕微観察といった非破壊検査の強化が不可欠です。
「昭和流の目視チェック」だけでは絶対に通用しません。
プロセス管理記録(加圧力/温度/接合速度など)もデジタルデータで残すことが求められます。

2. 最適な母材設計・前加工が重要

固相接合の適用にあたっては、材料表面の清浄度(油や酸化膜の除去)が品質に直結します。
表面処理や前加工工程の見直し、クリーンルーム運用まで踏み込んで考えましょう。
職人頼りの現場感覚に頼らず、科学的根拠に基づく手順設計が大切です。

3. 設備導入のROI(投資回収率)が要になる

FSWや拡散接合は、専用設備が必要となるため初期投資が大きいのが現実です。
しかし、省人化・自動化への流れも加速しており、労務費や品質コスト削減を総合的に評価しROI計画を立てることが肝心です。
定量的な効果算定が導入判断を左右します。

4. 異種材接合で“新ビジネス”を生み出す

固相接合技術を活かす最大のチャンスとして、“今までできなかった製品・構造”への挑戦があります。
例えば、大手車体メーカーではアルミ・鋼ハイブリッドサブフレーム、航空機メーカーではチタンと複合材のドッキング部品など、差別化可能な新製品開発ができました。

サプライヤー側の立場では、自社のコア技術として固相接合プロセスを提案することで、バイヤーの“困りごと”解決に直結し、新しい受注につなげられる可能性もあります。

バイヤー・サプライヤー目線で固相接合技術を活かすには

製造業調達担当やバイヤーを目指す方にとって、固相接合技術の最新動向を押さえておくメリットは計り知れません。
競合他社より一歩先んじた提案力、ライフサイクルコスト観点からの総合評価、そして将来のESG/サステナビリティ要請に応えるうえでも有効です。

具体的には、

・責任ある原材料調達への対応
・製品寿命延長によるSDGs貢献
・品質安定化による不良品廃棄の大幅削減
・現場の安全性向上による“働き方改革”

こうした観点を押さえ、「なぜこの材料・この接合技術が最適なのか」を明確に説明できるようになることが重要です。

サプライヤーの皆さんは、バイヤーがこうした上流視点でメリットを評価していること、そして価格以外にも品質/環境/将来性など多面的な視点から判断していることを知ることが、ビジネスチャンスの拡大につながります。

まとめ―“新たな地平線”を切り拓く固相接合

固相接合技術は単なる“新しい接合手段”ではありません。
今後の製造業が直面する軽量化・多様化・サステナビリティといった大きな課題を、一歩先んじて解決する突破口となり得ます。

ラテラルシンキングを駆使し、目の前の“昭和的常識”にとらわれない新視点で、自社のプロダクトや工程、組織を見直してみてください。
固相接合技術を起点にした新しいビジネスや働き方が、必ずあなたの現場にも訪れるはずです。

新技術時代の波を恐れることなく、現場目線で実践し、共に“ものづくりの未来”を切り拓いていきましょう。

You cannot copy content of this page