投稿日:2025年6月18日

サウンドデザイン技術による心地よい音作りと高付加価値製品開発に役立つ音質評価ノウハウ

はじめに:製造業におけるサウンドデザインの重要性

近年、製造業では製品の「音」に対するこだわりがますます強くなっています。

これまでは「機能」や「価格」が重要視されることが多かったですが、消費者の価値観が多様化する現代においては、「使い心地」や「体験価値」も製品選びの決定要素となっています。

その中でも、「音」は五感に直接訴える要素の一つであり、製品の価値やブランドイメージに大きな影響を与えます。

たとえば、ドアの閉まる音、スイッチを押す音、モーター音、自動車のドア音…。

これらはすべて、使い手の印象や満足感につながる「サウンドデザイン」として無視できないポイントです。

本記事では、製造業で20年以上働いてきた現場目線から、心地よい音作りのポイントや、高付加価値製品を生み出すための音質評価のノウハウについて、ラテラルシンキングも交えながら徹底解説します。

サウンドデザイン技術とは何か?

サウンドデザイン技術とは、製品から発生する音を「設計」し、「制御」する技術のことです。

たとえば金属部品の当たり音、電子製品の動作音、機械の稼働音など、製造工程や最終製品のあらゆる段階で「音」は発生します。

サウンドデザインは、これらの音を「消す」「改善する」「ブランド価値と結びつける」など、単なるノイズリダクションにとどまらない付加価値創造の技術です。

では実際にどのような現場課題があるのか。

日本の製造業の現場、とくにアナログや昭和的な体質が根強く残る職場では、「音なんて気にするヒマがあれば、1個でも多くつくれ」という空気も少なくありません。

それでも近年は下記のような要望が増えています。

製品のクオリティアピール

自動車ドアや家電の開閉音など、「重厚」「高級感」といったブランドイメージを“音”で表現したい、というニーズがあります。

音への不快感苦情の増加

ユーザーの“音に対する感受性”が向上し、従来は許容されていた小さな異音や雑音でもクレームや悪評につながることが増えています。

安全性や快適性への要求

作業現場の機械稼働音や電子音の設計によって、作業員の疲労軽減や安全性向上を目指す動きも広まっています。

このように、サウンドデザイン技術は製造業の競争力や顧客満足度向上に直結する重要な要素へと進化しています。

音質評価の基本と現場視点で重要となるポイント

サウンドデザインの実践には、「音を定量的・定性的に評価する」ことが欠かせません。

しかし、単に騒音レベル(dB)を下げればよいというものではないのが、現場の難しさです。

ここで、実際に多くのメーカー現場を経験してきた立場から、音質評価で忘れがちな大事なポイントを解説します。

1. ユーザー体験に基づく目標設定

「音」をただ“うるさい”“静か”と感覚で評価するのではなく、製品を使う人の「体験」「目的」に沿って音質目標を設定します。

例えば、「高級車のドア音」は密閉感や重厚感、「生活家電」においては清潔さや親しみやすさといった感覚的価値を“音”で具現化します。

現場でも「どんなシーンで、どんな感情を引き出したいのか?」を言語化し、開発チームやサプライヤーと認識を共有することが土台となります。

2. 定量評価×定性評価のバランス

騒音計だけで測ったdB(デシベル)値などの定量評価に加え、「どんな音色」「響き」「残響」「刺激感」「リズム感」といった聴感評価(定性評価)を徹底します。

ここで、聴感評価は属人化しやすいリスクがあります。

可能な限り、パネル評価やモニター評価など複数人で評価し数値化(官能評価マトリクス化)したり、周波数分析やFFT解析など物理的な分析も組み合わせることで、説得力と再現性を高めます。

3. 現場フィードバックとマスカスタマイズ

製造現場では「量産性」と「個体差の吸収」も重要です。

部材のばらつきや工程差が音質にどう影響するか、量産へ移行した際のバラツキも徹底評価しておきます。

また、納品先ごと・マーケットごとに好まれる音質のトレンド・文化的特徴が違うことも認識し、「現地での最終評価」「小ロットでのチューニング」など、柔軟な対応体制も強化しましょう。

音作りに活きる工程・素材・設計面の工夫

現場視点で「実際にどんな工夫ができるのか」に焦点を当ててみましょう。

部材・素材選定が音作りの第一歩

例えば自動車ドアなら、シールゴムやダンパー、金属ヒンジ、内装パネルの素材や裏張り材の選択だけで音の質感は劇的に変わります。

プラスチック同士の“カチカチ音”なら摺動部に潤滑処理や柔軟素材を挿入する。

金属の鳴き音には固有振動数を分散させるリブ形状や消音シートを追加する、など素材・設計から音に取り組む姿勢が大事です。

CAE解析や模擬評価の徹底

サウンド解析用CAEツールを活用し、設計段階で加振・共振・放射ノイズなどのシミュレーションを実施します。

たとえば、構造に薄肉・厚肉・曲面・可動部などを組み合わせてイメージ通りの音響を「先回り」して検証できます。

プロト機の段階で実際に試作部品の音質評価も欠かせません。

「紙の上の音」と「現場で聞こえるリアルな音」はギャップが出やすいため、試作検証からフィードバックループを早く多く回すほど最終品質が高まります。

制御技術と電子音のデザイン

また、マイコンやECUなどで制御する電子音では、波形生成(サイン波、矩形波など)やピッチ調整、発音タイミング、音量変化(フェードイン・アウト)などの“音響設計”も必要です。

この際、「耳障りにならず、必要な注意喚起や快適さをいかに両立させるか」がプロの腕の見せ所です。

特に近年は「バリアフリー」「ジェンダーレス」「年齢配慮」も重要です。

高齢者や外国人、女性や子どもも直感的に心地よく受け止められるよう、多様なモニター評価を欠かさないことが成功のポイントとなります。

サウンドデザイン技術が生み出す高付加価値

音作りの工夫は「高付加価値」製品開発に直結します。

その事例や効果をいくつかご紹介します。

ブランドイメージ向上

ある大手自動車メーカーは、「車のドアが閉まる音だけで高級感が出せるか?」というテーマを追求し、専用のダンパー形状や樹脂パーツ、吸音材を数百パターン評価しました。

結果、重厚で品のある「カシャン」音を生み出し、ショールームでの初回試乗評価が明らかに向上。ブランドイメージ強化に成功しています。

ユーザーエクスペリエンスの向上

家電メーカーでは、操作音やエラー音を柔らかな電子音に変えることで「家族団らんの妨げにならない」安心設計を実現。

さらに、カスタマイズで好みの音色設定を可能にし「家になじむ」をポイントに差別化を図ったことでリピーター増加へつながっています。

新たなマーケティング価値創造

音の特性(サウンドロゴやシグネチャートーン)を個性づけ、他社との差別化やマーケティング素材として活用するメーカーも増えています。

このような「音作り」への投資が、ユーザー満足度向上・ブランドの世界観表現・デジタル空間での拡散という新時代の価値提供につながっているのです。

サウンドデザイン技術と調達・購買の役割

音質設計を推進するうえで、実は「調達」「購買」部門の役割も大きくなります。

なぜなら、
・特殊な素材や部品の入手
・音響評価に強いサプライヤー探索
・音質を重視した取引基準の明文化

これらが成功のカギを握るからです。

ここではバイヤー視点とサプライヤーに向けたヒントをお伝えします。

バイヤー視点での着目点

・音響分野に強い部材メーカーや加工先を積極的にリストアップする
・価格だけでなく「音質にどれだけ寄り添った提案ができるか」でサプライヤー選定基準を見直す
・納入部品単体だけでなく組み立て後の“音質保証”を契約や仕様書に盛り込む

こうした動きが、社内設計・品質部門との信頼構築や自社ブランド価値の強化に直結します。

サプライヤー側が知っておくべきバイヤーの考え

バイヤーは「単なる部材納入先」以上に「音質設計パートナー」を求めています。

・音に配慮した加工~アッセンブリ対応への柔軟性
・音響試験や聴感評価ノウハウの保有有無
・既存案件で「音」を課題視した際のリカバリー実績

こうした情報発信や“現場訪問による音質提案”は大きなアドバンテージになるはずです。

今こそ、現場でサウンドデザインを武器にしよう

音を制する者は体験価値を制す。

アナログ思考の強い現場だからこそ、
「音は職人の勘にしか頼れない」
「自社は音までは手が回らない」
という意識から一段レベルアップする絶好のタイミングです。

サウンドデザイン技術と音質評価ノウハウを生かせば、どの業種・どの規模のメーカーでも「ユーザー体験の質」という新しい競争軸を手に入れられます。

現場の小さなノイズへの気づきを「高付加価値」という新たなビジネスチャンスに変え、調達・設計・生産・品質…すべての垣根を超えて音作りを楽しみながらチャレンジしていきましょう。

小さな一歩の工夫は、やがて大きなブランド力へと進化します。

サウンドデザインを「ものづくり現場の新しい誇り」に。

高付加価値時代の“音作り”を、あなたの現場でもぜひ取り入れてみてください。

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