投稿日:2025年7月9日

車内音色を改善する遮音吸音設計と騒音対策の実践事例

はじめに:車内音色と製造業の新たな挑戦

「車内音色を改善する遮音吸音設計と騒音対策」。近年、自動車業界では“走る・止まる・曲がる”といった基本性能に加え、快適性の指標として「音」に注目が集まっています。

昭和の車づくりといえば、性能・価格・安全性が最優先でした。しかし現代では、EV化や自動運転技術進展に伴い、エンジン音が消えたことで逆に「静けさ」が強調され、その中でわずかな異音やロードノイズ、風切り音が不快指数を左右する時代となりました。

この変化に対応するため遮音・吸音技術の進化が求められています。本稿では、実際の製造現場で直面する課題と、ラテラルシンキングを用いた新規発想による課題解決アプローチ、そして業界全体の動向を交えながら、実践的な事例を共有します。

なぜ車内音色(音響空間)が重要なのか

車内快適性と顧客満足度の相関

現代の自動車ユーザーは走行性能だけではなく、車内の静粛性や快適性にも高い期待を持っています。

実際、カーオーディオの性能や音声認識、在宅勤務の普及による“車内オフィス化”を後押しする需要増など、「車内=パーソナルな居住空間」としての価値が高まっているのが現状です。

このため、自動車メーカーは他社との差別化ポイントとして静粛性の改良を積極推進。各種レビュー記事や口コミサイトでも、「静かな車内」が購入動機にランクインするほどです。

EV車時代における新たな騒音問題

一方、エンジン音が消滅したことで、これまで気にならなかった微細なノイズ――例えばタイヤからのロードノイズ、足回りからの共振音、外部騒音――が一気に“可聴範囲”に入ってきました。

音色(おんしょく)の善し悪しが車の印象を決定付ける時代。今や静粛性にこそ技術者の心血が注がれています。

現場視点での遮音・吸音設計の基本

遮音 versus 吸音

遮音=音を“通さない”。
吸音=音の“反射・共鳴”を抑える。

この2つは全く異なるアプローチです。一昔前の現場では「とにかく厚い材料で壁をつくる=遮音」と短絡的に考えがちでした。

しかし、物理的に分厚い鉄板や重い素材を世界各国の燃費規制・環境規制下で無闇に追加することはできません。

ここで重要なのが、「適材適所」の思想です。例えばボディのパネル裏に遮音マットを簡単に貼り付けるように指示するだけでは、コストも重量も膨らむばかりで根本解決になりません。

製造業現場に刺さる設計の勘所

製造業の現場では、材料費・工程工数・装着性・メンテナンス性といった現実的な側面を無視できません。

遮音材や吸音材選定では、次の3つの点を重視しています。

1. レイアウトの最適化(無駄を省く配置)
2. 材料構成の見直し(機能分離 vs 複合材料)
3. サプライヤーとの共創(材料プロの知見活用)

車両開発の初期段階から部品調達、サプライヤー協業、現場組立てに至るまで「現実に落とし込めるアイデア」をいかに練り上げるかが、競争力の違いとなります。

遮音・吸音設計の実践事例

事例1:ドアまわりの遮音・吸音強化

多くの車種で“静かな車内”を実現する鍵は、実はドア部分にあります。

従来型:
ドアパネル裏に防振材やウレタン材を「ベタ貼り」する方式が主流でした。

新発想:
ドア内部構造自体を工夫。例えばインナーパネルの形状・リブ配置で共振しにくくする、あるいは極薄でも高密度な多層ラミネート材を部分的に配置。さらにエッジ部品(例:ウェザーストリップ)も閉塞効果を狙って複合形状に進化しています。

現場課題:
工程数も複雑化しますが、サプライヤーとの早期設計段階からの協業により、スムーズな量産化と短納期対応を実現できるようになっています。

事例2:床下・タイヤハウスのロードノイズ対策

従来型:
重量型のアスファルト系遮音材を床下やタイヤハウス周辺に貼付けていました。

新発想:
軽量で高剛性の発泡系吸音材や繊維混合タイプの材料に置き換え。
サプライヤーと共同で素材開発し、自動打ち抜き・ロボット装着などの自動化技術も積極導入しました。

最新の自動車工場における自動化と省人化は、遮音・吸音材の「貼り付け工数削減」、作業者ごとの品質バラツキ抑制にも貢献しています。

事例3:キャビン空間設計と騒音源の特定解析

従来型:
NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)測定は車両完成後の実測が主流。

新発想:
現場発のアイデアとして、開発プロセス初期からCAE解析(流体・音響シミュレーション)を積極活用。
問題箇所を可視化し、どの音が「伝わっている」「籠っている」「共鳴している」のかサプライヤー・現場・開発が一体で早期検証。

ピンポイント吸音材のスポット配置や構造部材配置変更でコストと性能を両立化する手法が生まれています。

調達・サプライヤー連携が生むイノベーション

バイヤーとしての視点

遮音・吸音設計は原材料だけでなく、その加工性、工場での安定供給力、継続的コスト競争力など、調達バイヤーの視点が極めて重要になります。

バイヤーは「もっと静かにしたい!」という開発要望と、「予算・納期・SDGs方針」という経営要求の板挟みに常に立たされています。

現場で求められるのは「数字だけでなく、材料がどんな現場現実に直結するか?」の見える化です。

この点、サプライヤー視点では「自社技術が顧客現場でどう使われるか」を“深堀り”することで新技術・新材料提案に繋がる点を意識すべきです。

サプライヤーと現場、協創の最前線

現場に根差したサプライヤーの提案力が、いま多くの自動車メーカーで再評価されています。

例えば:
・音響テスト設備を持ち込んで、実稼働状態での比較データを提示
・現物サンプル+施工トライアルで装着性や工程負担を開発チームとともに評価
・海外工場にも安価に展開できるようグローバルサプライチェーンを整備
といったリアルな支援が、「取引先=協力パートナー」としての地位を築く近道になっています。

昭和から脱却するための現場ラテラルシンキング

既存の延長線上だけでなく、「業界の常識を問い直す発想」が求められています。

たとえば遮音材や吸音材の“常設”だけに頼らず、
・ユニット部品自体の構造を再設計しパネル共鳴を断つ
・意図的に「心地良さ」を感じる音だけを残し、不快音のみ遮断する“音響ブランド化”
・生産ラインの工程でAI・IoTを活用し、組立て段階の“音”までリアルタイム診断・自動修正
といった事例も台頭しています。

業界のデジタル転換(DX)が十分に進んでいない現場でも、「音の見える化」や工程自動化、現場作業者が自ら分析・提案できる環境整備が静粛性品質の底上げに繋がります。

まとめ:製造業現場から次世代へ伝えたい遮音吸音設計の極意

車内音色の改善は、単なる音の遮断や吸収だけでなく、「心地よさ」と「現場現実」を溶け合わせる総合的な設計思想が求められる時代です。

量産性・コスト・開発期間……現場にはさまざまな制約が存在しますが、調達購買、生産管理、品質管理、サプライヤー現場それぞれの知見をクロスオーバーさせることで、不可能を可能にするラテラルシンキングが生まれます。

ぜひ、この記事をきっかけに、日々の現場課題に新たな視点を持って取り組み、「静かで心地よいクルマ」「サステナブルな製造現場」の実現へ、一歩踏み出していただければ幸いです。

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