投稿日:2025年8月24日

関税効果を織り込んだ調達先選定で総コストを最小化するソーシング分析

はじめに:関税と調達先選定の密接な関係

製造業における調達活動において、最も大きな課題の一つは「いかにして総コストを最小化しつつ、安定的に高品質な原材料や部品を供給できるか」という点です。

近年、グローバルサプライチェーンの複雑化とともに、調達先選定の際に見落とせない要素となったのが「関税効果」です。

これは単なる輸入品に課される税金以上の意味を持ちます。

調達先の選定を誤れば、期待したコスト削減効果が薄れたり、逆に総コストが増大するリスクさえあります。

本記事では、20年以上の現場経験とマネジメント視点から、関税を最初から織り込んだ実践的な調達先選定手法について、昭和的な慣習が根強く残る現場のリアルも交えつつわかりやすく解説します。

バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場からバイヤーの本音を知りたい方にも役立つ内容です。

「調達先選定=価格優先」からの脱却を

調達現場では「とにかく安いものを買う」のが長年の常識となっていました。

しかし、安価な海外サプライヤーを選定しても、実際に輸入にかかるコスト(関税、輸送費、リードタイム延長による在庫費用など)を加味すると、国内調達とトータルコストが逆転してしまう例が後を絶ちません。

現場感覚では「価格交渉さえすれば全てうまくいく」という昭和的価値観が未だに強く残っています。

しかし今やバイヤーには、関税の専門的な知識と分析力が必須です。

関税の基礎知識と最新動向

関税の種類と影響

関税には、従価税(価格に対する一定割合)、従量税(数量・重量ごと)、混合関税などの種類があります。

対象品目や原産国によって適用税率も異なります。

例えば日中貿易と日欧貿易ではまったく違うルールが存在しますし、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)の活用如何で大きくコストが変動します。

関税最新トレンド

直近数年は米中貿易摩擦、各国での脱炭素政策、サプライチェーンリスク回避の動きなどを背景に、関税政策はますます複雑化しています。

また、日本ではRCEPや日英EPAなど新たな協定の発足により、関税率が段階的に引き下げられる品目が増加しています。

最新情報のキャッチアップが肝要です。

調達先選定プロセスに「関税シミュレーション」を組み込む

調達先候補をリストアップする際、「FOB(本船渡し)価格」だけでなく「DDP(関税・輸送費を含めた仕向地持込価格)」を必ず算出します。

現場では、エクセルなどで各要素を積み上げるケースが多いですが、ここで漏れが起こりやすいポイントを整理しましょう。

主なコスト要素の洗い出し

  • 原材料・部品そのものの価格(FOB)
  • 輸送費用(海上・航空・陸送)
  • 関税・輸入消費税・通関費用
  • リードタイム(調達リスク・調整在庫費用)
  • 為替差損益
  • 品質対応コスト(クレーム・検査強化・再補充)

この中で「関税」は、市場や政策変更だけでなく、同じ商品でもHSコード(品目分類表記)が変わるだけで大きく差異が生じます。

ここを押さえておくことで、想定外のコストアップを避けられます。

サプライヤー比較時の分析フロー

1. 国内外複数のサプライヤーから見積り(FOB等)を取得
2. 調達品のHSコードを特定し、関税率を調査
3. 各サプライヤーからの納入時のリードタイムや輸送経路を確認
4. 上記をもとにDDP価格(総コスト)を算出
5. 品質や供給安定性を加味したうえで意思決定

特にバイヤー未経験者は、HSコード特定と関税率調査の難しさ・重要性を見落としがちです。

社内購買部門と物流部門、必要があれば専門商社やコンサルタントのアドバイスもフル活用しましょう。

「もう一歩踏み込む」ラテラルなソーシング分析の視点

最新の法規制・政策変化を掛け合わせる

例えば2024年現在、RCEPによって一部アジア圏工業製品の関税は順次引き下げられています。

「段階的に安くなる」観点から、調達計画自体を「今すぐ」ではなく「数年後に一本化する」などのシフトも有効です。

また、原産地証明の取得方法やインボイス制度への対応も検討材料です。

BCP視点での複数ソース戦略×関税

「脱中国」「多国間分散調達」はコロナ禍以降ますます加速しました。

しかし、ベトナムやタイからの調達は現状、関税面で日本市場との親和性が低い場合もあります。

低関税メリットとBCP(事業継続計画)リスク分散を複合的に分析し、最適解を探る視点が必要です。

原産地ルールの専門的理解と適用

関税率0%になるEPA活用のためには「原産地規則(ルール・オブ・オリジン)」の理解が不可欠です。

一部工程だけ日本国内、その他は海外といったケースでは「みなし原産品」要件をクリアできるかの確認が要ります。

実際、ここに手が回らない企業は本来享受できたはずの関税メリットを「みすみす逃している」ことが多々あります。

事例:総コストとリスクを計算しつくした調達戦略

ある部品メーカーでは、過去10年以上中国一本足の調達を続けていました。

ただ、米中摩擦激化で関税率が突然アップしたのをきっかけに、ベトナム・インドネシア・国内地場サプライヤーを新たにリストアップ。

それぞれのFOB価格・輸送費・関税率を徹底的に精査し、「主要調達先とリスク分散先」を明確に分けて発注しました。

結果的に、総コストは平均3%減少、リスク対策費も抑えられたうえに、サプライヤー同士の価格競争意識も高まりました。

関税コストをインタラクティブにシミュレーションした点、関税政策の将来変化も統合的に分析した点が成功のカギでした。

現場で効く!具体的な分析ツール活用法

HSコード検索ツール

経済産業省「HSコード管理システム」や税関の無料データベースを活用し、正確な関税率をリアルタイムで把握します。

実際の取引商品が複数品目にまたがるケースでは、関税コンサルや通関業者の見解も必須です。

総コストシミュレーション表

エクセルで「価格・関税・輸送・為替・在庫」などを行・列にし、どのサプライヤーが総コストに優れるか、シナリオ別に可視化します。

近年ではSCM専用のSaaS(クラウドサービス)を使ったシミュレーションも主流です。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる視点のアップデート

バイヤーには「コストプラスアルファ」の交渉力、サプライヤーには「関税を意識した提案力」が不可欠です。

バイヤーが自社の総コスト構造を詳細まで理解していれば、サプライヤー側も「関税負担軽減に役立つ証憑作り」や「最適なインコタームズ提案」などで付加価値を出せます。

最近では、サプライヤー側が「国内特約店経由(代理店スキーム)」で関税コストを最小化するといったノウハウの共有事例も増えています。

まとめ:時代遅れの調達を脱却し、総合力で勝つために

昭和型調達は「価格重視」だけで物量をさばけた時代の遺物です。

今日のサプライチェーンには、情勢変動を見越した多面的な分析と関税知識のアップデートが不可欠です。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場で、最新の関税情報を常に取り入れ、総コスト最小化のための精緻なシミュレーションに取り組みましょう。

現場は「リアルな肌感覚」だけで乗り切れる時代ではありません。

ラテラルに、時には常識を疑い、新たな調達戦略を切り拓いていく――これこそが、次世代のバイヤー・製造業サプライヤーに求められる新しい力です。

皆さまの現場が「関税を制するものは調達を制す」の精神で、より強靭なサプライチェーンへと進化することを強く願っています。

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