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購買部門と設計部門の意思統一不足で仕様が二転三転する課題

購買部門と設計部門の意思統一不足で仕様が二転三転する課題
はじめに:現場でよくある「仕様が変わる」問題の本質
製造業の現場で働く方なら、一度は経験したことがあるでしょう。
「設計図が変更になったから」「仕入先の部品で仕様が変わった」。
あるいは「価格交渉でもう少し安い部材に変更を」など、設計部門と購買部門の間で意思統一ができておらず、何度も仕様が変更されてしまうという現象です。
この「仕様の二転三転」は、ストレスでしかないだけでなく、納期遅延・品質問題・コスト増大など、多くのリスク要因にもなります。
今回は、なぜこうした問題が起こるのか、そしてどう対処すべきかを、現場経験を元に解説します。
問題の背景:なぜ意思統一が難しいのか
設計部門と購買部門は、目指すゴールが微妙に違います。
設計部門は、要求仕様を満たし、安全かつ性能が高い製品を、なるべく理想的な素材や部品で作りたいという発想が強い部署です。
一方の購買部門は、コストダウンや安定調達、仕入先との交渉、在庫リスク圧縮など、「経営上の損得」を強く意識します。
どちらも企業の発展には不可欠であるものの、企業の組織風土によってはこの二つの部門間で価値観の違いが顕在化しやすくなります。
とくに昭和期から続くアナログな業界では、部門間のコミュニケーションが紙、電話、FAX中心で「伝わらない」「意見がすれ違う」「文書化されず、口約束だけ」ということも珍しくありません。
現場でよく起こる典型的な二転三転パターン
1. 設計段階では「これで行こう」と決まっていた部材について、購買部門がコストや納期の都合で「やっぱり別の仕入先に…」と変えた結果、設計変更になる。
2. 海外サプライヤーの材料に変更したが、「サンプルは良かったが量産品は性質が微妙に違った」という実情に直面して、また設計変更。
3. 品質規格を強化したいと設計が考えるが、購買から「そんなスペックは国内で調達できない」と反発され妥協→さらに営業部門から「コストが上がると売れない」と指摘され、再度仕様見直し。
4. サプライヤーとの価格・納期交渉中に、急な仕様追加・変更依頼が発生し、外部にも混乱が波及。
これらはすべて、「プロセスの初手で全体合意が取れていない」「情報伝達の透明性・即時性が低い」ことで起こる悲劇です。
二転三転がもたらす具体的なデメリット
こうした仕様のブレは、現場に多大な負荷をもたらします。
– サプライヤーとの信頼関係が損なわれる
– 発注ミス、キャンセルが増えてコスト増
– 製造ラインの段取り変更、リワークが発生し、納期にも影響
– 結果的に“誰も得しない”仕様になる(不本意な妥協・品質劣化)
特に、数社で相見積もり・並行開発している場合、仕様変更のたびに各方面に「仕様最新連絡」「図面再発行」「見積り再取得」が必要になり、人的工数が膨らみます。
なぜ解決しにくいのか?昭和の業界文化という根深い問題
私が工場長時代に痛感したのは、「なんとなく感覚で動いてしまう」昭和的な現場文化の存在です。
たとえば、「このくらいなら設計に相談せず見積りを先に取っておこう」といった独断先行や、「FAXで一報してあるからOK」の感覚が、今も多くの現場に根付いています。
また、「上への報告は完了。とりあえず現場に任せておけばなんとかなる」という“丸投げ”体質、さらには部門間での情報共有不足が、問題の温床となっています。
その結果、購買部門は「出来る限り安く素早く」という過去の成功体験から抜け出せず、設計部門は「自分たちの理想を優先」と考えがちです。
両者が歩み寄るには、単なる会議や手順書では解決できない「組織文化の壁」が立ちはだかっています。
解決策①:部門横断型の“フラット”な会話の場を設ける
まず最も重要なのは、部門間の「本音で話せる対話の場」を定期的に作ることです。
「設計部門と購買部門の二者会議」ではなく、品質・生産技術・営業も巻き込む“クロスファンクション”型の検討会。
これを初期設計段階から設置し、要求仕様・コストターゲット・調達リスクの情報をしっかりすり合わせることが重要です。
私の経験上、設計主導でスタートした案件も、購買の想定している調達ルートや価格相場を早い段階で共有しておくと、仕様二転三転のリスクが激減します。
「この原価帯ならA案は無理なので、B案かC案で固められる」など、具体的事実を共通の土台にします。
さらに、「このスペックの部材は調達難易度が高い」などマイナス情報も正直にテーブルに出す文化を醸成しましょう。
解決策②:仕様管理システム・ワークフローをデジタル化
伝統産業や中小規模の工場では、「設計書は紙」「伝達は口頭・電話・FAX」という運用が主流です。
しかし、これが仕様混乱の最大の引き金となっています。
今は小規模なクラウド型PLM(製品ライフサイクル管理)ツールや、仕様変更履歴を一元管理できるSaaSも多く存在します。
最低限、「最新仕様はこれ」という一元的なデータベース・ワークフロー管理を全社で運用する体制が必要です。
これにより、「どのバージョンの仕様が現在正式なのか」「なぜ、どのタイミングで、誰が何を依頼/変更したのか」の追跡管理(トレーサビリティ)が実現します。
現場サイドでは「自分が参照している図面バージョンが間違っていないか必ず確認する」というルーチンが根付きます。
解決策③:購買と設計、両者のKPI(評価指標)を意図的にリンクさせる
しばしば、「設計部門は品質重視、購買部門はコスト重視」という一面的なKPIが原因で組織間の意識乖離が発生します。
そこで、双方のKPIとして「QCD(品質・コスト・納期)」に加え「相手のKPIにも貢献できる施策提案」が求められる評価指標を設けるのがおすすめです。
たとえば、購買担当者の評価に「設計部門と合意した仕様遵守率」や「部門間イノベーション提案数」を加えるなど、相互理解と歩み寄り促進がポイントです。
KPIに明確な連動性を持たせておくと、「自分ごと」として取り組めるため、組織として一体感が生まれやすくなります。
まとめ:アナログからの脱却が日本の製造業活性化のカギ
購買部門と設計部門の仕様二転三転問題は、長年現場で悩むテーマですが、その裏には「組織風土」「プロセスの属人化」「デジタル活用の遅れ」という根深い課題があります。
いまや、現場で起きている問題の原因や課題は、すべて社内の“伝統文化”や“情報伝達手段”が引き起こしているものかもしれません。
まずは、部門横断的なコミュニケーションの機会を作り、初期段階から全員の目線を揃えること。
そして、紙とFAX文化から脱却し、仕様・変更履歴を誰でも追えるデジタルフローに移行する。
また、評価指標の設計次第で、組織全体の“合意形成”が自然とチーム文化として定着していきます。
バイヤー志望の若い方には「購買は単なるコストカットではない、全社の最適化に貢献する“司令塔”である」ことを強く実感してほしいです。
サプライヤーとしても、バイヤーや設計者が何をどう悩み、意思決定しているのかを知ることで、自社の強みをより生かせる提案ができるようになるでしょう。
日本の製造業全体がこの課題を乗り越えること、昭和から続くアナログの壁をアップデートすることこそ、グローバル競争に勝ち抜くための新たな地平線となるはずです。
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