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黒染めの指定——防錆の程度と防せい油、寸法変化、MIL-DTL-13924 のクラスとパーカー処理との違い

この記事のポイント(結論先出し)
鉄鋼部品の黒染めは、JIS では化成処理の一つ(黒染処理)、加工方法記号では SOB として名前が決まっているだけで、品質を決める JIS は無い[3][4]。皮膜そのものの防錆力は低く、防錆油を塗って耐食性を補う使い方が前提になる[1][2]。一方で寸法はほとんど変わらないので、図面寸法は処理後の寸法として扱える[1]。発注では、処理の方法(クラス)、仕上げの油の種類、外観と皮膜の確かめ方、硬い鋼の扱いを文で書く。仕様書の骨組みには、米国防総省の規格 MIL-DTL-13924E が使える[1]。
目次
この記事の範囲
この記事でいう黒染めは、鉄鋼の機械部品・治工具・ねじなどに施す工業用の黒色化処理で、髪や布の染色の話ではない。アルカリの浴で鋼の表面に黒い酸化皮膜を作る処理(アルカリ着色法とも呼ばれる)を、発注する側がどう指定し、受入で何を確かめるかに絞る。
表面処理の種類を目的から選ぶ段階の話と、図面の記号の読み方は表面処理の種類と図面の記号で扱った。そちらでは黒染めを「記号で中身が決まらない処理」として整理したので、この記事は、記号の後に何を書けばよいかを具体的にする。仕上げの防せい油の種類の選び方は輸送・保管の防錆の指定で詳しく扱っている。
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黒染めは、名前だけが規格にある
JIS H 0400(電気めっき及び関連処理用語)は、化成処理を「化学及び電気化学的処理によって,金属表面に安定な化合物を生成させる処理」と定義し、その例としてりん酸塩処理、クロメート処理、黒染処理を挙げている[3]。JIS B 0122(加工方法記号)では、表面処理のうち着色(SO)の下に黒染め(SOB)が置かれている[4]。どちらも処理の名前を示すだけで、色の濃さ、皮膜の確かめ方、仕上げの油、合否の基準は決めていない。めっきなら JIS H 8610 や JIS H 8617 のように品質と試験方法を定めた規格があるが、黒染めにはそれに当たる JIS が無い。
そのため、図面に「黒染め」「SOB」とだけ書くと、仕上がりは仕入先の設備と慣行で決まる。名古屋市工業研究所の技術解説は、鉄の黒染めは水酸化ナトリウムを主成分とする浴で鉄鋼表面に酸化皮膜を作る方法で、一般に 140 ℃前後の溶液の沸点で処理されると説明したうえで、よくある問題として、所定の処理をしても思うような皮膜が得られないことがあり、多くは処理温度が不適切なためで、素材の種類によって適切な処理温度を使うことが重要だと書いている[2]。仕上がりのばらつきは、処理条件と素材の組合せで起きる。
仕様書の骨組みには MIL-DTL-13924E が使える
品質まで決めた公開の規格としては、米国防総省の MIL-DTL-13924E(Coating, Oxide, Black, for Ferrous Metals)がある。2018 年 9 月の版で、炭素鋼、低合金鋼、耐食鋼(ステンレス鋼)、錬鉄に施す黒色酸化皮膜を対象にしている[1]。防衛装備品向けの規格だが、処理のクラス、検査、受入の考え方がまとまっているので、海外の仕入先に黒染めを頼むときの共通の言葉として、そのまま、または必要な部分を引用して使える(当方の提案)。
この規格は処理を 4 つのクラスに分けている[1]。
| クラス | 対象の材料 | 処理 | おおよその温度と時間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 炭素鋼、低合金鋼、錬鉄、鋳鉄・可鍛鋳鉄 | アルカリ酸化(クロムを含まない沸騰液) | 141〜152 ℃・5〜60 分 |
| 2 | 482 ℃未満で焼戻しした一部の耐食鋼 | クロム酸塩を含むアルカリ酸化 | 121±5 ℃・30〜45 分 |
| 3 | 482 ℃以上で焼戻しした耐食鋼 | 溶融塩酸化 | 溶融浴 399〜454 ℃・30 分 |
| 4 | その他の耐食鋼 | アルカリ酸化(市販の薬剤) | 121〜130 ℃・15〜30 分 |
数値は MIL-DTL-13924E の 1.2 と表 I(処理の概要)による[1]。温度と時間は「おおよその」値として示されたもので、要求値ではない。クラス 3 の溶融塩の温度は 482 ℃を超えてはならないとされている[1]。
表から読めるのは、一般の鋼部品の黒染めはクラス 1 に当たり、ステンレス鋼は焼戻し温度などでクラスが分かれ、クラス 2・3 はクロム化合物を使うことである[1]。同じ規格は、契約で禁じられていない限り、六価クロムを含む仕上げの代わりにクロムを含まない仕上げを使うべきだとしている[1]。ステンレス部品の黒色化を頼むときは、材質と熱処理の履歴を伝え、どのクラスで、クロム化合物を使ってよいかを書く。
防錆力は低い。油まで含めて指定する
MIL-DTL-13924E は適用範囲の中で、黒色酸化皮膜によって得られる防食はごく限られ、穏やかな腐食環境でのものにとどまるとしている[1]。注記では、長期保管に入る部品には推奨しない、長期保管が必要なら保護用の防錆剤の塗布か乾燥剤入りの包装を使う、とも書いている[1]。名古屋市工業研究所の解説も、皮膜そのものの耐食性は低く、皮膜の上に防錆油を塗って耐食性を向上させる方法が用いられているとしている[2]。
つまり黒染めの防錆は、皮膜と油の組合せで決まる。図面に「黒染め」とだけ書くと、油を塗るか、どの油を塗るかが仕入先の判断になる。MIL-DTL-13924E は、補助の防錆処理(supplementary preservative)の材料と塗り方は最終品の仕様または別の指定によるとし、指定がない限り、最終工程(または水素ぜい化除去)の直後に、清浄で乾いた部品に施すとしている[1]。注記には、水置換形の防錆剤の例として MIL-PRF-16173 grade 3 が挙がっている[1]。
国内の仕入先に出すなら、油の種類は JIS K 2246(防せい(錆)油)の記号で書ける。JIS K 2246 は 2026 年 1 月に改正され、指紋除去形(NP-0)、溶剤希釈形(NP-1、NP-2、NP-3-1、NP-3-2、NP-19)、ペトロラタム形(NP-6)、潤滑油形(NP-7・NP-8・NP-9・NP-10-1〜NP-10-3)、気化性(NP-20-1、NP-20-2)に分け、膜の性質と主な用途を示している[5]。たとえば NP-3-1 は水置換形の軟質膜で、主として屋内での防せいに使うとされている[5]。組立工程で油を落とす部品なら、落としやすさ(除膜性)も条件になる。どの記号を選ぶかは、保管の期間と環境、次の工程で決める。
耐食性を試験で確かめたい場合、MIL-DTL-13924E が塩水噴霧試験(96 時間で腐食の兆候がないこと)を求めているのは、クラス 4 の 300 系耐食鋼で、防錆剤を塗る前の皮膜に対してだけである[1]。クラス 1 の一般鋼の黒染めには、塩水噴霧の合否基準は置かれていない[1]。JIS Z 2371 の塩水噴霧試験はめっきなどの無機皮膜を施した金属材料の耐食性試験に使えるが[6]、黒染め品で行うなら、油を塗った状態で試すのか、何時間で何を見るのかを自分で決めることになる。試験条件の決め方は塩水噴霧試験を仕様に入れるときを参照してほしい。
寸法はほとんど変わらない
MIL-DTL-13924E の注記は、鉄鋼の黒色酸化皮膜は処理した部品にはっきりした寸法変化を生じないはずであり、したがって図面の寸法は皮膜を付けた後の寸法である、としている[1]。同じ規格は、より耐食性の高い仕上げの厚みを許容できない動く部品に特に適している、とも書いている[1]。はめあいの公差が厳しい部品や、ねじの精度を保ちたい部品で黒染めが選ばれるのはこのためである。
この性質は裏返すと、黒染めには膜厚で品質を判定する手段がないということでもある。めっきのように「最小厚さ何 μm」と書いて測ることはできないので、品質は外観と皮膜の試験で確かめる。
外観と皮膜の確かめ方
MIL-DTL-13924E は、皮膜が素地を完全に覆い、色は一様な黒であることを求め、まだら(spottiness)やすじ(streaking)は不満足として再処理の理由になるとしている[1]。皮膜を白い布でぬぐって黒い粉(スマット)の付き方を見る試験もあり、処理に固有のわずかなスマットは不合格の理由にならないが、赤褐色や緑色のスマットがあってはならない[1]。
クラス 1〜3 では、防錆剤を塗る前の皮膜にシュウ酸のスポット試験を行う[1]。5 % のシュウ酸溶液を平らな部分に 3 滴(0.2 ml)落として 30 秒から 8 分まで反応を見た後、水で洗って規格の図と比べ、中心が淡い灰色で縁がさらに淡いものは品質の悪い皮膜、中心が灰黒色で縁が淡いものは境界の品質と判定する[1]。良い品質の図に合うことが求められる[1]。受入で黒さを目で見るだけだと、薄い皮膜を見分けにくいので、この種の試験を成績書に入れてもらうとよい(当方の提案)。
ロットと抜取りの考え方も参考になる。この規格では、同じクラス、同じ素地金属、ほぼ同じ大きさと形の部品を同じような条件で処理したものを 1 ロットとし、連続した生産の最大 8 時間分をロットの上限としている[1]。抜き取る数は発注者が決め、試験片が一つでも要求を満たさなければ、そのロット全体を不合格とする[1]。
硬い鋼は、処理前後の扱いを指定する
MIL-DTL-13924E は、黒染めはすべての機械加工、成形、溶接、冷間矯正、熱処理が終わった後に行うことを原則としている[1]。そのうえで、硬さが 39 HRC を超える鉄系部品は、成形と焼入れの後、洗浄と処理の前に、規定の最小硬さを下回らない温度で残留応力を除くことを求めている(洗浄と処理が部品に害を及ぼさないことを 90 日を超えない期間ごとの試験で示している場合は不要)[1]。39 HRC 以上に表面または全体を硬化した鋼部品には、皮膜を付けた後に水素ぜい化の除去処理を行い、その後に防錆剤を塗る、とされている[1]。注記には、39 HRC 以上の高強度鋼は黒染め処理中に内部応力や外力がかかっていると、アルカリによるぜい化(caustic embrittlement)で自然に割れることがある、という注意がある[1]。
焼入れした工具やばね、高強度のボルトに黒染めを頼むなら、素地の硬さを伝え、応力除去とぜい化除去をするか、処理の温度が焼戻しの温度と干渉しないかを仕入先と確かめる。規格は、選んだ処理が部品の硬さを下げたり、材料の焼戻しぜい性の温度域にさらしたりしてはならないとしている[1]。熱処理の指定の書き方は熱処理を図面で指定するで扱っている。
りん酸塩処理(パーカー処理)・めっきとの選び分け
りん酸塩処理(パーカー処理、パーカーライジングとも呼ばれる)も、JIS H 0400 では化成処理の一つで、りん酸塩を含む水溶液で化学的に皮膜を生成させる方法と定義されている[3]。黒染めとは使う液も皮膜も違う別の処理で、図面に「黒染め又はパーカー」と並べて書くと、仕入先が都合のよいほうを選べてしまう。どちらにするかは、用途で決めて一つに絞る。
黒染めを選ぶ理由が「黒い外観」「反射を抑えたい」「寸法を変えたくない」にあるなら黒染めでよい。名古屋市工業研究所の解説は、金属の黒色化は装飾性、反射防止性、防眩性などの機能のために使われ、手法にはめっき、化成処理、塗装、陽極酸化があるので、素材、色調、使用目的、処理コスト、処理の容易さで選ぶ必要があるとしている[2]。屋外や湿気の多い場所で錆びないことを求めるなら、黒色のクロメートを付けた亜鉛めっき(三価クロメート・化成処理の指定)や、同じ束のニッケルめっき(JIS H 8617)の指定で扱う等級つきのめっきと比べる。摺動面の摩耗が問題なら、同じ束の工業用クロムめっきの指定も候補になる。
注文書に書くこと
MIL-DTL-13924E は、発注書類に書くべき事項として、規格の名称・番号・日付、皮膜のクラス、ロットから検査する試料の数、出荷前の受入要求(規格と違う場合)、水素ぜい化の試験片を挙げている[1]。これを国内の発注に置き換えると、次の項目になる(当方の提案)。
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1. 素地の材料と硬さ
材料記号、熱処理の有無と硬さ。39 HRC を超えるなら処理前の応力除去の要否、39 HRC 以上なら処理後の水素ぜい化除去の要否[1]。
2. 処理の方法
MIL-DTL-13924E のクラスを引用するか、アルカリの浴による処理であることと、クロム化合物を使ってよいか。
3. 外観
一様な黒であること、まだら・すじの扱い、限度見本の有無。
4. 皮膜の確かめ方
スマット試験、シュウ酸スポット試験などを成績書に入れるか。
5. 仕上げの油
JIS K 2246 の記号と、塗る範囲[5]。
6. 保管と包装
想定する保管期間と環境。長期保管なら包装の方法[1]。
よくある質問
Q. 「四三酸化鉄皮膜」と書かれた図面があります。黒染めと同じですか。
現場ではそう呼ばれることがあるが、この記事で確かめた規格・公的資料(JIS H 0400、JIS B 0122、MIL-DTL-13924E、名古屋市工業研究所の解説)は、皮膜の化学組成で処理を定義していない[1][2][3][4]。呼び名ではなく、処理の方法と確かめ方で指定する。
Q. 黒染めした部品に赤錆が出ました。不良ですか。
黒染めの皮膜そのものの防錆力は低く、防錆油を前提にした処理である[1][2]。油の種類と保管の条件を発注時に決めていたかどうかで判断が分かれる。決めていなかったなら、まず油と保管の条件を決め直す。
Q. ステンレスも黒染めできますか。
MIL-DTL-13924E は耐食鋼もクラス 2〜4 で対象にしている[1]。ただしクラスによって材料と焼戻し温度の条件があり、クロム化合物を使う処理もあるので、材質と熱処理の履歴を伝えて処理の方法を決める。
まとめ
黒染めは JIS では化成処理の一つ(黒染処理)、記号では SOB として名前があるだけで、品質を決める JIS は無い[3][4]。皮膜の防錆力は低く、防錆油まで含めて指定する[1][2][5]。寸法はほとんど変わらず、品質は膜厚ではなく外観と皮膜の試験で確かめる[1]。仕様書の骨組みには MIL-DTL-13924E のクラス、検査、硬い鋼の扱いが使える[1]。耐食性を試験で確かめるなら、試験条件を自分で決める[6]。
出典・参考資料
- MIL-DTL-13924E Coating, Oxide, Black, for Ferrous Metals(米国防総省/2018 年 9 月 12 日)
- 技術解説「金属の黒色化技術」月刊名工研・技術情報 No.643(名古屋市工業研究所/平成 16 年 8 月)
- JIS H 0400:1998 電気めっき及び関連処理用語(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS B 0122:1978 加工方法記号(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1978 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS K 2246:2026 防せい(錆)油(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2026 年 1 月改正)
- JIS Z 2371:2015 塩水噴霧試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2015 年 6 月改正・2025 年 10 月確認)
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