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投稿日:2026年10月16日

ニッケルめっき JIS H 8617 の指定——等級と最小厚さ、光沢・半光沢・二層、無電解との使い分け

この記事のポイント(結論先出し)

電気ニッケルめっきは JIS H 8617(ニッケルめっき及びニッケル-クロムめっき)で、対象は防食と装飾の目的のめっきである[1]。等級は素地・下地・最上層・最小厚さの組合せで決まり、鉄鋼素地の表 1 に載っているのはニッケル単層ではなく銅-ニッケルめっき(3〜20 μm の 5 等級)である[1]。光沢・半光沢・二層などのニッケルのタイプは JIS H 0404 の記号(b・s・d・t)で書き分け、光沢ニッケルは硫黄を含み、半光沢ニッケルは含まないとされる[2]。耐食性の試験時間は等級ごとに規格の表で決まっている[1]。硬さや耐摩耗を求めるなら、無電解ニッケル-りんめっき(JIS H 8645)と比べてから選ぶ[5]。

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ニッケルめっき(ニッケルメッキと書かれることも多い)は、鉄鋼や銅合金の部品の防錆、外観の仕上げ、クロムめっきや金めっきの下地として広く使われている。この記事は、電気めっきで付けるニッケルを、部品を発注する側がどう指定し、受入で何を確かめるかに絞る。

めっきの発注全般で決める項目(記号の書き方、有効面、膜厚の測り方、密着性の試験方法)はめっきの発注で指定することで扱った。電気を使わない無電解ニッケル-りんめっきは無電解ニッケルめっき(JIS H 8645)の指定で扱っている。ニッケルの上に付けるクロムの層(普通・マイクロポーラス・マイクロクラック)と、耐摩耗のための工業用クロムめっきは、同じ束のクロムめっき(JIS H 8615・H 8617)の指定に分けた。

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JIS H 8617 が対象にしているもの

JIS H 8617 の適用範囲は、鉄及び鋼、銅及び銅合金、亜鉛合金、アルミニウム及びアルミニウム合金の素地上に、防食並びに装飾の目的で行った有効面のニッケルめっき、銅-ニッケルめっき、ニッケル-クロムめっき及び銅-ニッケル-クロムめっきである[1]。二層ニッケルやマイクロクラッククロム、マイクロポーラスクロムなども含み、黄銅めっきは銅めっきに含める、と注がある[1]。対応国際規格は ISO 1456:1988 で、最新改正は 1999 年、2023 年に確認されている[1]。

読み方で大事なのは「防食並びに装飾の目的」という限定である。耐摩耗や寸法補正のために厚く付ける工業用途のニッケルは、この規格の想定の中心ではない。図面に「ニッケルめっき 30 μm(耐摩耗)」のように目的の違う指示がある場合、規格の等級表に当てはめるのではなく、目的と必要な性能(硬さ、厚さの許容差など)を仕入先と個別に決めることになる。

等級は「素地・下地・最上層・最小厚さ」で決まる

JIS H 8617 では、めっきの種類、等級、記号を、素地金属、下地めっき、最上層めっき、めっきの最小厚さによって表 1〜表 2 のとおり区分し、記号は JIS H 0404 による[1]。最上層にクロムを付けないものが表 1、付けるものが表 2 である。

表 1 に載っている組合せは 2 つしかない。鉄鋼素地の銅-ニッケルめっき(1〜5 級)と、銅及び銅合金素地のニッケルめっき(1〜3 級)である[1]。鉄鋼の上にニッケルだけを付ける組合せは表 1 に無い。鉄鋼素地の場合は、銅の下地を入れた銅-ニッケルめっきとして等級が決められていて、銅とニッケルのそれぞれの膜厚は受渡当事者間の協定による、と備考にある[1]。鉄鋼部品に「ニッケルめっき 5 μm」とだけ書くと、下地の銅を入れるかどうか、合計で 5 μm なのかニッケルだけで 5 μm なのかが決まらない。

素地とめっき 等級と最小厚さ 耐食性試験(表 4) 使用環境
鉄鋼/銅-ニッケルめっき 1 級 3 μm・2 級 5 μm フェロキシル試験 D
鉄鋼/銅-ニッケルめっき 3 級 10 μm・4 級 15 μm・5 級 20 μm 中性塩水噴霧 24 時間 D
銅及び銅合金/ニッケルめっき 1 級 3 μm・2 級 5 μm・3 級 10 μm 中性塩水噴霧 24 時間 D
鉄鋼/ニッケル-クロムめっき 1〜3 級(ニッケル 3〜10 μm) キャス 4 時間 D
鉄鋼/ニッケル-クロムめっき 4・5 級(ニッケル 15・20 μm) キャス 8 時間 C
鉄鋼/ニッケル-クロムめっき 6〜8 級(ニッケル 25〜40 μm) キャス 16 時間 B
鉄鋼/ニッケル-クロムめっき 9 級(二層ニッケル 30 μm) キャス 24 時間 A

JIS H 8617 の表 1・表 2・表 4 から、鉄鋼と銅合金の素地の行を抜き出した[1]。使用環境の記号は、D が通常の屋内、C が湿度の高い屋内、B が通常の屋外、A が腐食性の強い屋外である(規格の参考表 1)[1]。亜鉛合金とアルミ合金の素地の行は規格の表 2・表 4 を見る。

表から読めるのは、ニッケルを厚くし、最上層にクロムを付け、二層にするほど、想定する環境が屋内から屋外へ広がり、課す試験も厳しくなるという関係である。発注側は、部品がどの環境で使われるかを先に決め、それに合う等級を選ぶ。等級を選んだら、記号か最小厚さのどちらかで書く。JIS H 0404 では、めっきの厚さを表す数字は有効面での最小厚さを μm で示したものとされている[2]。

光沢・半光沢・二層は記号で書き分ける

ニッケルの「タイプ」は、JIS H 0404 のめっきのタイプの記号で表す。光沢めっきは b、半光沢めっきは s、無光沢めっきは m、二層めっきは d、三層めっきは t である[2]。規格の表示例には「Cu 10b, Ni 20t, Cr 0.5mc」(光沢銅めっき 10 μm 以上、三層ニッケルめっき 20 μm 以上、マイクロクラッククロムめっき 0.5 μm 以上)がある[2]。

タイプの違いは見た目だけではない。JIS H 0404 は、めっきのタイプの説明で、光沢剤を添加した浴から析出された硫黄を含む光沢ニッケルめっきと、平滑剤を添加した浴から析出された硫黄を含まない半光沢ニッケルめっきを例に挙げている[2]。JIS H 0400 は、二層ニッケルめっき法を、第 1 層に硫黄を含まない無光沢又は半光沢のニッケルめっきを施し、その上に硫黄を含む光沢のニッケルめっきを施す方法と定義している[3]。JIS H 8617 の分析試験は、附属書 1 の方法でめっきの硫黄含有量を測るもので、その値は受渡当事者間の協定による[1]。二層ニッケルを指定した部品で層の働きを確かめたいなら、規格の厚さ試験の方法に挙がっている STEP 試験法(2 層または 3 層のニッケル層の電位差と各層の厚さを測る方法)を指定できる[1]。

実務では「光沢ニッケル」と書けば外観の注文として通じることが多いが、外観だけで選ぶと、屋外品に二層を使うべきところを単層の光沢ニッケルで済ませる、といった食い違いが起きる。外観の注文と、耐食性のための層構成は、別の行に分けて書くとよい(当方の提案)。

耐食性・密着性・展延性の試験

めっきの耐食性は、規格の試験を行い、素地金属の腐食欠陥がレイティングナンバで 9 以上でなければならず、フェロキシル試験では 1 cm2 当たりのはん点数が 5 未満でなければならない[1]。試験は JIS H 8502 の中性塩水噴霧試験、キャス試験、酢酸酸性塩水噴霧試験、コロードコート試験、または附属書 3 のフェロキシル試験によるが、酢酸酸性塩水噴霧とコロードコートの試験時間と外観変化は協定による[1]。JIS H 8502 は、めっきの耐食性試験方法としてこれらの方法と結果の評価の仕方をまとめた規格である[4]。

密着性は JIS H 8504 の試験方法で調べ、はく離や膨れがあってはならない[1]。どの方法を使うかは注文書の基本事項で名指しする[1]。展延性の値も協定によるが、試験方法は附属書 4(規定)にあり、ニッケルを 25 μm めっきした厚さ 1.0 mm の試験片を直径 11.5 mm の心棒で 180° 折り曲げ、凸面に拡大しそうなき裂が無ければ延び率 8 % 以上と認める[1]。めっき後にかしめや曲げを加える部品では、展延性を品質項目に入れておかないと、加工でめっきが割れても規格上の不合格にならない。

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有効面と厚さの測り方

JIS H 8617 は、有効面について特に規定がない場合、直径 20 mm の球が接触しえない面を有効面とみなさない、としている[1]。深い溝の底や小さな穴の内側は、指定しなければ最小厚さの保証の外になる。そこにも防錆が要る部品なら、有効面を図で示し、必要な厚さを書く。

厚さ試験は、JIS H 8501 の顕微鏡断面、電解式、蛍光 X 線式、β 線式、渦電流式、質量方法、または STEP 試験法のいずれかによる[1]。JIS H 8501 には磁力式の方法もあるが[6]、JIS H 8617 の厚さ試験の列挙には入っていない。ニッケルは磁性を持つので、鉄鋼の上のニッケルを磁力式の膜厚計で測った値が成績書に載っていたら、測り方を確かめる。

無電解ニッケルとの使い分け

同じ「ニッケル」でも、電気ニッケルめっき(JIS H 8617)と無電解ニッケル-りんめっき(JIS H 8645)は、規格の目的と決めている品質が違う。

項目 電気ニッケル(JIS H 8617) 無電解ニッケル-りん(JIS H 8645)
規格の目的 防食並びに装飾 防食性・耐摩耗性など
皮膜 ニッケル(光沢は硫黄を含む) ニッケル 83〜98 %・りん 2〜15 %
等級の決まり方 素地・下地・最上層・最小厚さの組合せ 最小厚さで 1〜7 級(3〜50 μm)
硬さの規定 規定なし ビッカース 500 以上・ヌープ 450 以上

電気ニッケル側は JIS H 8617[1]、無電解側は JIS H 8645[5]による。

硬さや耐摩耗を求める部品なら、無電解ニッケルのほうが規格の中で品質を決めやすい。逆に、外観の光沢や、クロムを重ねた装飾的な仕上げが目的なら、電気ニッケルの等級表のほうが使いやすい。電気めっきは電流の流れ方で厚さが場所により変わりやすく、複雑な形状の内側まで同じ厚さを求めるなら無電解が候補になる、という整理が実務ではよく使われる(当方の注意。規格の記述ではない)。最終的には、必要な最小厚さを求める面と、その面の形を見せて、仕入先にどちらで出せるかを聞く。

注文書に書くこと

JIS H 8617 の箇条 13 は、発注者が発注書または加工仕様書に書く基本事項として、素地材料の状態と仕上がり、めっきの記号と有効面、外観と許容できる表面の欠陥、密着性試験などの検査方法の 6 項目を挙げ、付記事項として、熱処理、求める品質と試験方法、めっき後の部品の包装、その他の前後処理と制限の 4 項目を挙げている[1]。外観については限度見本を提出するとよい、と参考に書かれている[1]。

素地に欠陥があって、通常の方法では明らかにならないが、めっきすることでめっきの欠陥のように現れるものの扱いは、受渡当事者間の協定による[1]。光沢ニッケルは素地のきずや研磨目を目立たせやすいので、素地の仕上げの状態(研磨の程度など)を基本事項の「素地材料の性質,状態及び仕上がり」として書き、どちらの責任で判定するかを決めておく。外観の合否基準の作り方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱っている。

鉄及び鋼素地のめっきで、めっき後の水素ぜい性除去を行うことが指定されている場合は、めっき後少なくとも 4 時間以内に熱処理を行い、条件は協定による[1]。附属書 6(参考)は、引張強さ 1 051〜1 450 MPa で 190〜220 ℃・8 時間以上、1 451〜1 800 MPa で 18 時間以上、1 800 MPa 超で 24 時間以上を示し、めっきの厚さによって水素が除去される度合いが違う場合があるので適正な条件を設定する、と備考を付けている[1]。

よくある質問

Q. 金めっきの下地にニッケルを付けます。JIS H 8617 の等級で指定すればよいですか。
JIS H 8617 は防食と装飾の目的のめっきを対象にしているので[1]、金の下地としての厚さは、金めっきの規格(JIS H 8620)の付記事項「下地めっきの種類,厚さ」として数値で書くほうが筋が通る。下地の考え方は同じ束の金めっき(JIS H 8620)の指定で扱う。

Q. 「ニッケルクロム」とだけ書かれた古い図面があります。
JIS H 8617 の表 2 では、素地ごとに 1〜9 級(素地によっては 4 級まで)があり、下地のニッケルの厚さとタイプ、クロムの種類が等級ごとに違う[1]。使用環境を確かめて等級を選び直す。

Q. 成績書のレイティングナンバが 9 でした。合格ですか。
9 以上が規定なので合格の範囲だが[1]、どの試験方法で何時間行った結果かを確かめる。等級ごとに表 4 で方法と時間が決まっているので、等級と試験条件が対応しているかを見る。

まとめ

電気ニッケルめっきは JIS H 8617 で、防食と装飾が目的の規格である[1]。等級は素地・下地・最上層・最小厚さの組合せで決まり、鉄鋼素地では銅-ニッケルめっきとして等級が並んでいる[1]。光沢・半光沢・二層は JIS H 0404 の記号で書き分け、硫黄の有無が違う[2][3]。耐食性の試験時間は等級ごとに決まり[1][4]、硬さや耐摩耗が要るなら無電解ニッケル-りんめっきと比べて選ぶ[5]。厚さの測り方は JIS H 8501 の中から規格が挙げる方法で決める[1][6]。

出典・参考資料

  1. JIS H 8617:1999 ニッケルめっき及びニッケル-クロムめっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
  2. JIS H 0404:1988 電気めっきの記号による表示方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1988 年 3 月改正・2025 年 10 月確認)
  3. JIS H 0400:1998 電気めっき及び関連処理用語(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
  4. JIS H 8502:1999 めっきの耐食性試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
  5. JIS H 8645:1999 無電解ニッケル-りんめっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
  6. JIS H 8501:1999 めっきの厚さ試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)

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