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外観の合否基準を仕入先と決める——欠点の定義・見る条件・限度見本

この記事のポイント(結論先出し)
外観の合否で仕入先と揉める原因は、検査員の目の良し悪しではなく、基準が書かれていないことにある。決めるのは 4 つで、欠点の名前と定義、部品のどの面に適用するか、見る条件(距離・角度・明るさ・時間)、判定の手段(数値か限度見本か)である。基準を厳しくしすぎれば良品を捨て、緩めれば不良を流す。両方の誤りを減らすには、数値にできるものは測定器で、できないものは双方が署名した限度見本で決め、見本の保管と更新の規則まで決めておく。そしてこの基準は発注の時点で渡す。受け取った後で、以前は問題にしていなかった色むらを理由に引き取らせた行為は、取適法の違反事例として公正取引委員会のテキストに載っている。
目次
外観の合否はなぜ揉めるのか
寸法なら図面に公差があり、測れば合否が決まる。外観はそうはいかない。図面に「有害なキズ、打痕なきこと」とだけ書いて発注し、納品された部品に小さなキズがあったとき、それが有害かどうかは見る人によって答えが変わる。仕入先は出荷検査で合格にしており、発注側は受入検査で不合格にする。どちらも自分の判断は正しいと思っている。
検査基準の書き方そのものに原因がある。三洋電機の研究者らは、官能検査(人の感覚で行う検査)の自動化を論じた論文で、検査項目や検査基準の記述方法の現状を、明確に規定されて数値で表現されているもの、ある程度規定されて文章や数値で表現されているもの、ほとんど規定されず限度見本で表現されているものの 3 種類に分け、検査基準に幅があったり検査員によって一定でなかったりする場合が多いと指摘している[6]。外観の基準は、この 3 種類の混ざり合いとして書かれることが多い。
| 基準の書き方([6] の 3 分類) | 例 | 揉めやすさ(実務の見立て) | 向く欠点 |
|---|---|---|---|
| 1. 数値で規定 | 色差 0.7 以下、長さ 0.5 mm を超える線キズなし | 低い(測り方まで決めれば) | 色、光沢、キズの長さ、異物の大きさ |
| 2. 文章と数値 | 「目立つキズなきこと(1 m から見て)」 | 中(「目立つ」の解釈が残る) | 数が多い軽い欠点 |
| 3. 限度見本で表現 | 「限度見本 No.3 より良いこと」 | 見本の管理次第(劣化・紛失・版違い) | むら、肌、質感など数値にしにくいもの |
産業技術総合研究所の野中は、めっき部品の外観について、多くが目視検査で行われ、判定能力に個人差があって再現性に欠けること、判断基準が疲労や習熟、健康状態で変わること、単純作業で検査員が疲弊することを問題点として挙げている[3]。同時に、目視検査はいろいろな角度から見て自動検査装置では検出できない欠陥を見つけられることがあり、利用者の判定に近い検査ができるという利点も認めている[3]。目視をやめることではなく、目視で判断する余地を基準で狭めることが答えになる。
基準を決めるときに意識しておきたいのが、誤りには 2 つの向きがあることである。建築塗装の外観基準を研究した竹延らは、合格の許容限度を厳しくすれば本来良品とすべきものを不良品と判別する誤りが生産性を下げ、緩めれば本来不良品とすべきものを良品と判別する誤りが見逃しの原因になるとし、評価者はどちらの誤りも防ぐ必要があると述べている[2]。発注側は「厳しめに書いておけば安全」と考えがちだが、厳しすぎる基準は仕入先の選別の手間と廃棄を増やし、それはいずれ単価に乗ってくる。
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決めることは 4 つ
1. 欠点の名前と定義
まず、何を欠点と呼ぶかを言葉で決める。「キズ」と一口に言っても、線状の擦りキズ、点状の打痕、塗装の下まで達した傷では、許容の考え方が違う。竹延らの研究では、塗装工事会社の 3 年分(2018〜2020 年)の検査不具合 182 件を分析し、スケ、ブツ、キズ、ライン出し不良、タレ、光沢不良、色調不良の 7 つで全体の 90% 以上を占めることを示したうえで、それぞれに定義を与えている。たとえばブツは「塗膜にゴミ状のものが付着したもの(径 0.5 mm 以上の粒状のもの)」、スケは「下地が透けて見える現象」である[2]。
この研究は建築の内壁塗装を対象にしたもので、定義をそのまま機械部品に使えるわけではない。参考にすべきは、過去の不具合の記録から件数の多い欠点を拾い、名前と定義を付け、大きさで線を引くという手順のほうである。自社に不具合の記録があれば、まず件数で上位の欠点を数え、それを基準の欠点一覧の骨格にする。
2. どの面に適用するか(面の区分)
部品のすべての面を同じ基準で見る必要はない。組み立てた後に見える面、手で触れる面、隠れる面では、許せる欠点の大きさが違う。実務では、図面か検査基準書に面を 2〜3 区分で示し、区分ごとに許容を変える(区分の名前や数は会社ごとでよい)。昭和 30 年ごろから社内の標準化を進め、めっき・塗装製品の外観を限度見本で管理していた製造会社の報告も、欠点の生じる位置は現実に発生している箇所で考えて判定することが大切だと書いている[5]。面を区分しないと、裏面の小さな擦れで全数が不合格になり、選別の工数が値段に跳ね返る。
3. 見る条件
同じ部品でも、蛍光灯の下と窓際、30 cm と 1 m で見たときでは、見える欠点が変わる。だから見る距離、角度、明るさ、光源、1 個あたりにかける時間を決める。竹延らの実験では、評価の条件を業界団体の規格に合わせて設定し、顧客と合意した想定の標準見本板と比べる形で、観察距離 1 m、観察角度は正面とした[2]。
明るさは、明るいほど良いとは限らない。周辺視(視野の中心ではなく周りで変化を捉える見方)による目視検査を紹介した精密工学会の講演は、明暗の変化を感じ取る視細胞の働きを使うために、中心視ではなく周辺視に切り替え、照度を高くし過ぎないよう注意する必要があると述べ、導入のポイントとして照度 1000〜1200 lx 以下を示している[4]。これは周辺視の検査方法についての提言であり、どの部品にも当てはまる数値として規格が定めているものではない。自社の部品で、欠点がいちばん見つけやすい条件を試して決め、その条件を基準書に書く。表面の色を目で比べる方法については JIS Z 8723(表面色の視感比較方法)があるので、色の比較を伴う場合は規格本文で条件を確かめるとよい。
4. 判定の手段
数値にできるものは測定器で判定する。野中は、光沢や色は人の主観的な評価によるところが大きいため光沢度や測色は JIS で測定法が規定されていると述べ、一方で色差計は小型で現場で広く使われるが光源によって数値が変わるという短所もあると指摘している[3]。竹延らの研究では、色調不良を色差 0.7 以下、光沢不良を 60 度鏡面光沢度で光沢差 5.1 以下と数値で決め、ブツ・タレ・スケ・キズは「目視によりないこと」としている[2]。
| 欠点([2] の建築内壁塗装の例) | 判定基準 | 判定の手段 |
|---|---|---|
| 色調不良 | 色差 0.7 以下 | 色差計 |
| 光沢不良 | 60 度鏡面光沢度で光沢差 5.1 以下 | 鏡面光沢計 |
| ライン出し不良 | 取り合う部材に対して 0〜1 mm で被ること | 測定 |
| ブツ・タレ・スケ・キズ | 目視によりないこと(スケは標準塗布量も) | 目視 |
表の数値は、その研究が内装用の艶消し塗料で塗った内壁について実験で導いたもので、他の製品や塗料に転用できる値ではない。ただ、欠点ごとに「数値で切るもの」と「目視で見るもの」を分けて書くという形は、機械部品の外観基準でもそのまま使える。塗装の膜厚や色の合わせ方そのものは塗装の仕様の決め方の記事、めっきの外観を含む仕様はめっきの指定の記事で扱う。
限度見本は「作る」より「保つ」ほうが難しい
数値にできない欠点は限度見本(ここまでなら合格という境目の現物)で決める。1961 年の報告で、自転車フレームのめっきと塗装の外観を管理していた製造会社は、限度見本を欠点別に限度を定めて検査員に欠点の程度を理解させるものと位置づけ、一種の教育資料だとしている[5]。現場で製品 1 個ずつを見本と比べることはほとんど不可能なので、検査員は見本を記憶して判定しており、結局、現場の判定は「検査員が限度見本を見て習熟した技能」になる、とも書いている[5]。60 年以上前の報告だが、今の現場にもそのまま当てはまる。
同じ報告は、光沢や色むらの限度見本は見本自体が時間とともに変化するものが多く、保管に十分留意しないと判定が次第に変わり、検査員が見本を信頼しなくなるおそれがあると指摘している[5]。野中も、限度見本そのものに人の感覚が入り込んでいて真に客観的とは言い難い面があり、社外を含めて基準を明確にし共通化することが難しいと述べている[3]。
ここから実務で決めておくことは次のとおりである(当方の提案)。
1. 同じ見本を、持つ相手の数だけ作る
発注側と仕入先が 1 組ずつ持つ。片方しか持たないと、判定が食い違ったときに比べる物がない。めっきや塗装を仕入先がさらに外注しているなら、その外注先が判定に使う分も作る。表面処理を挟むと見本と量産品の判定がずれやすい理由は、表面処理込みの部品調達で現品限度と量産限度がズレる理由で扱っている。
2. 双方が署名し、番号と版を付ける
どの品番の、どの面の、どの欠点の見本かを札に書き、承認日と承認者を記す。
3. 保管の条件と有効期限を決める
光や汚れで変わるものは遮光して保管し、期限を過ぎたら作り直す。
4. 更新の手順を決める
型の修正、材料や処理条件の変更、新しい欠点の発生のときに見直す。更新が放置されて基準が崩れる典型は限度見本の更新放置の記事にある。
5. 見本と基準書を結び付ける
基準書の欠点一覧に、見本の番号を書いておく。見本だけが独り歩きすると、どの面に適用するのかが分からなくなる。
良品の基準となる見本と境目の見本を組み合わせる作り方は、ゴールデンサンプルの作り方の記事で扱っているので、ここでは繰り返さない。
基準は発注の時点で渡し、後から厳しくしない
外観の基準は、量産が始まってから「この程度のキズは困る」と言い出されることが多い。しかし取適法(中小受託取引適正化法、2026 年 1 月施行)の適用を受ける取引では、この言い出し方が違反になりうる。公正取引委員会のテキストによると、検査基準がはっきりしないために委託内容との違いが明らかでないときや、発注した後で基準を恣意的に厳しくし、それまで合格だった物を不合格にするときは、受領を拒むことが認められない[1]。返品についても違反事例として、染加工を委託し、納品されたものをいったん受領した後で、以前には問題としていなかったような色むらを指摘して引き取らせた例が載っている[1]。
外観基準を見直すこと自体は禁じられていない。問題になるのは、見直した基準を、それ以前の発注分や納品済みの物に当てはめることである。見直すなら、次の発注分から適用し、選別や手直しに追加の手間がかかるなら単価を協議する。受領拒否・返品・やり直しが認められる範囲は受領拒否・返品・やり直しの記事で、基準を外れた品を条件付きで使う判断は特別採用の記事で扱っている。
外観基準書に書く項目
以上をまとめると、仕入先に渡す外観基準書には次の項目が入る。量産を始める前の承認で、この基準書と限度見本をそろえて確認しておくとよい。量産承認で何を出させるかは量産承認の記事にまとめた。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 対象 | 品番、図面番号と版、表面処理の仕様 |
| 面の区分 | 図で示した面ごとの区分と、区分ごとの考え方 |
| 欠点一覧 | 欠点の名前、定義、区分ごとの許容(数値か見本番号) |
| 見る条件 | 距離、角度、照度と光源、1 個あたりの時間、裸眼か拡大鏡か |
| 測定器 | 色差計・光沢計を使う場合の機種の考え方と測定条件 |
| 限度見本 | 番号、保管者、有効期限、更新の手順 |
| 抜取りと記録 | 全数か抜取りか、判定の記録の残し方 |
よくある質問
Q. 図面の注記「キズ、打痕なきこと」だけでは足りないか。
A. 足りない。どの面に、どの大きさから、どの条件で見てという情報がないため、厳密に読めば 1 個も合格しない一方、仕入先は自分の慣習で判定する。注記には「外観基準書 No.○○による」と書き、基準書に中身を持たせる。
Q. 仕入先が海外で、限度見本の受け渡しが難しい。
A. 現物を 2 組作って 1 組を送るのが基本である。写真を併用するなら、見る条件と同じ照明・角度で撮り、写真だけで判定しないことを基準書に書いておく。写真は照明で見え方が変わり、現物の代わりにはならない。
Q. 検査員によって判定が分かれる。
A. 欠点の定義と見る条件が書かれているかを先に確かめる。書かれていれば、同じ部品を複数の検査員が見て判定を比べ、分かれた部品を新しい限度見本に加える。検査員の手順として、全不良項目の把握、作業姿勢と照明角度、視野の範囲と視点、検査の順序を手順書で押さえることを勧める提言もある[4]。
まとめ
外観の合否で揉めないためには、欠点の名前と定義、面の区分、見る条件、判定の手段の 4 つを基準書に書く。数値にできるものは測定器で、できないものは双方が署名した限度見本で決め、見本は発注側と仕入先(二次外注先があればその分も)の数だけ作って、保管と更新の規則を決める。基準を厳しくしすぎれば良品を捨て、緩めれば不良を流すので、過去の不具合から件数の多い欠点を拾って線を引く。基準は発注の時点で渡し、見直すときは次の発注分から適用する。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 建築塗装分野における外観品質の判定基準に関する研究(竹延幸雄・森口文博・棟近雅彦/日本経営工学会論文誌 75 巻 1 号/2024 年 4 月)
- めっき外観評価技術と標準化(野中一洋/表面技術 69 巻 4 号/2018 年 4 月)
- 目視検査を成功させる(キーノートスピーチ)(石井明/2014 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集/2014 年 3 月)
- 限度見本による外観検査のバラツキの管理(高島信治/金属表面技術 12 巻 12 号/1961 年 12 月)
- 限度見本による官能検査の特徴量特定(千葉直樹ほか/電気学会論文誌 D 116 巻 7 号/1996 年 6 月)
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