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塗装の仕様の決め方——膜厚・色・光沢・付着性を試験方法まで

この記事のポイント(結論先出し)
塗装の仕様は「色番号」と「膜厚○μm以上」だけでは決まらない。膜厚は、ぬれ膜厚か乾燥膜厚か、どの方法でどこを測るかで値が変わる[1]。色は、何と比べるか(色見本)、どの光の下で見るか、測色計ならどの光学条件と色差式で数えるかまで合意して初めて合否を判断できる[2][3][5]。光沢度は測定の角度(20°・60°・85°)を指定し[6]、付着性はクロスカット法などの試験方法と判定の段階を名指しする[7]。これらは検査基準そのものであり、取適法の対象となる取引では、受け取った後に以前は問題にしなかった色むらを理由に引き取らせることは違反事例として示されている[8]。基準は発注時に書く。
目次
塗装の仕様で揉めるのは、色と膜厚の「測り方」
塗装品の受入で起きる食い違いの多くは、仕様の数字そのものではなく、その数字をどう測るかが決まっていないことから生まれる。図面に「マンセル値○○」「膜厚 30 μm 以上」とだけあれば、仕入先は自社の測定器と見方で合否を判断して出荷する。発注側が受入で別の測定器を当てたり、別の照明で見たりすると、同じ品物でも結論が分かれる。
塗料の試験方法は JIS K 5600 の一連の規格にまとめられており、膜厚、色の目視比較、測色、光沢度、付着性などが節ごとに分かれている。どの節も、試験の条件の一部を「受渡当事者間の協定」に委ねている。規格を引用すれば済むのではなく、規格が当事者に預けている部分を発注側が埋めなければならない。電着塗装の工程管理や仕入先の監査で見る点は電着塗装の品質監査と調達で扱っているので、この記事では発注の仕様書に何を書き、受入で何を確かめるかに絞る。
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膜厚:「どの膜厚を、どの方法で、どこを」測るか
ぬれ膜厚と乾燥膜厚を区別する
JIS K 5600-1-7(塗料一般試験方法-第 1 部:通則-第 7 節:膜厚)は、素地に塗装した塗料のぬれ膜厚、乾燥膜厚、未硬化の粉体塗料層の厚さの求め方を規定している[1]。塗っている最中に測るぬれ膜厚は工程の管理には使えるが、受入で確かめられるのは乾燥膜厚である。仕様書の「膜厚」がどちらを指すかを書いておかないと、仕入先の工程記録と受入の測定値を比べられない。
測る方法は素地で決まる
乾燥膜厚の測定方法には、機械式、質量法、光学的方法、磁気法、放射線法、音響法などがあり、規格の附属書には方法ごとの適用分野と精度が一覧になっている[1]。生産現場でよく使われる磁気法について、規格は、測定法 7A と 7C では素地が強磁性体でなければならず、測定法 7D では非強磁性体でなければならないとしている[1]。鋼板の塗装とアルミニウムの塗装では使える測定器が違うということで、仕入先が鋼板用の膜厚計しか持っていなければ、アルミ部品の膜厚は日常の検査で測られていないかもしれない。発注の前に、仕入先が素地に合った測定器を持っているかを聞いておく。
ブラストした面は、測り方そのものが別になる
素地の表面粗さは膜厚の測定結果に影響する。規格は、ブラスト処理された鋼の素地では膜厚の測定に特別な配慮を要するとして、ゼロ点調整の問題(繰返し精度の低さ、標準板の測定膜厚のばらつき、粗さによる不確かさ)を挙げ、粗面上の膜厚の測定手順を別の箇条で定めている[1]。この手順では、素地の粗さの山と谷の間にある仮想平面からの厚さを測ることになり、参照標準との比較で測った膜厚が意味をもつには少なくとも 25 μm 以上、むしろ 50 μm 以上が望ましいとされている[1]。
薄い塗膜をブラスト面に塗る仕様で「膜厚○μm以上」と書いても、その数字を受入で確かめる手段が乏しい場合がある。下地の粗さを指定する場合は、表面粗さの指定と測定条件とあわせて、膜厚の測り方を仕入先と先に決めておく。
成績書に何を書かせるか
JIS K 5600-1-7 の試験報告には、試験した製品の情報、この規格番号、使用した方法と機器、個々の測定値とそれらの平均値を含む試験の結果、規定の手順からの変更事項、その他特記すべき事項、試験年月日の 7 項目を記載する。そのうえで、必要なら素地の詳細、塗装方法と塗り回数、乾燥・硬化の条件などを加え、受渡当事者間の協定がある場合は、試験領域ごとの測定領域の数や、平均の膜厚と標準偏差、局所的膜厚の最小値と最大値を記載するとしている[1]。
発注側の実務としては、合否を平均値で判定するのか、最小値で判定するのかを仕様書に書くことが大事である。平均値で 30 μm を超えていても、角や端部で 15 μm しかない、ということは起こりうる。最小値で判定するなら、どの位置を何点測るかも決める。成績書の「膜厚 32 μm」が平均なのか最小なのかを確かめずに受け取らない。
色:比べる相手、光、見る人、測る機械
目視で比べるときに決めること
JIS K 5600-4-3(色の目視比較)は、塗膜の色を、自然昼光または色観察ブース内の人工光源の下で、標準品(参照標準または新たに調整した標準)と対比して目視比較する方法を規定している[2]。日常の色合わせには自然昼光と人工昼光のどちらを用いてもよいが、自然昼光の質は変動し、観察者の判断は近くの物体の色にも影響されるので、照合が目的の場合は色観察ブース内の厳密に管理した人工照明を用いなければならない、としている。観察者は中性色の衣服を身に付け、試験片より強い着色面が視界にあってはならない[2]。自然昼光を使う場合は、拡散昼光で、試験片の位置で少なくとも 2,000 lx の照度とし、直射日光を避ける[2]。
この規格は、試験方法を実施するための補足情報として、素地の材料と厚さと表面調整、塗装方法、乾燥(焼付け)と養生の時間と条件、乾燥膜厚とその測定方法、目視評価に関係する場合のつやの差の 5 項目を附属書に挙げ、必要な情報は受渡当事者間で合意することが望ましいとしている[2]。色の比較は、塗り方や膜厚、つやが違えば同じ塗料でも結果が変わるということである。また、メタリックのように特別な効果を示す顔料を含む塗膜は、照明と受光の詳細について事前の協定がない場合は適用されない[2]。
見比べた結果の表し方も規格にある。色相差、彩度差、明度差のそれぞれを 0(知覚できない差)から 5(非常に大きな差)の 6 段階の等級で表す[2]。発注側が「色差なきこと」と書いても判定できないが、「色相差・彩度差・明度差のいずれも等級 1 以下」のように段階で書けば、見る人が替わっても同じ基準で判断できる。どの等級を合格とするかは製品の用途で決めることで、規格が決めているわけではない。
表面色の視感比較の一般則である JIS Z 8723 は、人工の平均昼光照明を CIE 標準の光 D65 に相当するものとし、受渡当事者間の協定で D50 を使ってもよいとしている。条件等色(ある光では同じに見え、別の光では違って見える現象)を調べるには、CIE 標準の光 A に相当する白熱電球照明を用いる[3]。屋外で使う製品と屋内照明の下で使う製品では、どの光の下で一致していればよいかが違う。製品がどこで見られるかを仕入先に伝え、比較に使う光を指定する。
測色計で数えるときに決めること
測色計を使えば見る人による差は減るが、別の決めごとが増える。JIS K 5600-4-6(測色(色差の計算))は、塗膜間の小さな色差を数値で求める方法として CIE 1976 L*a*b* 色差式を規定する一方で、どの色差式で計算した結果もすべての場合に目視の認識と満足に合うとは限らない、と備考に書いている[4]。
色材協会誌の講座は、塗料分野での測色の注意点を具体的に挙げている[5]。測定に適したサンプルは曲率の小さい平たいものに限られることが多いこと。光沢度が違うと散乱光が変わって測定値に影響すること。黒など明度の低いサンプルは、すりきずや指紋汚れで測定値がばらつくこと。赤や黄の有機顔料を使った塗色は、測定時の温度で測色値が変わることがあること。光源の入射角、受光角、視野角が違えば得られる数値が大きく変わること。積分球型の測色計では、正反射光を含めて測る SCI と除いて測る SCE で値が違い、1 角度型の測色計とは測定結果が一致しないこと。そして、色差式が違えば数値も変わるので、どの色差式を使ったかを明示しなければならないこと、である[5]。
したがって、仕様書に「ΔE*ab 1.0 以内」と書くなら、測色計の光学条件(積分球型の SCI か SCE か、45/0 などの 1 角度型か)、視野、光源、比較の基準になる色見本、測る位置と温度の条件まで書かなければ、仕入先の測定値と受入の測定値は比べられない。同じ講座は、測定器は人間の判別限界を超える領域まで測れるが、その差にどこまで意味があるかは十分に議論することが望ましい、としている[5]。許容値を厳しくするほど、目では分からない差で不合格が出る。
色見本は「誰が持ち、いつ替えるか」まで決める
目視でも測色でも、比べる相手は色見本である。規格は標準品と比べることを前提にしているが[2]、その標準品をどう管理するかは当事者に任されている。発注側の実務として、色見本を 2 組作り、発注側と仕入先が 1 組ずつ持つこと、見本に識別番号と作成日を付けること、汚れや傷が付いた見本で比べないこと(明度の低い面ではすりきずや汚れで測定値がばらつく[5])、見本を作り直したときは新旧の対応を記録することを決めておくとよい。外観全体の合否基準と限度見本の扱いは外観の合否基準を仕入先と決める方法で扱う。
光沢:測る角度を指定する
JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)は、20°、60°、85° の 3 つの幾何条件の反射率計で塗膜の鏡面光沢度を測る方法を規定している[6]。60° はすべての塗膜に適用できるが、非常に高光沢の場合とつや消しに近い場合は 20° または 85° のほうが適している。20° は高光沢の塗膜(60° 鏡面光沢度がおよそ 70 以上)の差をよく出し、85° は低光沢の塗膜(60° 鏡面光沢度がおよそ 10 以下)の差をよく出すことを意図している[6]。
規格の備考は、一連の測定の間は同一の幾何条件を保たなければならないこと、測定した鏡面光沢度が目視評価と一致しないこともあることを書いている。また、この試験方法はメタリック塗料の光沢度の測定には適さない[6]。仕様書には「光沢度 60°で○○以上」のように角度と値を組で書く。角度のない光沢度の数字は、仕入先が 60° で、受入が 20° で測っていれば、比べること自体に意味がない。光沢は色の測定値にも影響するので[5]、色と光沢の許容値は同じ見本で決めておくとよい。
付着性:クロスカット法は「付着強さ」を測らない
塗膜のはがれにくさを確かめる方法としてよく使われるのが、JIS K 5600-5-6(付着性(クロスカット法))である。塗膜に直角の格子状の切込みを素地まで入れ、素地からのはく離に対する塗膜の耐性を評価する[7]。ただし規格は、この試験方法を付着性の測定手段とみなしてはならず、付着性が必要な場合は JIS K 5600-5-7 を参照する、と明記している[7]。
試験の結果は合否、または状況が合えば 6 段階の分類で示す[7]。切込みの間隔は膜厚と素地の硬さで決まり、0〜60 μm で硬い素地なら 1 mm、軟らかい素地なら 2 mm、61〜120 μm なら 2 mm、121〜250 μm なら 3 mm とされている[7]。250 μm を超える塗膜や模様塗膜には適さず、粗いパターンの表面をもつ塗膜ではエラーの大きい結果になるおそれがある[7]。
仕様書には「付着性良好」ではなく、「JIS K 5600-5-6 による。分類○以下を合格とする」と、試験方法と合格とする段階を書く。厚膜の塗装や模様のある塗装では、この方法がそもそも使えないので、別の確かめ方を仕入先と決める。
基準は発注時に書く
塗装品は、色、光沢、外観のように見る人と条件で判断が揺れやすい項目が多い。取適法では、仕様や検査基準が曖昧なまま発注し、届いた物との違いを客観的に示せない場合には、受領拒否も返品も認められない。基準を後から一方的に引き上げて不合格とすることも同様である[8]。公正取引委員会のテキストは違反事例として、染加工を委託していた事業者が、いったん受領した後で以前には問題としていなかったような色むらを指摘して引き取らせた例を挙げている[8]。
色見本、比較の光、測色の条件、光沢の角度、付着性の試験方法と合格の段階を、発注の時点で仕様書に書いておけば、受入で不合格にしたときに、その根拠を示せる。後から基準を足したくなったときは、仕様の変更として扱い、相手と合意する。取適法上の扱いの全体は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるか、仕様書全体の組み立ては購買仕様書の書き方で扱っている。
指定項目の一覧
規格がどう定めているかと、仕様書に書く内容を並べる。左と中央の欄は各規格の記述[1][2][6][7]、右端は発注側の実務としての提案である。
| 項目 | 規格の定め(数値は規格の記述) | 仕様書に書く内容(提案) |
|---|---|---|
| 膜厚 | ぬれ・乾燥・粉体を区別。磁気法は素地で使える方法が違う。ブラスト面は 25 μm 以上、望ましくは 50 μm 以上で意味をもつ | 乾燥膜厚か、測定方法、測定点、平均と最小のどちらで判定するか |
| 成績書 | 必須 7 項目。協定があれば平均・標準偏差・最小・最大 | 個々の測定値と判定に使った値を載せさせる |
| 色(目視) | 照合は色観察ブースの人工照明。自然昼光は 2,000 lx 以上。差は 0〜5 の等級 | 色見本の番号、比較の光(D65 など)、合格とする等級 |
| 色(測色) | CIE 1976 L*a*b* 色差式。目視と合うとは限らない | 光学条件(SCI/SCE など)、視野、色差式、許容値 |
| 光沢 | 20°・60°・85°。高光沢は 20°、低光沢は 85° が適する | 角度と値を組で書く |
| 付着性 | クロスカット法。切込み間隔 1・2・3 mm。250 μm 超は不適 | 試験方法と合格とする分類 |
よくある質問
塗料メーカーの色番号を指定すれば、色見本は要りませんか
色番号は塗料を特定するが、塗った後の色は素地、塗り方、膜厚、乾燥条件、つやで変わる。目視比較の規格が、これらを補足情報として合意することを求めているのはそのためである[2]。部品に塗った状態の見本を作り、それを標準品として扱う。
仕入先と測色計の機種が違います。値は比べられますか
光学条件、視野、光源、色差式がそろっていなければ、値は比べられない。積分球型と 1 角度型では測定結果が一致しないとされている[5]。どちらかの測定器を基準器と決めるか、同じ見本を両方で測って差を確かめておく。
屋外で使う製品の耐食性は、どう指定しますか
塩水噴霧試験や複合サイクル試験の選び方と、仕入先の工程で確かめる点は電着塗装の品質監査と調達で扱っている。めっきの上に塗装する場合は、めっき側の仕様をめっきの発注で指定することで確かめる。
量産の途中で色を少し変えたくなりました
色見本を作り直し、新しい見本を標準品とする日付と対象のロットを決め、仕様の変更として相手に示す。古い見本で合格していたものを新しい見本で不合格にすると、検査基準を後から厳しくしたのと同じことになる[8]。
まとめ
塗装の仕様は、数字と同じ重さで「測り方」を決めておく必要がある。膜厚は乾燥膜厚か、素地に合った方法か、平均と最小のどちらで判定するかを決める[1]。色は、色見本、比較の光、等級、測色ならその光学条件と色差式までそろえる[2][3][4][5]。光沢は角度と値を組で書き[6]、付着性は試験方法と合格の段階を書く[7]。どれも発注時の仕様書に入れておくことで、受入の判断の根拠になる[8]。
出典・参考資料
- JIS K 5600-1-7:2014 塗料一般試験方法-第 1 部:通則-第 7 節:膜厚(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2014 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS K 5600-4-3:1999 塗料一般試験方法-第 4 部:塗膜の視覚特性-第 3 節:色の目視比較(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 4 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS Z 8723:2000 表面色の視感比較方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2000 年 5 月 20 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- JIS K 5600-4-6:1999 塗料一般試験方法-第 4 部:塗膜の視覚特性-第 6 節:測色(色差の計算)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 4 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- 長野千尋「測色-適切に色を測り伝える方法-」色材協会誌 89 巻 6 号(色材協会/2016 年 6 月)
- JIS K 5600-4-7:1999 塗料一般試験方法-第 4 部:塗膜の視覚特性-第 7 節:鏡面光沢度(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 4 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS K 5600-5-6:1999 塗料一般試験方法-第 5 部:塗膜の機械的性質-第 6 節:付着性(クロスカット法)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 4 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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