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量産承認で仕入先に何を出させるか——PPAPの考え方を一般部品に

この記事のポイント(結論先出し)
初回サンプル検査が答えるのは「図面どおりの物ができたか」であり、量産を始めてよいかという問いには答えない。量産承認で確かめるのは量産と同じ型・設備・材料・人で、量産の速さで作り、それを作り続ける仕組みがあるかである。自動車業界の PPAP や航空宇宙の SJAC 9145 は、そのための提出物を一式として定めている。一般の部品調達では全部を求める必要はないが、工程の流れ、管理の計画、測り方の確認、量産条件で作った品の実測、工程能力の初期調査の 5 つは外さないほうがよい。そして何を出せば承認とするかは、発注の時点で書いて渡す。後から増やした書類や基準で不合格にすると、取適法の受領拒否ややり直しの問題になる。
目次
初回サンプル検査と量産承認は、別の問いに答えている
新しい部品を外注するとき、多くの会社は試作品か初回品を受け取り、寸法を全部測って合否を決める。この初回サンプル検査(FAI)の進め方と合否基準の置き方は、初回サンプル検査の記事で扱っている。ここで押さえたいのは、初回サンプル検査に合格しても、量産の品質が保証されたことにはならないという点である。初回品は、腕のよい作業者が時間をかけて、条件を整えて作ったものかもしれない。試作用の型で作ったものかもしれない。数個を作れたことと、毎日数千個を同じ品質で作り続けられることは別の能力である。
自動車業界はこの差を埋める手続きとして PPAP(Production Part Approval Process、生産部品承認プロセス)を使ってきた。業界団体の AIAG は、PPAP のマニュアルを「実際の生産の場で、生産の速さで、品質の揃った部品を作るために必要なプロセスを仕入先に理解させるもの」と説明し、設計の記録と仕様の要求が一貫して満たされることを確かめる業界標準だと位置づけている[1]。ここに出てくる「実際の生産の場で」「生産の速さで」「一貫して」の 3 つが、初回サンプル検査との違いそのものである。
日本の製造業には、同じ考え方が初期流動管理という形で根付いている。立命館大学の高梨は、初期流動管理を「製品開発から量産開始され安定量産ができるまでの期間を特別な配慮が必要である期間として指定し、日々の生産プロセスの通常管理とは別に管理すること」と説明し、狙いを品質問題の未然防止に置いている[4]。同じ論文が紹介する自動車部品メーカーの例では、量産試作で工程を固め、品質保証会議で「図面通りに生産し、品質を確保でき、安定して生産ができるか」を審査し、量産開始後も通常より厳しく管理する特別な期間(この事例では通常 3〜6 か月)を置いてから通常の管理に移していた[4]。社内の立ち上げで行っているこの段取りを、外注先に対しても求めるのが量産承認である。
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PPAP の提出物は何でできているか
自動車版 PPAP の要求の中身は AIAG の有償マニュアルにあり、提出物の一覧や提出の段階分けもそこに書かれている。自動車の顧客から PPAP を求められている場合は、顧客の個別要求とマニュアルで確かめてほしい。この記事ではマニュアルの中身には立ち入らない。一般の製造業が考え方を借りるときに見通しやすいのは、航空宇宙業界が自動車版をもとに作った規格のほうである。
航空機国際共同開発促進基金の解説によると、航空宇宙業界は少量多品種・長いライフサイクル・厳しい規制当局要求を考慮して APQP(先行製品品質計画)と PPAP の規格を作り、日本では SJAC 9145、米国では AS9145、欧州では EN 9145 として発行されている[2]。日本の SJAC 9145 は日本航空宇宙工業会から 2017 年 6 月 21 日付で頒布されている[3]。同じ解説は、PPAP を APQP の第 4 フェーズ(製品及び工程の妥当性確認)が終わった時点、つまり量産開始の時点で、それまでの活動と成果物をパッケージにまとめ、顧客要求どおりの生産レートで適合品を作り続けられることを客観的に示して承認を得る手続きだと説明している[2]。そのうえで、SJAC 9145 の表から次の 11 の要素を挙げている[2]。
| # | SJAC 9145 の PPAP 要素(解説 [2] の列挙) | 発注側が確かめたいこと(実務の読み替え) | 一般部品での扱い(提案) |
|---|---|---|---|
| 1 | 設計記録(図面、スペック等) | 仕入先が手にしている図面の版が、発注の版と同じか | 承認書に書く欄(図面の版番号) |
| 2 | 設計リスク分析(例えば DFMEA) | 設計を仕入先が持つ場合の設計上の弱点 | 仕入先が設計する場合のみ |
| 3 | 工程フロー図 | どの工程を自社で、どこを外注でやるか | 必須 |
| 4 | PFMEA(工程の故障モード影響解析) | 工程のどこで何が起こりうるか | 重要部品で求める |
| 5 | 管理計画(コントロールプラン) | 何を、何で、どの頻度で測るか | 必須(QC 工程表でよい) |
| 6 | MSA(測定システム解析) | その測り方で合否が判定できる精度があるか | 必須(測定方法の合意で代える) |
| 7 | 初期工程能力調査結果 | ばらつきが公差に対してどれだけ収まっているか | 必須(重要寸法に絞る) |
| 8 | 梱包、保管、及び表示の承認 | 輸送で傷まず、ロットが追えるか | 承認書に書く欄(荷姿と表示) |
| 9 | FAIR(初回製品検査報告書) | 量産条件で作った品の全項目の実測 | 必須 |
| 10 | 顧客固有の PPAP 要求事項 | 自社が追加で求めるもの(材料証明など) | 発注時に列挙したものだけ |
| 11 | PPAP 承認様式 | 何を承認したかを 1 枚で残す | 承認書そのもの(後述) |
表の左の 2 列は解説が挙げた規格の要素で、右の 2 列は一般の部品調達に当てはめるときの当方の提案である。規格がこう読み替えよと定めているわけではない。解説も、航空宇宙業界は自動車業界に比べて自由度を持って対応できる規格要求になっていると述べている[2]。業界が違えば、求める深さが違って当然ということである。右端の欄で「必須」とした 5 行が、次の節で挙げる 5 つに当たる。設計記録、梱包と表示、承認様式の 3 つは、提出物を別に求めるより、承認書に書き残す欄として扱う(後述)。
一般の製造業で外さないほうがよい 5 つ
自動車や航空宇宙の顧客を持たない会社が、11 要素を全部そろえるよう仕入先に求めても、書類を作る負担が値段に乗るだけで、品質は上がらないことが多い。発注側が本当に知りたいのは次の 5 点であり、ここを押さえれば量産承認としての役目は果たせる。
1. 工程の流れと、外に出している工程
材料の受入から出荷までの工程を並べた図を出してもらう。見たいのは、めっき・熱処理・塗装のように仕入先がさらに外へ出している工程である。そこが分かっていないと、量産開始後に二次外注先が変わっても誰も気づかない。外注工程ごとに、どの会社に出しているかまで書いてもらう。
2. 何を、何で、どの頻度で測るかの計画
工程ごとに管理する特性、測定器、頻度、外れたときの処置を書いた表である。日本の現場では QC 工程表と呼ぶことが多い。工程 FMEA を作っている仕入先なら、その対策がこの表に書き写されているかを見る。書き写し方は工程 FMEA をコントロールプランに落とす記事で整理している。
3. 測り方が合っているか
規格の要素名は測定システム解析だが、一般部品ではまず「どの測定器で、どこを、どの条件で測るか」を双方で合わせることから始める。仕入先と発注側で同じ部品を測って値が違えば、量産が始まってから合否がもめる。幾何公差や表面粗さのように測り方で値が変わる特性は、幾何公差の測定方法を合わせる記事や表面粗さの指定と測定条件の記事の手順で先に決めておく。
4. 量産条件で作った品の実測
初回サンプル検査の記録と同じ形式でよいが、作った条件が違う。量産で使う型、設備、材料ロット、作業者で作ったものであることを、承認書に明記してもらう。材料証明を求める場合は、その証明がどの現品の値かまで確かめる。証明書の区分はEN 10204 のミルシート区分の記事にまとめている。
5. 工程能力の初期調査
重要な寸法や特性について、量産条件で連続して作った品を測り、ばらつきが公差の中にどれだけ余裕を持って収まっているかを示してもらう。指数の求め方や合格とする値は業界や顧客によって違い、この記事では決めない。決める場合は、どの特性について、何個連続で、どの指数を、どの値以上とするかを発注時に書く。試作の数個から言えることの限界は試作 N 台で不具合 0 件の記事で整理している。
「量産の条件で作ったか」をどう確かめるか
前述の解説によると、自動車業界では PPAP の対象品を実際の量産と同じ生産レートで製造することが求められ、目安として組立は 1 シフト 8 時間で 300 台、部品は 1 時間 300 個と言われている[2]。一方、航空宇宙業界では量産開始から数年かけて目標の生産レートに達することも珍しくないため、承認時に生産レートを模擬したり、顧客と調整して初回を条件付き承認とし、生産レートが上がった段階で正式に承認したりする方法が紹介されている[2]。
一般の部品でも同じ判断が要る。月に数百個の部品で、1 時間 300 個の連続生産を求めても意味はない。発注側が決めるべきなのは次の 3 点である(いずれも当方の提案)。
| 決めること | 例 | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 承認用に作る数量 | 初回ロットの全数、または連続生産した数十個 | 数個の選別品が承認品になる |
| 量産と同じにする条件 | 型・設備・材料の調達先・作業の場所 | 試作型の品で承認し、量産型の品が別物になる |
| 条件付き承認の扱い | 初回 3 ロットは全数検査付き、正式承認は工程能力の結果を見て | 仮の承認がいつまでも正式扱いになる |
条件付きで承認する場合は、何が未了で、いつまでに何を出せば正式承認になるかを書いて残す。期限のない仮承認は、量産の不具合が出たときに「承認済みだった」という主張の根拠に使われる。
承認したら、何が変わったら出し直しかを決めておく
量産承認は、承認した時点の型・設備・材料・工程の組み合わせに対して出すものである。仕入先が材料の調達先を替えた、設備を入れ替えた、工程の一部を別の工場に移したといった変化があれば、承認した前提が崩れる。高梨は、初期流動管理で「いいものを作る条件」を整備しておけば、通常管理に移った後はその条件からの逸脱、つまり変化点の管理に集中できると説明している[4]。逆に言えば、承認した条件を記録していなければ、何が変化点なのかを判断できない。
この扱いをいちばん厳しく運用しているのは航空機部品である。航空機部品の市場に参入した部品メーカーの報告によると、最初に製造した製品が初回製品検査などに合格した後は工程が凍結され、以後に 4M(人・設備・材料・方法)の変更に当たる事象が起きた場合は、原則として顧客に変更申請を出すことが求められ、設備の移設も申請の対象になることがある。製品の機能や性能に影響があると判定されれば、初回製品検査がもう一度求められる[6]。車載用途のめっき工程について書かれた解説も、高信頼性の分野では顧客から事前の連絡や承認を求められる場合が多く、知らせずに工程を変える、いわゆるサイレントチェンジを排除する仕組みが欠かせないと述べている[7]。一般の部品でここまで厳しくする必要はないが、何を変えたら知らせてもらうかを決めておかなければ、知らないうちに承認した物と違う物が入ってくる。
実務では、承認書に「承認した条件」の欄を設け、次の項目を書いておく。図面の版、材料の規格と調達先、主要な設備、型の番号、工程を行う場所、外注している工程と外注先。そのうえで、これらを変えるときは事前に知らせ、必要に応じて再承認を受けるという約束を取引基本契約か品質に関する取り決めに入れる。変化点の扱いを設計側の検討につなげる方法は、変化点管理を DRBFM につなぐ記事で扱っている。
承認の基準は、発注の時点で書いて渡す
量産承認の手続きでよく起きるのが、承認の途中で求める書類や測定項目が増えていくことである。最初は寸法の実測だけと言っていたのに、提出した後に工程能力の資料を求め、それが出ると今度は別の特性の測定を求める。発注側にとっては品質の確認を深めているつもりでも、取引のルールの上では別の問題になりうる。
取適法(中小受託取引適正化法、2026 年 1 月施行)の適用を受ける取引では、公正取引委員会のテキストが、受領を拒めないとする場合として、委託内容が明示されていなかったり検査基準が明確でなかったりして給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合と、発注後に検査基準を恣意的に厳しくして従来の基準で合格とされたものを不合格とする場合を挙げている[5]。不当なやり直しの違反行為事例にも、金型の製造を委託し、従来の基準では合格していた金型について検査基準を一方的に変更して無償でやり直しを求めた例が載っている[5]。また、発注時に明示する事項には、給付の内容について検査をする場合はその検査を完了する期日が含まれている[5]。
ここから言える実務の結論は単純で、量産承認に何を出せば承認とするのか、どの特性をどう測るのかを、発注書か発注書と結び付いた仕様書に書いておくことである。承認に要する費用(承認用の試作、測定、試験、書類の作成)を誰が持つのかも、見積の段階で決めて見積に含めてもらう。途中で追加を求めるなら、追加分の費用と期間を合意したうえで行う。受領拒否・返品・やり直しが認められる範囲の全体は、受領拒否・返品・やり直しの記事で整理している。
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承認書に残すもの
SJAC 9145 は PPAP 承認様式を規格の附属書で定めている[2]。一般部品で同じ様式を使う必要はないが、承認書には少なくとも次を書いておくと後で困らない。
1. 対象
品番、図面番号と版、仕入先名と製造する工場。
2. 承認した条件
材料の規格と調達先、型の番号、主要な設備、外注している工程と外注先。
3. 確認した資料
工程フロー図、QC 工程表、測定方法の取り決め、実測結果、工程能力の調査結果、梱包仕様。それぞれの版と日付。
4. 判定
承認、条件付き承認、不承認のいずれか。条件付きなら、未了の項目と期限。
5. 承認者と日付
発注側で誰が判断したか。
6. 変更時の約束
どの条件を変えるときに事前の連絡と再承認を求めるか。
承認書と添付資料は、量産開始後に不具合が出たときに「どの条件で承認したか」を確かめる根拠になる。量産で不適合が見つかったときの記録の付け方は不適合報告書の記事で扱っている。
よくある質問
Q. 月に数十個しか買わない部品でも量産承認は要るか。
A. 要る場合と要らない場合がある。購入数量より、不具合が出たときの影響の大きさで決める。安全や法規に関わる部品、組み込んだ後に交換できない部品は、数量が少なくても承認の手続きを踏んだほうがよい。影響の小さい汎用品なら、初回品の実測と材料の証明で足りることが多い。
Q. 仕入先が工程能力の調査をしたことがないと言う。
A. 求める特性を 1〜2 個に絞り、連続して作った品を測った値をそのまま出してもらうところから始める。指数の計算は発注側でもできる。大事なのは、測った品が量産条件で連続して作ったものであることである。
Q. 承認した後に不良が出たら、承認した発注側の責任になるのか。
A. 承認は、提出された資料と品が要求を満たしていることを確かめたという意味であり、量産の品質を発注側が保証するものではない。責任の分担は、取引基本契約の品質保証の条項で決める。条項の書き方で揉めやすい点は品質保証条項の記事で扱っている。
Q. 外観のように数値にしにくい特性はどう承認するか。
A. 欠点の定義、見る条件、限度見本を決め、承認の時点で双方が署名した限度見本を残す。決め方は外観の合否基準の記事にまとめた。
まとめ
量産承認は、初回サンプル検査では分からない「量産の条件で作り続けられるか」を確かめる手続きである。自動車の PPAP や航空宇宙の SJAC 9145 は提出物を一式で定めているが、一般の部品では、工程の流れと外注工程、QC 工程表、測り方の合意、量産条件で作った品の実測、工程能力の初期調査の 5 つを外さなければ足りることが多い。承認した条件は承認書に書き、変えるときは事前に知らせてもらう。何を出せば承認とするかは発注の時点で書いて渡し、途中で求めるものを増やすなら費用と期間を合意してから行う。
出典・参考資料
- PPAP-4 Production Part Approval Process(マニュアルの紹介ページ)(Automotive Industry Action Group)
- 解説概要 2021-6 航空宇宙 APQP(先行製品品質計画)及び PPAP(生産部品承認プロセス)について(公益財団法人航空機国際共同開発促進基金/2021 年)
- 出版規格(SJAC 9145 航空宇宙 先行製品品質計画及び生産部品承認プロセスに関する要求事項 ほか)(一般社団法人日本航空宇宙工業会 航空宇宙品質センター)
- 海外グループ企業における初期流動管理の導入事例―海外での日本的生産マネジメントの展開―(高梨千賀子/赤門マネジメント・レビュー 15 巻 6 号/2016 年 6 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 民間航空機部品市場への参入(丸山智史/ぷらすとす 3 巻 26 号/2020 年)
- いま めっき工場に求められる工程管理について(笠原めぐみ/表面技術 77 巻 3 号/2026 年 3 月)
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