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投稿日:2026年10月1日

ボルトの強度区分と規格の指定——表面処理の組み合わせと受入の確認

この記事のポイント(結論先出し)

ボルトの発注では、呼び径と長さに加えて強度区分(機械的性質の規格)・製品規格・表面処理・証明書の種類・受入の手順の 5 つを指定する。強度区分は 8.8 や 10.9 のような数字で、材料の引張強さと耐力をもとにしている[2]。高い強度区分に電気めっきを組み合わせるときは水素脆化の対策を条件に入れ、めっきの規格がその対策を定めていることを確認する[4]。古い規格に基づく附属書の製品は新規の設計には使わない方がよいとされている[2]。証明書は発注の時点で種類を指定しないと出てこない[5]。受入の手順も事前に合意しておく。合意が無いときに買う側が使う手順を、規格が別に定めている[6]。

ボルトは「M10×30」だけでは発注できない

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ボルトは汎用品として扱われやすく、発注書に「六角ボルト M10×30」とだけ書いて手配されることがある。だが同じ寸法のボルトでも、強度、規格、表面処理が違えば別の部品である。締結部の強度計算は、ボルトがどの強度区分の機械的性質を持っているかを前提にしているので、強度区分が抜けた発注は、設計の前提を仕入先の手持ち品に任せることになる。

締結用部品の規格は層になっている。締結用ねじの標準化に関する解説は、製品規格が、ねじ部の形状と公差を定めるねじの基本規格と、頭部や軸部の形状・寸法、表面状態、機械的性質、試験・検査方法などを定める部品共通の規格を引用し、その組合せで品質特性を記述していると説明している[2]。発注書に書く項目も、この層に沿って整理すると漏れが少ない。

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発注時に指定する 5 つの項目

項目 対応する規格の例(ISO と JIS) 書き落とすと起きること
強度区分(機械的性質) ISO 898-1(JIS B 1051)、ナットは ISO 898-2(JIS B 1052-2)[2] 仕入先の手持ちの強度で納入される
製品規格(形状・寸法・部品等級) 六角ボルトは ISO 4014 ほか(JIS B 1180)[2] 本体と附属書のどちらの製品かが決まらない
表面処理 電気めっきは ISO 4042(JIS B 1044)[2][4] めっきの種類・膜厚・水素脆化対策が決まらない
証明書の種類 ISO 16228(F2.1・F2.2・F3.1・F3.2)[5] 納品後に求めても出てこない
受入検査の手順 ISO 3269(JIS B 1091)[2][6] 合否の判定で揉めたときの拠りどころが無い

表の JIS 番号は、締結用ねじの標準化に関する解説が示す ISO と JIS の対応から引いた[2]。同じ解説は、ISO 規格とそれに対応する JIS の制定・改正には通常 2〜3 年の時間差が生じると指摘し、ステンレス鋼製ボルトの ISO 3506-1 が 2020 年に改正された時点で対応する JIS はまだ改正されていなかった例を挙げている[2]。海外の仕入先が新しい ISO で読み、国内の図面が古い JIS で書かれている、ということは起こりうる。発注書には規格番号に発行年まで書いておくとよい。JIS は日本産業標準調査会のサイトで利用者登録(無料)をすれば全文を閲覧できる[2]。

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強度区分の読み方と、規格の及ぶ範囲

鋼製ボルトの強度は、強度区分と呼ばれる数字(例えば 8.8 や 10.9)で表され、材料の引張特性(引張強さと、降伏強さまたは耐力)がもとになっている[2]。解説は例として、強度区分 8.8 では呼び径 16 mm 以下のボルトの引張強さの最小値が 800 MPa、0.2% 耐力の最小値がその 80%(640 MPa)と規定されていると示している[2]。点の前の数字が引張強さの水準を、点の後ろの数字が耐力の比を表す、という読み方になる。

遅れ破壊に関する鉄鋼協会誌の総説も、同じ読み方を当時の規格で説明している。1991 年版の JIS B 1051 では強度区分 12.9 が最高強度で、耐力と引張強さの規格下限値がそれぞれ 1100 と 1220(両者の比は 0.9)だとしている[3]。数値は版ごとに確かめる必要があるので、下の表は出典に書かれている値をそのまま並べたものである。

強度区分 引張強さの最小値 耐力の最小値 出典に書かれた条件
8.8 800 MPa 640 MPa(0.2% 耐力・80%) 呼び径 16 mm 以下[2]
12.9 1220(N/mm²) 1100(N/mm²)・比 0.9 JIS B 1051(1991)での規格下限値[3]

他の強度区分や呼び径ごとの値は、現行の規格本文で確かめる。ここで押さえたいのは、強度区分が「どこまでの性質を保証しているか」である。ISO 898-1:2013 は、炭素鋼と合金鋼のボルト・小ねじ・植込みボルトの機械的・物理的性質を、10 ℃ から 35 ℃ の周囲温度で試験したときについて規定しており、高温や低温では規定の性質を保たないことがあるとしている[1]。適用は、ISO メートル三角ねじで、並目ねじ M1.6〜M39、細目ねじ M8×1〜M39×3 の範囲である[1]。そして、溶接性、耐食性、せん断応力への抵抗、締付けのトルクと軸力の関係、疲労強度は規定していない[1]。

つまり「強度区分 10.9」と書けば、常温での引張の性質は決まるが、さびにくさや繰り返し荷重への強さ、締付けたときの軸力の出方までは決まらない。解説も、ボルトの疲労強度と締付け特性は部品単独では規定できないシステムとしての特性であり、組み合わせるナットの仕様や締付け力、ねじ面と座面の摩擦の状態に左右されると説明している[2]。これらが要る用途では、強度区分とは別に条件を書く。

頭部の形によっては、強度区分どおりの試験を満たさない

ISO 898-1:2013 は、頭部の形状のために頭部のせん断面積がねじ部の有効断面積より小さくなるボルトや小ねじ、たとえば低頭や皿頭のものは、引張やねじりの要求を満たさないことがあると注意している[1]。皿ボルトや低頭ボルトを高い強度区分で手配するときは、どの試験で何を保証してもらうのかを仕入先と確かめる。

製品規格の「附属書の製品」に注意する

六角ボルトの JIS(JIS B 1180)と六角ナットの JIS(JIS B 1181)には、40 年以上前の古い ISO 規格に準拠した製品が附属書に規定されており、附属書には将来廃止するので新規設計の機器や部位などには使用しないのがよいという注釈が付けられている、と解説は指摘している[2]。市場に多数存在することを理由に廃止は何度も先送りされてきたとされ、これらの旧製品は幾何公差(最大実体公差方式)が採用されていないため機能ゲージによる検査が適用できず、製品の種類によっては設計に起因する負荷能力の不足も懸念されているという[2]。

発注側が困るのは、規格番号だけを書くと、本体の製品と附属書の製品のどちらを指しているのかが決まらないことである。新しく設計する部品では、本体の製品を指定することを発注書か図面に明記する。既存の機種で附属書の製品を使い続けているなら、どの機種のどの部位に使っているかを把握しておき、混入を防ぐ。解説も、標準化の目的には必要最小限の種類で互換性を保証することと並んで、混合(混入)の問題を避けることがあるとしている[2]。

表面処理との組み合わせ——水素脆化を条件に入れる

ボルトに電気めっきを指定するとき、強度区分との組み合わせで注意が要るのが水素脆化である。遅れ破壊の総説は、遅れ破壊を静的な応力を受けた部品がある時間経過後に突然脆性的に破壊する現象とし、水素による材質劣化の一形態と考えられていると説明している[3]。米国では電気めっきした航空機部品の破壊をきっかけに微量な水素が原因と結論され、防止策として脱水素処理の実施や水素が入らないめっきが導入されたという[3]。同じ総説は、強度が高いものほど感受性が著しく増し、ボルトの場合は引張強さが 1226 N/mm² を超えるものは自然の大気中でも遅れ破壊の危険性を潜在的に持つとしている[3]。ただしこれは 2002 年の総説が大気中の遅れ破壊について示した値で、めっきした部品に水素脆化の処置が要るかどうかの線ではない。処置の要否は、締結用部品の電気めっきの規格(ISO 4042、対応する JIS B 1044)で確かめる[4]。

締結用部品の電気めっきの国際規格 ISO 4042:2022 は、鋼製の締結用部品の電気めっきとその処理系に対する要求事項を定め、水素脆化のリスクを小さくするための要求事項と推奨事項を本文の 4.4 と附属書 B に置いている[4]。主な対象は亜鉛・亜鉛合金(亜鉛ニッケル、亜鉛鉄)とカドミウムのめっきで、ほかのめっき(すず、銅、ニッケル、ニッケルクロムなど)は ISO メートルねじの締結用部品の寸法に関する要求だけが含まれている[4]。また、締結用部品の電気めっきについては、この規格の要求が電気めっきを扱うほかの文書に優先するとしている[4]。

実務の提案としては、次の 3 点を発注書か購買仕様書に書く。

  1. めっきの規格を、一般のめっきの規格ではなく締結用部品向けの規格(ISO 4042 または対応する JIS B 1044)で指定する
  2. 水素脆化を抑える処置(めっき後の脱水素処理など)は、硬さによっては規格が必須としているので、規格が求める処置を省かず、該当箇所に従って行うことを条件にし、処置の記録を求める(硬さによる線引きは、めっきの記事で扱う)
  3. めっきの膜厚がねじのはめあいに影響するので、めっき後の寸法をどの状態で判定するかを決める

脱水素処理の条件や膜厚の値は規格本文で決まっているので、ここでは数値を挙げない。めっきの指定全般は、同じシリーズのめっきの仕様の決め方で扱う。焼入れ・焼戻しの指定と硬さの測り方は、熱処理の指定と硬さの指定と試験方法で扱う。

高力ボルトは別の規格で考える

橋梁や建築の摩擦接合に使う高力ボルトは、JIS B 1186 で規格化されたセットとして扱われる(総説が引くのは 1995 年版)[3]。総説によれば、F11T は悪条件が重なったときに遅れ破壊することがわかり、JIS では括弧付きとなって「なるべく使用しない」と付記されており、かつて規格化されていた F13T は使用中の遅れ破壊の多発により抹消されている[3]。機械用の強度区分と記号の体系が違うので、図面や発注書で取り違えないようにする。

証明書は発注の時点で種類を指定する

締結用部品の検査文書の種類を定める ISO 16228:2017 は、製造業者や販売業者などが、発注の時点での購入者の具体的な要求に基づいて発行する検査文書の種類を定めている[5]。種類は適合宣言(F2.1)と試験報告書(F2.2、F3.1、F3.2)で、「証明書」という言い方が一般的だが、締結用部品の検査文書では「試験報告書」という用語を使うとしている[5]。それぞれの文書の内容に対する要求は、注文、関連する規格、指定された要求事項と合わせて定めるとされる[5]。

発注側にとっての要点は、文書の種類が発注の時点で決まるという点にある。納品後に「試験報告書を出してほしい」と求めても、その前提で検査をしていなければ出てこない。強度区分を確かめたい部品では、発注書に文書の種類を書いておく。鋼材のミルシートの区分(EN 10204)との関係や、型式の高い証明書を出せない仕入先の見分け方は、EN 10204 のミルシート区分とミルシート Type 3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くで扱っている。なお ISO 16228 は、初回サンプルのような特殊な手続きを必要とする特殊用途の部品には適用しないとしている[5]。

受入で確かめること

締結用部品の受入検査の国際規格 ISO 3269:2019 は、事前の合意が無い場合に購入者が用いる検査の手順と、購入者と供給者が合意に至らない場合や仕様への適合が争われた場合に、検査ロットの合否を決める基準となる手順を定めている[6]。ただし、大量の機械組立用、特殊用途、より高度な工程管理とロットの追跡を必要とする特殊設計の締結用部品には適用しないとしている[6]。適用範囲に入る部品なら、受入の手順を個別に合意していなくても拠りどころはあるが、自社の部品がこの範囲に入るかは確かめておく必要がある。範囲外の部品は、契約の前に手順を合意しておく。

受入で見る項目は、次のように整理できる。

1. 表示と書類の一致
頭部の刻印(表示)、納品書、試験報告書に書かれた強度区分と規格が、発注書と一致しているか。刻印の要否と表し方は規格本文で確かめる。

2. 製品規格の取り違え
附属書の製品が混ざっていないか。製品規格の寸法表と照らすなど、見分け方を受入の手順書に書いておく。

3. 表面処理
めっきの種類と、高い強度区分の部品では水素脆化を抑える処置の記録。

4. 試験の結果
試験報告書を求めた場合は、どの試験で強度区分を確かめたのか。締結用ねじの標準化の解説は、ボルトの静的強度の確認に、材料と製品の引張試験、保証荷重試験、ねじり試験、硬さ試験などがあり、ボルトのサイズや長さによって使い分けられるとしている[2]。どの試験で確かめたのかが書かれていない報告書は、確かめた範囲が分からない。

受入検査そのものの考え方は受入検査と工程検査の違いで扱っている。

遅れて見つかる不具合と返品の期限

水素脆化による遅れ破壊のように、受け取った時点では分からず、使い始めてから時間がたって表れる不具合もある。取適法のテキストは、直ちに発見することができない不適合がある場合、受領後 6 か月以内の返品は中小受託事業者の責めに帰すべき理由があるとして認められ、6 か月を超えて返品すると違反になるとしている[7]。ただし、その部品を使った自社の製品について一般消費者に 6 か月を超える保証期間を定めている場合は、その保証期間に応じて最長 1 年以内なら返品が認められるとしている[7]。この期限を前提に、受入の段階でどこまで確かめ、どの記録を残すかを決めておく。返品とやり直しの全体像は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかにまとめてある。

よくある質問

図面に「強度区分 8.8」とだけ書いてある

強度区分は決まっているが、製品規格(本体か附属書か)、表面処理、文書の種類は決まっていない。発注書か購買仕様書でこれらを補う。

海外の仕入先から、ISO の最新版で作ると言われた

JIS と ISO の間には改正の時間差がある[2]。どちらの規格のどの年の版で作り、どの版で判定するのかを、規格番号と発行年まで書いて合意する。

ステンレスのボルトも同じ考え方でよいか

ステンレス鋼製のボルトの機械的性質は、炭素鋼・合金鋼とは別の規格(ISO 3506-1、対応する JIS B 1054-1)で定められている[2]。強度の表し方も別なので、鋼種と強度の記号は規格本文で確かめて指定する。

まとめ

ボルトの発注では、寸法のほかに強度区分、製品規格、表面処理、証明書の種類、受入の手順を指定する。強度区分は常温での引張の性質を保証するもので、耐食性や疲労、締付けの特性までは決めていない。高い強度区分に電気めっきを組み合わせるときは、締結用部品のめっき規格に従って水素脆化を抑える処置を条件にする。製品規格の附属書の製品は新規の設計には使わない方がよいとされているので、本体の製品を明記する。証明書は発注の時点で種類を指定し、受入では表示・書類・試験の範囲が発注と一致しているかを確かめる。

出典・参考資料

  1. ISO 898-1:2013 Mechanical properties of fasteners made of carbon steel and alloy steel — Part 1: Bolts, screws and studs with specified property classes — Coarse thread and fine pitch thread(国際標準化機構(ISO)/2013 年 1 月発行)
  2. 萩原正弥「締結用ねじの標準化―現状および今後の展望―」精密工学会誌 Vol.87, No.4(精密工学会/2021 年)
  3. 中里福和「ボルトの遅れ破壊」鉄と鋼 Vol.88, No.10(日本鉄鋼協会/2002 年)
  4. ISO 4042:2022 Fasteners — Electroplated coating systems(国際標準化機構(ISO)/2022 年 6 月発行)
  5. ISO 16228:2017 Fasteners — Types of inspection documents(国際標準化機構(ISO)/2017 年 11 月発行)
  6. ISO 3269:2019 Fasteners — Acceptance inspection(国際標準化機構(ISO)/2019 年 7 月発行・2024 年見直し確認)
  7. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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